First Wonderland

43羽目 「この世界を滅ぼす魔女だ」

「あ、アリス……! その姿は一体……!?」


 わたしに気づいたルナは驚愕して立ち尽くしていた。わたしはそんな彼女を、

 

 全力で、


 殴った。


「きゃあああっ!!」


 ルナは大きく吹っ飛び、フェンスに激突した。フェンスは崩れ落ちていく。わたしはゆっくりと歩いて近づきながら、彼女に告げる。


「もう終わりにしよう。こんなこと……三月ウサギ」

「そうか……やっぱりバレてたか……」


 彼女は立ち上がると、懐中時計を取り出した。


「だったら……こんな姿でいる必要は無いか!」


 彼女は懐中時計の蓋を開く。すると、そこには白いウサギの姿があった。


「あれは……!」

「そう。僕こそが、この世界を破壊するもの、三月ウサギだ。そして――」


 三月ウサギは再び懐中時計を開いた。すると彼女の身体を真っ赤な魔法陣が包み込み、いつか見た、ウサギとは程遠い異形の化物へと姿を変えた。その姿は、顔の半分以上が牙で覆われ手足は獣のような太い指をしており、背中から生えた翼はどんな鳥のものよりも大きく、まさに怪物そのものといった姿だった。


「この世界を滅ぼす魔女だ」


 怪物は、そう言った。


「……どうしてこんなことをしたの?」

「どうしても何も、僕は最初からこうするつもりだったさ。この世界に飽き飽きしたんだ。だから終わらせることにした。それだけだよ」

「でも、それはこの世界のみんなは望んでいないことだよね? それなのにあなたが勝手に終わらせちゃうなんておかしいよ!」

「うるさいな。僕はこの世界にうんざりしてたんだよ! 君も体感しただろう!? どいつもこいつも馬鹿で理不尽で意味不明だ! 言葉は出来るが会話が成立しない! 弁護士のくせに被告人を守ろうとしない! いきなり決闘を吹っ掛ける! 植物のくせに人間ぶる! 下半身を誇張する! こんな馬鹿げた奴らがいる世界、滅ぼした方がいいに決まってるじゃないか!」

「それでも……!」

「この世界は間違っている! この世界は狂っている! だったら僕が正しい世界を作る! 僕の望む世界こそが真に素晴らしい最高の世界なんだ! 邪魔をするなあああああああああ!」


 魔女――怪物は、わたしに向かって襲いかかってきた。大きな口を開け、鋭い歯で噛みつこうとしてくる。わたしはそれをひらりと避け、回し蹴りを放つ。するとその足は、怪物の頬に命中した。


「ぐうっ……!!」


 怯む怪物を見てチャンスと思ったわたしは追撃しようとする。だけどその瞬間、怪物が口から火球を吐いた。わたしは咄嵯の判断で上空へ飛び上がる。空中へ逃げたところで攻撃しようと考えたのに……。


 そう思っていた矢先、突然下腹部に強い痛みを感じた。見ると、お腹に大きな穴が出来ていた。


 何が起こったのか分からなかったけれど、すぐに分かった。怪物が能力でわたしのお腹を強引に引き裂いたんだ。痛い、苦しい。わたしは痛みを堪えながら何とか地面に着地した。そして傷口を抑えながら後退りする。


 早く手当しないと、出血多量で死んじゃう……! だけど怪物は待ってくれなかった。怪物はわたしに追いつき、爪を立てて引っ掻いてきた。わたしは回避できずに、左腕が裂けてしまう。鋭い刃みたいな切れ味を持つ爪だった。わたしの手首から赤い血が吹き出る。その光景を見た途端、急に力が抜けていった。頭がぼんやりとする。だんだん意識が、遠のいて――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る