30羽目 「ごめんごめーん!」
「んんん……」
わたしは起き上がるために腕に力を入れようとしたが、思うように力が入らなかった。仕方なく首を左右に動かしてみると、ベッドに寝かされていたことがわかった。部屋は広くはなく、窓がひとつと扉がふたつあった。枕元にある机にはティーカップとティーポットが置かれていて、壁には時計がかけられているだけだった。壁にかけられた時計の針は十二時を指しており、その下では白ウサギがひとりでに踊っていた。
「アリスが死んだ! アリスが死んだ!」
白ウサギは踊りながらこう叫んでいた。
「死んでないから!」
わたしは叫び返した。
「ごめんごめーん!」
白ウサギは謝りながらも楽しそうにくるりと一回転してみせた。
「で、君の名前は何だっけ?」
「わたしはアリスって何回も何回も言ってるでしょ! この馬鹿!」
わたしは怒りのままに白ウサギを叩いた。そして白ウサギは「すみません」と言った後息絶えた。
「な……そんなに強く叩いていないのに……」
わたしは白ウサギの死体の前で呆然としていた。三月ウサギは一応ウウが殺したという言い訳が出来たけども、今のはどうやっても言い訳することが出来ない。わたしは白ウサギを殺してしまった。
「ど、どどどどどどうしよ!!」
わたしは混乱した。とにかく落ち着かないと。まずは深呼吸をして、それから落ち着いて考えるんだ。
「すぅー、はぁー」
うん、少し落ち着いた気がする。
「とりあえず、どうにかして生き返らせないと」
わたしは白ウサギを蘇生させるべく、白ウサギの頭に手を置き、いつか絵本で読んだことがあるような呪文を詠唱した。
「我の命ずるがままに蘇れ。汝は白き兎。死者の眠りの棺より現れよ。そして我が手足となって働くのだ」
わたしが唱え終わると、白ウサギはウナギになった。そして空中へと泳ぎ去って行った。
「あれ!? 嘘! 白ウサギがウナギになっちゃった!」
わたしは驚きすぎてその場に尻餅をついてしまった。今のは完全に失敗した。けどもウナギはもうどこかに行ってしまったのでどうにも出来ない。
「どうしよう……。このままじゃ、わたしが犯人だってバレちゃうよ……」
わたしは必死に考えた結果、あることに気がついた。
「結果生き返ったんだしオーケーじゃん!」
「いやいやいや、ダメでしょ!」
わたしは自分の考えに突っ込みを入れた。でもさ、ウサギがウナギになることくらい、ありえない話ではなくない? だってお母さんもパンケーキになるくらいなんだし……。わたしはそんなことを考えながら、部屋の中をぐるっと一周見渡したけど、やっぱり知らない部屋だった。ここって一体どこなんだろう。そう思いながら、わたしは部屋の扉を開けた。扉の向こうには長い廊下があった。壁には絵画がかけられていて、天井にはシャンデリアが輝いていた。床には赤い絨毯が敷かれていて、天井には大きな絵が描かれていた。それは王冠を被った男性の絵であり、その男性は玉座に座っているように見えた。
「あの人……王様かな?」
そう思いながらその絵を見ていると、誰かが近づいてくる気配がした。わたしは咄嵯に近くにあった部屋に隠れた。するとすぐに足音が聞こえてきたのでわたしは身構えた。心臓がバクバクいっているのを感じながらドアに耳を当てると話し声が聞こえた。ひとりは聞き覚えのある女の人の声で、もうひとりは聞いたことのない男の人の声だった。
「ところで、人数は集まったのかしら?」
この声は確か……女王陛下の声だ! となるとわたしはまた、ウサギ穴の中の世界に来ちゃったってこと!?
「うむ。問題ないぞ」
男の人が返事をしたようだった。でも人数って……一体何の人数なんだろ?
「ならいいわ」
「では、そろそろ始めるか」
ふたりはそんな会話をしていた。
「待て!」
突然耳を当てていた扉が開かれて、わたしはびっくりして床に倒れてしまった。反射的に逃げようとしたけれど、腕を引っ張られて動きを止められてしまった。
「とうとう見つけたぞ! この殺人犯めが!」
男の人の言葉を聞いた瞬間、わたしは恐怖で体が震えた。男の人は派手で煌びやかな服を着ていて、頭には王冠を被っていて。いかにも、王様のような人だった。
「え、あ、ちょ、ちょっと! 誤解です! わたしは犯人じゃありません!」
わたしは首を全力で横に振って否定した。何の誤解かはわからないけどとりあえず否定した。このままだと死刑になってしまうから。
「嘘おっしゃい! あなたが三月ウサギを殺したアリスでしょう!」
女王がわたしに指して言う。
「ち、違います! わたしはアリスって名前じゃないし、三月ウサギを殺してないし、そもそもこの世界の住人でもないんです!」
「嘘をつくのはお止めなさい! 罪が重くなりますよ!」
「はい! そうです! わたしがアリスです!」
女王にそう言われたのでわたしは反射的にそう言ってしまった。
「認めましたね!」
「あ、いや、今のは違うんですよ! 今のは言葉の綾っていうか……」
わたしは慌てて訂正しようとしたけど、女王は聞く耳を持ってくれなかった。
「では早速処刑しましょう。あなた、準備をして頂戴」
「わかった」
王様は女王に頷くと、どこかへと歩き去った。
「ああ! ごめんなさいごめんなさい!」
わたしは必死に謝った。
「許して欲しいですか?」
「はい! もちろんです!」
わたしが答えると、女王はニヤリと笑みを浮かべながら、わたしに告げた。
「それならば、私たちと勝負して勝利してみせなさい」
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