第137話 スカーレット帝国
僕は新しく旅の道案内をしてくれることになった、猫獣人のユーフェミアさんと冒険者ギルドに向かっていた。
その道すがら、僕はユーフェミアさんにこれから向かうことになるスカーレット帝国について聞いてみた。
「スカーレット帝国ってどんな国なんですか?」
「国の形は東西に長い長方形でございますね。西側は温暖で乾燥してまして、北側は夏は涼しいですが冬は雪が降ります。山岳地帯に接する東側は冬は非常に寒さが厳しくございます。中央は高温で乾燥していて冬が積雪が多く、南部は砂漠でございます。生活習慣などは現地で見たほうが分かると思いますので、その時に質問をしていただけたらと思います」
「そうですね。スカーレット帝国にも冒険者ギルドはあるんですか?」
「はい。冒険者ギルドなどは普通にございますよ。ただ魔術師ギルドはこちら側とはかなり違うのでございますよ」
「そうですよね。タトゥー魔法陣を肌に彫ることで発動させている魔法ですもんね」
「はい。そうでございますね」
冒険者ギルドに到着し、僕たちは開けっ放しのドアから中に入った。
中には冒険者が数人いるだけで閑散としていた。
(冒険者が少ないな)
建物の中に入ったときの印象はそれだった。
掲示板に行ってみるとあまり依頼がなかった。
「依頼が少ないですね。国境の街だからでしょうか」
「そうでございますね。湖の周辺は豊かな穀物の産地ではありますが、ここは湖と湾に挟まれた狭い土地でございますから魔獣が少ないのでございます。ただ国境ゆえ、衛兵の数は多いのでございます」
「そうですか。そういえば湖の北は白の大地ですよね。ここに来たりしないんですか?」
「ええ。白の大地の魔獣は国ほどもある巨大な湖と吸血鬼の国と山岳地帯が防いでくれていますので、マゼンタ王国にまでは来ないのでございますよ」
「そうなんですね。ではスカーレット帝国に行きましょうか」
「かしこまりました」
僕たちは街を出て要塞のある丘を越え、国境に向かった。
「国境の川には川に沿って城壁が建てられています」
「そうですか。どうやって渡るんですか?橋が架かっているんですか?」
「いえ。かなり離れていますので橋は無理のようで、渡し舟が出てございますよ。高額な料金を取られますが」
「ですか」
「スカーレット帝国の帝都インペリアルレッドは川を渡ってすぐの場所にございます。南の湾に接している湾岸都市でございますよ」
「そうなんですね」
「セイジ様は転移魔法や浮遊魔法を使えると
「はい。使えます。飛んで行ってもいいんですか?」
「ええ。お願いいたしますわ」
「わかりました」
東にさらに進んでいくと長い城壁が現れた。
港へ続く城門には馬車などが列をなしていた。
「商人さんも利用しているのですね」
「ええ。商人に国境は関係ありませんのでしょうね」
「そうですね」
僕たちは人目のない場所に移動した。
「透明化した方がいいですかね」
「そうでございますね」
「では手を出してください。あ。触れてもいいですか?」
「構いませんよ」
僕は差し出されたユーフェミアさんの桃色の肌に手に触れ、透明化を発動した。
「お互いが見えませんけど、手を放しますね。今から浮きます」
「はい」
僕はユーフェミアさんと共に宙に浮き城壁を越えた。
そこには最も狭いところでも川幅が500mはある大きな川が流れていた。
「大きい川ですね」
「そうでございますね」
「では川を越えますね」
僕たちは空を飛んで川を越え、そのまま川に沿って下流である南に向かった。
僕たちは辺りに人がいないことを確認してから森の近くに降り立った。
僕は透明化を解除した。
ふとユーフェミアさんを見ると楽しそうな顔をしていた。
「空の旅も乙なものでございますね」
「それは良かったです」
「それでは帝都インペリアルレッドに向かいましょう。案内いたしますわ」
「はい。お願いします」
森の先に現れたのは巨大な城壁に守られた街だった。
街の近くにある山の斜面にも建物が建っていた。
「山にも立派な屋敷があるんですね」
「あれは貴族や豪商の別宅でございますよ。季節ごとに移動しているのでございます。熱くなれば山の方に住むのでございますよ」
「そうなんですね」
城門を通り帝都の中に入った時の僕の第一印象は「道がない」だった。
帝都の街には2~3階建ての木造家屋が無秩序に建てられていた。
「随分狭い道ですね」
「帝国には都市計画と言う言葉はございません。好き勝手に建物を建てた結果こうなったのでございますよ」
「はあ。そうなんですか」
ユーフェミアさんに連れられ、曲がりくねった街を歩いて行くと二つ目の城壁が見えてきた。
