第175話 地下街

アンドロイド回収屋の二人は、朝早くから地藏公園と火の山公園の間に位置する湖に向かっていた。


二人は森の中を通る道を進み、低い山々に囲まれた湖にたどり着いた。


「おお。いい景色だな。手前だけ草が生えた空き地があって、他はすぐ山だな」


男性と女性は湖のほとりに移動し、しばらく景色を眺めた。


「んで。どこにアンドロイドがいるんだ? デカい湖と自然しかないけど」


男は周囲を見渡しながら言った。


「この湖の中にアンドロイド反応があります」


「そうか。回収するには水の中に入らないといけないわけか。見た感じきれいな湖だけど」


「水中のアンドロイドは起動状態です」


「ほう。契約者は何を考えていたのかね。水のなかに放置しておくなんて」


男は改めて湖の中をのぞいた。


「中心部は深そうだな」


「山田さんなら平気です」


「何を根拠に言っているのかわからんが、行ってくるよ」


男性は意を決して湖に足を踏み入れた。


「・・・」


山田は湖の上に立っていた。


「水の上に立っているな。スキルはまだ使っていないんだが」


「はい。湖底にいるアンドロイドが安全のため足場を作成しています」


「俺が落ちないようにしてくれているのか。邪魔してるわけじゃないよな」


山田はさらに歩を進めて湖の中心部までやってきた。


「湖の中に入れないと回収できないな」


「そうですね」


「なんとかできんかね」


「山田さんに危害を加えているわけではありませんので足場を解除できません。むしろ山田さんを助けているともいえます」


「だろうね。水中に落ちたら危ないもんな。アンドロイドとして正しい行動だな」



山田は湖に入ることを一旦諦めて、湖の近くにある木に寄りかかった。


山田は湖に向かって小石を投げ始めた。


ヒュッ ぽちゃ


「どうしたもんかな。あのアンドロイドの所有者を探すか。調べてくれ」


「はい」


「なあ。湖に来たとき、こんなところに木なんてあったか?」


山田は寄りかかっている木を指さした。


湖畔こはんに広がる狭い空き地の真ん中に、いつの間にか木が生えていた。


「いえ。先ほど出現いたしました」


「そうか。って。怪しいだろ。誰が作ったんだよ」


「水中のアンドロイドが作ったものです」


「そうなのか。何で教えてくれないんだよ」


「山田さんに危害を加えるものではありません。白砂で作られたただの木です。能力は高速移動できるくらいでほかにはありません」


「そうなのか。アンドロイドの所有者は変な趣味してるな」


「そのアンドロイドの歴代所有者が判明しました。2名だけです。2名とも生存していません」


「ふむ。ご苦労。解約しないまま放置されたのか」


「はい。最初の契約者は母で、その後娘に契約の移譲いじょうが行われました」


「娘さんか」


「はい。アンドロイドの回収が始まったので娘さんがここに隠したようです」


「そうか。ということはかなり昔だな。それなのにいまだに起動状態が維持できているのはおかしいな」


「はい。普通は契約者の指示が長時間行われなかった時点で待機モードに入るのですが、娘さんの指示が起動状態での待機だったと考えられます。今もあのアンドロイドは娘さんを待っているのでしょう」


