10羽目 「それでは、巻き戻しを始めます」

 裁判所を飛び出し、わたし達は花畑の花を踏み潰すこともいとわずにひた走る。その後を女王陛下の部下と思われる人達が一心不乱に追いかけてくる。


「はあ、はあ」


 長い時間走り続けて、やがてわたし達は森の中へと逃げ込んだ。息切れしながら、食べられるのか食べられないのかもわからないような変な果実が実っている木に身を預けて座り込む。そんなわたしの横に座ってウウが言った。

 

「いいですか……? 今から時間を巻き戻します……そうすれば、あなたはこんな世界に来ることもなく、殺されることもありませんから……」

「でも……ウウはどうなるの……?」


 わたしが訊くと、ウウはこくりと頷いた後「私のことは心配しないで下さい」と言った。


「でも……」


 わたしは口ごもり、視線を逸らしてしまった。そんな様子のわたしにウウは優しい声で言ってくれた。


「大丈夫ですよ。私を信じて下さい」

「うん」


 わたしは小さく呟くように言って、大きく一回深呼吸をした。大丈夫。わたしは、大丈夫だ。だって、わたしを助けてくれたウウがそう言っているんだから。


「それでは、巻き戻しを始めます」


 ウウは真剣な顔でそう言った後、懐中時計を手に取った。するとだんだんわたしの手が透けてきていることに気づいた。それを見て、本当に時間を戻しているんだと直感でわかった。


「ありがとね、ウウ」


 視界が徐々に歪んでいく中、わたしはウウに言った。


「はい。あなたとは少しの間だけの付き合いでしたが……楽しかったです。……巻き戻れ!」

 

 そんなウウの声が聞こえてきたかと思った瞬間、わたしの意識は途切れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る