第153話 砂漠の監獄

翌朝、僕たちは日の出と共に砂漠の旅を再開したところ、早速砂漠移動の困難に直面した。


先頭を歩いているリーダーのスナネコ獣人のスタンさんが、足を止めたと思ったら少し先の地面を指をさした。


そこには大量の砂がまさに川のように流れていた。


「みんな止まれ。砂の川だ。砂の川に落ちると地中深くまでしずんじまうそうだ。これでは進めねえな。お嬢ちゃん。ちょっと遠回りになるがいいか?」


「はい。お任せします」


僕たちは砂の川に飲み込まれないように距離を取って迂回うかいした。


次に僕たちが遭遇したのは砂嵐だった。


「ちっ。前方に砂嵐だ。しかもあの色は普通の砂嵐じゃねえ。死霊属性魔力を含んだ砂嵐だな」


遠くの方に黒い風が巻き上がり、移動しているのが見えた。


「あれに飲み込まれるわけにはいかねえ。進路を変える。やれやれ。予定が大幅に狂ってるぜ」


僕たちは砂嵐を避けて砂漠を進んだ。



死の砂漠はとにかく広かった。


死の砂漠に入って数日たったが景色が何も変わらない。


しかも夜は極寒で昼は灼熱だ。


道中、頻繁に巨大サソリや毒トカゲに襲われたが、死の砂漠の案内人の冒険者パーティー『クイックサンド』のみなさんが対処してくれた。


そんなこんなで僕たちがテントを張って休憩をしていると、ついにアレと遭遇してしまった。


ズザザザザザザザッ


遠くから音が響いてくると同時に、地面がかすかにれだした。


「何か聞こえてきますね。それに地面が揺れているような」


僕が何事かと周囲を見渡すとユキヒョウ獣人のお姫様のヘンリエッタさんと侍女のヒルダさんも周囲を見渡していた。


すると、リーダーのスタンさんが抑えた声でみんなに警告をした。


「全員動くな」


「どうしました?」


僕も小声で返した。


「恐らく骨龍だ。運悪く奴の近くに来てしまったようだな。奴の進行方向がこちらじゃなかったらいいんだが」


段々と骨龍が砂漠を泳ぐ音が大きくなり、地面の振動が激しくなってきた。


僕は千里眼で音のする方向を見た。


すると、遥か遠くに巨大な白い蛇のようなものが、こちらに向かって移動しているのが見えた。


「どうやらこちらの方向に向かっているようですね。ここから移動しますか?」


「いや。下手に動いて奴を刺激しないほうがいい。音が聞こえる範囲に入っていたらもう手遅れだ。俺たちを無視して行ってくれるといいんだが」


「そうですか。では僕がおとりになって骨龍の進行方向を変えてみますね。しばらくここで待っていてください」


「なんだって?」


僕はテレポートでその場を離れた。


「おいっ」




僕は砂漠を泳ぐ骨龍に向かって真っすぐ接近し、骨龍から少し離れた場所でそっと地面に降り立った。


(これくらいの距離なら気づかれないかな。どうやって進路を変えさせたらいいんだろ。それにしても格好いいな)


骨龍は文字通り全身骨で出来ていて、巨大かつ長大で太く短い脚が生えていて、真っ白な骨が太陽の光を反射して光り輝いていた。


全長は約30メートルで、頭の大きさは3メートルほど。胴体にはヘビのような骨が無数にあった。


頭部にはシカのような角が生えていた。


すると僕に気付いたのか骨龍が方向を変え、あっという間に僕の近くにやってきた。


(あら。すぐバレましたね。テレポート)


僕はいつでも逃げられるように空中に転移した。


骨龍が砂の上をすべるように泳いできて、僕の近くまで来て静止し頭をもたげた。


まじかに見る骨龍のあまりの大きさに僕は圧倒された。


すると、頭の中に重厚な声が響いた。


(おぬしは何者だ。なぜ黒竜様の魔力をまとっている)


僕は左手の黒く変色した爪を見せながら言った。


「黒竜さんのお知り合いでしたか。実は分体さんにこれを付けられました」


(そうか。おぬしは招待されたのか)


「そのようです。早く来いとかされています」


(ふむ)


