第4話 間男だったのは......

「あんな痴態を晒しておいて、よくもまぁそんなことが言えますね。まったく......恥というものがないんですか、恥というものが」


「ないよ? だってホントのことだもん。っていうか火継ひつぎくん、いくらなんでもひどすぎない?」


「酷いのは雅恋みやこさんでしょ。僕がいるのに浮気して、あまつさえこんなビデオを見せつけて。......もういいですから。どっか行ってくださいよ」


これ以上話してても、辛い気持ちにしかならない。

幻滅したとか言ってはみたものの、大好きな気持ちが残りまくってるからこそ、こんな辛い感情の波にさらわれてしまうんだ。


残念ながらここは僕ら2人で住んでる家だ。

だから、「帰れ」とか言おうにも、実家に帰ってもらうくらいしかできない。


でも、どうせ僕が帰らせたって、アイツが呼び戻すんだから無駄な抵抗になっちゃうだけ。

ならもう、「どっか行って」って拗ねるくらいの抵抗しかできない。


僕だって、あのトラウマさえなかったら、そもそもこんな寝取られビデオレターを見せられることも、見せられたとしても雅恋さんをヒーヒー言わせて僕から離れられなくさせることもできたはずなのに。


こちとら小5からママ活で本番させられてて、テクだって、嫌々ながら磨かされてきたんだ。

中2の頃にアイツが生まれてからは、そういうことは全部アイツがやってきたわけだから、その分の経験の差はあるかもしれないけどさ。


それでも、2年前に雅恋さんに出会って、半年前から付き合いだしてから、身体で奉仕できない分、できるだけ彼女に不満を抱かせないようにエスコートしてきたつもりだったのに。


なにが「心は火継くんのもの」だよ!

あの動画のどこに、『心が僕に残ってる要素』があったよ!


「心とか言って、中身が僕でもアイツでもどっちでもいいんでしょ! 雅恋さんは身体さえ僕らのものだったらなんでもいいんだ。だからこんなビデオレターヒドイことができるんでしょ! この..................浮気もの!」


酷いことを口走ってるのはわかってる。

けど、なんか、止められなかった。


そんな僕の棘だらけの言葉を受けて、雅恋さんは少し悲しそうな表情になる。

うぅ......そういうの、心えぐられるから辞めて欲しい。


雅恋さんは、そんな悲しそうな、優しい視線を僕に向けながらしばらく沈黙した後、諭すように、でもどこか孕んだ怒気も感じさせる声で、一息に続ける。


「私だって傷つくんだけどなぁ。まぁいいや。どっちでもいいって? ちょっと違うかな。どっちも欲しい・・・・・・・んだよ、私は。ビデオレターは......そうだね、これまでに私以外の女にたくさん赤ちゃん産ませてきた火継くんへの罰と、あなたの潔癖症の荒療治も兼ねてるんだよ。私がどれだけ苦しい思いをしたかってこと、むしろ今回のことで火継くんにもそれがよくわかったんじゃないかな? 大好きな人が自分以外の人とえっちしてるのって、辛いでしょ? 私はその辛い気持ちを味わわされてきたんだよ? 今だってそう、私以外の女が、私より先に火継くんの赤ちゃんを育ててるって考えたら、発狂しちゃいそうだよ。......ねぇ、想像してみてよ。もし私の人格が2つに分かれてて、片方は火継くんのことが大好きだけど、もう片方はどこの誰とも知らない男と交尾しまくって何人も赤ちゃん孕んでるの。どっちも私の身体なのに。そんなの許せる? 私には無理だよ。だから、私は、どっちも欲しい・・・・・・・んだよ」



