第138話 9連街

僕とユーフェミアさんは帝都を離れ、9連街と言う街に向かっていた。


途中、僕たちは山のふもとにある街に立ち寄った。


街の名はフレイム。


毒ガスの発生によってすたれた温泉街の近くにある街だ。


フレイムの街を一望できる丘の上には、領主が住む城が建っていた。


城門を通り街に入ると、レンガと木材で造られた建物が無秩序に建てられている街並みが広がっていた。


中心地に向かって細い石畳の道を進んでいると、六角柱の建物にドーム状の屋根が付いた立派な建物を見つけた。


その建物の周りだけ不自然に空間が開いていた。


(重要そうな建物だな)


僕がその建物に視線を向けていると、ユーフェミアさんが建物の説明をしてくれた。


「あれは何とか教の教会でございますね。この国の貴族や豪商の建物は屋根がドーム状でございます」


「へえ。流行はやってるんですか」


「ええ。そうでございます」


「そういえば、ここの近くに温泉地があったんですよね」


「そうでございます。ある時、石の欠片かけらが空から降って来て、落下したところから毒ガスが吹き出してきたそうでございますよ」


「へえ。そんなことがあったんですか」


「はい。音がした場所に冒険者たちが向かったところ巨大な石があり、その石の破片が魔獣に変化して暴れ出したのでございます。毒ガスとその魔獣のせいで温泉街から人がいなくなったのでございます」


「え。石が魔獣に変わったんですか」


「はい。ということでセイジ様。ローズマリーの情報によると温泉がお好きという事ですから、その魔獣を退治しに参りましょう」


「はい。え?」


「それにセイジ様は旅をしながら依頼をこなすのが趣味。とも聞いております」


「はあ」(ローズマリーさんは意地でも僕を働かせたいみたいですね)


「毒ガスのせいで一般の冒険者は温泉街に近寄りませんが、セイジ様なら平気でございますよね」


「まあ。大丈夫かもですね」(ポーションで何とかなるかな)


「では冒険者ギルドの向かいましょう。その魔獣の討伐依頼が出ているはずでございますから」


「わかりました」

(観光旅行じゃなかったのか)


僕たちは街の中心にある冒険者ギルドに到着し中に入った。


すぐさま掲示板に向かう。


「その石の欠片はどこから飛んできたんですか?」


「どこから飛んできたのかは誰も見てないそうでございますよ。落下の衝撃音が温泉街まで響いて来て気付いたのでございます」


「そうですか。どんな魔獣なんですかね」


討伐依頼の掲示板で温泉街にいる石の魔獣退治の依頼を探した。


「セイジ様。ここにございました」


「そうですか。どれどれ」


掲示板に貼られていた依頼書には、『石が変化した魔獣は翼を持った大蛇で鱗の色は薄い墨色で目と口は赤い。そして、その大蛇は凄まじい悪臭を放つ。その匂いを嗅ぐと体毛が抜け落ちてしまうと言われるほど臭い。さらに、大蛇を傷つけると、黒い体液が流れ出て、その体液に触れると草木は枯れ果て、肉が腐り死ぬ事すらある。さらには、邪属性もしくは風属性魔法を行使し、体温を奪う魔法を使う。体当たりも強烈だ。草陰から突然襲って来るので注意されたし。魔獣の名を仮に翼蛇とする。翼蛇は廃墟の街の北東にある洞窟を根城にしていると思われる。洞窟には毒ガスが充満しているので準備が必要だ』と書かれてあった。


「翼蛇ですか。強そうですね」


「一匹ですからセイジ様にとってはそれほどでもないかと思われます」


「え。そうですかね」(僕の評価が高いな。ローズマリーさんはユーフェミアさんにどんな説明をしたんだろ)


