15羽目 「僕の名前はチュウ太郎巳之助萬次郎壮二郎弥三郎正三郎だ」
扉の先に待っていたのは、広間ではなく、岸辺だった。目の前に広がるのは、見渡す限りの青。空の水色が反射する海の水面は、陽光を浴びてキラキラと眩く輝いている。
「綺麗なところ……」
気温も潮風も穏やかで、髪も服もさらりと優しく靡く。
「あの、君」
後ろから、誰かに肩を叩かれ振り向いた。わたしの肩を叩いたのは小さなネズミだった。
「かわいいい! あなた、名前は?」
「チュウ太郎――」
「チュウ太郎! かわいい名前! わたしはアリス。よろしくね!」
わたしはチュウ太郎に近寄り握手を求めた。しかし彼はそっぽを向いてしまった。
「え? なんでそっちむいちゃうの?」
「お前、馬鹿なのか?」
……えっ!? わたしは思わず固まる。そんなわたしの反応を見たのか、彼はこう付け加えた。
「僕の名前はチュウ太郎巳之助萬次郎壮二郎弥三郎正三郎だ」
「え……? 今、なんて……?」
「だから、僕の名前はチュウ太郎巳之助萬次郎壮二郎弥三郎正三郎だと言っただろう!」
彼――チュウ太郎(略)は怒ったように言った後、再び背を向けて歩き出してしまった。慌てて彼のあとをわたしは追いかける。そして彼は海を眺めながらこんなことを呟いていた。
「ここはどこなんだろうか。まさか……地獄か……?」
どうやら彼も迷子になってしまったようだ。それなのにあんなに堂々としているなんてある意味凄いなぁ……。
「あのさ……わたし達、どこにいるんだろうね?」
わたしがそう言うと彼は立ち止まり、うつ伏せに倒れた。
「あの……チュウ太郎……?」
わたしはチュウ太郎の元へ駆け寄ると、彼はすぐに起き上がった。そして、私の方を見て、こう答えた。
「さあな。だがひとつだけわかることがある。この世界は何もかも滅茶苦茶で、滅んだ方がいいってことだ」
「ほ、滅んだ方がって……!」
わたしが思わず反論しようとした瞬間、チュウ太郎は足を滑らせ、崖から海に真っ逆さまに転落した。
「キャーッ!」
叫び声を上げながら駆け寄ったけど、チュウ太郎はすでに事切れていた。わたしは涙をこぼしながら、彼の遺体を砂浜に埋めた。
そして手を合わせて黙祷を捧げた。そしてわたしはまた一人で歩き始めた。しばらくそうして肩を落としながら歩いていると目の前に大きな建物が見えた。それは学校みたいな建物で、たくさんの人たちが歩いていたり、笑顔で談笑していたりしていた。
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