第161話 巨大女子高生

巨大女子高生に出会った僕は、彼女に僕がアンドロイドだとげられた。


「不思議に思わなかった? セイジ君が異世界から転移してこの世界に戻ってきたときのことを。結界を張った状態の緑竜は生命体を避けて転移する。それなのにセイジ君は彼女の結界の中に入っていた。つまり?」


「僕は生命体ではないということですか」


「そういうこと。緑竜の結界は、白砂で作られた細胞を持つセイジ君を生命体とは判断しなかった。逆に緑竜はセイジ君を生命体と認識したけどね」


「僕はアンドロイドだったんですか。今でも全く実感がありませんけど。ん? 緑竜? 姫様は緑竜なんですか?」


「そうだよ。セイジ君、全然気づかないんだもの。にぶすぎだよ」


「・・・。そうだったんですか。姫様は何で僕が通ってた高校の制服を着て、僕の前に現れたんでしょうか」


「セイジ君の記憶を読んで、幻術でセイジ君好みの姿に変えたようね。可愛らしいところもあるよね」


「確かに顔はめちゃくちゃ好みでしたね。・・・。ん? この世界に転移して戻ってきたって言いました? それに君は僕に初めて会った時に、僕にお帰りなさいって言ったよね」


「言ったよ。セイジ君はこの地域で生まれたアンドロイドなんだから」


「え。もしかして僕、異世界転移していないんですか?」


「してにゃい。したけど戻ってきたからしてにゃい」


「・・・。してにゃいんですか。そうですか。ここは異世界じゃ無かったんですか。ちょっと待ってください。混乱がすごいことになっています」


「あはは。そうかもね。突然こんなことに巻き込まれたら誰でもそうなるよ」


「整理させてください。僕はここで作られたアンドロイドで何故か異世界にいて、そこで偶然緑竜さんに出会って、元いた世界の他の国に連れて行かれたということですか。僕が育った地球が異世界ってことですか」


「そういうこと。異世界に飛ばされたセイジ君は長い旅の末、無事に生まれ故郷に帰ってきたのだ。おめでとう」


「はあ。ありがとうございます」


「あはは」


「でもちょっと待ってください」


「どうしたのかな?」


「僕は何のために異世界にいたんですか?」


「セイジ君は緑竜と遭遇させるために新たに開発、製造されたアンドロイドなのだ」


「え」


「セイジ君には時期が来るまで地球で生活してもらってたんだ。緑竜の異世界転移魔法陣を拝借はいしゃくして、緑竜より先に事前準備のために地球に行っていたという事さ。白砂で出来た肉体を持つセイジ君を緑竜がどういう判定をするのか知りたかった。人と認識するのかそれとも物として扱うのか。それがセイジ君を異世界に送った理由だ。結果、君は結界には物と判定された。結界がセイジ君を生命体と判断していたら、セイジ君は緑竜の結界内に入れず、そのまま地球で生活を続けていたかもね。管理者は君がモノと判断されると予測はしていたようだけどね。帰ってきたセイジ君をそのまま放置してたのは、まあ、性能検査や耐久試験という側面もあるね」


「え」


「新しいアンドロイドの肉体は魔力のある世界でどのような影響を受けるのか。他のアンドロイドに遭遇した時、アンドロイドだと気付かれるのか。魔法は使えるのか。怪我をしたらどうなるのか。などね」


「そうだったんですか。もしかして僕の家族もアンドロイドなんですか?」


「そうだよ。今から約20年前に、赤子のセイジ君と両親役のアンドロイドを緑竜の屋敷にある異世界転移魔法陣から異世界の地球に転移させたんだ。戸籍こせき捏造ねつぞうしセイジ君が高校を卒業するまで地球で生活してもらった。地球で育った知識を持ってないと緑竜に怪しまれるからね。そしてあの日、セイジ君は緑竜と遭遇そうぐうした」


「そうだったんですか。ずいぶん時間をかけましたね」


「何事も入念にしたほうがいいのです。緑竜にバレないようにね」


「そうですか。家族も僕と同じ新型アンドロイドなんですか?」


「違うよ。私と同じタイプのアンドロイドだね」


「そうなんですか。今は地球で何をやっているんですか?」


「知らないけど、そのまま生活しているんじゃないかな。会いたいの?」


「そうですね。アンドロイドとはいえ一緒に生活してきた家族ですから」


「そうだよね。でもそれはまだ無理かな。異世界転移魔法は竜の固有魔法らしくてね。白砂だけではまだ異世界転移を実現できていないんだよね。今現在、両親が魔力のない世界からこちらの世界に戻ってくる方法がない。残念だけどね」


