Next Wonderland

11羽目 「ウサギ穴から出てくるの、大変だったぜ……」

「ねー。そんな本読んでて楽しいの?」


 土手の上で何も言わず、挿絵も会話も無さそうな本を読んでいるお姉ちゃんにわたしは率直に尋ねてみた。


「もしもーし? 聞こえてるー?」

「……」

「おーい!」

「ん……?」

「あ、お姉ちゃん?」

「……」

「これは……聞いてないね……」

 

 本を読むのに集中しているらしくて、わたしの声はちっとも耳に入ってないみたいだった。というより聞く気があるのかも怪しかった。この前わたしも試しにちょっと読んでみたんだけど、よくわからないことばかり書かれててつまらなかった。あんな本を読んでるくらいなら花でも見てた方がまだマシに思えた。


「にしても、今日は暑いね……」

「……」


 はしたないけど胸元とスカートを両手でぱたぱたさせて風通りをよくしてみる。服装はお気に入りの水色のワンピースに、白色のエプロン。脚はボーダータイツ。そこまで厚着をしている訳じゃないけど、こんな暑くなるならもっと薄着でも良かったかな。少なくともタイツは履かない方が良かったかも。タイツを履いてるとはいえ自分でも中々のサービスカットだと思うんだけど、お姉ちゃんは暑がる素振りもチラ見する様子も見せずに相変わらず本に夢中だった。


「タイツ……脱いじゃおっかな……?」

「……」

 

 わたしはお姉ちゃんを試すように、スカートを太ももが見えるくらいまでめくりあげて見たけど、お姉ちゃんはやっぱり無反応だった。反応されたらそれはそれで困るけど、なんか悲しくなった。


「ふぁぁ……なんか眠くなってきた……」


 強い日の光に当てられたせいなのか、退屈のせいなのかどうかはわからないけど、なんだか眠くなってきた。もちろんお姉ちゃんと一緒に本を読む気にもなれないので青々とした芝生の上に仰向けで倒れ込んだ。芝生は湿り気も無くて、身体を優しく包む感触がふかふかで気持ち良かった。空も雲一つない青空ですごいいい天気なんだけ

ど、とにかく暑いせいでそんなプラス要素も全部マイナスに持っていかれてしまう。


「ねぇ……なんでわざわざ外で読むの?」

「澄んだ空気の中で気持ちよく読めるからよ。アリスも試してみたら?」

「今のは聞こえてたんだ……でもさ……これはちょっと……暑過ぎじゃない?」

「あなたが暑がりなのよ、アリス。これくらいの暑さでへばっていてはダメよ」

「えー?」

「そうよ」


 わたしは仰向けになりながらお姉ちゃんと話していたけど、しばらくするとお姉ちゃんはまた読書に戻ってしまった。こんな暑いのによくそんな本読めるなぁと思っていたそのとき、後ろの方で誰かがこっちに向かって走ってきているような物音が聞こえた。わたしはその方向を振り返る。するとそこにはピンク色の縞模様をした猫がいた。ダイナのお友達かな?


「アリス!」


 するとその猫は大きな声でわたしの名前を呼んだ。この子はいったい何者? どうしてわたしの名前を知ってるの? そんなことを思ってると、猫はこう言った。


「ウサギ穴から出てくるの、大変だったぜ……」

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