「仲間もいるんですが、砂漠を通ってもよろしいでしょうか」


(構わぬ。そもそも私の縄張りではない。私に許可を取る必要はないぞ。魔力の薄い人間などわざわざ喰おうとは思わん)


「そうでしたか。では失礼します」


僕は骨龍と別れ、みんなの元に戻った。



「おお。無事だったか」


真っ先にリーダーのスタンさんが声を掛けてくれた。


「はい。何とか逃げることが出来ました」


「そうか。まさか転移魔法を使えるとはな」


お姫様たちもやってきた。


「セイジ様。無事でよかったです」


「はい。温厚な骨龍さんで助かりました」



僕たちは休憩後出発した。


しばらく進んでいると、リーダーのスタンさんの呆然とした声が聞こえてきた。


「やはり監獄に着いちまったか。それに砂嵐がんでいるとは・・・」


僕たちの目の前には巨大な城壁が横たわっていた。


「嬢ちゃんたち。あれが古代魔法文明の遺跡だ。通称『砂漠の監獄』だ。今はダンジョン化している。何度も遠回りしちまったせいで、最悪の場所にたどり着いちまったようだ。いつもは砂嵐が砂漠の監獄をおおくし、外からの侵入者を拒んでいたんだがな。招待してくれるようだぜ。まるで誘導されたかのようだな。ダンジョンの意思ってやつかもな」


砂漠の監獄の近くには、幅の広い道のようなみぞが南北に永遠と伸びていた。


「街道ですか?」


「いや。あれは水が流れて出来たものだ。つまり川の跡だ」


「え。砂漠に川ですか?」


「ああ。夏になると南の山脈から雪解け水が大量に死の砂漠に流れて来るんだ。それが川となり砂漠を縦断し北の山脈にまで流れ着く」


「へえ。すごいですね。もうそろそろその季節ですか」


「ああ。そうだな。この道をたどっていけば目的の街に着く」


「ちょうどよかったですね」


「俺の計画でもこの川の道にたどり着いてたさ。もっと早くな」


「そうでしたか」


「仕方ねえ。監獄の中で休むか。外よりはましだろ」


「そうですね」


「あの監獄に4狂が封印されてるんだが、どこに封印されているかはわからねえんだ。まあ、封印を解かれたら厄介だからな。場所は秘密にしてるんだろ」


「そうなんですね」

(4狂に古代魔法文明の遺跡か)