「帝都は二重の城壁なんですか?」
「いえ。街を拡張するたびに城壁を造っていますので、街全体を囲んでいるわけではございません」
「そうなんですか」
「街を大きくするために人々をいろいろなところから集めたせいでございますね。帝国にはこういった街がいくつもございますよ。大都市や中都市に人が集中しておりますの」
「そうなんですか。それにしても初めて来た人は目的地にたどり着けなさそうですね」
「ええ。道は迷路になっていて袋小路がたくさんできてますの」
「へえ。広場のような中心地はあるんですか?」
「いえ。無秩序に家が建ちますので、広場など存在するはずがありませんの」
「そうですか」
「建築技術は高いようでございますよ」
「確かに立派な建物がありますよね」
僕は乱雑に立ち並んでいる木造建築の上から見える巨大な白い建物を見た。
「はい。スカーレット帝国民は竜神教でない何とか教を信仰しているのですが、この街で一番大きい建物があの白い建物の教会でございますよ」
「何とか教?」
「ええ。私、赤竜様を崇拝しておりますので下々の他宗教には興味がございませんの。セイジ様は興味がおありでして?ありましたら調べてまいりますが」
「いえ。興味ないです」
「そうでございましょう。赤竜様さえいてくれたらそれでいいのです」
「はあ」
何とか教の建物は四隅に塔が建っていてお団子をピラミッドのように重ねたような真っ白な建物だった。
(すごい建物だな。内部はどんな構造になってるんだろ)
「何も知らないセイジ様のために、この地域の歴史を少しだけお話いたしますわ」
「ありがとうございます」
「アルケド王国、ゴールドブルー帝国、マゼンタ王国、そしてスカーレット帝国は元々一つの国でございました」
「え。凄く大きな国だったんですね」
「はい。簡単に説明しますと、最初に国土の西側がアルケド王国とゴールドブルー帝国に分裂し、3つの国になりました。その後、東側がマゼンタ王国とスカーレット帝国に分裂したのです」
「そうだったんですね」
「少し前までスカーレット帝国の街に分裂前に造られた道があったのでございますよ」
「時間が
「そうでございます。この国は経済と軍事にしか興味が無いようでございますね。
狭い道を歩いていると、海側の丘に木々と高い城壁に囲まれた白い巨大な建物が建っているのが見えた。
「丘の上建つ二重の城壁に囲まれた宮殿に皇帝が住んでいますの」
「へえ。皇帝ですか」
「興味ございませんか?」
「そうですね。あまり」
「そうでございますか。殿方は皇帝のような生活にあこがれるものとばかり思っておりました」
「皇帝がどんな生活しているか全く知らないので、想像が出来ません」
「そうでございますか。広い敷地内に行政の場や宮廷儀式が行われている建物がございます。あとは母后、
(ハーレム!?)
「へ、へえ。凄い人数が働いてるんですね。流石皇帝ですね」
「では、冒険者ギルドに向かってよろしいですか?。その後宿屋に行きましょう」
「はい。お願いします」
街中を歩いているときに住民の服装を見てみたが、今までと特に変わらなかった。
「服装は似たようなものなんですね」
「そうでございますね。砂漠に近い南部だとかなり違いますが、ここはあまり変わらないでございますね」
「そうですか」
「ただ貴族などの上流階級はマゼンタ王国などと違って、黄金や宝石をふんだんに身に着ける文化がございますね」
「へえ。貴族らしいですね」
僕たちは冒険者ギルドに向かった。
迷路のような道を通ってきたせいで全く道を覚えられない。
僕一人では二度と同じ道を通ることは出来ないだろう。
僕たちは冒険者ギルドの中に足を踏み入れた。
そこにいる冒険者は皆、露出度の高い服装をしていて、肌にタトゥーを入れていた。
(みんな魔法を使えるんだな。それにしても露出しないと魔法を使えないのだろうか)
すると僕たちを見つけた冒険者が話しかけてきた。
「お前たち王国から来たのか?それとも砂漠の国か?見た感じ王国っぽいけど」
「王国からです」
「そうか。依頼か?」
「いえ。そういうわけではなく旅をしています」
「旅?へえ。どこに行くんだ?」
「死の大地まで行こうと思ってます」
「ほう。死の大地か。いいねえ。そういえば、最近なぜか南東の街にアンデッドが押し寄せてきててな。原因を調査するため死の大地方面に冒険者を派遣するかどうか、冒険者ギルドが検討しているらしいぞ」
「へえ。そうなんですね」
「もし調査隊が結成されることになったら、お前、参加してみろよ。金がもらえて死の大地に行けるぞ」
「はい。そうなったら検討しますね」
男は会話をしながら僕の体を見ていた。