「そうなんですか。出来れば帰還させてあげてください。それと気になる言葉が出てきたんですけど、管理者とは何者なんですか? 質問が多くてすみません」


「気にしないで。この地域の共同体に白砂を使った技術を提供している組織だよ。雲の壁を作った組織だね。そして君を異世界に飛ばして緑竜と出会うようにした張本人だね」


「はあ。あ。ちょっと待ってください。おかしくないですか? なんで姫様が異世界の地球に転移してくることを事前に知っていたんですか?」


「それは緑竜を地球に異世界転移するように我々が設定したからさ。緑竜の屋敷にある異世界転移魔法陣に手を加えてね。魔法陣の仕組みは解析済みさ。緑竜は転移先の場所をランダム設定にしていたからね。地球に転移しても変には思わないさ」


「そうだったんですか」


「白砂は見えないほど小さいからね。どこにでもあるしどんなところにも侵入できるの。流石の緑竜も極小の無機物である白砂の存在には気付かなかったようだね。セイジ君。そもそも白砂ってなんだと思う?」


「え。えーっと。アンドロイドの構成物質ですか」


「そう。でもそれだけじゃない。もの凄い技術で作られた超微細な砂よ。ナノ物質なのよ。セイジ君に分かりやすく言えば魔力みたいなものよ。命令すれば何でもできる物質よ」


「へえ。どうやって作ったんですかね」


「・・・。私みたいな女子高生が知るわけないでしょ」


「そうなんですか。すみません」


「白砂はこの世界のどこにでも存在している。白砂を使って私たちは古代竜の動向を監視している。黒竜の分体が白砂を緑竜に運んでいることも知ってるし、緑竜が異世界転移魔法を行使していることも知ることが出来た。そこで管理者は竜の能力をさぐるために異世界転移魔法を利用することを思いついたようだね」


「そうだったんですね。あの、改めてこの世界のことを教えてもらっていいですか? 僕、何も知らないんで。人類と白竜との間に何があったかとか」


「わかった。教えてあげる。白竜が今いる場所、白の大地に出現したとき人類は白竜にどう対応してらいいか分からず、様子をうかがっていたんだよ。全く動かないので。でも徐々にこの世界に異変が起き始めていたのです。そう魔獣の誕生です」


「魔力のせいですか」


「そう。白竜は人類が気付かないうちに魔力を大量に放出し、徐々に白竜にとって都合のいい世界に作り変えていったのです。その結果、大地に魔力の影響が出始め、その異変に気付いた人類が遅ればせながら白竜に戦いを挑んだのです。結果、ご存じの通り、圧倒的な魔力量を持つ白竜の魔法を前に、人類は一方的に負けたのですよ」


「そうなんですか。そんなに強いんですね」


「ええ。ミサイルは白竜の周りに展開された見えない結界にはばまれ、白竜が透明化し見えなくなったり、突然遥か彼方かなたの場所に転移魔法で出現したり、何もない場所から無数の火の玉が降ってきたりと人知を超えた能力に人類は手も足も出なかったんだよ。魔力と言う未知の力に人類は対処できなかったね」


「そうですよね」


「数十年続いた白竜との戦いのさなか、各大陸に生まれた白竜の子供、つまり緑竜をはじめとする古代竜のおかげでその地域の環境が激変したの。竜の属性魔力のせいでね。子竜の戦闘力は高くなかったけど魔力量はすさまじかった。緑竜は大地を木々で覆い尽くし、赤竜は火山を活性化させ、黒竜は死者を大量に蘇らせ、アンデッドが大地にあふれかえった。さらにはその魔力のせいでそれぞれの支配地で強力な魔獣の個体が出現し始めたのです。白竜と数が増えた魔獣の攻勢により人類側が劣勢を極め、交通網や情報網が破壊され、数十年後に文明は崩壊しました。そして人類は絶滅の危機に瀕したのです」


「そうだったんですね。そういえば白竜のいる場所は氷で覆われた大地らしいですけど、白竜は氷属性? いや、氷は水属性か」


「白竜はすべての属性を持っていると推測されています。白竜が白の大地にいるのは眠りに入っているだけのようです」


「なるほど、だから子竜が色々な属性を持っているんですね」


「ええ」


「ここは白竜や古代竜たちにバレていないんですか?」


「ここは肉眼でも魔力でも認識できないからね。海上にある雲の壁はそのためにあるの。緑竜たちはこの地域を認識できないのよ」


「魔力でも認識できないんですか。そういえばここを探している魔女さんがいましたね。何で見つけられなかったんですか?」


「白砂の管理者は魔力という未知のエネルギーを解析し、人類にとって有害と判断しました。そこで魔力の研究を始めたのです。その結果が雲の壁です。雲の壁の中に入ると魔力を含んだ物質は消滅するようになっているし、魔法は使えない。船で探そうにも雲の中では方向感覚が狂わされて陸地にたどり着けないようになっている。彼女には悪いけど、再建したこの場所を竜たちに発見されるわけには行かなかったからね」


