9羽目 「逃げましょう!」
「お前達、抵抗しない方がいいぞ」
トカゲ達が一斉に拳銃を向ける。するとウウが言った。
「抵抗します」
ウウはそう言って再び時計を手に取った。その瞬間、ウウに向かって銃弾の嵐が襲い掛かった。だけどウウはその攻撃を全て華麗に避けた。ウウは余裕の表情を見せている。だけど突然ウウに向かって何かが落ちてきて、ウウはそれに押し潰された。一体何が起きたのかわからないまま、わたしの意識も途絶えた。
目を開けると目の前には牢屋があって、その中にいる事に気づいた。わたしは急いで辺りを見渡した。
「ここ……どこ?」
わたしがそう呟くと、隣にいたウウが「私にもわかりません」と答えた。顔を見た感じ(もっとも、ウウはあまり大きく表情を変える方では無いけど)本当に何もわからない感じだった。それからしばらくウウは俯いたまま、何も言わなくなってしまった。わたしもどうしようか困っていると、突如牢屋の扉が開いた。わたしは驚いて扉の方を見た。するとそこに立っていたのは、いかにも豪華なドレスを身に纏った女の人と兵士らしき人たちが立っていた。彼女たちはカツカツと靴音を鳴らしながらこちらに向かってくる。
「こ、こんにちは」
わたしはとりあえず立ち上がり挨拶をした。すると女の人は優雅に一礼してからわたしに微笑みかけた。
「あなたがアリスですか?」
その言葉に驚きつつも、わたしは「はい、そうですけど……」と答える。すると女の人は「私は女王陛下です」と言った。それから女王は続けて「そしてあなた方を死刑にします」と言い放った。その一言で、周りの空気が張り詰める。
わたしとウウは思わず顔を合わせてしまう。わたしはウウに小声で囁く。
「ねえ! これってめちゃくちゃヤバくない!?」
「そそそ……そうですね……」
ウウもわたしに負けじと、瞬きが多くなって冷や汗を流していた。
「そういうことですので、今から裁判を始めます」
女王はわたし達に向かって、きっぱりとそう言うと、兵士達に指示してわたし達を法廷らしき場所へと連れて行った。傍聴席には、色々な人や動物や植物が所狭しと座っていた。その誰もがわたしとウウに視線を向けていて、緊張せずにはいられなくなる。
「まずは罪状を確認しておきましょう」
女王は全員が着席したのを確認すると、罪状が書かれているらしい書類を読み上げ始めた。その内容は実に簡単なものだった。
「被告人、時計ウサギおよびアリスは、三月ウサギを殺害したため、死刑に処す」
その言葉をわたしは信じることが出来なかった。今からわたし達……死刑に……なるの……? ウウとわたしは何も言えずに黙り込んでいた。その時誰かが法廷の扉を勢いよく開いた。
「誰ですか!」
女王陛下が慌てたように叫ぶ。すると「弁護士もいないでなにが裁判ですか」ときっぱりとした返事が返ってくる。扉の先にいた人物は、帽子を被ったスーツ姿の男の人だった。その男の人の登場に、みんなが動揺している。そんな中ウウは言った。
「あなたは……帽子屋さん。私達を……助けてくれるのですか?」
「もちろんですとも。なぜなら私は帽子屋であり、弁護士なのですから」
帽子屋は帽子の隙間からチラっとウウの顔を見ながら笑みを浮かべていた。そんな様子をわたしはじっと見つめていた。そのことに気づいたのか、帽子屋がわたしに向かって言った。
「私が無罪にしてあげよう」
「本当!?」
「ええ、もちろん。私は嘘は言いません」
帽子屋はきっぱりと断言した。わたしはその言葉を聞いて、ほっと息を吐いた。
「そんなこと、女王陛下である私が許しません!」
しかし、それに納得できないというように女王陛下は怒鳴った。そんな状況に「まあまあ、落ち着いてください」となだめるように帽子屋が言った。
「死刑にしましょう」
「え!?」
「え!?」
「え!?」
帽子屋のそんな発言に法廷にいた全員が耳を疑っているようだった。もちろんわたしも。ウウとわたしは咄嗟にその発言に「異議あり!」と言って立ち上がろうとしたけど、あっさりと女王に却下されてしまった。
「この国の女王たる者、国民に公平でなくてどうしますか!」と言い放って「死刑にしなさい」と女王は声を上げた。
「そうでしょう! こんな殺人犯、死刑にしましょう!」
女王の言葉に押され、周りもそうだそうだと騒ぎ立てる。
「ど、どうしよ!」
わたしはウウに訊く。
「わ、わかりませんよ! どうすればいいんです!?」
ウウもわたしに訊き返してきた。わたしは必死に頭を回転させたけど、何にも浮かんではこなかった。
「あの……」
そんな時、傍聴席にいた一人の少年がおずおずと手を上げた。もしかして、助けてくれるのかな?
「なんですか?」
女王がその少年に尋ねる。
「死刑にした方がいいと思います……」
少年はそう答えた。その言葉を聞いて帽子屋も頷いた。……違うんかい!
「そうでしょう? 彼らは処刑しなければなりませんよね?」
その言葉を聞いた女王は首を縦に振った。
「もちろんです!」
その一言で槌が打たれて、裁判は終わってしまった。
「ウウ! どうするの!?」
わたしは思わず大声で叫んだ。そんなわたしの手をウウが引っ張る。
「逃げましょう!」
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