第136話 国境の街
ペガサスに乗った全身タトゥーの男が、広場に入ってきた第1級冒険者パーティー『ブラッドレッド』に気付き、迎え撃つべく体勢を整えようと空中でペガサスを操った。
その男は右手で黄金の槍を持ち、左手で
僕も広場に到着し、みんなの所に向かった。
アレクセイさんたちは空を見上げ、ペガサスに乗った男を
すると、突如空に暗雲が立ち込め始めた。
「まずいです。雷雲です。恐らくペガサスが雷の魔法を使います」
「ちっ。あれがか。セイジ君。済まないが黄金の槍を持ったあの男を地上に落としてくれないか。あとは俺がやる」
(え)「はい。やってみます」
僕は空を見上げ、優雅に飛行しているペガサスを見定めた。
(殴ったらいいか。でも殺さないようにしないと)
僕は魔銀の義手に付与されている身体強化魔法を発動し、ペガサスに乗ったタトゥーの男の背後にテレポートし、ぶん殴った。
ドガッ。「ぐはっ」
タトゥーの男はペガサスから落馬し、地上に落ちていった。
タトゥーの男は空中で体勢を立て直し、見事に地面に着地した。
「卑怯者めっ」
(え)
空中にいる僕に向かってタトゥーの男が怒鳴った。
すぐさま、アレクセイさんがタトゥーの男に切りかかった。
「卑怯者は貴様だ。お前はここでぶっ倒す」
ギンッ
魔剣と黄金の槍が激突し、火花が散った。
「アレクセイ。その槍は魔槍だ。一撃も食らうなっ」
「ああ。槍からビンビン魔力が伝わってくるぜ」
すると、バサッバサッと翼が空気を切る音がしたので上空を見てみると、ペガサスがタトゥーの男の頭上を旋回しながら駆けていた。
空の暗雲が晴れていく。
タトゥーの男がペガサスから離れたことで、雷の魔法が発動されなかったようだ。
「お前たち。こいつは俺一人で十分だ。こっちに来ないようにペガサスを
「わかった」」」」
ブラッドレッドのメンバーたちがペガサスをの注意を引こうと動き出した。
「セイジっ」
「はいっ」
魔弓を手にしたアデライトさんが空中にいる僕に向かって叫んだ。
「何でしょう」
「ペガサスが装着している黄金の
ペガサスを見ると確かに装着されている。
「ありますね」
「明らかに魔道具だな。恐らくあれでペガサスを強制的に使役しているのだろう」
「なるほど」
「あれをペガサスから外せばペガサスは解放されるはずだ。頼んだぞ」
「わかりました」
「そうはさせるかーっ」
アレクセイさんと戦っていたタトゥーの男がこちらに向かって手を向け、魔法を発動しようとした。
「おいおい。貴様の相手は俺だ。俺と遊ぼうぜ」
すかさずアレクセイさんがタトゥーの男に攻撃を仕掛け、魔法の発動の邪魔をした。
「ちっ。だったらお前を先に殺してやんよ」
再び、魔剣と黄金の槍のつばぜり合いがはじまった。
(アレクセイさんとやり合えるとは。あの男も相当な実力者なんだな)
「セイジ。ボーっとしてんな。ペガサスが暴れ出すかもしれんぞ。早くしろ」
僕が二人の戦いを見ていたら、魔弓を構えているアデライトさんが怒鳴った。
「はいっ。すみません」
僕はテレポートで空を駆けているペガサスの背中に移動し跨った。
すると、僕に気付いたペガサスが暴れ出した。
「うおっ。危ないっ」
僕はテレポートでペガサスの体から離れようとしたところ、「バチバチッ」と言う音が聞こえて来て、ペガサスの体から電気が放出された。
「電気っ!?」
その時、ペガサスに触れていた魔銀の義手が魔力の流れを記憶し、放電の魔法陣が魔銀の義手に浮かびあがった。
「セイジ。遊んでないでさっさとやれっ」
地上からアデライトさんの大声が聞こえてきた。
「はいっ」
僕は再びペガサスに近寄り、慎重に黄金の轡と手綱を魔剣で切った。
「あ。何で切るんだ。貴重な魔道具なのに」
アデライトさんが怒っていた。
「え。すみません」
(あ。テレポートで外せばよかったな)
魔道具から解放されたペガサスは一鳴きすると、この場から離れどこかに飛んで行った。
すると、ローズマリーさんが何かをペガサスに向かって投げた。
ローズマリーさんの魔槍がペガサスの翼を
ペガサスに怪我はなかったようで何事もなく飛んで行った。
僕はローズマリーさんの所に降り立った。
「何をしたんですか?」
「見られてましたか。抜け目ないですね。魔槍の魔力をペガサスに付着させました。目印ですね」
「捕獲するんですか?」
「それは赤竜様次第です。興味がないようでしたら放置します」
「そうですか」
僕とローズマリーさんが
「ぐああああーっ」
急いでその方を見るとアレクセイさんがタトゥーの男を魔剣で切っていた。
「熱いいいいいっ」
