第168話 巨岩神社
高台にある地蔵公園の斜面には木々が生い茂っており、セイジ一行は
白壁に囲まれた平地は東西に延びる長方形をしており、セイジたちが向かっている巨岩神社は、北西の白壁沿いに広大な敷地を有している。
平地は白砂を埋め立てて出来た土地で海面より高い場所にあり、白砂の大地の下には旧市街地が眠っている。
巨岩神社に至る大通りには住宅街や様々な商業施設が立ち並んでいた。
セイジが周囲を見ながら歩いていると、空き地に劣化が目立つ古い鉄筋の小さい建物を見つけた。
「あれなんだろ。随分古そうだけど廃墟なのかな」
すると真菜ちゃんの肩に座っている小さいお地蔵ちゃんが解説してくれた。
「あれは白砂で埋まった高層ビルの屋上にある建物部分ですね。あの下にビルがあります。中を探検しますか? 地下の部分は白砂で補強してますから安全ですよ。昔地上だった最下層まで行けます。住んでもいいですよ」
「そうなんですか。過去の建物がそのまま残っているんですね。住むのは遠慮しますけど探検はいつかしてみたいですね」
住宅街を抜けるとセイジたちの前に大きな川が現れた。
「川があるんですね。お地蔵さん、ここって白壁に囲まれてるけど、下流はどうなっているんですか?」
「この川は白壁の近くで地面に吸収され海に流れるようになっています。白壁の北東部は山がありまして、そこから流れてきています。ちなみに白壁は北西の角だけ壁が途切れていて崖になっているんです。巨岩神社の近くですね」
「へえ。そうなんですね」
「セイジくん。参拝が終わったらそこに行ってみようよ」
美夏ちゃんが興味を抱いたようだ。
「いいね。僕もそこを見てみたいよ」
「決まりだね。彩音ちゃんと真菜ちゃんもいいかな」
「うん」「はい」
「さらにいえば南東にも山があってそこの頂上には公園があります。地蔵公園のずっと東ですね。その山は火の山と呼ばれています」
「へえ。火に何か
「ええ。聖なる火を
「へえ。面白そうですね。機会があったら行ってみたいですね」
セイジたちは橋を渡り更に歩いて行くと、巨岩神社がある森が見えて来た。
白壁の近くにある巨岩神社の敷地内には広大な森があり、巨岩神社の名前の由来となっている巨大な岩が中心にそびえ立っている。
その巨岩は3つあり、山の漢字のように並んで立っていて、真ん中の巨岩がご神体として
ご神体の巨岩はいつのころからか『宿りの岩山』と地域の人たちに呼ばれていた。
すると美夏たちが巨岩神社の鳥居の前まで走って行った。
セイジは後方でのんびりと彼女たちの後を歩いていた。
「着いたーっ。久しぶりにきたよ。巨岩神社!!」
美夏が両手をあげて叫んだ。
「そうだね。小学生の時に一緒に来たね。懐かしい」
「楽しみですわね。ね。お地蔵ちゃん」
「そうですね」
美夏たちが鳥居をくぐり、セイジも遅れて敷地内に入った。
するとセイジは濃厚な霊力を感じた。
(っ!? 空気が変わった。ということはやはり巨岩神社は領域ってことか。ここにも霊体さんがいるのか。地蔵公園とは違って
森の中を通る石畳の参道を進んでいくと巨大な岩山が見えて来た。
美夏がそれを見て思わず声を上げた。
「あ。宿りの岩山だあ。大きい! 近くに入ってみようよ」
「うん」」
美夏たちは我慢できずに走り出した。
セイジはゆっくりと周りの景色を見ながら後を追った。
(そういえば地蔵霊さんがここに行けって言ってたけど、ここで何をしたらいいんだろ)
セイジはお地蔵さんから貰った鳥居が付いたネックレスに触れた。
領域の依り代である巨岩に宿る霊体が領域に入ってきたセイジに反応した。
ズズズ
巨岩の霊体が姿を現そうとしていた。
美夏たちがご神体の巨岩を囲む木の柵の前までやってきた。
巨岩の右側には赤い柱が特徴的な立派な神社が立っていた。
美夏たちは巨岩を見上げ、その大きさに圧倒されていた。
中央の巨岩には太くて長いしめ縄が巻かれていて、巨岩の中ほどに人が立って入れるほどの穴が
その穴の中には女性の石像が一体、
「しめ縄の上に穴があってそこになぜか石像のお地蔵様があるんですって。そして巨岩自体が御神体なんですの」
真菜が美夏と彩音に自慢気に説明した。
