第3話 僕とアイツの過去

「もちろんわかってるよ? 昔、お父さんに無理矢理ママ活させられてたとき、うんちがついたおばさんのお尻舐めさせられたのがショックだったんだよね? それでもママ活を辞めさせてもらえなかったせいで、火継ひつぎくんはエッチが大好きなひーくんっていう人格を切り離して、あなたの潔癖症は酷くなっちゃったんだよね」






ほとんどネグレクトと性的なドメスティックバイオレンスを受けていた過去の話。


僕の本当の父親は、母親が浮気をして離婚した後DVが酷くなり、暴力は当たり前だった。

それでも、最初からママ活をさせられてたわけじゃない。


あれは、父親が新しい若い女性と再婚してからのことだ。

その継母は20歳もそこそこの本当に若い女性で、当時40歳手前だった父親だけでは若い欲求を満たせなかったらしい。


僕のハジメテは、その継母に奪われた。

まだ精通も迎えてなかった無知な僕にいろいろ仕込んできたわけだ。


致命的だったのは、しばらく続けさせられたその情事が、父親にバレたこと。


僕が望んだことではなかったのに、父親は「そんなに性欲を持て余してるなら、そのへんの年増の欲求でも満たして金を稼げ。俺の女に手を出してんじゃねぇ」とか言って、僕のママ活を斡旋するようになった。


お金は当然、僕の懐には入ってこず、全部父親がガメていた。

年齢的にもヤバイ橋を渡ってることから、それなりの金額で取引されてたらしいけど。


とにかく僕は生きるために、たくさんの女性を満足させるようにがんばった。

きれいな人もいたし、お世辞にも女性としての魅力をたたえているとは言いづらい方もいた。


雅恋みやこさんが説明してくれた、僕のトラウマの相手こそ、その最後のお客さんだ。


トイレに呼ばれたと思ったら、紙で拭いてすらいない後ろを、直で舐め取って綺麗にさせられた。

それは流石に僕の精神の限界を超えたらしく、アイツという人格を生み出すに至ってしまった。


の方はすっかり女性との行為に臆病になってしまって、さらには今に近いくらいの潔癖症が発現するに至ったというわけ。


ママ活については、それからしばらくはアイツが引き継いでくれたわけだけど、なんといっても人格が違うわけなので、ところどころで異常さがにじみ出てたみたいで、父親の弟である計都けいとおじさんが気づいて通報してくれて、結果、僕は一時的に児童相談所に保護された。


その後、計都おじさんが僕を引き取ってくれて、今でもお世話になってる。


高校に進学することも勧めてくれたけど、僕は特に社会に興味も持てなくなってたし、大体、人格が入れ替わる体質でまともに学校生活が送れるとも思えなかった。

だから、辞退して、おじさんが経営している小さい雀荘で働かせてもらって、今に至るってわけ。


幸いにも、麻雀の才能には恵まれたみたいで、店のフリー打ちで、それなりに稼がせてもらえている。

うちの店のフリー卓は3麻限定なので、点数も上がりやすくて実入りもいい。


雅恋さんと出会ったのも、ここ。

大学に入学してアルバイトを始めようと思った雅恋さんは、たまたまこの雀荘を訪れて、バイトするようになった。


店の常連さんも雅恋さんも、最初は僕の解離性障害について知るとびっくりするけど、ある程度したら普通に受け入れてくれる。

ここはそういう優しい場所。


おじさんには感謝してもしきれない。


なんて、長くなったけど、それが僕のくだらない過去のトラウマの話。




「まぁ、そういうこと。だから、は雅恋さんを抱けないの。..................っていうか、雅恋さんは僕に告白してくれたとき、身体の関係はなくてもいいからって言ってくれてたのに......こんな裏切られ方するなんてさ」


あの頃は......というか今朝までは、雅恋さんは、身体の関係なしでも僕のことを愛してくれる素晴らしい人だと思ってたのに......。


「だから私は裏切ってないってば。告白も、手を繋いだのも、チューしたのも、咥えてあげたのも、えっちしたのも、子作りしたのも、お尻を使わせてあげたのも、おしっこ飲んであげたのも、他も全部ぜーんぶ、私の初めてはあなたにあげたし、これからも私の全部はあなただけのものだよ?」


「いや、僕はそのどれもしたことないよ! おしっことかも飲んだりしたの!? ほんと汚いな! もう......幻滅したよ......」


なんという汚い人なんだ!

幻滅だよ、まったく!


「..................ふぅ。まぁ火継くんならそういうこと言うと思ってたよ。だからこれまでは、まずひーくんを落して逃げられないようにしてきたんだよね。けど、私は絶対に火継くんのことも逃さないから」


............確かに、アイツがもし本気で雅恋さんに惚れてるなら、僕が逃げられる道理はない。

僕がどこかへ逃げたとしても、アイツと入れ替わってる間に雅恋さんのもとに戻ってくることになるんだから。


僕らの人格はいつ入れ替わるか、僕ら自身でもわからない。

お互いの意識も記憶も共有してはいないし、無論、目的意識や趣味嗜好だって違ってるみたいだ。


雅恋さんをアイツに寝取られて、アレもコレもソレもドレも、全部アイツに奪われたことは、憎くて憎くて仕方ない。


とは言え、少し前までみたいに、そこらの女性と手当たり次第ママ活したり、セフレ作りまくったり、違法な精子取引をしたりするような汚いことを辞めて、雅恋さんだけにしておいてくれるっていうのは、憎しみはあるけど、僕の身体を汚さないでいてくれるって意味では、悪いことばかりじゃないのかも......。


だって、アイツのせいでこれまでに何人も僕の子どもを産んだ人がいるらしいじゃないか。

相手は僕はよく知らないけど、アイツがときどき、僕らが頑張って稼いだ金の一部をその人たちに送ったりしてるの知ってるからな......。


そんな不健全なことを辞めてくれるっていうのは、まぁ有り難くはある。


けど、やっぱり、憎しみを感じずにはいられないな。

アイツにも、それと......雅恋さんにも。


「逃さないとか、知らないよ。僕はもう雅恋さんに愛想が尽きたよ。僕のことなんてほっといて、アイツとよろしくヤッてたらいいんじゃないの」


あ、言葉にしてみたら、なんかどう聞いても拗ねてるだけにしか聞こえないな......。

九曜火継くようひつぎ、17歳。なんか子どもみたいなことを言ってしまった気がするけど、これは決して僕のせいじゃない。仕方ない。



「だから逃さないってば。それにビデオでも言ったでしょ? 私の心は火継くんのものなんだよ?」


ちなみに、そういう適当なことをのたまう雅恋さんは3つ上の20歳。もう後2ヶ月ほどで21歳になる大学3年生。

遊びたいお年頃なんだろうか。


「あんな痴態を晒しておいて、よくもまぁそんなことが言えますね。まったく......恥というものがないんですか、恥というものが」


「ないよ? だってホントのことだもん。っていうか火継くん、いくらなんでもひどすぎない?」

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