「そうか」


山田は再び湖の中央に歩いていき、そこで白砂スキルを発動し釣りを始めた。


「水中のアンドロイドと意思疎通はできるのかい?」


「はい。できますが現状では強制初期化や設定の変更などはできないと思われます」


「だよね。親族でも無理だろうね。強制終了させようにも末端の俺じゃできないしな。本社にこの状況を報告してくれ。判断をあおぐ」


「わかりました」


「ところでこの湖に魚はいるのかい?」


こいがいますよ」


「そうか」


しばらく山田はのんびりと釣りをした。


「どう? 連絡帰ってきた?」


「はい。契約者不明による強制回収の許可がでました。いかがしますか?」


すると。


ミシッ 


突然辺りの雰囲気が豹変し、空気が凍ったように山田は感じた。


さらに水中にゆらりと巨大な魚の影が見えた。


異様な気配を感じ、山田は釣りを止め急いで湖から陸地に戻った。


「そーかー。でもここは後回しにするか。水の中に入る準備してないしなー」


湖の中から異様な気配がする。


ゴゴゴゴゴ


「そうですか。了解しました。本部へは私から事情を説明しておきます」


「よろしく」


山田と女性は急いで湖から離れた。


「何かやばそうだったな。雰囲気が一変した。妖怪のたぐいか? 最近は街の中にはいないはずなんだが」


「気づいておられましたか。さすが山田さんです。回収を強行していたら山田さんは今頃湖の藻屑もくずに・・・」


「そういう時は止めてくれよな。理解不能なものは専門家に任せよう。わざわざ俺たちが戦う必要はない」


「わかりました」


「それでこの地域のアンドロイドはすべて確認できたのか?」


「いえ。あとは地藏公園の地下にある旧市街にいるアンドロイドと、アンドロイドの自動販売機の無効化が残っております」


「そうだった。行くか」


「はい」





回収屋の二人は地藏公園まで戻り、最下層に向かった。


旧市街地に着いた二人は早速アンドロイドの自動販売機がある建物に向かった。


地下の旧市街地には、高層ビルが立ち並びアスファルトの道路が張り巡らされていた。


「誰もいないな。ここは地下街の端の方か」


「はい。西の方にかつての中心街がありました」


山田は歩きながらこの地域の旧市街の建造物を物珍しそうに見ていた。


「あそこの建物です」


「そうか」


二人は建物内に入りエレベータに乗り目的地に向かった。


チンと音が鳴りエレベータが到着した。


「つきました」


「なかなか遠かったな。ここはもともと何の場所なんだ?」


「ゲームセンターだった場所でございます」


「そうなのか。旧時代の遊び場か。たくさんあるな」


広い敷地に様々なアーケードゲームの筐体きょうたいが設置してあった。


「アンドロイド販売機はあそこにあります」


女性がその方向を指さした。


巨大なゲームセンターの端の方にアンドロイド販売機が設置してあった。


「あれか。かなり古い機器だが動くのか?」


「はい。利用可能な状態で再現されています」


二人はアンドロイド販売機に近づいた。


「いかがいたしましょうか」


「そうだな。さすがに機器を持って帰ることは無理だし、壊すのは依頼とは違うしな。中にある白砂だけ持って帰るか」


「わかりました」


「このまま置いておいても大丈夫そうだが、何かの間違いで新たにアンドロイドを作られても仕事が増えるだけだし、使えないようにしておくか。我々だけが使えるようにしておいてくれ」


「はい。封印作業を開始します」


アンドロイド自動販売機を封印し終え、二人は放置されているアンドロイドの所に向かった。





その頃、セイジは美夏みかを誘い、地蔵公園の地下にある最下層に向かっていた。


セイジと美夏はエレベーターを使い一気に最下層に着いた。


もちろんセイジのアンドロイドである桃花とうかも一緒にいた。


「最下層である一階に付きました。ここは元々地上だった場所ですね」


桃花さんがエレベーターから先に出てセイジたちに説明した。


エレベーターを出るとそこには旧市街地の街並みが広がっていた。


崩壊前の街並みが再現されていて、人が全くいないゴーストタウンだった。


セイジと美夏と桃花はアスファルトで舗装された道を歩き出した。


「セイジくん、見て。天井が高いね」


セイジが見上げると旧市街が白砂の壁で囲まれているのが確認できた。


天井や壁がほのかに光り、旧市街を照らしていた。


「そうだね。あの上に地蔵公園があるんだよね」


「うん。探検たのしみだね」


「そうだね。僕も一度ここを散策さんさくしてみたかったんだ」


美夏は物珍しそうに旧市街の景色を見ていた。


「ここが大昔の街かあ。地下にこんな空間があったなんて。でも人が住んでない街って何だか不気味だね。静かだし」


「そうだね。僕は何だか懐かしい感じがするよ」


「へえ。もっと早く来てればよかったな」


すると桃花さんの解説が入った。


「広い空間が造られているのは、この地域ではここだけです。ここは旧時代の中心街でした。世界が崩壊した後しばらくして世界中に流出した白砂を回収したときに、一度は地域すべてが白砂に埋まりました。現在セイジさんたちが住んでいる居住区などを造ったのちに、この旧市街地を復元したのです」