僕たちは野営をするため砂漠の監獄に近づいて行った。



砂漠の監獄はもともと3重の巨大な城壁に囲まれたオアシス都市だったそうだ。


しかし、死の砂漠に魔獣が出現して街としての機能が果たせなくなり、牢獄として活用されることとなった。


その後、砂漠の牢獄がダンジョン化してしまったため、現在は牢獄としては利用されていない。


牢獄を放棄した時に閉じ込めらていた魔獣や犯罪者がいたそうだが、そのまま放置されたそうだ。


封印されている4狂は不死の魔獣のため、まだ生きている可能性が高いという。


砂の牢獄の三重の城壁は日干しレンガで出来ていて、最内の城壁は円形で真ん中は正方形、そして外側は楕円形だえんけいに造られていた。


それぞれの城壁の間隔はかなり開いているそうだ。


「中央の廃墟の街まで行くぞ。城壁と城壁の間には砂しかないらしいからな」


外側の城壁は風化が進んでいて土塁のようになっていた。


僕たちは城壁の隙間から中に入った。


「さてさて。中はどうなっているのやら」


リーダーのスタンさんを先頭に城壁を抜けると、そこにも砂漠が広がっていて所々の瓦礫がれきが散乱していた。


500メートルほど先に真ん中の城壁が見えた。


僕たちが慎重に中央に向かって進んでいると音が聞こえてきた。


すぐさまリーダーのスタンさんから指示が来た。


「戦闘態勢に入れっ」


冒険者パーティー『クイックサンド』の皆さんたちが一斉に武器を手に取り、お姫様たちを取り囲み防御の体勢に入った、


「レッドスケルトンのお出ましだ」


スタンさんが指さした方向を見ると、全身が骨の馬らしき動物に乗ったスケルトンが一体、こちらに向かって駆けて来ていた。


騎乗しているスケルトンには頭部に赤い髪の毛が残っていた。


「レッドスケルトンですか」


「ああ。ラクダのスケルトンに乗った人間のスケルトンだ」


「なるほど。それにしても走る速度が速いですね」


「ああ。生きてるラクダは足が速いんだぞ。骨になったからもっと早く走れるんだろうな」


「そうなんですね」


レッドスケルトンはさらに速度を上げ、僕たちに接近してきた。


「レッドスケルトンは突撃してきてひずめで踏みつけるか。もしくは騎乗しているスケルトンが手に持っている曲刀でぶっ叩く攻撃をしてくる」


「なるほど。どうするんですか?」


「俺たちに任せときな。対策はしてある。たて持ち前に」


ラクダに乗せていた大きな木の板を持ったハイエナ獣人のハワードさんと、プロングホーン獣人のフアンさんが前に出てきた。


「テントの部品ですよね。あれで大丈夫なんですか?」


「最初の一撃だけだ。その後反撃をする」


「なるほど」

(僕は大人しくお姫様たちを守っていよう)


僕はお姫様たちが乗っているラクダの所に移動した。


いよいよ両者が激突した。


ドガンッ


ラクダのスケルトンのひづめが木の板に激突した。


「ぐあっ」」


木の板を持っていた二人は吹っ飛ばされたが、おかげでレッドスケルトンの動きが止まった。


「今だっ。やっちまえ」


「おおっ」」


手にメイスを持った3人が一斉にレッドスケルトンに襲い掛かった。


レッドスケルトンも曲刀を振り回したり骨のラクダが暴れたりしたが、吹っ飛ばされた二人も参加し、数に勝る『クイックサンド』の皆さんに徐々に骨を砕かれていき勝負が着いた。


「お疲れさまでした。見事でしたね」


「ああ。一体だけだったからな。さあ。急ぐぞ。他の魔獣に出くわさないうちに廃墟までたどり着く」


「わかった」」」」

「はい」」」


僕たちは真ん中の城壁に向かって進んだ。



真ん中の城壁もやはり劣化が進んでおり、砂の山のようになっていた。


僕たちが城壁の途切れているところから先に進もうとした、その時。


ドバッ


「っ!?」」」」」」」」


突如城壁の中から巨大なミミズのようなものが飛び出して来た。


「サンドワームリザードだっ」


リーダーのスタンさんが魔獣の名前を叫んだ。


「ぐわっ」


運悪く城壁のそばにいたハイエナ獣人のハワードさんが、サンドワームリザードの体当たりを食らった。


「ちっ。俺が引き付ける。フィオとミミは奴を回収しろ。フアンもこいっ」


「わかった」」」


プロングホーン獣人のフアンさんがスタンさんの援護に向かった。


男性陣がサンドワームリザードの注意を引いている間に、女性二人が倒れているハワードさんの救助を開始した。


「僕も参加します。お姉様方、彼女たちを頼みます」


「わかったわ。あいつをぶっ飛ばして頂戴」


「はい」


僕はスタンさんたちの元にテレポートした。



僕が二人の所に到着した時、砂の山の中から再び姿を現したサンドワームリザードが二人に向かって突撃しようとしていた


(砂の壁っ)


僕は二人とサンドワームリザードの間に砂の柱を何本も発現させた。


ドシュッ


サンドワームリザードが、その砂の壁に突っ込んだ。


サンドワームリザードはそのまま砂の壁を突き抜けたが、一瞬の時間が出来たので二人は無事に回避することが出来た。


「助かったぜ。セイジ」


「はい。サンドワームリザードとはどんな魔獣ですか?」


「手足がなく目が見えないトカゲの魔獣らしい」


「なるほど」


サンドワームリザードは再び砂の中にもぐった。


僕は砂の上を走った。


「セイジっ。またおとりになるつもりかっ」


「はい。釣り上げるんで攻撃をお願いします」


「任せろいっ」


僕はスタンさんたちを中心に円を動くように走った。


ズズズッ


僕の足元が揺れ、砂が盛り上がった。


(テレポート)


ズシャァァァァッ


僕がテレポートした直後、地中からサンドワームリザードが飛び出して来た。


「どおおりゃあああっ」

「おらああっ」


待ち構えていたスタンさんとフアンさんが、曲刀を思いっきりサンドワームリザードに叩き込んだ。


ブシャアアアアッ


サンドワームリザードの体液が流れ出て砂漠に飛び散った。


(発火っ)