「お前、皮膚に魔法陣を刻まないのか?すぐできるぞ。しかも魔法が使えるようになる。もしかして魔法使いか?でも剣を持ってるから違うか」
「魔力原液を墨に
「なんだよ。臆病者だな。強くなりたくないのか?この国の冒険者はみんな彫ってるぞ」
男が辺りを見回した。
僕たちの会話が聞こえていた冒険者たちが、腕や足に刻まれているタトゥーを僕に見せてくれた。
確かにすべての冒険者の体にタトゥー魔法陣が刻まれていた。
しかし、ほとんどの人が1、2個。多くて3個だった。
(ペガサスに乗っていた男に比べると、数が少ないけどみんな彫っているんだな)
「なりたいですけど皮膚に刻み込むのはちょっと。消えないんですよね」
「だから便利なんだろ。そうか。彫るか」
「いえ。断固お断りします。では依頼を探したいので。失礼します。情報ありがとうございました」
「お、おう」
僕は足早に男から離れて掲示板のところに移動した。
「セイジ様。依頼をお受けになられるので?ローズマリーからは働かないお方だと聞いておりましたが」
「え。たまに働いてましたよ」
「そうでございますか」
「何か良い依頼はないかな」
討伐依頼の掲示板には、鼻が二つある魔犬ポインター、リザードマン、夜に群れを成して行動する狼に似た小型で赤褐色の魔獣カルジャなど、いろいろ張り出されていた。
「知らない魔獣ばかりですね。海峡を渡っただけで生態系が随分変わりますね」
「そうでございますね。北部と西部は湖と海に接しておりますし、南部に行けば砂漠が、東部に行けば山岳地帯がございます。この国は地域の環境によって気候が違いますから余計に魔獣の生態系に変化があるのでございますよ」
「そうなんですね」
「討伐依頼をなさるんですか?」
「え。いえ。討伐はあまり好きではないですね。誰かが困っていたら戦いますが」
「そうでございますか。セイジ様はお優しいのですね」
「いえ。臆病なだけですよ」
他の掲示板も見てみたが興味をそそられるようなものはなかった。
「なかなか決まらないようでございますね。セイジ様の
「そうですね」
「そうでしたら差し出がましいですが、わたくしめがセイジ様をこの国の名所を案内いたしますが、いかがですか?私に与えられた仕事をしたいと思います」
「観光ですか。いいですね。お願いします」
「では簡単に名所を説明をしますと、中央部は山脈に挟まれていまして、そこに2番目に大きい都市がございます。その周辺に無数の岩山がありその岩山を彫って出来た、今は誰も住んでいない地下都市がございます。近くに塩湖もございますね。東には火山とこの国で一番大きい湖があります。そこも塩湖でございます。火山は近年は活動しておりません」
「地下都市に火山ですか」
「山頂に岩の巨人がいたり、南の砂漠で嵐の精霊が暴れていたり、精霊の聖地があったり他にもいろいろ見どころのある場所がたくさんございますよ」
「どこにいくか悩みますねえ」
「温泉地もあったのでございますが」
(温泉っ!?)
「毒ガスが発生してしまい
「そうですか。残念です」
「9連街と呼ばれる面白い形の街もございますね」
「へえ。どういう街なんですか?」
「最初に円形の城壁で囲われた街があったんでございますが、隣に新たに街を次々増築していきましたら一周してしまい、9つの街が環状に繋がった街でございます。西の海沿いにありますの」
「へえ。真ん中には何があるんですか?」
「何もないでございますよ。放牧や農地に利用してございますね」
「そうですか。そこは安全ですね」
「ここからどこを目指しますか?帝国の中心にある第2の都市を目指し山越えか、山脈に沿って東に行くか。南にある9連街を訪れるか。セイジ様は転移魔法と浮遊魔法があるので山越えは簡単でございましょう」
「そうですね。悩みますね」
「セイジ様は東に向かわれるそうですが、具体的な目的地はあるのでございますか?」
「いえ。目的地はないですね。そこが死の大地と言われていることぐらいしか知らないですし」
「そうでございますか。では東に向かいながら観光をしていきましょうか」
「そうですね。お願いします」
「スカーレット帝国の東は険しい山岳地帯でございますから、その後の旅がしやすくなるように最終的に南東に向かいますね。そこにある街から東に向かってくださいまし」
「はい。ありがとうございます」
「では、まずここから南にある9連街に向かいましょう。その後、帝国の中央にある第2の都市に行きましょうか。よろしいですか?」
「はい」
僕たちは早々に帝都を離れ、南にあるという街に向かった。
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