「そうだったんですね」


「さらにいえば雲の壁に囲まれた内側は白竜由来の魔力は存在していない。何百年もかけて魔力を除去していったからね」


「え。魔力をですか。すごいですね」


「白竜由来の魔力はここから消滅したけど、ここでは新たな問題が起こっているの。霊力が発生するようになったのよ。これも白竜の魔力の影響だと推測されているわ。それはまだ除去できていないの。魔力と同じように人間などの生命体がいる限り、次から次に生まれてくるからね。おかげで妖怪やら何やらが生まれて来ちゃって大変なのよ」


「そういえば霊力について聞いてなかったですけど、魔力みたいなものですか?」


「うん。白竜が放出したエネルギーは魔力だけじゃなかったみたい」


「はあ。妖怪って僕が出会った女郎蜘蛛さんとか鬼さんとかですか」


「そうよ。あんなのがこの地域にはいっぱいいるのよ。いい子もいればやんちゃな子もいるのよ。面白いでしょ」


「はあ」


「ちなみに白竜によってばらまかれた魔力はその当時より今のほうが遥かに増加しているわ。人間や魔獣や植物などの生命体が増えることによって魔力量が増加しているようね。その結果、各地にダンジョンが出来ている」


「ダンジョンですか。この地域は魔力が無いようですがダンジョンはあるんですか?」


「あるよ。霊力が集まって出来たダンジョンが」


「そうなんですか。霊力があって依り代が出来て霊体もいて守護者もいると」


「そそ」


「あの海上の雲の壁を作るために海が真っ白なんですか?」


「そうね。竜との争いの中、管理者が人類を守るため、そして古代竜や魔獣と戦うために白砂をえて世界中に大量に流出させたの。そして白砂を使い情報伝達の手段に利用したり、大量にアンドロイドを生産し地域に配置したりね。さらにそれを利用して海の上にある雲の壁や向こうに見える白壁を作りました。現在は世界中に散らばっている白砂の回収をおこなってる。白砂はもうこれ以上必要がなくなったからね。そして時間が経ち白砂を使った別の技術が発達したことで、アンドロイドを使う必要がなくなったんだ。なので活動状態にあるアンドロイドの数は少ないんだよ」


「そうなんですね。生態系は大丈夫なんですか? 海の生き物が絶滅しちゃったとか」


「海は白砂のせいで真っ白な砂漠みたいになっちゃったけど、魚は元気に生きてるわよ。あの白砂は動物を殺したりはしないわ。作り変えちゃったけど。人もね」


「え?」


「結局、人類が進化したのか絶滅したのかは考え方次第ね」


「どういうことですか」


「つまり普通の人間が白砂を体内に取り込んだ結果、白砂が人間の細胞に影響を及ぼしているという事よ。白砂が細胞分裂を再現したんですよ。魔力で言うならセイジ君が出会った魔人のようなものよ。セイジ君の製造のヒントになった事象ね」


「ああ。魔力を取り込み過ぎて人間から魔人に変化したようなものってことですか」


「そそ。千年の間にこの地域では生命体の白砂による浸食が進み、他の地域では生命体の魔力による浸食が進んで、人類や動植物の適応が進んでいるの。体内に魔力を宿し魔法が使える時点で人間じゃなくなってるよね。この地域ではいずれアンドロイドと人間の区別がつかなくなるかもね」


「はあ。そうかもですね。ところで白竜たちを退治するんですか? 僕と緑竜の出会いはそのためですよね。転移魔法で竜の結界の中に入ることが出来ることが分かったんですから。もしかして僕が竜と戦うんですか? 僕でなくとも他の新型アンドロイドが」


「それはどうだろうね。すでに世界は大きく変わってしまったし、竜を倒しても魔力は残ったままだしね。白竜が目覚めたとき世界は元の自然環境に戻ると管理者は推測しているけどね。つまり世界から一切いっさいの魔力が無くなるってこと」


「はあ。そんなことが起こるんですか」


「魔力の無くなった世界はいずれ千年前のように高度に発展すると思うよ。同じ文明になるかどうかは知らないけどね」


「そうですね。白竜は何しに来たんですかね」


「さあ。管理者は白竜は食事のためにこの世界に来たと推測しているよ。生命体を使って魔力を増やして吸収する。そしてまたほかの惑星に移動をする。だって」


「食事ですか。迷惑な話ですね。それにしてもこの国は本当に滅んだんですか? 見た感じ街は破壊されていなかったようですが。高層ビル群があったし」


「滅んだわよ。だから今も国はないわ。何とか生き残ることが出来た住民が街を千年かけて再建したのよ」


「そうなんですか。国がないとはどういった状況なんですか?」


「首相とか大統領とか王様とかそういう国家元首がいないってだけで、生き残った人達は地域のコミュニティーを形成して協力し合って生きているわ」


「そうなんですね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る