「そうなんだ。調べてきたの? 真菜ちゃん」
「そうですわ。楽しみにしてましたから。いっぱい知識を詰め込んできたのです」
「すごいね。真菜ちゃん」
美夏と彩音と真菜の三人が手を合わせて柵の近くに並んで手を合わせた。
「何をお願いしたの?」
美夏が真菜にニヤニヤしながら尋ねた。
「言うわけないじゃない。逆におしえてくれますの?」
「教えなーい」
「二人とも、ここは霊験あらたかみたいだから真剣に願掛けするといいよ」
「はーい」」
ヌヌヌ ズンッ
その時、巨岩の頂上に岩のような姿をした半透明な霊体が姿を現した。
その頃セイジはまだ石畳の道をふらふら歩いていた。
巨石神社にはいくつかの
巨岩の依り代の参拝を終えた美夏たちが土産物屋に向かった。
「彩音ちゃん、真菜ちゃん。お店を見てみようか」
「うん」」
「いらっしゃいませ」
店員が笑顔で出迎えた。
「いろいろあるねー」
「これ可愛いね」
「そうだね」
「これください」
美夏が気に入ったものを見つけたようだ。
そのとき巨岩の頂上から巨岩の霊体が飛び立ち、セイジがいる場所に向かった。
セイジは自分に迫る霊力に気付いてその方向を見た。
巨岩の霊体はセイジを飛び越え、セイジの背後に音もなく着地した。
「なんだっ!?」
セイジはその姿を追って後ろを振り返った。
するとセイジは巨岩の霊体に体中を探られているような感覚を感じた。
(なんだあれ? ここの領域の霊体さんかな? でも地蔵霊さんとはずいぶん姿が違うな。半透明だけど岩みたいにゴツゴツしてる)
すると、セイジが首からぶら下げていたネックレスの鳥居が突然動き出し、
「あっ」
ストッ
小さな鳥居は石畳の地面にきれいに着地して立った。
「すごい。立った!?」
すると、小さな鳥居に変化が起きた。
小さな鳥居は徐々に大きくなりながらセイジをまたいで取り過ぎた後制止した。
5センチほどの鳥居がセイジの2倍の大きさになって、セイジの後方に直立していた。
ブンッ
すると鳥居から結界のようなものが広がりセイジを包み込んだ。
(なにが起こっているの!?)
セイジは目の前に現れた存在に再び意識を向けた。
(全く動かないけどどうしたんだろ。この圧倒的な存在感。やっぱり霊体だよね。精霊かもしれないけど)
(あれは巨岩に宿っている霊体じゃ。私と同じじゃよ)
突然、地蔵霊さんの声が聞こえてきた。
「うわっ。地蔵霊さん!?」
巨大化した鳥居の門から地蔵霊さんが「ぬっ」と出てきた。
地蔵霊がセイジの横に来て言った。
(おぬしに預けていたネックレス型霊具の力で門を開いてここにきたのじゃ。ここは一時的に私の領域となった。今のおぬしではあやつに対処できまい)
(地蔵霊さんがあんなものを持たせたせいで大変なことになってませんか?)
(その通りじゃ)
「はあ」
(おぬしに持たせたネックレス型霊具は、強い霊力に反応する霊具じゃ。霊具が反応したので私がこうやって姿を現したのじゃ)
地蔵霊と巨岩の霊体は静かに見合っている。
(そうなんですか。それにしても美夏ちゃんたちは気付いていないようですけど、どうなっているんですか? あんなに強い霊力を持っているのに)
(霊力に対する感覚を持っていないと何も感じることは出来ないのじゃ)
(はあ。それで僕はこの状況で何をすればよろしいのでしょうか)
(後は私に任せておけ。おぬしは用済みじゃ。用があるのは巨岩の霊体じゃ)
地蔵霊はセイジの前に出て巨岩の霊体と対峙した。
(ちなみにこの領域は現世ではないのじゃ)
(え。あの世?ですか?)
(違う。本来の我らの世界じゃ)
(へえ。そんな世界があるんですね。前にエルフの精霊さんが僕の持っていた魔石に遠い場所から移動してきたのも、その世界を通って来たからなのかな)
(そうじゃな。ちなみに地蔵公園に常時展開している領域は霊力を集めるためのものじゃ。この世界は人間にとって刺激が強すぎる。何らかの影響が出るかもしれないな。幸か不幸かはわからんが)
(僕、いまそこにいるんですが)
(私たちの都合が人間にとっても都合がいいといいのじゃがな。まあ。私たちはそんなことをまったく気にせず生きて行くのじゃが)
(でしょうね。それであの巨岩の霊体さんに何の用があるんですか?)
(まあ、あいさつみたいなものじゃな。近くに生まれた者じゃ。よろしくのう。みたいな。そもそも、離れた場所に領域を持つ霊体同士が会うことはない。地域の支配権争いに勝って領域を手に入れたもの同士だからな。重なっていた場合どちらかがどちらかに吸収されてしまう。ということは霊体同士が無意味に出会うのは史上初じゃなかろうか。私ってすごいのじゃろ)
セイジと地蔵霊が呑気に話している間に、なにやら背後の鳥居に変化が起きていたが、セイジも地蔵霊も気づいていない。
(私みたいに人の影響をかなり受けて育った霊体は今までいなかったということじゃな。私を育ててくれた私の領域の住民が、巨岩の領域にお世話になるようなので顔を見せたまでじゃよ)
(へえ。意外と
(うむ。こいつは私の物だから手を出すなと教えておかないとな。勝手に利用されると面白くないじゃろ)
二人の背後では鳥居が半透明になり消えそうになっていた。
ようやく鳥居の変化に地蔵霊が気付いた。
(む。鳥居の霊力が領域に吸収されて少なくなっておる。ここまでか。では巨岩の霊体よ。こやつとその一行をよろしく頼むのじゃ。鳥居の霊力はおぬしへの
すっ
巨大鳥居が消滅し地蔵霊も消えた。
地面には小さな鳥居だけが残された。
(え。何だったんだいったい。僕は霊体同士の
セイジは鳥居を拾った。
その鳥居からは霊力が全く感じられなくなっていた。
セイジは巨岩の霊体を見てみるとまだその場にいた。
(まだ何か僕に用があるのかな。もしかして霊体同士の話し合いがまとまっていなかったとか)
すると巨石の領域が震えだした。
ゴゴゴゴゴゴッ
(今度は何!?)
ボトッ
突然セイジの目の前に物体が現れ、セイジの足元に落ちた。
(ん? 何か落ちた。これは・・・。領域のいらない霊力を集めて創った霊具かな。小石のようにも見えるけど。霊力をもらったお返しなんだろうか)
セイジは拾うかどうか迷っていた。
(拾えってことだろうな。やだなあ。拾うしかないんだろうか。何かの能力が付与されてるんだろうけど)
セイジは仕方なく小石を拾った。
(しかし微妙にでかいな。重くはないけど持ち歩きたくないなあ。ズボンの後ろポケットにでも入れておくか)
するとセイジの耳に石のようなものが動く音が聞こえて来た。
ガキッゴキッゴリッ
巨岩の霊体の姿が変わっていく。
巨岩の霊体を見ると、巨岩の霊体の姿が最初と微妙に変化していた。
(あれ? なんだか最初より人っぽくなっているような)
すると何の前触れもなく巨岩の霊体が姿を消した。
フッ
(あ。消えた)
巨岩の霊体は一言も発しないまま姿を消した。
すると美夏たちが買い物を終えこっちに来た。
「セイジさん。何で道の真ん中でぼーっとつったっているの?」
彩音ちゃんが心配そうな目でセイジを見ていた。
「え。ああ。何でもないよ」
すると美夏が近寄ってきてセイジが持っている鳥居を見た。
「セイジくん。ネックレス壊れちゃったの?」
「うん。
「そうなんだ。真菜ちゃん、こっち来て」
「何ですの?」
「お地蔵ちゃん。ネックレス直せますか?」
「この私では無理ですね。地蔵公園に戻ったら修復しますよ」
「だって」
「わかりました。お願いします」
美夏がセイジの持っている小石に気付いた。
「なにその石。拾ったの?」
「うん。今拾ったんだ」
「ふーん。そんなの拾ってどうするの。そんな趣味あったっけ?」
「趣味ではないんだけど、
「ふーん。よくわかんないけど、セイジくんはまだ参拝してないでしょ。行きましょ」
「うん」
「まさか石に名前付けてないよね」
「え。つけてないよ」
「みんなー。参拝いくよ」
「はーい」」
セイジは目の前にそびえたつ巨石を見た。
(しかし地蔵霊さんと違って巨岩の霊体さんは、ほんと石の塊みたいにごつごつしてたな。なんとなく人っぽかったけど。ほかの霊力の霊体はじめてみたけど巨岩の霊体みたいなのが自然なのかな。地蔵霊さんは人みたいだもんな。そういえば魔力の霊体さんたちの姿は魔獣だったなあ)
セイジのポケットの中で小石が存在感を放っていた。
(邪魔だなあ。いつまで持ってたらいいんだろ。はあ)
セイジたちは巨岩の前に着いたが、セイジ一人で参拝をした。
セイジは巨岩を見上げた。
隣にある神社よりもはるかに大きい岩がそびえ立っていた。
巨岩の背後にも森が広がり、さらに先には巨岩より高い白壁があった。
セイジは巨岩の
(女性の石像かな。妙に精巧だな。あの石像にさっきの霊体さんが宿っていたのかな。それとも巨岩のほうなんだろうか)
すると「セイジくんしっかり願掛けしてね」と美夏ちゃんから声を掛けられた。
「うん」
セイジは(巨岩の霊体さんが人の言葉を理解しているか疑問だけど)とは思ったが何も言わずに手を合わせた。
セイジが参拝を済ませたので、4人は巨岩の前から離れた。
「じゃあ、白壁に切れ目に行こうよ。そこからの景色をみたいな」
美夏は神社とは反対側の森の方に歩き出した。
「うん」」
「そうだね」
セイジたちは先行する美夏の後を追った。
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