僕たちは冒険者ギルドを後にした。


「もう日が暮れそうですから、宿屋に行って今日は休みましょうか。食事も宿屋でしましょう」


「はい。そういたしましょう」




宿屋に入ると早速ユーフェミアさんが料理を注文してくれた。


「羊肉にヨーグルトとソースをかけて熱々バターを掛けたものでございます」


「美味しそうですけど肉の量がすごいですね」


デカいお皿にたっぷりと肉があり、はじに申し訳なさそうに野菜が乗っていた。


食事を終え、僕たちは明日に備え就寝することにした。



翌朝、僕たちは宿屋を出発し、温泉街があった丘の方に向かった。


しばらくの坂道を登っていくと城壁に囲まれた街が見えてきた。


城門の外には墓所が広がっていた。


城壁は破壊され、街は崩壊し、廃墟となっていた。


瓦礫がれきに埋もれた街の中を歩いて行くと、5階建ての円形の巨大な建物が現れた。


「セイジ様。あの建物が温泉施設でございます」


「へえ。随分規模が大きいですね。上から見ていいですか?」


「ええ。私もご一緒させてくださいまし」


「わかりました」


僕はユーフェミアさんと一緒に宙に浮き、上から温泉施設を見下ろした。


温泉施設はすり鉢状になっていて、中央に温泉が湧いているのが見えた。


傾斜の部分は階段になっていた。


温泉の中に壊れた石柱がいくつも横たわっていた。


「へえ。凄い温泉施設ですね」


「貴族などが楽しむための施設でございますから」


「そうなんですか」


僕たちは地面に降り、翼蛇を見つけるため街中を探索したがいなかった。


「翼蛇いませんね」


「そうでございますね。食糧となる獲物がいないからでしょうか」


「そうですね」



温泉街を出て、さらに坂道を登っていくと山肌の地面が白くなっている場所があった。


しかも、大きな水たまりがあちらこちらに出来ていた。


「大地が白くなっていますね。魔獣のせいですか?」


「いえ。大地から湧き出した温泉水の影響でございましょう」


「ああ。そうですか。ということはあの水たまりは温泉ですか」


「そうでございます。セイジ様。そろそろ毒ガスが噴き出している地域にはいります」


「はい」


僕はリュックからひょうたんを取り出し、ひょうたんを逆さに浮かせてポーションをドバドバ出した。


(灼熱)


僕は魔法を発動し、魔銀の義手を灼熱に熱した。


流れ出るポーションに魔銀の義手を突っ込ませるとポーションが急激に熱せられ蒸気に変化した。


僕はポーションの蒸気を操作し、僕たちの周囲に移動させた。


僕たちはポーションの蒸気に包まれた。


「熱くないですか?」


「ええ。大丈夫でございますよ。なんて心地いい霧でございましょう」


ユーフェミアさんは周囲を漂うポーションに手を伸ばして感触を楽しんでいた。


「そうですね。ポーションですから」


「まあ。ポーションでございますか。贅沢でございますね」


僕はポーション蒸気を操作し、僕たちの周囲にポーション蒸気を維持させたまま移動をすることにした。


「これで毒を気にせず移動できますね。常に回復している状態ですから」


「まあ。便利な魔法でございますね」


「そうですね」


「どの程度持つのでございましょうか」


「魔法の濃霧はすぐ消えますが、これはポーションそのものですので、かなり持つと思います。なくなったらまた作りますので」


「そうでございますか」


なだらかな上り坂を登っていると、荒地に開いた穴から毒ガスがあちこちから噴き出していた。


僕たちは白い地面に溜まる温泉を横目に見ながら、しばらく翼蛇を探した。


「ここにもいませんか。住処すみかの洞窟があるという森の方ですかね」


「早く出てきていただきたいですわね」


「そうですね。そういえばユーフェミアさんは武器を持っていませんけど、戦い方を聞いてもいいですか?」


「はい。かまいませんですよ。私は魔法使いでございまして、主に火属性と風属性をたしなんでおります」


「魔法使いさんですか」


「はい。ですがセイジ様の前で魔法を使う事はないでしょう。残念でございます」


「え。使ってもらっても構わないですよ」


「いえいえ。セイジ様の手柄を横取りすることなど出来ません。そもそも私がセイジ様に手を貸す状況など起こりえるはずがございませんから」


「え。僕の評価が高すぎませんか」


「アマンダやローズマリーからセイジ様についての詳しい報告を受けております。真っ当な評価でございますよ」


「はあ。そうですか」



森を探索していると異臭が漂ってきた。


「くしゃい」


僕は思わず鼻をつまんだ。


ポーションでは脱臭が出来ないようだ。


「ようやく見つかったようでございますね」


「そうですね」


「セイジ様。私は風魔法を使えますので毒ガスの心配はございません。存分に戦ってくださいまし」


「わかりました」


鼻をつまんで森の中を進んでいると大蛇がシカを丸呑みしていた。


(あれが翼蛇ですか。しかも食事中でしたね。それにしても大きいですね)


翼蛇の胴体は体格のいい成人男性並みに太かった。


翼蛇が僕たちに気付き、シカを急いで飲み込んだ。


翼蛇の胴体を大きなコブが移動している。


「シャーッ」


翼蛇は戦闘態勢に入り首をもたげた。


翼蛇の顔は僕の身長より高い位置にあり、僕は上から見下ろされる格好になった。


(翼はあるけど、さすがにあの巨体じゃ飛べないよね)


ビュッ


突如、翼蛇が口から黒い液体を飛ばしてきた。


「うおっ」


べちゃっ


テレポートするのが遅れたが、結界が防いでくれた。


(危なかった。結界のおかげで助かった。さて。どうやって倒しましょうか)


取り合えず僕は魔銀の義手を灼熱にした。


翼蛇が体を左右に動かしながら僕にせまってきた。


僕はテレポートで翼蛇の側面に移動し、思いっきり殴った。


しかし、弾力のある肉に弾かれてしまった。


しかも、熱によるダメージはないようだ。


(あれ。物理も熱も効かないですか)


すると、ビュンと音を立てて翼蛇の尻尾が僕に襲い掛かってきた。


僕はテレポートで回避する。


すかさず、浮かせていた3本の魔剣を射出しようとしたが思いとどまった。


(危ない危ない。体を傷つけるとヤバい体液が出てくるんだった)


そのすきに翼蛇が大口を開けて僕に襲い掛かってきた。


僕はまたテレポートで回避する。


灼熱の魔銀の義手を残して。


バクリ。


翼蛇が魔銀の義手を飲み込んだ。


(発火)


翼蛇の口の中で魔銀の義手から火の玉が放たれた。


翼蛇は魔銀の義手を吐き出し、地面をのたうち回った。


「シャーッ」


怒りの咆哮か、翼蛇が絶叫を上げ僕に襲い掛かってきた。


翼蛇の大口が僕に迫る。


(炎毒)


僕は翼蛇の唾液だえきでヌルヌルになった魔銀の義手を装着し、翼蛇の口の中に向かって発火と毒霧を同時発動した。


翼蛇は一瞬たじろいだが、勢いのまま僕に噛みついた。


しかし、僕はすでにテレポートでそこにはおらず、翼蛇の牙は空を切った。


翼蛇はそのまま地面に倒れ藻掻もがいていたが、しばらくして動かなくなった。


「お見事でございます」


風をまとったユーフェミアさんが近づいてきた。


いい香りがする。


「はい。何とかなりました」


「そうでございますか?余裕そうでしたけど」


「逃げるのは得意なので。攻撃が効かなかったらどうしようかと」


「そうでございますか。翼蛇の解体はどうなさいますか?」


地面に翼蛇の巨体が横たわっている。


「解体すると毒の体液があふれちゃいますから無理ですね」


「そうでございますか。冒険者ギルドに報告だけ致しますか」


「そうですね」


僕たちは街に戻り、冒険者ギルドに向かった。


受付で翼蛇を退治したことと翼蛇の死骸の場所を報告した。


報酬は翼蛇の死骸を確認し次第、支払われるそうだ。


僕たちは宿屋に泊まり、次の日の朝、9連街に向かって出発した。



街を出発していくつかの村や町を経由しながら南西に行き、しばらくすると城壁に囲まれた街が見えてきた。


「セイジ様。あれが9連街でございます」


「着きましたか。大きい街ですね」


9連街の正式名はスリーズと言う街だそうだが、9連街という異名の方が有名になってしまっていて、それが定着しているそうだ。


9連街は丘の上にあり、そこから遠くに広がる海が見渡すことが出来た。


丘の下には森が広がっていた。


「すごい景色ですね。あの海の先がマゼンタ王国ですか」


「そうでございます」


9連街の一番最初に出来た街は丘の一番高いところにあり、そこからなだらかな下り坂に街が次々建造されていき、ついには円形状の巨大な街が出来たそうだ。


僕たちは石積みの城壁の城門をくぐり、最初に出来た一番大きな街に入った。


街の建物の多くは、日干し煉瓦れんがで造られていた。


この街も広い道はなく無秩序に造られた建物が迷路の道を造っていた。


「他の新しい街もこんな感じなんですかね」


「新しい街ほど混沌とした街でございますよ」


「そうですか。ここが一番マシなのですか」


僕たちはとりあえず冒険者ギルドに向かった。


「この街は帝国で3番目に大きい街で、商業都市として発展していますの」


「へえ。この街の名所は何ですか?」


「街の形ぐらいですね」


「え。そうなんですか」


「しいて言えば海鮮料理でございます。海鮮料理を食べたら、帝国の中央にある第2の都市に向かおうと思っております」


「はい」

(ココを僕に紹介したのは、海鮮料理目当てだったのかな)


冒険者ギルドに着き、受付で冒険者ギルドカードの金額の確認をすると、翼蛇の討伐報酬が入金されていた。


ついでに受付さんにアンデッドについて聞いてみた。


「そういえば、死の大地のアンデッドの軍勢がこの国に襲来しているようですけど、現状はどうなっているか分かりますか?」


「確かに南東の国境の街にアンデッドが押し寄せてきたようですが、地元の冒険者たちだけで対処できているようですよ」


「そうなんですか。アンデッドはよく来ているんですか?」


「いえ。最近になって突然出現するようになったようです」


「そうなんですか。死の大地で何か起こってるんですかね」


「かもしれませんね」


「ありがとうございました」


僕たちは冒険者ギルドを後にし、ユーフェミアさんに連れられて料理屋に向かった。


ユーフェミアさんの注文で出てきた料理は、チーズとエビ、トマト、キノコ、ニンニクが入った煮込み料理とタコの足にオリーブオイルと香辛料を掛けて焼いた料理と貝の串揚げとイカのフライと魚の丸焼きだった。


「美味しそうですね。ユーフェミアさんは魚が好きなんですか?」


「ええ。魚も好物でございます」


「そうですか。肉も魚も美味しいですよね」


「はい。今日はお魚を楽しみたくて。おほほほほ」


「そうですか。僕も魚好きですよ」


僕たちは海鮮料理を堪能たんのうした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る