第139話 地下都市
翌朝、僕たちは9連街を出発し、スカーレット帝国の中央にある帝国で2番目に大きな都市に向かった。
僕たちは来た道を戻り、翼蛇がいた山の麓にあるフレイムの街に戻ってきた。
(あれ。ただ遠回りしただけか。まあいいか。海鮮料理美味しかったし)
一泊した後、僕たちはフレイムの街を出発し東に進んだ。
「セイジ様。この国は東に向かって、なだらかに傾斜して登っているのでございますよ」
「へえ。東に向かうほど高地になっているんですか」
「そうでございます。今向かっている街は、東西に延びる山脈に挟まれた高原にあるのでございます」
「そうなんですね」
フレイムの街を出発してから数日後、僕たちはスカーレット帝国第2の都市ブラッシュに到着した。
ブラッシュの街は巨石で造られた二重の城壁に囲まれていて、小高い丘の上に造られていた。
さらに、街に隣接する険しい急こう配の丘の上には、領主が住む城が築かれていた。
城壁の中の街は相変わらず乱雑に建物が建てられていて、おなじみの迷路が作られていた。
この街の建物は、赤い屋根に白い壁で出きていて、大きな窓が特徴的だった。
「この都市の南東に塩湖がありまして、その東に岩山や地面を彫って出来た廃墟の地下都市がございます」
「へえ。地下都市ですか」
「その地下都市に観光に行きたいと思いますが、いかがでございますか?」
「いいですね。行ってみたいです」
「では宿を取って、明日の早朝に冒険者ギルドに向かいましょう」
「はい」(冒険者ギルド? まあ、この辺りの魔獣の情報は調べたほうがいいか)
翌朝、僕たちは冒険者ギルドに向かった。
そして、僕たちは掲示板を眺めていた。
「セイジ様。地下都市を根城にしている魔獣の討伐依頼がございますよ」
「はあ」
(ローズマリーさんは僕に仕事をするよう
「地下都市は四方を山に囲まれた高原地帯にございます。さらには岩山を利用して城壁にしております。住居は地面や岩山を掘って、そこに住んでいたようでございますね」
「へえ。どんな生活をしていたんですかね。想像が出来ませんね」
「羊やニワトリなどの家畜も洞窟で飼っていたそうでございますよ」
「へえ」
「ワインも作られてたみたいでございますよ。飲料水として必要でございますからね」
「地上と変わりませんね」
受付に行って地下都市の情報を聞いてみると事件が起きていた。
「第2級のセイジ様。緊急の依頼を受けていただけないでしょうか」
「緊急?どんな依頼ですか?」
「はい。冒険者パーティー『レッド インセンス』が地下都市ダンジョン攻略に向かったのですが、誤ってダンジョン核である依り代に触れてしまい、依り代に捕らえられてしまいました」
「依り代に捕らえられたとは、どういうことですか?」
「はい。依り代は青い巨大な立方体の石なのですが、それに触れると精神支配されてしまうのです」
「そうなんですか。守護者は倒したんですか?」
「いえ。守護者との戦闘中にその事故が起こりまして、そのパーティーは一時退却したのです」
「その冒険者はまだ生きているんですか」
「はい。守護者もどきと言いますか、守護者と協力して依り代を守っているそうです」
「そうなんですね。その冒険者パーティーは今どうしているんですか?」
「すでに準備を整え、仲間を助けに依り代の元に向かっています。今頃地下都市に到着しているかもしれません。優秀なリーダーがいる冒険者パーティーですので、むやみに突撃したりはしていないと思うんですが」
「そうですか。操られた冒険者を助ける方法はあるんですか?」
「はい。過去にも同様の事件がございましたので。ダンジョン領域から外に出せば意識を取り戻します」
「そうなんですね。わかりました。僕たちも向かいます」
「ありがとうございます」
「それでですね。その地下都市についての情報を教えてください」
「はい。スカーレット帝国が出来る前の話です。当時地下都市を支配していた王様が魔獣好きだったようでして、『珍しい魔獣を掴まえたものに褒美を取らす』と御触れを出したそうなんです。するとその話を聞きつけた商人がマンティコアの子供を捕まえてきたのです」
「マンティコアですか」
「はい。始めは小さかったので問題なく飼っていたのですが、成長するにつれ狂暴になり手に負えなくなったのです。そして人々を襲い始めました。あまりに強大な力を持ったマンティコアによって、その地下都市国家はあっという間に滅んでしまったのです」
「そうなんですか。そのマンティコアはどうなったんですか?」
「今も地下都市にいます。そして人のいなくなった地下都市は魔獣の住処になってしまいました。ちなみに地下都市を囲む山の頂上に岩の巨人がいて、彫刻をしているそうですよ」
「へえ。見学できるんですか?」
「どうですかね。わざわざ危険を冒して山登りする人はいませんからね。見学に来られても巨人も驚くでしょうね。歓迎してくれるかどうかは分かりません」
「そうですか。マンティコアとはどんな魔獣ですか?」
「マンティコアはしわくちゃな人間の顔でライオンの胴体を持ち、背中にコウモリの翼と巨大なサソリの尻尾が生えています。体毛は赤ですね。顔は人間ですが口の中の牙は鋭く、人と違って三列に歯が生えていますので、噛まれると致命傷です。サソリの尻尾には猛毒がありますし、
「そのマンティコアが守護獣ですか。強敵そうですねえ」
「いえ。マンティコアは守護獣ではありません。地下都市の東にある谷にいることが多いですね」
「え。そうでしたか。勘違いしてました」
「現在の守護獣は昆虫の足を持った巨大トカゲの魔獣です」
「わかりました。地下都市にはどんな魔獣がいるんですか?」
「地下都市のダンジョンで注意しないといけない魔獣は、コウモリの魔獣ですね。空気を操る風属性魔法を使ってきます。窒息させたりしてきます。それに細い口で生き血や生気を吸ったりしますので捕まらないよう気を付けてください」
「そうなんですか。恐ろしいですね」
「見た目は黒いイタチのようで背中には魔力の翼を持っています」
(イタチみたいなコウモリ?)
「魔力の翼ですか」
「ええ。刻々と姿が変わる翼ですので説明できません」
「なるほど」
「それから、そのコウモリの魔獣は火も食べますので火属性魔法は使わないでください」
「火を食べるんですか。変わった食生活ですね。わかりました」
「他に何か知りたいことはありますか?」
「肝心なことを聞いていませんでした。依り代はどこにあるんですか?」
「地下10階の大広間にあります。とにかく下に向かえばたどり着けますので、迷子になっても心配ありません」
「そうですか」
「洞窟は狭い道や広い道などいろいろあります。階段や傾斜した道で階層が
「わかりました」
僕たちはブラッシュの街を出て地下都市がある南東の岩石地帯に向かった。
街の周辺は見渡す限り岩と砂の大地が広がっており、低木と所々に草が生えているだけだった。
しばらく空を飛んで進んで行くと湖が現れた。
「あれが塩湖ですか。何かありますね」
真っ白な湖の浅瀬には白い山が点々と作られていた。
「塩を作ってるんですかね」
「ええ。帝国の大部分の塩はここで作られた塩でございますよ」
「そうなんですね」
塩湖に沿って南東に向かっていると、塩湖に無数のピンク色の鳥が群れをなしていた。
「あれはフラミンゴですか」
「はい。そうでございますよ」
「そうですか。鮮やかな体毛ですね」
「火属性の魔鳥でございますよ」
「へえ。見た目通りなんですね」
