第2話 反省の色がない彼女
『ふぅ......。よぉ、
そう言いながらヤツはぐったりする雅恋さんの唇を奪って......。
おえっ。
だめだ、もう見れない。
悔しさからか、ちょっとした嘔吐感がこみ上げてくる。
実際に何かがせり上がってくるわけじゃなかったけど。
僕は動画の再生をまた一時停止して、雅恋さんと僕が見れるように横向きにしていた画面を、こちらに見えないようにデスクの向かいに座っている雅恋さんの方に向ける。
......はぁ。
息を吐いて落ち着いてから、質問を投げかける。
「それで? 何か申し開きは?」
自分で言いつつ、意地が悪いなとは思う。
こんな状況でどんな言葉を出せというのか。
ただ、コトここに至っては、僕の行き場のない怒りを発散させるくらい、許されて然るべきだろうさ。
雅恋さんは俯いたままさらに数秒沈黙して、ようやくその重い口を開いた。
「最っ高に気持ちよかったし、幸せですっ」
「............は?」
やっと口を開いたかと思えば、出てきた言葉は僕の理解の範疇を超えたものだった。
......気持ちよかった? 幸せ? は? は? は? なんも反省とかしてないじゃん。
つーか、わざわざそんなことを僕に言ってくるなんて、どういう了見だよ。
ていうか、俯いていた顔は落ち込んだ表情をしている............かと思いきや、全然そんなことなかった。
満面の笑み、というかウットリとした表情。
......ヤツとの情事を思い出して悦に入っているのだろうか。
彼女の心中を想像して、心臓がギュッと掴まれたような感覚に陥る。
「雅恋さん、ふざけてるの? 普通は、謝って謝って謝って。それから、どうしてこんなことしたのかって、その理由を説明する場面なんじゃないの? ..................ってか、雅恋さん、全く反省してないでしょ」
「ふざけてないよ。それに、反省? もちろんしてないよ。私は火継くんの全部が欲しいだけだもん。私は何があっても絶対に、誓って浮気も不貞も働かないし、働いてないよ。今、私のお腹の中で泳いでるのは、正真正銘、火継くんの赤ちゃんの素。どっちの火継くんのときに注ぎこんでもらったかなんて、私にとっては些末な問題なんだよ」
......呆れてものが言えない。
雅恋さんとはこんな貞操観念のユルい人だったのか。
ってか「今泳いでる」って? ってことはこの動画が撮られたのは......。
「このビデオ撮ったのは昨日の晩、というか、朝までシテたよ。ほら、垂れてきてるでしょ?」
そう言って雅恋さんはスカートの裾を持ち上げて見せる。
下着を着用してなかった。
それから、ソファに白いドロッとしたものが付着してる......。
なんてこった。
潔癖の僕としては許し難い状況すぎる。
ノーパンでソファに座ってるってだけでも許しがたいのに、そこに追い打ちをかけるようにあんなヤツの汁をこすりつけるとか。
くそう、雅恋さん、ビッチすぎだろ。
......けど、とんだビッチだってわかった今となっても、なお好きじゃなくなれないのは、なんでなんだ......。
「..................汚い............。ビッチじゃん......」
ピクッ。
ふと口をついて出てしまった僕の言葉に、雅恋さんが僅かに肩を跳ねさせて反応する。
「............あんまり言いたくないけど、火継くんにだけは言われたくないなぁ。火継くんのせいじゃないってわかってるけどさぁ」
「うっ」
「それにコレだって、火継くんの身体から出てきたモノじゃん」
白いべったりしたものを指しながら言う雅恋さん。
「いや、確かにこの身体からでてたのかもしれないけどさ。
「まったく......。わがままなんだから」
「いやいやいやいや、雅恋さん、まじで反省してなさすぎだから。あーあ、雅恋さんはもっと綺麗でキレイな素敵な人だと思ってたのに......。このままじゃ100年の恋も冷めちゃうよ」
「私のこと綺麗って言ってくれてありがと♡ 大好き♡ ..................だけど、私への想いを冷ますことは許さないよ。火継くんは今晩で潔癖を克服するの。それで、私は火継くんの赤ちゃんを孕むの♪」
都合のいいところだけを切り取って、輝くような素敵な笑顔でポジティブに返してくる雅恋さんに、呆れてしまう。
けど、後半のセリフは、なんというか、ネットリとした絡みつくような妖艶な表情と声音で告げられて......。
つい見とれてしまう。やっぱりカワイイ。
っていうか、どういう意味だろうか。
潔癖症がそう簡単に治るはずもない。
僕の場合はトラウマもあるわけだし、なんなら今、このビデオレターを見せられる原因だって、もとを辿ればアノコトだ。
僕自身、歳を経る毎に「汚さ」に敏感になってることは自覚してて、ちょっと息苦しさを感じ始めてる。
だから、まぁ気にならなくなるとしたら、それはそれでありがたくはあるけど......。
「それは無理だと思うけど?」
「無理じゃないよ。細かい汚れなんて気にならなくなるくらい、グッチャグチャに汚しちゃえばいいんだよっ!」
などと供述しており......。
なんか狂ったことを言い出しちゃったよ。
だいたい、仮に、ありえないと思うけど万が一、今日雅恋さんとシたって、生まれてくるのは僕の子なのか、アイツの子どもなのか、わかったもんじゃないじゃん。
だって、時間が経ってからもこんなに垂れてくるくらい奥に注がれてるんだから。
そうじゃなくても、スルのは無理だしね。
「嫌だよ。それに汚すって......それ、僕が雅恋さんとソウイウコトをスるって意味で言ってるんだよね? だったらそれこそ知ってくれてるでしょ、僕のトラウマ」
そうだよ、部屋とかを汚されることとか、そういうこと以前に、そもそも僕がデキないのは、アイツに寝取られるまでに至ってしまったのは、アレが原因なんだよ。
「もちろんわかってるよ? 昔、お父さんに無理矢理ママ活させられてたとき、うんちがついたおばさんのお尻舐めさせられたのがショックだったんだよね? それでもママ活を辞めさせてもらえなかったせいで、火継くんはエッチが大好きなひーくんっていう人格を切り離して、あなたの潔癖症は酷くなっちゃったんだよね」
............詳細な説明ありがと......。
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