24羽目 「わっ、冷たっ!……何するの!?」
「わっ、冷たっ!……何するの!?」
わたしは慌てて飛び退き、怒りを滲ませた声でにルナに言った。
「ごめんごめん。手が滑っちゃった」
「手が滑ったって……いやいやいや! 今のどう考えてもわざとだよね!?」
「えー? 違うよー」
「絶対嘘だよね!?」
「うん。嘘」
「やっぱり!」
「ごめんね。君があんまりにもかわいくてつい」
「か、かわっ……ていうかかわいいから水掛けるってどういうことなの!?」
「あはは、気にしない、気にしない」
「気にするでしょ普通!」
「うーん、そうかなぁ」
「そうだよ!」
わたしはルナに完全にキレていた。というより困惑していた。彼女はわたしのことを本当にかわいく思ってくれているみたいだけど、その感情がわたしにはよくわからなかった。特にかわいいから水を掛けるというところが意味がわからない。というか理不尽だ。しかしルナはそんなわたしの様子には目もくれない様子で、地面に落ちていた魚を拾ってわたしの口に押し付けてきた。
「ほら、食べなよ。おいしいよ」
「やめてってば」
わたしはそれを払い除ける。ルナはそれを見て笑うとまた魚を食べさせようとする。それを避け続けるわたし。するとルナは、わたしを追い詰めるように少しずつ距離を詰めてきて、
「えい!」
ついにわたしの口に魚が詰め込まれた。
「むぐっ」
わたしは驚いて一瞬息が出来なくなり、すぐに吐き出そうとしたけれど、それも叶わず、わたしの口の中へとどんどん入っていき、ついには飲み込んでしまった。
「あははははっ、僕の勝ちだね」
「うぅ……! ちょっと!」
「そんなに怒らなくってもいいじゃん」
「怒るでしょ普通! 水ぶっかけて魚無理やり食べさせてって! むしろ怒らない人の方がどうかしてるでしょ!」
わたしは思いっきりまくし立てた。
「あはは、面白いね君」
「面白くないよ!」
「まあまあ。それより、せっかくだからもっと遊ぼうよ」
「もういいよ。帰る」
「待ってよ」
帰ろうとするとルナが腕を掴んできた。
「離してよ!」
わたしは怒りに任せて言う。
「やだよ。やっと捕まえたんだもん」
「何で!? 何でこんなことするの!?」
「さっきも言ったでしょ? 君がかわいいからだよ」
「それが意味わかんないんだって!」
「わかんないならそれでいいよ」
「ぜんっぜんよくなあああい!」
「あははっ」
ルナは笑っていた。彼女の笑顔はとても楽しげだった。
「笑いごとじゃないよ……」
「ごめんごめん」
「今更謝られても困るんだけど!」
「じゃあさ、今から一緒に遊ぼうよ」
「だから遊ばないって言ってんじゃん!」
「大丈夫だって。楽しいから」
そう言いながらルナはわたしの手を引っ張って連れて行こうとする。
「ちょ、ちょっと……やめてって!」
わたしはその手を振り払う。するとルナは悲しそうな顔をした。
「どうしてそんなこと言うの?」
「水かけて魚食べさせたからに決まってるでしょ!」
「それはごめんなさい。つい夢中になっちゃった」
「……何が目的なわけ?」
「ただ友達になってほしいだけ」
「わかった! 友達にはなってあげるからもうあんなことは二度としないで!」
わたしはルナにきっぱりと言った。ルナが少し不思議そうにしている。そしてルナは首を傾げて尋ねてくる。
「どうしてそんなことを気にするの?」
「どうしても何も普通気になるでしょ! あんなことされて、なんとも思わない人が居る!?」
わたしは怒って言った。
「あはは。面白いね、アリスは」
「笑いごとじゃない!」
わたしは激怒した。だけどそんなわたしの様子などまるで気にせず、彼女はわたしの耳元に近づき、囁いた。
「僕はね、君がかわいくてしょうがないんだよ」
その一言を聞いた瞬間、わたしは背筋が凍るような感覚に襲われた。この子は何を言って何をやっているのだろう。絶対におかしい。絶対変だ。何か理由があるに違いない。とにかくここから逃げよう。そう思った時だった。ルナが突然わたしの肩に手を置いてきたのだ。わたしの心臓はドキリとして大きく跳ね上がった。
「な、何!?」
「友達になってくれるんだよね」
ルナがニコニコしながら言ってくる。
「そう言ってんじゃん!」
わたしが答えると、ルナは不気味な笑みを浮かべた。それに嫌な予感を覚えたわたしは慌てて逃げ出す。だが、彼女は追いかけてきてこう言った。
「逃がさないよ」
「いやだあああっ!」
必死に逃げようとするが、わたしはすぐに追いつかれてしまった。しかもその拍子に転んでしまい、そのまま彼女に組み伏せられてしまう。
「もう逃がさないよ。アリス」
「やだっ、離してっ!」
わたしは抵抗するが、その力は強く全く動けなかった。
「かわいい。ずっとこうしてたい」
彼女はわたしの顔を覗き込み、頬ずりをしながら呟くように言った。
「ねえ、僕達、いい友達になれると思わない?」
「思わない! 何がどうなってそんな考えに至るのか全くわかんないよ!」
「うーん。まあ、細かいことはいいじゃない」
そう言って彼女はにっこりと微笑む。わたしは彼女のことがますます怖くなった。
「細かいことって……。ていうかどいて! 重くて起き上がれない!」
「やーだよ」
ルナはきっぱりとそう言った。わたしはルナに馬乗りされているような体勢になっていた。わたしがジタバタしても全然動じていない。
「お願いだから!」
「やーだよ」
「もう……」
わたしは呆れてため息をついた。やっぱりこの子、絶対おかしい。何でわたしにこんなことするんだろう。怖い。そんな不安を感じているわたしに向かってルナが言った。
「大丈夫。何も心配することは無いよ」
「そっちは勝手に私のこと調べてたくせに?」
「え? 調べた?」
ルナはきょとんとしている。やはり無自覚らしい。
「わたしの名前知ってたでしょ! アリスって!」
「あー、うん。ごめんね。こっそり調べちゃったんだ」
ルナは何事もなかったかのように笑っていた。この子には悪いことをしたという気持ちはないようだ。だがその表情からは反省の色が見られない。そしてスカートのポケットからがさごそと何かを取り出した。それは歯車のようなものだった。
「そんなことよりこれやらない?」
ルナが笑顔でそう言ってきた。そんなこととはなんだ。人を下敷きにしといて。わたしは不機嫌な様子を隠さずに言う。
「そんなことよりどいてよ!」
「いいからいいから。面白いからやってみなって」
ルナは謎の歯車みたいなものをシャーという音を立てて回した。わたしはそれに目を奪われ、そして思わず声を上げる。
「なにそれ……?」
「やってみたい? じゃあ一緒にやろっか」
わたしの答えを聞かずにルナがそう言うと、わたしは解放された。そしてルナは、わたしの隣に座ってきた。
「これはハンドスピナーっていうの」
「ふーん……」
ルナはそれについての説明を始めた。話を聞くうちに、いつの間にかわたしはそれに興味を感じていた。
「すごく楽しそう」
「よかった。これでアリスも仲間だね」
「な、仲間? それでそうなるの……?」
わたしがそう言ったときだった。
――ドゴォッ 突然背後から凄まじい衝撃を受けた。それと同時に体が宙を舞った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます