第162話 白髪の女性
僕と巨大女子高生との会話はまだまだ続いていた。
「そういえば君と冒険者パーティー『女神』のルナさんは、いつから友達なんですか?」
「セイジ君とルナが出会う直前だよ。現地の協力者を通じて私から連絡を取ったの。セイジ君に指針を示そうと思ってね。でも余計なことだったかもね。ここに帰って来ても来なくてもどっちでもよかったんだから」
「はあ。そうだったんですか。まあ、目的ができて助かりましたけど。それで君はいつから女神のルナさんがアンドロイドだと知ってたんですか?」
「ルナが起動したときにわかってたわ。私は白砂を使ったシステムを構築している運営と繋がっているから」
「運営ですか。例の管理者がいる」
「そう。生き残っている現地の運営がアンドロイド用ネットワークを停止しているから、ルナや魔女のアンドロイドは個人所有のままで運営とは繋がっていないの。いわばローカルアンドロイドね。だからルナは魔女たちには気付かれていないんじゃないかな。でもアンドロイドは目立つからね。アンドロイドという存在を知っている人にはいずれ見抜かれるでしょうね」
「魔女さんたちは知り合いだったようですけど」
「ええ。魔女たちは最初はいがみ合ってたけど、アンドロイド所持者同士で戦っても決着はつかないから、協力関係に移行したのよ」
「そうなんですね」
「ルナや魔女以外にもセイジ君が旅した国々にアンドロイドを持つ者がいるし、我々と協力関係にあるアンドロイドも複数人活動しているわ」
「そうだったんですか。ここから派遣したんですか?」
「いえ。現地の国で製造された未使用のアンドロイドを活用しただけ」
「世界中にあったんですね」
「もちろん。セイジ君は白砂製造工場に行ったはずだよ。海底の地下にある」
「え。あそこアンドロイドの工場だったんですか。砂だらけでしたけど」
「白砂を作っていたのよ。人型で売ったりしない。白い玉の状態で購入者に渡すの」
「ああ。そういえば魔女さんが白い玉を見つけてましたよ」
「そうね。あれは誰かがアンドロイドを購入したけど、起動する前の状態で放置されていたのでしょうね。そういえばセイジ君が聖女さんと魔人国から海峡を渡っているとき、海峡を移動していた島にも特殊任務中のアンドロイドがいたんだよ。結局セイジ君たちは立ち寄らなかったんで会わなかったけど。あの島も面白い場所だったんだけどね」
「会ったほうが良かったんですか?」
「どちらでも」
「そうですか。そういえば僕には君と同じ機能が付いているんですか? 君のように遠くの人と会話ができるとか、実は女神のルナさんみたいに強いとか」
「何もないわ。そもそもセイジ君と私たちとではアンドロイドの構造自体が根本的に違うから。私たち旧型アンドロイドは白砂のままで構成されているけど、セイジ君は白砂が人間の肉体を構成する物質を再現して出来ている。だからほぼ人間と変わらないの」
「そうですか。それは残念ですね。それにしても凄い技術ですね。白砂で生命体を作るんですから。古代魔法文明と言われるだけありますね」
「魔力が含まれてる回復ポーションでも肉体の代わりは出来ていたし、魔力生命体もいたでしょ。魔力でも似たようなことは出来てるわ」
「そうなんですか。僕とあなたは見た目は人間だけど中身は全く違うんですね」
「全然違うよ。セイジ君は最新作なんだから。そもそもアンドロイドの新作は久しぶりに製造されたのよ。私たちは約千年まえに初期型が発表されてからアップデートを繰り返してきたけど、数百年前に製造や販売が中止されちゃったのよ。時代遅れになってね」
「そうでしたね。そうだ。魔術師の島で出会った魔女さんが白い海の白砂は生きていないって言ったんですけど、白い海にある白砂は使えないんですか? それとも壊れてるんですか?」
「そのままでは利用できないね。活動していないと言ったほうがいいかな。アンドロイドの体内に入ったり、命令を与えたら利用できるよ。雲の壁のようにね」
「なるほど」
「君も白砂を食べたじゃない。ちゃんと血肉になってるよ」
「あ。そういえば食べましたね。人が食べても平気なんですか?」
「うん。そのまま食べても味がしないけけどね。白砂専用の調理器具使えば色々な料理に生まれ変わっておいしくいただけるわ」
「へえ。そんなものがあるんですね。そういえば、女神のルナさんは今何をしているんですか? 無事に巨人さんと会えましたと伝言をお願いできますかね」
「いいわよ。・・・。ふんふん。ルナはセイジ君が腕をぶっ飛ばされたダンジョンに向かっているわ。そこの領地の領主にダンジョンの破壊を依頼されたんだって」
「え。あそこですか。いくらルナさんでも危険じゃないですかね」
「どうだろうね。一人なら何とかなると思うけど、相方を守りながらだから大変かもね」
「そうですか」
「ルナからも伝言があるわ」
「なんですか?」
「セイジ君が何もしなかったせいで私がその尻拭いをしないといけないじゃない。だってさ」
「え」
「たとえば青竜の卵を探しに行くって約束してなかった?」
「あ。そういえば竜神教のハクアさんとそんな約束してましたね。ルナさんが代わりに行ってくれたんですね」
「みたいね。あと魔剣を探してた赤髪のお侍さんの魔剣探しの手伝いもしたんだってさ。セイジ君が魔剣を一緒に探してあげないから」
「え。それは僕がしなくてもいいんじゃないですかね。すぐいなくなっちゃったし」
「そもそもセイジ君はたまに冒険者活動しながら観光してただけだからね。ちなみにそのお侍さんはここの出身だよ。盗まれた魔剣を探しに海を渡ったんだ」
「へえ。そうだったんですね。では、ルナさんにご迷惑をおかけしました。そしてありがとうございます。と伝えてください」
「はーい。・・・。伝えたよ。次に会った時に食事を
「はあ。そうですか。構いませんよ」
「ルナ。セイジ君、奢ってくれるって。・・・。うん。じゃあね。また」
「ルナさんはいつかここにくるんですかね」
「どうだろ。ルナはどうするのかしらね。相方次第でしょうね」
「なるほど。それで僕はこれからどのように生きていけばいいんでしょうか。役目は終わったんですかね」
「取り合えず向こう側に行って長旅の疲れでも
「はあ。そうですか」
僕は再び海峡の向こう側を見た。
しかし巨大な白い壁しか見えないので想いを
「白い壁は向こうの大地全体を囲んでいるんですか?」
「街の周りだけだよ。妖怪さんから地域住民を守るためにね」
「へえ。海にある雲の壁はずっとあのままなのですか?」
「もうそろそろ役目を終えるんじゃないかな。白竜に対する対抗手段も育ってきてるし。それのおかげでここの事も隠せなくなってくるだろうからね。もうすでに感づかれているかもしれないけど」
「はあ。そうですか」
「そうそう。国宝の剣を持ち帰ってくれてありがとう」
「え。この魔剣は国宝なのですか?」
「そうなの。世界が崩壊する前の国宝なんだけどね。魔力がこの世界にあふれたせいで魔剣化しちゃったの。その魔剣を3本所持すると身体強化などの強力なバフが掛かるのよ」
「え。そうだったんですか。鬼さんが強いわけですね。僕と戦った時は2本だったんで助かりました」
「その鬼が盗んだのよ。無茶苦茶な力を手に入れちゃって暴れまくって大変だったのよ」
「そうなんですね。今は首だけになっていますが生きていますよ」
「そうみたいね。蜘蛛さんも一緒にいるんだよね」
「はい。二人は昔からの知り合いのようで故郷に戻りたがっていましたよ。もしかして追い出したんですか?」
「追い出してないわよ。あいつらも幽霊さんと同じで霊力のゆがみに飲み込まれて勝手に出て行って戻れなくなっただけ」
「そうなんですね」
「魔剣が雲の壁を通ってきたせいで魔力がすっかりなくなっちゃったけど、逆に良かったわ」
「そうですか。そのおかげで僕が持っていた魔道具がすべて砂になっちゃいましたけど。超能力も使えなくなったし」
「魔力をこの地に持ち込ませないためよ。魔法と言う仕組みもね。白い海を渡るときに分解されたものは、データを取っているので復元可能よ。魔力は戻らないけどね」
「そうなんですか」
すると巨大女子高生が僕が歩いてきた道の方向に顔を向けた。
「お。来た来た」
「え?」
巨大女子高生の視線を追うとそこには、死者の国で出会った白髪の女性がいた。
その女性と初めて会ったのは僕がアルケド王国でルカさんと旅をしていた時で、大きな岩の上で立ったまま寝ていた女性の母と名乗った長寿の女性だ。
その小柄な女性が僕に近づいて来て話しかけてきた。
「やあ。君か。また会ったね。元気かい?」
「はあ。どうも。偶然ですね」
「偶然、でもないかな。それで君は向こう側に行くのかい?」
「どうでしょうか。わかりません。色々混乱してて」
「そうかい。私は行くよ。久しぶりの帰郷さ」
「帰郷? そうだったんですね。そういえば娘さんはどうしたんですか? いないようですが」
「あそこからまた岩が転移したのさ。だから私はここにいるし、故郷に帰ってきたのさ」
「なるほど」
すると白髪の女性は巨大女子高生に向かって衝撃の発言をした。
「お嬢ちゃん。いつものように投げてくれるかい」
「は~い」
巨大女子高生は近づいて来た白髪の女性を大きな手で女性を
「ちょっと。何をするんですか?」
「何って、向こう岸まで投げてもらうんだよ。歩くの面倒くさいじゃろ」
「え。そういう問題ですか。危なくないですか? もしかして長寿だけじゃなく不死身だったんですか?」
「長寿なだけのか弱い老人さ。君と違って不死身じゃないのさ。大丈夫。白い壁の先にある公園には美人の地蔵さんがいてね。優しく受け止めてくれるのさ」
「地蔵さんが受け止めてくれる? 意味がまったく分かりませんが。いや。僕は不死身じゃないですよ」
「セイジ君は不死身だよ。アンドロイドだもん。肉体は
そう巨大女子高生が教えてくれた。
「あ。そうでした。僕アンドロイドでした。いや、そうじゃなくてですね。他に行く方法はないんですか? 船とか」
「私の背中にある建物の地下にある地下道から海峡を渡れますよ」
「そうなんですか。だそうですよ。空じゃなく歩いて行ったらどうですか?」
「そんなことは知ってるよ。ここは私の故郷だよ」
「そうでした」
「歩くより早く着くんじゃよ。あんたもあちらの街に住みな。いいところだよ」
「そうなんですか」
「あんたこの子にいろいろ話を聞いたんだろ?」
「はい。異世界転移していませんでした。いや、してたんですけど戻ってました」
「あひゃひゃ。これからは君の自由に生きたらいいさ。アンドロイドだったからってなにも変わりゃしないさ」
「そうですね。今だに信じられませんけど。僕の旅は一体何だったのかと」
「それも含めて自分でこれからの人生を考えたらいいさ」
「はあ。貴方もアンドロイドなんですか?」
「なんでそうなる」
「違うんですか。すみません」
すると僕の上から声が降ってきた。
「あはは。その人はアンドロイドじゃないよ。人間と言っていいかどうかも怪しいけど」
「え。やっぱり人間じゃないんですか」
「人間じゃよ。失礼な子だね」
「すみません。長寿なだけなんですよね」
「そうじゃ。ただ若返っただけじゃ」
「ああ。そういえば何か食べたんでしたっけ」
「そうじゃ。あんたも拾い食いをしてはならんぞ」
「はあ。そういえば、女郎蜘蛛さんや鬼さんはどうしたんですか?」
「
「そうでしたか」
「君も彼女に投げてもらって空から行くかい? すぐ着くよ」
「いえ。行くとしても僕は地下道を歩いて行こうかと」
「そうかい。そうそう。向こうに行ったら地蔵に会いに行ってやっておくれ」
「はあ。わかりました」
「お嬢ちゃん、やっておくれ」
「は~い」
巨大女子高生が座ったまま手を振りかぶり、白髪の女性をぶん投げた。
放物線を描きものすごいスピードで飛んで行った白髪の女性は、海峡を飛び越え白い壁の向こう側に消えていった。
「大丈夫なんですかね」
「ええ。無事に受け止めたと報告が来ましたよ」
「え。誰からですか?」
「美人の地蔵さんからだよ。彼女ともお友達なんだ」
「そうなんですか。ああ。地蔵さんもアンドロイドなんですね」
「そそ。セイジ君も投げてあげるよ?」
「いえ。遠慮します」
僕は背後を振り返り海峡の対岸にそびえたつ白い壁を見た。
「それにしても巨大な壁ですね」
「そうだね。世界中に流出した白砂を回収して、昔の街を埋め立てたからね。白壁の中は住居になってるよ」
「はあ。ものすごい量を流出させたんですね」
「そうね。少ないよりは多い方が何かと役にたつでしょ」
「そうですね。そういえばこちら側に白い壁がないのはなぜなんですか? まだ海は白いようですが」
「こことあちらでは少し生き方が違うんだ。あちらは白砂を受け入れたけど、こちらは白砂システムのみ受け入れ白砂を体内に入れることを拒否した人たちの地域。こちらはありのままに自然のままに生きたいと願った人たちのための場所だよ。ちなみに街並みは白竜襲来前、つまり千年前の景色を再現しているよ」
「へえ。そうなんですね」
山に阻まれ高層ビル群が見えないので僕はその景色を思いかえした。
「海峡の向こう側には僕みたいなアンドロイドがたくさんいるんですか?」
「私みたいな古い技術のアンドロイドはもうほとんど使われてないよ。人型の物体である必要がなくなったからね。大気中に白砂があるからそれで事足りるから。セイジ君は新型プロトタイプだよ。だからセイジ君と同じアンドロイドはいない」
「そうなんですか。あちら側はどんな社会なんですか?」
「管理者は統治者ではないよ。管理者側は地域内では白砂システムの維持管理だけをしていて、外敵に対してのみ地域の安全も
「はあ。ちなみに管理者さんはどこにいるんですか?」
「どこにでもいるけど、今はとある力を手に入れる実験のため、元首都近くにある竜穴にいるよ。今は魔力の放出は止まっているけどね」
「竜穴。そうですか」
「会いに行くの?」
「いえ。どうでしょうか」
「興味があったら訪ねてみたら?」
「そうですね」
僕の耳に海峡を流れる波の音が聞こえてきた。
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