6羽目 「えぇ、喋りますよ。さあ行きますよアリス様!」

「あ、あれ? さっきまでは一緒に戦ってたはずなのに……」


 わたしの言葉を聞いた猫は勝ち誇ったような笑みを浮かべたまま、さらに言葉を続けた。


「お仲間がいなければ戦うこともできませんよね! では、改めて勝負再開といたししょうか! 私の名は……この世界のバトルマスター『茶々』です!」


 茶色い猫――茶々のその言葉を聞いてわたしは思い出した。


「ちょっと待って! そういえばまだわたしも名乗ってない!」


 わたしは急いで自己紹介をする。


「わたしの名前はアリス! よろしくね!」

「アリスさんですか。それでは行きます!」


 そう言って茶々がどこからか取り出したトランプの中から一枚のカードを抜き出す。そしてカードを掲げ、叫ぶ。


「さあ、行くのです! 私自慢の切り札よ!」


 するとカードから手足が生えてきて、兵士の姿になった。


「こいつはトランプ兵の中でも最強の存在……ジョーカーです!」


 ジョーカーと呼ばれたトランプ兵が斧を振りかざしながらわたし目掛けて突進してくる。わたしはとっさに叫んだ。


「お願い、誰か来て!」


 すると、わたしの声に反応するかのように何かがやって来るのを感じた。それはとても速い速度でこちらへ向ってくる。そしてその姿が見えるようになったとき、そこに現れたのは、巨大なワンちゃんだった。


「大丈夫ですかアリス様。ご命令通り助けに参りましたよ」

「喋った!?」


 ワンちゃんの口から聞こえてきた声はとても渋くてダンディーな感じの男性のそれだった。


「えぇ、喋りますよ。さあ行きますよアリス様!」


 ワンちゃんはわたしに言うと、ジョーカー目掛けて突っ込んでいった。するとその凄まじい速さにジョーカーは一瞬怯んだ様子を見せたものの、すぐに体勢を立て直す。そして斧を横に薙ぎ払った。ワンちゃんは少しよろけたけど何とか踏みとどまった。


「なんてパワーだ!」

「ふん、まだまだこれからですよ!」

 

 ジョーカーとそんなやり取りをした後、ワンちゃんは再び走りだすと、ジョーカーに体当たりをした。だけど、さすがと言うべきか、ジョーカーはすぐに起き上がると反撃を仕掛けた。振り回された斧は地面を砕き、土煙をあげた。しかしそれでもワンちゃんはひるむことなく攻撃を繰り返す。やがて攻撃に耐え切れなくなったジョーカーはその場に倒れた。すると、その途端、ジョーカーが光に包まれ、元のカードの状態に戻った。ワンちゃんがこちらを見て微笑みながら話しかけてくる。


「どうやら終わったようですね。お疲れさまでした。アリス様」

「ありがと!」

「いいのですよ。それより怪我などはございませんか?」

「うん、大丈夫!」


 わたしの返事を聞くと、ワンちゃんは笑ってくれた。すると周りの風景が歪んでいき、わたしたちは元の花畑へと戻ってきていた。


「まさか……トランプ兵も負けるなんて……」


 茶々は悔しそうな声で言った。そんな茶々に、わたしは問いかける。


「ねえ? そもそも何でわたしと戦おうって思ったの?」


 茶々は間髪を入れずに答えた。


「それが私の使命だからです。……まだまだ行きます!」


 そして茶々は、空に向かってこう叫んだ。


「来なさい、公爵夫人!」


 すると上空から真っ白な服に身を包んだ、赤髪の女性が現れた。彼女は手に持ったティーカップの中に入っていた紅茶を一口飲み、優雅な動作で一礼すると、こちらを見て言った。


「お呼びかしら? おチビちゃん」

「え? いや、えっと……」

「呼んだのは私です」

「あらそうなの。子猫ちゃん。ということはつまり、あの大きな子犬ちゃんを倒せばいいってことかしら?」

「はい。そうです」


 突然の謎の人物の登場に、思わず呆気に取られてしまう。しかし私の隣にいたワンちゃんが「しっかりして下さい!」と声を掛けてくれたおかげで我に帰ることが出来た。


「次の相手は貴方ですか。行きますよ!」


 ワンちゃんは公爵夫人に向かって体当たりをしようとした。だけど、公爵夫人は「甘いわね」と言ってワンちゃんに向けて手をかざす。すると公爵夫人の手の平から黒い光が放たれてワンちゃんに命中し、そのままワンちゃんは地面に倒れてしまった。すぐに駆け寄ろうとしたけど、ワンちゃんは「大丈夫です。問題ありません」と苦しそうに言いながらも、再び公爵夫人に向かっていった。でも、公爵夫人の更なる追撃によって今度は後ろ足を痛めてしまい、ワンちゃんは動けなくなってしまった。わたしは傷だらけになったワンちゃんを見て胸が締め付けられる思いがした。すると、公爵夫人がこっちを向いて真っ赤な口紅が塗られている口を開いた。


「さあ、これで勝負は決まったようなものね。さっさと降参したらどうかしら? まあもっとも、この怪我じゃもう戦うことは出来ないでしょうけどね」

「申し訳ありません……アリス様……」


 ワンちゃんは息も絶え絶えにそう呟いたかと思うと、気絶してしまった。


「どうしよう……」

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