20羽目 「アリスさん……ダメですか? 僕はアリスさんを食べたいと思っているのに……」

「離して!」


 わたしは咄嗟にハエトリグサを振り払う。まさかこいつも、あのアネモネとかいう奴の仲間だったの!? だけどハエトリグサはわたしの様子を見て、悲しそうな声を発した。


「アリスさん……ダメですか? 僕はアリスさんを食べたいと思っているのに……」

「あなたまでそれ言うのね……」

「だって、アリスさんは美味しそうじゃないですか。かわいいですし」

「そうかな……」

「そうですよ」

「うーん……そう言われると……そうかもしれないけど……って、そんなわけないでしょ!?」

「冗談ですって」

「もう……驚かさないでよね。それよりも!」


 わたしはアネモネを指差しながら、ハエトリグサに言った。


「早く逃げないと! あいつはわたしを狙っているみたいだし!」

「でも……どうやって?」

「ええと……でもとりあえず、ここから離れないと!」

「わかりました。じゃあ、僕の背中に乗って下さい」

「えっ……でも……」

「ほら、遠慮しないで」

「わかった……」 


 わたしは言われるがままハエトリグサに乗った。だけど当然ながら、


「ぐへぇぇ!」


 ハエトリグサはわたしの重みに耐えられず潰れてしまった。その光景を見てアネモネが高らかな笑い声を上げた。


「うふふふふ……あっはっはっはっ! 馬鹿な子達だわ。折角だから教えてあげるけど、この病院からは抜け出せないわよ。絶対にね」

「くぅ……こうなったら!」


 わたしはさっきまで寝ていたベッドを持ち上げてアネモネに向かって投げつけた。


「ふん!」


 しかしアネモネはそれを軽々と避けてしまう。


「無駄よ! 私にはそんなもの通用しないわ!」

「だったら……これならどう?」


 わたしは次の攻撃として、空の花瓶を拾うと、それを勢いよく振り下ろした。


「てりゃああ!」


 わたしの攻撃は見事命中し、花瓶は衝撃でバラバラに砕け散った。だけどアネモネは平然としていた。


「あら……今度は直接殴ってきたのね。でも……効かないって言ったでしょう?」

「きゃあああああ!」


 アネモネはそう言うと、わたしを太い蔓で殴り飛ばした。わたしは再び壁に激突する。背中に痺れるような痛みが走る。


「うう……痛い……」

「覚悟しなさい」

「くっ……」


 わたしは立ち上がろうとするが、身体中がズキズキと痛んで立てない。


「動かない方がいいわよ。私の毒が全身を回っているはずだから」

「ど……どういうこと?」

「あなたは死ぬ寸前ってことよ」

「え……!?」

「大丈夫よ。あなたの魂は私が有効活用してあげるから。大人しく死んで頂戴!」


 アネモネはわたしに襲いかかってくる。わたしは必死に逃げようとするが、足がもつれて倒れてしまう。そして、わたしの上にアネモネが覆い被さるように乗っかってきた。


「終わりよ」

「やめて!」

「止めないわ! あなたはここで殺す!」

「嫌ぁ!」


 わたしが叫ぶと、突然窓ガラスが割れて、誰かが入ってきた。


「そこまでです!」


 わたしはその声の主を見るなり、驚いた。それはなんと、ウウだったからだ。

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