僕たちは塩湖を通り過ぎ地下都市へ急いだ。
塩湖からさらに進むと山岳地帯が始まり、その間を
しばらく進んでいくと、巨大な岩山を削って造られた城塞が見えてきた。
その中に3つの巨大な岩山があり、その岩山に穴が無数に掘られているのが見えた。
(あの岩山を掘って部屋をたくさん造ったのか。凄い根気だな)
僕たちは岩山の城壁を飛び越え地下都市に入った。
そこには大きさが異なる無数の岩山が生えていて、そこにも部屋が掘って造られていた。
「すごい景色ですねえ。これを全部人の手で掘っていったんですね」
「そのようでございます。柔らかい地質だったのでございましょう」
「そうですね」
僕たちは岩山の間にある道を進み、地下へ通ずる入り口を探した。
間もなくして通気口らしき縦穴を見つけた。
「通気口ですかね。ここから一気に下にいきますか」
「わかりました」
僕はユーフェミアさんと共に物体操作で浮遊し、慎重に地下都市の内部に入っていった。
するとすぐに通気口は終わり、恐らく地下3階の場所にたどり着いた。
通気口はさすがに地下10階までは繋がっていなかったようだ。
僕たちはそこから迷路のような洞窟を通って、依り代がある地下10階まで目指すことになった。
発火の明かりを頼りに洞窟を下に向かって進んでいくと、ユーフェミアさんが何かに気付いた。
「セイジ様。何者かが接近して来てございます」
「はい」(発火)
僕はもう一つ発火を作成し、前方に向かって火の玉を飛ばした。
すると、イタチのようなコウモリの魔獣が現れ、僕の発火を吸い取った。
背中から黒い不定形の翼が生えていて、不規則に羽ばたいていた。
「え。あ。あの魔獣は火を食べるんだった」
僕はテレポートでコウモリの魔獣の背後に移動し、魔剣を3本射出した。
ザンザンザンッ
すべての魔剣がコウモリの魔獣に突き刺さり、倒すことが出来た。
魔石を回収し僕たちは先に進んだ。
次に現れたのは全身を
「毛が固まって棘状に変化したものでございますね」
ユーフェミアさんが教えてくれた。
ヤマアラシは僕たちに遭遇したとたん突っ込んできたので、発火をお見舞いしてあげた。
僕たちはさらに地下に降りていった。
地下都市の内部は冒険者ギルドの受付さんの説明の通り、無数の部屋が掘って造られていた。
そんな部屋の中には壺やテーブルなどもあり、それらも岩を削って作られていた。
しばらく進んでいると僕たちは広い空間にたどり着いた。
そこには巨大なニワトリがいた。
「飼育していたニワトリですかね」
「魔獣でございます」
「ですよね」
ニワトリの魔獣は僕に向かって火を
僕はテレポートで回避した。
ユーフェミアさんもいつの間にか移動していて部屋の反対側にいた。
そのニワトリの魔獣の体高は1.5mほどで、赤く大きな
体形はずんぐりしていて足も太く、凶悪な鋭い爪を持っていた。
攻撃をしようと僕がテレポートでニワトリの魔獣の背後に回った瞬間、強烈なキックが飛んできた。
「!?」
バキッ
物理結界が破壊されたが、その一瞬の隙に何とかテレポートで回避することが出来た。
しかし、テレポート先にすぐさまニワトリの魔獣が走りこんできて、僕に向かって火を吐いた。
「うわっ」
僕は炎に包まれた。
「っ!? あれ?」
しかし、全く熱くなかった。
炎の中にいる僕に向かって、ニワトリの魔獣の太い足が飛んできた。
「うおっと」
僕は上にテレポートで移動し、何とか回避することが出来た。
「熱くなかった。火に包まれましたよね」
僕は困惑の中ユーフェミアさんに尋ねた。
「はい。幻覚でございますよ。火属性幻覚魔法でございますね。本物でしたら危なかったでございますよ」
「そうでしたか。気を引き締めます」
僕は地面に降り立った。