すると美夏ちゃんが桃花さんに質問をした。


「そうなんだ。ちなみに白砂の壁は砕いたり穴を開けたりできるの?」


「普通の方法ではできません」


「どうやったらできるの? システムに加入してても白壁は破壊出来ないようになってるし」


「一般の方では無理ですね。街を勝手に改造されてはたまりませんので。ですが我々アンドロイドならできます」


「へえ。すごいんだね」


「あの白砂と我々を構成する物質は同じなのです」


「そうなの? だったら壁の白砂でアンドロイド作れないの?」


「私たちアンドロイドには、アンドロイド作成プログラムが入力されていませんので作れません」


「そうなんだ。残念。ねえ。大きいと強いとかあるの? 女子高生ちゃんめちゃくちゃ大きいけど」


「基本的にアンドロイドには砂の量による能力の差異はありません。大きくしたければ必要に応じて体の砂の量を増やせばいいだけです。場所はとりますが。砂は無限に近く存在するので使い放題です。対岸の巨大女子高生も何らかの目的があって作成されたはずです。この地域を守るために巨大化したアンドロイドが必要だったのでしょう」


「そうなんだ」


セイジが美夏に聞いた。


「どこか行きたいところある?」


「んー。セイジくんは?」


「巨大女子高生がいる島に渡る地下道があるんだけど、そこかな」


「海峡の下に地下道があるの?」


「うん。そうだよ」


「いってみたい。セイジくんは行ったことあるの?」


「うん。ここに来るときに通ってきたよ」(途中で記憶が無くなったけど)


「へえ。セイジくん、あっちの島から来たんだ」


セイジと美夏は地下道の入り口がある建物を目指した。


セイジたちは2車線の道路の中央を歩きながら高層ビル群やレストランなど、

旧市街の街並みを見ながら歩いていると、海峡に沿って建つ白壁が見えて来た。


「あの白壁の向こうに巨大女子高生さんがいますね」


桃花さんが教えてくれた。


「そうなんだ。でも壁で見えないね」


「いえ。見えるところがあります」


「そうなの? 案内してくれる?」


「はい」


セイジたちは桃花さんに連れられて、海峡側に造られている白壁に向かって移動した。


白壁の前には広い広場があった。


「ここが特別区のはじか。昔はここから海峡が見えたんだよね」


「はい。青い海と対岸が見えていました。あそこの窓から対岸が望めますよ」


「本当だ。壁に窓みたいなものがある」


セイジと美夏は白壁に開いた穴に近寄ってみた。


「ガラス窓? 透明だから外が見えるね」


窓の外には海峡を流れる白い海と、対岸の大地に座っている巨大女子高生が見えた。


どうやらこっちの存在に気づいているようで手を振っていた。


「見えた。こっちに気付いてる」


「私も見たい」


「どうぞ」


セイジが美夏に場所をゆずった。


「見えたー」


美夏も手を振り返した。


「じゃあ。行こうか」


「うん」


セイジたちは地下道がある建物に向かった。


その建物は巨大女子高生が寄りかかっている建物と同じ構造をしていた。


その建物は地下空間の突き当りに立っており、東に向かう道路が途中で白壁にはばまれていた。


セイジたちは建物の中に入り、階段を降りていった。


階段を降り切ると、そこには円形の空間が広がっていた。


床には白砂が敷き詰められていた。


円形の部屋の真ん中に円柱の柱があり、その柱を囲むようにベンチがあった。


「わー。地下道だ。すごーい」


美夏は地下道の中をキョロキョロ見渡していた。


セイジたちは対岸へ続く地下通路に立った。


「すごーい。ずっと先まで続いてる。一本道なんだね。セイジくん」


「そうだね」


「向こうに行くの? 行っていいのかな」


「いいと思うけど、どうする?」


美夏ちゃんは地下道の奥をしばらく眺めた。


「んー。いいや。女子高生さんに会いたかったけど今度にする。彩音あやねちゃんや真菜まなちゃんと一緒に行く」


「そうだね。じゃあ戻ろうか」


「うん」




地下道に続く建物から出たセイジたちは、次にどこに行くか考えていた。


すると美夏ちゃんが何かを思い出した。


「そうだ。アンドロイドの自動販売機があるってお地蔵さんが行ってた。そこに行ってみたい」


「へえ。そんなものがあるんだ。僕もいってみたいな。桃花さん、場所知ってる?」


「それがですね。お地蔵さんによるとアンドロイド回収業者が現れて自動販売機を使えなくしたそうですよ」


「ええーっ。そうなんだ」


「回収業者がいるんですね」


「細々と活動しているようです」


「はあ。じゃあ行っても無駄かあ。帰ろうか、セイジくん」


「そうしようか。残念だったね」


セイジたちは地上に向かうことにした。


その途中でセイジたちは、とある事件に巻き込まれることになるのであった。

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