第156話 骨龍
地響きと共に砂の中から現れたのは、黒い霧を
僕たちはその様子を離れたとこから見ていた。
骨龍さんを見たゲッパクさんが、猛虎さんとの戦闘中にも関わらず叫んだ。
「げええっ。なんだありゃ。骨の龍じゃねえかっ。かっけええっ」
「そうですね。確かに格好いいです」
(あの黒い霧。初めて会った時は纏っていなかったですよね。もしかして魔法かな)
(以前、山で出会ったミイラが使った黒い霧や黒い炎の魔法と同じですね~)
幽霊のレオナさんが教えてくれた。
(そうですか。ヤバいですね)
猛虎はというと厳しい表情で骨龍を見ていた。
骨龍は地面に落下していき、城壁の陰に隠れて見えなくなった。
ズズズッズズズズッズッ
すると地中を骨龍さんが移動してくる音や振動が体に響いてきた。
ズボッ
地中から姿を現した骨龍さんがこちらの方に砂煙を上げながらやって来て、そのままものすごい勢いで猛虎に襲い掛かった。
「くっ!?」
猛虎が骨龍の突進をかわしたように見えたが、骨龍が纏う黒い霧に触れてしまっていた。
「ぐうっ」
猛虎の右腕の肘から先が一瞬にして消滅した。
ドンッ
猛虎が骨龍の尻尾で弾かれ、宙に飛ばされた。
ガブッ
骨龍が宙に
すると骨の隙間から見えていた猛虎の姿が
骨龍さんが僕たちの所にやって来て、僕たちを見下ろしながら話しかけてきた。
(黒竜様の客人ではないか。まだこんなところにいたのか)
「おわっ。頭に誰かの声がっ」
「骨龍さんの声です」
僕はゲッパクさんに教えた。
「そ、そうなのか」
僕は骨龍さんに返事をした。
「砂漠で砂嵐に巻き込まれて旅が思うようにいかなかったのです。目的を果たしたらすぐに死者の国に向かいます」
(そうか。もしかして先ほどの不死身の魔獣どもは客人の獲物だったのか?)
「いえ。僕たちは不死身の魔獣たちに襲われていたので助けていただいた格好です。ありがとうございました」
「俺様が倒す予定だったが、まあいいだろう」
「ところで骨龍さんはなぜここに?」
(不死身の者の魔力は私の好物。不死身の存在を感知したのでその魔力を喰らいに来た)
「そうでしたか。消滅させたと思っていましたが食べていたんですね」
(ん? ゲッパクさんも不死身・・・)
ゲッパクさんがそっと僕の後ろに隠れた。
(そこのお前も不死身のようだな。客人。喰ってよいか)
「っ!? お、俺様はこの方の友達ですっ。なっ。なっ」
ゲッパクさんが僕の両肩を掴んで揺すってきた。
「え。あ、はい。そうなんです」
(そうか。黒竜様の客人の友人か。よかろう。今回はお前を見逃そう。次に会った時にお前を喰らうこととしよう)
「ひいっ」
(ではさらばだ)
骨龍さんは砂の中に
「ふう。助かった。まさかあんな怪物がこの砂漠にいるとは」
「そういえば、ここの牢獄に閉じ込められている人はまだいるんですか? 不死身の魔獣がいるんですよね。残りの4狂とか」
「残っているのは4狂の二人だけだろうな。でもいずれ誰もいなくなる。不死身とは言え魔力が尽きれば存在できなくなる」
「そうですか。4狂の残りはどんな魔獣か知っていますか?」
「ああ。目と耳がない熊の魔獣と大食いの羊の魔獣だ」
「なるほど。僕はみんなの所に戻りますけど、ゲッパクさんはどうしますか?」
「俺様はとっととこの砂漠から逃げる。骨龍の
「はい。さようなら」
ゲッパクさんは南に向かって走っていった。
僕はお姫様たちと合流するため城壁の外に向かった。
僕はお姫様や冒険者パーティー『クイックサンド』の皆さんと合流し、目的地であるオアシス都市へ向かった。
壮大な砂丘を旅をしていると、時には僕たちが砂を踏みしめる足音や砂漠に吹く風が砂を動かす音だけが聞こえて来ていた。
死の砂漠を北に進んでいると、ようやく目的地であるオアシス都市が見えてきた。
目的の街であるオアシス都市ゴーフンは、砂漠に横たわる島のような平らで巨大な大岩の前にあった。
ゴーフンの街を囲む城壁は、レンガ造りでほぼ正方形に建てられていた。
オアシス都市なだけあって街の西側には三日月の形をした泉があり、緑が茂っていた。
僕たちは街の中に入って冒険者ギルドに向かった。
街の中心には、壁で囲まれた3階建ての
ふと街の背後にある大岩をみると、岩壁に巨大な像が何体も彫られているのが見えた。
(石像か。凄いな。誰なんだろ。地元の宗教的な偶像なのかな)
冒険者ギルドに入り、ここまで道案内をしてくれた冒険者パーティー『クイックサンド』の皆さんと依頼完了報告のため受付に向かった。
「何とか無事にたどり着けて良かった。これで依頼完了だな」
リーダーのスタンさんがお姫様に話しかけた。
「はい。クイックサンドの皆様、ここまでありがとうございました」
「ああ。大変な目にあったが楽しかったぜ。じゃあな」
スタンさんたちは報酬を受け取り、冒険者ギルドから出て行った。
すると受付さんから声を掛けられた。
「第2級冒険者のセイジ様。マゼンタ王国の冒険者ギルドから伝言があります」
「僕に伝言ですか。何でしょう」
「はい。指輪の魔道具の鑑定結果ですね」
「ああ。義賊の指輪ですか。教えてください」
「はい。指輪に付与されていた魔法の効果ですが、指輪を身に着けていた人物が死ぬと魔法が発動してアンデッド化するようですね。それから指輪のリングの内側にM・Rというイニシャルが彫られていました。恐らく魔道具の指輪の製作者だろうとのことです」
「そうですか」
「指輪はどうされますか?」
「換金後、竜神教会に寄付してください」
「わかりました。そのように致します」
僕たちは受付を離れた。
「セイジ様。もう少しだけお付き合いお願いいただけますか?」
「はい。もちろんですよ。これからどうしますか?」
「明日、北にある
「ユキヒョウ獣人の国ですか。確かリード国でしたか」
「ええ。ですが国は
「わかりました。では宿屋に行きましょうか」
「はい」
僕たちは宿屋に向かった。
宿屋の一階の料理屋で食事をすることになり、侍女のヒルダさんに料理を注文してもらった。
出てきた料理は、羊肉と小麦粉を練って薄く伸ばしたものと数種類のキノコと野菜を煮込んだ料理だった。
他には羊肉のスープと羊のお肉を串に刺して焼いた料理が出てきた。
久しぶりに保存食ではない料理が食べられて幸せだった。
翌朝、僕たちは街を出発しユキヒョウ獣人の国、リード国がある
山脈の麓に近づくにつれ、砂の大地から
しばらく行くと大地に谷が出来ていて、谷底には小川が流れていて草木が繁殖していた。
僕は思わず谷をのぞき込んだ。
「山脈の雪解け水が砂漠に流れ込んでこの谷が出来たんですよね。自然ってすごいですね」
「そうですね。同じような場所は何か所かありますよ」
「そうなんですね」
僕たちは谷に沿って北上していき、しばらくして山の麓にたどり着いた。
ここまで来ると大地には緑があふれていた。
「セイジ様。ここまでで結構でございます。長い間の護衛本当にありがとうございました。セイジ様のおかげで無事に国に戻ることが出来ました」
「いえ。僕だけでなく冒険者の方々の協力があってこそです」
「そうですね。それでもセイジ様のお力が無かったらもっと大変な旅になっていたでしょう」
「お褒めにあずかり光栄です」
「セイジ様は東に向かうのでしたね」
「はい」
「ここから山脈に沿っていくつか街を越えると、死者の国と接している大きな街があります。まずはそこを目指すといいでしょう」
「はい。そこに行ってみます」
すると山の方から、大人数で移動する足音が聞こえてきた。
「誰かがこちらに向かっているようですね」
「そうですね」
僕たちは山道の先を見た。
しばらくすると、カラフルな
その集団は武装しており、巨大な猫の魔獣に騎乗していた。
猫の魔獣は白の毛皮に黒ぶちのある魔獣だった。
(なんだっ!?)
