17羽目 「はあ……はあ……」
メアリはわたしの耳元で喘ぎながらそう言った。そして次の瞬間、メアリの身体がドロドロの液体になったかと思ったら、爆発し、部屋中に飛び散った。
「え……!?」
爆発四散したメアリだった液体を全身に被って固まっていると、わたしは我に返った。
「わたし今、めちゃくちゃなことやってなかった!? ていうか我慢できないって、そういうことだったの!?」
にしてもメアリって、一体何者だったんだろう……? スライム人間とか……そういう感じのやつ……? わたしは今自分の身に起きたことが理解不能でパニックになりかける。だけどわたしはなんとか踏みとどまって冷静になって、とりあえずこの場から離れようと思った。
「ど、どうしようかな……」
わたしはメアリだった液体をその辺にあったタオルで拭き取りながら考える。とにかく、このままここにいてもしょうがないよね……。
「よし……行こう……」
わたしはそう決めると、メアリの家の扉を開けた。
「あれ……ここは……?」
扉の先は、知らない場所だった。辺りを見回す。そこはどこかの公園の中のようであった。遊具はシーソーとブランコがあった。でもそれだけしかなくて、人もいなかったから少し寂しさを感じた。
「どこだろう……ここ……」
すると突然、空が分厚い雲に覆われ、強い雨が降ってきた。
「きゃっ!」
わたしは慌てて近くの木の下に避難する。
「はぁー……」
木陰で空を見上げながら、わたしは大きく息を吐いた。もう……何がなんだかで……疲れてきたよ……。
「はぁ……」
そんなことを考えながら正面を見たら、遠くで誰かが倒れているのに気づいた。
「誰……?」
わたしはその人に駆け寄った。もう今更服が汚れる心配なんてしてどうするって感じだったし、もう濡れるだけ濡れてもいいやって諦めもあった。
「あの……大丈夫……?」
わたしはそう声をかけてみたけれど、返事はなかった。顔を見ると、カエルみたいな……というよりカエルそのものだった。でも身体は人間のそれでスーツをきっちりと着ていて、まさにカエル人間と呼びたくなるような風貌だった。
「ねえ、しっかりして……」
わたしはカエル顔の人を抱き起こそうとした。だけどぐったりとしたまま動かない。
「ちょっと、ねぇ……!」
わたしは必死に声をかけた。だけど目は閉じられたままだった。
「まさか……死んじゃってる……?」
わたしは恐るおそるその人を揺すってみた。揺するとよくないというのはどこかで教えてもらった気がしたけど、その人が生きているのか確かめたかった。
「聞こえてたら、目を開けて!」
するとその人は目をカッと開いた。
「ひっ」
わたしはその人間離れしたギョロっとした目を見て思わず悲鳴を上げてしまった。
「うーん……アリスちゃん……」
「えっ……なんで私の名前を……」
「アリスちゃんのことはなんでも知っていますよぉ……」
「な、何を言ってるの……?」
「だってぇ。今からぜーんぶ。教えてもらうんですからぁ」
「え……?」
わたしはその言葉の意味がわからず、困惑してしまった。
「どういう意味……?」
するとカエル顔の人はゆっくりと立ち上がったかと思うと、襟を正しながらニタッと口角を上げた。
「こういう意味ですよ……」
「え……?」
「アリスちゃん。好きな食べ物は何ですか?」
「へ?」
「ですから、好きな食べ物です」
「……いちごのショートケーキ」
「そう……ですか……では、身長は?」
「一メートル五十センチくらいかな……」
「体重は……?」
「ええと……わからないけど、多分四十キロはあるんじゃないかなって……」
「スリーサイズは?」
「ええっ!? それは……ええと……ごめんなさい……」
「教えて下さい」
「ええと……」
わたしは戸惑う。なぜこの人はそんなことを尋ねてくるんだろう……。
「どうして、そんなことを知りたがっているの?」
「知りたいから、知りたいんですよ」
「うーん……」
わたしにはこの人が何を求めているのかよくわからなくて、戸惑いを隠せない。
「あなたは一体……」
「私は……」
「うわあっ!?」
わたしはバランスを崩して尻餅をつくと、そのまま仰向けで倒れてしまった。そして後頭部を地面に打ち付けた。服は濡れるし、頭は痛いし、お尻は泥だらけになるし、カエル顔の変な人が目の前にいるしでもうめちゃくちゃだ。
「いったーい……」
「大丈夫ですか……? アリスちゃん……」
「ええ……なんとか……」
「かわいいですね……アリスちゃんはぁ……食べちゃいたいですよぉ……」
「えっ……?」
わたしはカエル顔の人の言葉を聞いてゾッとした。やっぱりこの人はヤバそうだ……。逃げないと……。
「うっ……」
立ち上がろうとしたけれど、足が震えてうまく立てなかった。
「ふふ……怖がらせてしまいましたかねぇ……」
「こ、来ないで……」
わたしはそう言った。だけどその人は近づいてくる。わたしは恐怖で動けない。
「うっ……うっ……」
「大丈夫ですかぁ? アリスちゃん……」
その人はそう言いながらわたしに近づき、手を差し伸べてきた。わたしはその手を取ろうとして、思い留まる。
「嫌ぁ!」
わたしはその人の手を振り払い、豪雨の中、ひたすらに走り続けた。
「はあ……はあ……」
わたしは息切れして、お腹が痛くなりながらも、走り続ける。
「はあ……はあ……」
するとやがて、目の前に大きな建物が見えてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます