5羽目 「えっと……私と戦ってくれませんか!」
「それにしても綺麗な場所! それに暑すぎず寒すぎずで快適!」
わたしは花畑まで戻ってきたけど、目の前にある色とりどりの花々は見ているだけで楽しい気持ちになる。非現実感も相まってまるで天国のように思えてくる。こんな場所に一人で来るなんて初めてだったけど、わたしは思いっきり羽を伸ばしてくつろいでいる。天使じゃないから実際に羽は無いんだけど、気分的にそんな感じってことで。
「あ、あの!」
なんてウキウキ気分で花畑を満喫していたら、突然後ろから誰かに話しかけられた。振り向くとそこには一匹の茶色い猫がいた。家で飼っている猫のダイナにそっくりだったけど、でも違う猫だと一目見てすぐにわかった。
「何?」
「えっと…………私と戦ってくれませんか!」
猫は目を輝かせながら唐突にわたしにそう言ってきた。でも、戦ってくれって一体どういうこと? もしかして喧嘩? いや、違う! これはもしかすると……決闘!
「面白いじゃない! これでもわたし、腕っぷしには自信があるの! 家ではよく力仕事とか任されてるんだから!」
「そうですか、話が早いですね!」
わたしはその申し込みを受諾した。とは言ったものの、何すれば良いんだろう? とりあえず準備運動とかかな? うん、やっぱり身体を動かしておくべきだよね! そう思いながらわたしが身体を伸ばしたりウォーミングアップをしていると、猫が大きな声で叫んだ。
「いけっ! ドードー鳥!」
すると突然地面が盛り上がり、地中から大きなニワトリみたいな鳥が出てきた。
「わしはドードー鳥じゃ」
ドードー鳥は出てくるや否や、そう言ってきた。
……え? これって……どういうこと? わたし、この鳥と戦うの? ……うん、そうだ! きっとこれは……そういうことなんだ……! よし、そうと分かれば全力を尽くしちゃおう! せっかく不思議な世界に来たんだし、楽しめるものは楽しんじゃわないと!
「いけー、鳥さんたち、突撃!」
試しにわたしも猫を真似してそう叫ぶと、草木の中からサギやらカナリアやらハトやらのたくさんの種類の鳥が出てきて、嘴でドードー鳥に攻撃を仕掛け始めた。
「一度に複数の鳥を使役するとは……なかなかやりますね……ですが、こっちも負けません!」
猫が感心した様子でそう言うと、ドードー鳥の鳴き声が激しくなった。そしてドードー鳥が翼を広げながら地面を走り、嘴で次々と鳥たちを襲い始めた。鳥たちはその攻撃を受けて散り散りにどこかへと飛んでいってしまった。……でも!
「わたしも本気でいくんだから! 来てっ! もっとすごい鳥!」
わたしは晴れているのか曇っているのか分からないような不思議な色をした空に向かってアバウトに注文すると、もの凄いスピードで、大きな黒い翼を持った白い顔の鳥が飛んできた。鷲だ! それを見た途端、ドードー鳥の動きが止まった。
「わ、わしに鷲をぶつけてくるとは! なんて奴じゃ!」
「今なんて? わしわし言っててわかんないよ!」
「わし……鷲と戦うのは嫌じゃあ!」
わたしの言葉に反応したドードー鳥が大きく鳴き出したので耳を押さえていると、猫が慌て始めた。
「ドードー鳥! しっかりして下さい!」
「もう嫌じゃああああ!」
「ああっ!」
猫の呼びかけも虚しく、叫び声を上げながらドードー鳥は走って逃げ出してしまった。どうやら戦意喪失してしまったみたいだ。
「……ふぅ。これでお互い手持ちは五匹ですか……」
「五匹!? 五匹なの!? ていうか手持ちって何!?」
慌てて尋ねたけど、猫には全く聞こえていなかったようで、猫は空に向かってこう言った。
「来なさい! グリフォン!」
猫の目の前に大きな魔法陣が現れ、その中から大きな翼を持つ巨大なライオンのような身体をした鳥が現れた。グリフォンと言われたその鳥は空中に飛び上がり、その巨体に見合った鋭い牙を見せながら雄叫びを上げる。
「行くぜ! うおおおお!」
衝撃で地面に生えている花が散り、花吹雪が目の前で舞う。少し綺麗……なんて思ってる暇は無さそうだ。
「頑張って、鷲さん!」
わたしは上空を飛んでいる鷲さんにこれまたアバウトな注文をした。すると鷲さんは勢いよく空高く飛んだかと思うと、グリフォン目掛けて急降下した。鷲さんの鋭い爪がグリフォンの皮膚に突き刺さり、グリフォンは「痛ぇ!」と悲鳴を上げた。
「この鳥……強い!」
猫が苦し気な声で言った。
「まだまだ!」
わたしが叫ぶと、鷲さんが「任せろ!」と言わんばかりに一際大きな鳴き声を上げ、グリフォンの皮膚を嘴で齧り取った。グリフォンが「ギャー!」と悲鳴を上げて地面に墜落し悶える。そして鷲さんが再び上空へと戻っていくと同時に、グリフォンが「こいつ強えよ!」と言ってどこかへと飛んでいった。
「くそ……これで四対五……ですか」
猫が悔しそうに言った。何だかよくわからないまま戦っているけど、今のところわたしが優勢みたいだ。この調子で頑張ろう。
「お願いします、海ガメもどき!」
猫がそう言うと、足元に急に冷たさを感じた。見ると地面から水が溢れてきていて、わたしの靴を濡らしていた。突然のことで驚いたわたしが水から足を退けると、今度は泥沼になったかのように足が深く沈んでいく感覚があった。
「あー! わたしのお気に入りの服が!」
お気に入りの水色のワンピースを汚されてしまったわたしが怒ると、猫がニヤニヤとした笑みを浮かべながら言った。
「海ガメもどきは、周りを海のような環境にする能力を持っているんです」
「能力……?」
「つまりあなたのお気に入りの服が濡れたのはそういうことなんですよ。さぁ……あなたの鳥は彼を倒せますかね?」
猫の言葉を聞いてわたしが辺りを見回すと、遠くの方で何かが動いているのが見えた。
「あれは……」
近づいてくるそれは、絵本で見たような巨大な船のようなシルエットをした、亀……のような動物だった。甲羅から手足が出ているし亀に見える、でも、亀にしてはかなり大柄で、まるで……牛のようだった。わたしはその奇妙な生き物を見て呆気に取られていたけど、わたしの視線に気付いたのかその海ガメもどきが叫んだ。
「僕は本物の海ガメだあああ!」
「う、うるさい!」
あまりの大きい声だったのでわたしが思わず怒鳴ると、相手はしゅんとなった様子で「ごめんなさい」と言った。
「まあいいや、お願い鷲さん!」
わたしがそう言うと、鷲さんは泣きそうになっている海ガメもどき目掛けて再び急降下して爪で攻撃した、が、甲羅に弾き返されてしまった。海ガメもどきが「スープにする気かああ!」と怒って反撃しようとしてくる。だけどその前に、鷲さんが飛び上がって空中で反転するとそのまま落下して頭に強烈な蹴りを食らわせた。海ガメもどきは派手に吹っ飛ぶと地面に激突した。甲羅は固くても、頭は柔らかいものだ。だってその頭を守るために甲羅があるんだから。もっとも、海ガメは甲羅に身体を入れることが出来ないみたいだけど。
「鷲さん! トドメだよ!」
わたしが声をかけると、鷲さんはそれに応えてもう一度急降下し、今度は両足の爪で引っ掻いた。それが見事に顔面に直撃し、海ガメもどきは動かなくなり、周りから水が一気に引いた。やったね!
「ありがとう鷲さん!」
わたしがお礼を言うと、鷲さんは照れ臭そうに鳴いた。
「まさか、海ガメもどきもやられるなんて……」
「どう? まだ戦う気ある?」
わたしは軽く猫に挑発してみる。すると、ムッとした顔になり「もちろんですとも」と言ってどこからともなくトランプのカードを取り出した。するとカードは巨大化してそこから手足と顔が出てきて…………なんと兵士に変身した! その鮮やかな手品のような光景を見たわたしは「すごい!」と言いながら、思わず拍手をしてしまっていた。
「私の名はエース。トランプの兵を指揮する役目を持っています。今からこの私があの鷲を倒して差し上げましょう」
「望むところだよ!」
わたしはエースと名乗り出てきたトランプ兵に向かって、勇みよく言った。
「さて……それでは参ります!」
エースはそう言って腕を掲げると、空に向かって指をさし「いでよ、ダイヤの2!」と叫んだ。次の瞬間空に光る筋のようなものが見えた。そして光がこちらへ向かってきたかと思うと、そこから大きな斧を持った兵隊が現れた。
「さあ行け、ダイヤ兵!」
「行くよ鷲さん!」
根拠はないけど、鷲さんと一緒ならどんな相手でも勝てるとわたしは思っていた。そして鷲さんをダイヤ兵の方に向かわせた。鷲さんをダイヤ兵が斧で切り付けようとしたけど、逆にその斧に噛み付いて振り回し始めた。そしてそのまま体当たりをするようにダイヤ兵を上空へと投げ飛ばした。
「さすが鷲さん、強い!」
「次は私自身が行きます。ダイヤ兵は援護に徹しなさい!」
「はっ!」
ダイヤ兵はすぐにその場から離れていき、エースに場所を譲った。
「さぁてと、覚悟はいいですか?」
エースが不敵に笑いながら、鷲さんに向かって問いかけてくる。その表情には余裕があり、わたしたちを侮っているのがよくわかった。だからわたしはその油断している隙を狙って、素早く鷲さんを旋回させて攻撃を仕掛けさせた。鷲さんはわたしの指示に応じると、勢いよく体当たりしてエースの身体を貫いた。
「なっ……!? 私の身体が……!」
驚きの声をあげると、身体に大きな穴を開けたエースはその場に倒れ込んだ。鷲さんはそのまま攻撃を加えようとしたがわたしが制止すると、わたしは彼に言った。
「あなた達の負けね。大人しく降参しなさい!」
「くそ……こんな奴に……!」
エースは悔しそうに言うと、他の兵士と共にただのカードに戻った。だけど、わたしが近づくと次の瞬間、周囲の風景が一変してトランプのような建物でいっぱいの景色へと変わった。
「え!? どういうこと!?」
突然の事態に戸惑っているわたしを見て、猫は不敵に笑った。
「これがトランプ兵の能力ですよ。一つ目はトランプのカードを使って仲間の兵を作り出す。二つ目が、これです。相手を自分の世界に引きずり込む」
「ふーん、なかなか面白い能力じゃない! だけど、あんまり調子に乗らないでよ!」
わたしがそう言い返すと、猫はさらに笑って言った。
「それはこっちの台詞ですよ。だってもうあなたの側にはあの鳥はもういないんですから。さあ……どうします?」
「え……?」
その言葉を聞いて、わたしは辺りを見渡した。しかしさっきまでわたしの頭の上を飛んでいた鷲さんは、もうどこにもいなかった。
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