捲し立てるように、矢継ぎ早に伝えられたそれは、つい納得してしまいそうな、寝取られビデオレターを正当化してしまいそうな論理に聞こえた。


確かに......そう言われると、僕らの人格を別々に捉えてもう片方に浮気するな、なんてのは、単なる僕のワガママでしかないのかも。

それに、以前の僕らは雅恋さんにそういう心労を煩わせてたのかもしれないけど......。


「むしろ私は、人格はともかく、火継くんにしか身体を許してないんだから、そんなに責められる謂れはなくない?」


やば、論破されちゃう......。

い、いやでも、心が浮気してるのは変わらないじゃないか! こんなの、話の論点をずらしてるだけだよ。


「き、詭弁だよっ」


「何が詭弁なの?」


「い、いや、だから、論点が違うっていうか......。雅恋さんは結局、『僕』っていう人格も『アイツ』っていう人格も、どっちでもいいってことには変わりないんでしょ! ......って、うわぁっ!?」



いつの間にか、雅恋さんがソファから立ち上がって、僕の方にじりじりと近づいてきていた。

そうして、アイツのを扱いた手で、僕の頬をむぎゅと掴んだかと思うと、妖しい光を携えた眼で覗き込むようにしながら、またしても捲し立てるように話す。


「ごちゃごちゃうるさいよ、火継くん。だから、どっちのあなたも最高に大好きなだけなんだってば。どっちでもいい・・・・・・・じゃないの。どっちもいい・・・・・・んだよ。そもそも1つの人格だったんでしょ? だからかな、いろんなところに見せてくれる優しさとか気配りとか、見せてくれる笑顔とか、そういうところは2人とも一緒なんだよね。そうでなくても火継くんの身体を他の女に渡すなんてしたくないのに、そうやってどっちの人格にも惚れさせたのは、あなたたちが悪いとは思わない? 悪いのは火継くん。最低なのは火継くんだよ? ほら、謝って? 私に酷いことしてきてごめんなさいって言って? 私に酷いことたくさん言ってごめんなさいってして? 『僕も雅恋さんとえっちしてビデオレターをひーくんに送りつけてやりたい』って言って? 赤ちゃん産んでくださいってお願いして?」



............綺麗だ。

妖艶に嗤いながら話す雅恋さんはやっぱり素敵で。

近くにいたらイイ匂いがして。


やっぱり、僕が雅恋さんのこと大好きなのは変えられそうにないらしい。


けどさぁ、それでもさぁ、アイツとも関係持ってるってのは、癪に障るんだよねぇ。

だから............。


「じゃあ、アイツと切れてくれるって約束してくれたら、いいよ」


「へぇ、この期に及んでまだ私にそんな条件をつきつけるんだ? やっぱりこっちの火継くんも、鬼畜なんだぁ。それにしても、なぁんにも反省してないんだね〜」


なにも反省してない。

そのセリフはさっきまでは僕が雅恋さんに投げかけてた言葉のはずだったのに。


「そんな悪い火継くんに1つ、良いこと教えてあげるよ。そもそもね、お付き合いを始めたのは、ひーくんとの方が1ヶ月くらい先なんだぁ。だからね、浮気相手なのは、ひーくんじゃなくて、火継くん、なんだよ♡」



え......?


「それは......ほんとう、なの?」


「ホントだよ。だいたい、すぐにいろんな女を孕ませちゃうひーくんを先に仕留めるのは当然でしょ? 火継くんはその後ゆっくり攻略すればいいかって思ったんだぁ〜。ほら、火継くんを落とすのには時間かかりそうだし、じっくりやってる間に、ひーくんが他の女をまた孕ませるかもしれないでしょ?」


なんということなんだ。

僕が間男だった......。


いやまぁ、身体はどっちも僕だから間男とかじゃないって見方もできるのかもしれないけど......。


先に付き合い出したのは僕。

だから身体は先に奪われてても、まだギリギリ心を保てていた部分もあったのに、それすらも奪われていた......。


「はぁい、よちよち。ビデオ見て嫉妬しちゃったねぇ〜。もう1人の自分に、だぁいちゅきな恋人の、初恋人も、初体験も、開発も、子作りえっちも、初ビデオレター作りも、何もかも済まされちゃって、悲しくなっちゃいまちたねぇ〜? ぜんぶぜんぶぜーんぶ、えっちなことから目を背けて、もう1人の人格に押し付けて逃げてきた、火継くん・・・・のせいなんだよね〜。反省しよ〜ね〜」

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