First Wonderland

46羽目 「……全部、思い出した」

 光が収束すると、わたしは野球場へと戻ってきており、全てを思い出した。


「……全部、思い出した」


 わたしは立ち上がって、苦しみ呻いている三月ウサギの方へ向き直った。


「あなたは……ここで、わたしが倒す」


 わたしは懐中時計を開く。そして秒針音に耳を澄ませると、わたしは白いドレスを着て、大きな翼を広げている姿に変身した。


「……いくよ」


 そしてわたしは、三月ウサギに殴りかかった。パンチやキックを繰り返していくうちに、三月ウサギの動きが止まっていった。


「……とどめだよ」


 そう言うとわたしは、右手に持っていたステッキを天にかざす。すると杖が赤く発光した。


 そしてわたしは杖の光を、三月ウサギに向かって一直線に照射した。


「はああああああ!」

「ぐああああ!!」


 発生した衝撃波に吹き飛ばされて転がる三月ウサギに近づき、とどめを刺そうとしたそのときだった。


「やめろ! それ以上近づいたらこいつの命は無いぞ!!」


 三月ウサギは、そう言ってぐったりしているウウの喉元に短剣を突きつけていた。


「やめて!」


 わたしは咄嵯に叫んだ。


「ハハッ! いいねえ! やっぱり君はそういう反応をすると思っていたよ!」

「なんでこんなことを!?」

「君を手に入れるためだよ! 僕はね、君のことが好きなんだ! 愛しているんだよ!」

「ふざけないで! あなたの気持ちなんて知らない!」

「僕のことはどうだっていいさ。ただ、僕と一緒に来てくれさえすれば、それでいい」

「行かない!」

「どうしてもかい?」

「うん」

「残念だなぁ……」


 三月ウサギはそう言いながら、ウウの喉元を切り裂こうとしたところで、動きを止めた。


「ん? 遺言でもあるのかい?」


 三月ウサギは、ウウが何か話そうとしていることに気づいたらしく、問いかけた。


「……い……して……」

「聞こえないなあ」

「…ス………して」

「何だってぇ?」

「アリス…………世界を……変え……て……私……は……」

「ハハハ! わかったよ! じゃあ望み通りに殺してやる!」


 三月ウサギはそう言うと、ウウの首を掻き切った。


「いやああああああああああああああああああああああ!!」


 思わず叫んでしまう。しかし、すぐに違和感を覚えた。なぜなら、ウウの首から血が流れていないからだ。


「あれ?」


 よく見ると、首が切断されていない。それどころか、傷一つついていなかった。

「どういうこと?」


 すると、ウウがゆっくりと立ち上がった。そして、三月ウサギの胸に、剣を突き刺した。


「なっ……!」

「え……?」


 突然の出来事に困惑するわたしをよそに、三月ウサギは、胸から生えた剣をじっと見つめた後、こちらを見た。


「う……嘘だ……! どうして……!」


 三月ウサギは、自分の胸から滴り落ちる赤い血を見ながら、目を見開いた。


「私は……この瞬間を待っていました。それと一つ。私は時の神ですので死にません」


 ウウが、落ち着いた口調で言った。


「なにぃ……!?」

「そして私はここで、あなたの時間を止めます」

「何を言っている……!? お前の能力は実際はただ単に場所を移動するだけのはずだろうが!」

「確かに、今までの私の能力ではそうでした。しかし、今は違う」

「なんだと……!?」

「これがあるからです」


 ウウはそう言うと、懐中時計を二つ取り出して、三月ウサギに見せつけた。


「それは!」

「そう、これはあなたの懐中時計。これであなたはもう、能力を使えない上に、わたしは能力を限界以上に引き出せる」

「くっ! クソッ!」


 三月ウサギは慌ててウウから離れようとするも、時すでに遅し。既にウウの能力によって身体の自由を奪われており、その場から動くことができなかった。


「さようなら」


 そして、ウウが三月ウサギの心臓を貫いた。


「あがっ……!」


 そして、三月ウサギは驚愕した表情のまま固まり、倒れることも、瞬きさえも、何一つしなくなった。


「ウウ!」


 わたしはすぐにウウに駆け寄った。


「アリスさん……」

「大丈夫!?」

「はい。ありがとうございます」

「よかった……」

「それより、これを……」


 ウウはそう言って、わたしに二つの懐中時計を手渡した。


「あ……」

「もう、私が持っていても仕方ありませんからね」

「……うん」


 そう言って受け取った懐中時計を、わたしの懐中時計と合わせて持つ。


「後は……お願いしますね」

「うん、任せて!」


 わたしは三つの懐中時計の蓋のスイッチを順番に押した。カチッ!


 ――コケコッコー!! ピョン! バッタ! カメレオン!


「……はえ?」


 わたしはあまりにも素っ頓狂な音が三つの懐中時計から聞こえてきて、一瞬思考が停止してしまった。


「あ、あの、アリスさん……」

「あ、ごめん! ちょっとびっくりしちゃって!」


 ウウに言われて我に返る。


「えっと、その、なんというか、すごい音だね」

「……落ち着いて、もう一度試してみて下さい。あなたはこの世界を、どういう風に救いたいですか?」

「うーん、どうしようかなぁ……どうせなら、思いっきり派手にいきたいよね!」

「そうですか」

 

 ウウは傷一つない顔で、微笑んでくれた。


「じゃあ……」


 わたしはそう呟いて、目を閉じた。


「みんな仲良く暮らせる世界にする!」


 わたしは改めて、懐中時計を三つ同時に開けた。すると、懐中時計が光を放ち、世界を包んでいった。


「アリスさん……」

「ウウ! また会おうね!」

「はい……!」

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