再びニワトリの魔獣が襲い掛かってきた。
(テレポート)
僕は魔銀の義手だけをニワトリの魔獣の背後に転移させ、頭を殴りつけた。
ニワトリの魔獣は思いっきりつんのめった。
(発火10連発)
すべての発火がニワトリの魔獣に直撃し、丸焼きにした。
「ふう。強敵でしたね。まさか幻覚魔法を使うとは」
「油断大敵でございますよ。セイジ様」
「はい。
僕たちがさらに地下に進んでいくと、洞窟の先から戦闘音が聞こえてきた。
「依り代に着いたようでございますね」
「そうですか。いつの間にか地下10階にたどり着いていたんですね」
僕たちは音がする方向に向かって走った。
そこは今までで一番広い空間が広がっていて、冒険者同士が一対一で戦っていた。
部屋の中央には巨大な青い石が鎮座していた。
(あれが依り代の石か)
部屋の隅には昆虫の足を持った巨大なトカゲが傷だらけで倒れていた。
(あのトカゲが守護獣か)
戦っている冒険者の仲間と思われる人たちが、壁際で二人の戦いを見守っていた。
その場にいる冒険者すべてが体にタトゥー魔法陣を刻んでいた。
「リーダー。油断しないで」
壁際にいる女性冒険者が声を掛けた。
僕も二人に目線を移した。
「がああああっ」
目がうつろな冒険者が叫び、もう一人に襲い掛かった。
(あの人が操られている人か。という事はもう一人がリーダーか)
二人とも手に武器は持っていないようだ。
リーダーは相手の攻撃をいなしながら、何か機会をうかがっているように見えた。
すると、リーダーの目の周りと左腕のタトゥーが鈍く光った。
操られている冒険者がリーダーに殴り掛かったその瞬間。
「っ!?」
なんとリーダーが相手のパンチを
ボキボキボキッ
腕の骨が折れる音が広大な地下空間に響き渡った。
「ぐががっ」
それでも操られている冒険者は戦うことを止めなかった。
その後、リーダーと呼ばれた冒険者は、操られている冒険者の足を折り動きを封じた。
その痛みでどうやら気絶したようで、その冒険者はようやく動かなくなった。
戦いが終わったようだ。
壁際で二人の様子を見ていた仲間たちが二人の元に集まっていった。
僕たちもその冒険者たちの元に足音を立てながら近づいた。
(ポーションはかけちゃダメか。復活したらまた襲い掛かってきちゃうかもしれないし)
すると僕たちに気付いたリーダーが話しかけてきた。
「お前、冒険者だよな」
「はい。救援依頼を受けまして駆けつけました」
「そうか。ありがとな。迷惑をかけてしまった」
「いえ。何とかなったようで良かったです」
「俺は冒険者パーティー『レッド インセンス』のリーダー、カレルだ」
「僕はせいじです。彼女はユーフェミアさんです」
「ところでお前はどこの出身だ?砂漠の民か?死の大地の冒険者か?」
「いえ。元々はアルケド王国にいました。最近マゼンタ王国から来ました」
「そうだったか。珍しいな。西からこの国に来るなんて」
「そうなんですか」
「知ってると思うがあの依り代には触るなよ。剣でもだ」
「わかりました」
「俺たちは休憩だ。仲間と戦うのはさすがに心身ともに疲労が桁違いだったぜ」
冒険者たちはその場に座り込んだ。
「依り代に近寄ってもいいんですか?」
「ああ。近寄るだけだぞ。触って操られても助けないからな」
「はい」
リーダーがユーフェミアさんを見た。
「やっぱりお前、触ってもいいぞ。美人の獣人さんは俺たちが無事に地上に送り届けてやっから」
「ぎゃははっ。それはいいな」
「リーダー、何言ってんのよ」
「すまんすまん」
僕は広大な空間の中央に鎮座している、青白い立方体の巨石に近づいていった。
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