僕はサンドワームリザードの頭部に発火を叩きこんだ。


二人も追撃を試みたがサンドワームリザードが無茶苦茶に暴れたせいで、尻尾が激突し二人とも弾き飛ばされてしまった。


「ぐふっ」「ぐわっ」


僕はテレポートで二人の元に移動しポーションをぶっかけた。


「ぶはっ。なんだっ? 水っ?」


「ぶへっ。ポーションか。たすかったぜセイジ」


「はい」


「調子に乗って油断しちまった。だがとどめをせたようだな」


サンドワームリザードはすでに動きを止め、砂の上に横たわっていた。


スタンさんがゆっくりとサンドワームリザードに近づいて行った。


僕は最初にサンドワームリザードに吹っ飛ばされた、ハイエナ獣人のハワードさんの所に向かった。


そして、ポーションをぶっかけた。


「ぶふぉっ。おぼれるっ。ん? ポーションか。助かったぜ。ありがとな」


「いえ。困ったときはお互いさまですから」


そこにサンドワームリザードから魔石を回収し終えたスタンさんがやってきた。


「ハワードも無事のようだな。やれやれ。さあ。廃墟に向かうぞ。もう戦いたくねえ」


「おう」」」」

「はい」」」


僕たちは中央にある廃墟の街に急いだ。



僕たちは真ん中の城壁を越え、一番内側の城壁に向かった。


真ん中の城壁から内側の城壁までの間も同じく距離があった。


その空間も砂漠が広がっていたが、建物らしき残骸も見受けられた。


僕たちは一気に廃墟の街まで走り、魔獣に襲われることなくたどり着くことが出来た。


日干しレンガで造られた最内の城壁は何とか原形をとどめていた。


扉が壊れている城門から中に入ると、まず目についたのが巨大な岩山だった。


岩山には鉄格子がある石窟せっくつがいくつも掘られているのが見えた。


廃墟の街はと言うと、恐らくはレンガ造りの街並みが広がっていたと思われるが、一部は原形をとどめていたが、ほとんどが元の姿が分からなくなるほど風化していた。


僕たちはリーダーのスタンさんを先頭に廃墟の街を探索することにした。


「みんなに街の大雑把な説明をしておく。まず、あの巨大な岩山が犯罪者を幽閉していた牢獄だ。それから街の中央に泉がある。まあ、オアシス都市だから当然だが」


「へえ。そうなんですね。この廃墟の街のどこかに4狂が封印されているんですね」


「そうだ。俺も話に聞いただけで見たことはない。知識も冒険者ギルドで手に入る程度のものだ。まあ。ここに入るのも初めてだからな。ここに連れてけっていう依頼なんてほぼないからな」


「そうですよね。交易路を通る隊商の護衛や湖や山裾やますその森での依頼が多かったです。皆さんは死の砂漠で主に活動しているんですか?」


「ああ、砂漠でしか取れない素材があるし、ライバルが少ないからな。毒持ちの魔獣から呪属性魔石とかファイアスケルトンから火属性の魔石とかな。稀に魔石化した骨とかも手に入る」


「そうなんですね」


「まあ、こんな砂漠の中央まで来る奴なんかほとんどいないがな。そして、これは根拠のない話なんだが、廃墟の街のどこかに地下に通ずる隠し通路があって、その先に古代魔法文明の地下都市があるって噂だ」


「へえ。なんだかワクワクしますね」


「なんだ。セイジは古代魔法文明に興味があるのか」


「はい」


「俺も興味はあるがさすがに探す時間がねえな」


「そうですね」


「さて、休めそうな場所があるといいが。どこにするかな」


するとお姫様から提案があった。


「泉があるという事ですから、その傍で休まれてはいかがでしょう。水を使えるかもしれませんし」


「ん~。泉か。そうだな。城壁で囲まれた街の中だが魔獣やアンデッドにいつ襲われるか分からないからな。どこにいても危険度は同じか。だったら少しでも見通しのいい場所にするか。それでいいかお前ら」


「おお」」」」


他のメンバーたちに異論はないようだ。


「では行こうか」


僕たちは街の中央にあるという泉に向かった。

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