僕がお姫様たちを守ろうと彼女たちの前に出た。
「セイジ様。安心してください。彼らは仲間です」
「え。そうでしたか。あの猫の魔獣は何ですか?」
「あれは魔獣化したユキヒョウです」
「ああ。なるほど。あれがユキヒョウですか」
その集団が僕たちの目の前まで来て、綺麗に整列して止まった。
そして男たちが次々とユキヒョウから降りた。
集団の先頭を走っていた男が僕たちの目の前まで歩いて来た。
「姫様。おかえりなさいませ」
「はい。出迎えご苦労様です。無事に強力な魔法のスクロールを手に入れることが出来ましたし、周辺国の情勢を知ることが出来ました」
「さすがでございます。それでこの男は?」
「この方はセイジ様と言って、アイズミー王国からここまで護衛していただいた第2級冒険者です」
「おお。第2級ですか。セイジ殿。姫が大変お世話になりました」
おじさんが僕の手を両手で掴み、にぎにぎしてきた。
(距離が近いですね)
「いえ。僕だけでなく他にも優秀な冒険者の方がいましたので」
「そうですか。そうですか。それで姫様。セイジ殿を我が国まで案内いたしますので?
(手を放してください)
「セイジ様は東に向かう旅をしていますので、ここでお別れです」
「そうでしたか。それは残念ですね」
「それで遊牧民国家スヴアルトの動静は
「はっ。山脈の東と西の大草原へとつながる道から、二か所のオアシス都市に同時に攻め入ったようです。我々の国にまで攻め込んでくるかどうかはわかりかねます」
「二つも都市を攻撃していたのですか。セイジ様。お聞きの通りこの先の都市が遊牧民の国に落とされたようです。くれぐれもお気をつけてください」
「はい。その都市には寄らないようにします」
「遊牧民国家が今後どういう行動をとるか分かりませんが、我々も国に戻って今後の対応を考えねばなりません」
「皆さんに被害が及ばなければいいのですが」
「そうですね。我々としても争いたくはありません。では。ここでお別れですね。セイジ様の旅の目的が果たされることを願っております」
「ありがとうございます。あ。そうだ。これを受け取ってください。役に立つかどうか分かりませんが」
僕は首に掛けていた骨笛をお姫様に渡した。
「これはなんですか?」
「魔力を込めて笛を吹くとスケルトンサイクロプスが召喚されるそうです。使ったことがないのでどうなるのか分かりませんけど」
「まあ。そんな貴重なものを。いいのですか?」
「はい。僕には必要なさそうなので。危険になりそうなときに使ってみてください。効果は一度きりだそうですよ」
「わかりました。ありがとうございます。大切に使わせていただきますね。ではさようならでございます。セイジ様」
「はい。さようなら。お元気で」
お姫様が出迎えてくれたユキヒョウ獣人の部隊に向かって言った。
「では皆さん。国に帰ります」
「はっ」」」」」」」」」」
すると、お姫様と侍女さんがぶつぶつと何かを唱えたかと思った瞬間、煙に包まれた。
煙が晴れると大柄なユキヒョウが2体現れた。
そのうちの一頭がこちらを見た後、一気に山道を駆け登っていった。
その後に続いて部隊の集団も走って行った。
その姿はあっという間に見えなくなった。
(お姫様たち、獣化が出来たのか)
僕はお姫様たちが見えなくなるまでその場にいたが、姿が完全に見えなくなったので東に向かうことにした。
(さて、交易路まで戻って東に向かいますか)
僕は街道まで戻り、空を飛んで東に進んだ。
しばらく行くと街道に馬に乗った武装集団を発見した。
(あれはもしかして遊牧民の騎馬隊? 100人くらいだけど
僕は透明化した上で遊牧民部隊の上空を通過しようとした。
ふと砂漠の方から何か変な気配を感じ、僕はそちらの方に視線を移した。
すると砂漠の中を走っている存在が目に入った。
それは4本の角を持つ羊の魔獣だった。
その角は蛍光色に青白く発光していた。
(何だあれ? 羊ですよね)
(そうです~。ものすごい魔力を感じます~)
(そうなんですか。あの魔獣は遊牧民を狙っているのかな)
(そのようですね~。影を見てくださ~い)
(影?)
砂漠の上に伸びる影は人の形をしていた。
(あれ? 四足魔獣なのに影が人型なんですけど。どうなっているんですかね?)
(恐らくですが~。砂漠で亡くなった人たちのゴーストが羊に集まって魔獣化したのでしょうね~。たぶんですけど~)
(なるほど)
遊牧民の騎馬隊も砂漠からものすごい速さで接近してくる羊の魔獣に気付いたようで、迎え撃つため陣形を組んでいた。
羊の魔獣はただただ一心不乱に騎馬隊に向けて前進していた。
準備が整った騎馬隊は羊の魔獣に向かって突撃を開始した。
両者が激突する直前に騎馬隊から攻撃が開始された。
馬上から多くの弓が放たれ、羊の魔獣に向かって雨のように降り注がれた。
赤い矢尻が山羊の魔獣に直撃すると炎が発現した。
(属性持ちの魔石を矢の先に取り付けて攻撃しているのか)
何発も羊の魔獣に当たったが羊の魔獣は走る速度を
(ダメージがないのかな)
騎馬隊は弓から槍に持ち替えた。
先頭を走る数人の騎馬隊が持っている槍の先には、魔石が組み込まれ光を放っていた。
(魔槍持ちですか)
魔槍を持っていない騎馬隊は羊の魔獣を取り囲むように左右に展開し魔法を放っていた。
火弾や
しかし、羊の魔獣は止まらない。
とうとう騎馬隊と羊の魔獣が激突した。
先頭の騎馬隊が突き出した魔槍が羊の魔獣に突き刺さる。
しかし、羊の魔獣はそのままお構いなく、魔槍を持った騎馬に4本の角を突き刺した。
角を突き立てられた馬が絶叫し、地面に倒れた。
投げ出された遊牧民は何とか受け身を取り体勢を整えた。
魔槍に体を貫かれ皮膚や毛皮がはがれた羊の魔獣だったが、傷が見る見るうちに再生していった。
(げっ。傷が元に戻ってますよ)
(ゴーストが大量に宿った魔獣ですからね~。普通の体ではありませんよ~)
羊の魔獣は騎馬隊を追いかけ、次々馬に突撃をかましていった。
羊の魔獣は走りながら
「メエエエエエエエエエエエエエエッ」
すると羊の魔獣の体から複数のゴーストが
そのゴーストたちが騎馬隊を襲いだした。
「ギャーーーッ」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
ゴーストに体を触れられた人たちが次々と馬から落下していった。
騎馬隊は羊の魔獣とゴーストによって大混乱に
(まずいですね。騎馬隊が全滅しますよ)
(砂漠の国やユキヒョウ獣人にとってはその方がいいのでは~)
(そうですけど、あの羊の魔獣を放っておくほうが問題ですよ)
(そうですね~。あの一匹だけで街が滅びそうです~)
その時、鐘の音が砂漠に鳴り響いた。
すると騎馬隊が四方八方に逃げ出した。
(撤退の合図ですか。では遠慮なく)
僕は
(
ドドドドドッ
炎に包まれた石礫が羊の魔獣に直撃した。
羊の魔獣がこちらに気付き、足を止め僕を見上げた。
次に僕は羊の魔獣の近くに魔銀の義手をテレポートさせた。
(炎霧っ)
羊の魔獣が炎の霧に包まれる。
僕は魔銀の義手を手元に戻し、装着してから魔法を発動した。
(ファイアトルネーッドッ)
まだ展開中の炎霧に向かって僕はファイアトルネードを発動した。
炎の竜巻が炎霧を吹き飛ばし、羊の魔獣を飲み込んだ。
僕は再び魔銀の義手を炎の嵐にいる羊の魔獣の傍に転移させ、その体に触れた。
(結界展開。発火25)
羊の魔獣を結界で閉じ込め、その中に25発の発火を連続でテレポートさせた。
結界の中が灼熱に熱せられ真っ赤に光っていた。
(ふう。どうですかね)
(やりすぎじゃないですかね~)
(かなり強そうだったので、過剰にやってしまいました)
炎が鎮火すると砂の上に黒い塊が残っていた。
(倒せたようですね。腕の魔石がすべて
遠目に遊牧民の人たちがこちらを見ていたので、僕はそそくさとその場を離れることにした。
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