タトゥーの男は絶叫しながら、全身を包み込む火を消すかのように地面を転がっていた。
アレクセイさんの魔剣の能力『幻炎』が発動したようだ。
アレクセイさんはタトゥーの男に魔法を発動させる隙を一切与えずに倒していた。
ドスッ
アレクセイさんがタトゥーの男に
みんながアレクセイさんの元に集まった。
「さすがですね。アレクセイさん」
「ふう。彼もなかなか強かったね。彼がペガサスに乗っていれば僕たちは手も足も出ずに負けてただろうけどね。セイジ君のおかげだよ」
「いえいえ」
「そういえばセイジ君。キマイラはどうなったのかな?」
「吸血鬼の国の人たちが倒しました」
「そうかい。それはよかった。これで一応スカーレット帝国のたくらみの一部を潰せたのかな」
「そうですね」
「では。戻ろうか」
僕たちはタトゥーの男の遺体と共に船で港街ブラッシュに戻った。
そのため時間がかなり掛かり、街に着くころには日が暮れそうになっていた。
アレクセイさんたちは報告のために冒険者ギルドへ向かい、僕はローズマリーさんと共に宿屋に向かった。
翌朝、僕たちはアレクセイさんたちと合流し一緒に朝食を取った。
その場でタトゥーの男が持っていた黄金の槍の能力について教えてもらった。
「傷つけた相手を精神操作する邪属性魔法が付与されていた。精霊や妖精、そして魔力が強い者ほど有効だとさ。キマイラはそれで操られていあんだろうな。セイジ君が壊した黄金の
「そうですか。壊したらまずかったですかね」
「いや。気にする必要はない。あんな魔道具は破壊していいよ。ペガサスも今頃どこかで自由を
「そうですね」
「俺たちは王都に帰るが、セイジ君たちはどうするんだい?」
「僕は旅をしてまして東に向かっている途中なんです」
「そうだったのか。東っつってもどこまで東なんだ?」
「そうですね。行けるとこまでですかね。何でも死の大地には白い海があるそうで、東に何もなければ白い海を見てからこちらに戻ってくるかもしれません」
「へえ。白い海ねえ。本当なら見て見たいな。俺も冒険者を引退したら旅でもすっかな」
「いいですね」
食事も終わりブラッドレッドの皆さんと別れることになった。
「東に行くってことはスカーレット帝国に行くんだな」
「そうですね。どんな所か知っていますか?」
「いや。あいにく知らないな。商人なら何か知ってるかもだが。まあセイジ君ならどこに行っても大丈夫だろ」
「はい。こっそり通り過ぎたいと思います」
「あはは。元気でな」
「はい。皆さんもお元気で」
僕たちは宿屋を出て街の外に向かった。
「そういえばローズマリーさんはどこまでついて来てくれるんですか?」
「そうですねえ。スカーレット帝国も赤竜様の支配地なのでついて行ってもいいのですが、私の担当地区からあまり離れすぎるのもどうかと思いまして、スカーレット帝国との国境までお供したいと思います」
「そうですか。ありがとうございます」
「そういえば、セイジ様はずっと一人で旅をされていたのですか?」
「いえ。最初のひと月ぐらいですかね。冒険者になってからは常にだれかと旅をしてましたね」
「そうですか。しばらくは寂しくなるかもしれませんがすぐ慣れますよ」
「そうですかね」
何だかしんみりしてきた。
僕たちは街を出て海沿いに北東に向かった。
「さて、セイジ様。スカーレット帝国に行くには二つの道があります」
「はい」
「一つ目の道は、巨大な湖とその南にある湾に挟まれた細い大地です。そこに川が流れてまして、そこが国境なんですが、その先にスカーレット帝国の帝都、インペリアルレッドがあります」
「へえ。帝都がマゼンタ王国の近くにあるんですね」
「はい。そして、もう一つの道がこのまま海岸線沿いに進む道ですね。その湾は非常に狭い海峡がありまして、そこが国境です。どちらも船で対岸に渡ります。どちらから行きたいですか?」
「そうですね。でしたら帝都の方にします。少し遠回りになりそうですけど」
「そうですか。では巨大な湖まで戻りましょうか」
「はい」
僕たちは巨大な湖を目指して歩き出した。
しばらくして巨大な湖の南にある湖のような湾にたどり着き、その湾の沿って移動し巨大な湖と湾に挟まれた細長い大地に到着した。
「ここから東に行くと湾に流れ込む川にぶつかります。そこにマゼンタ王国の最東端の街があります」
「わかりました」
巨大な湖と湾に挟まれた、平原や小高い丘がある大地を東に進んでいくと、城壁に囲まれた街が見えてきた。
「あの街の名はブリックです」
街の東側には丘があり堅牢な城壁が建っていた。
「あの城壁の向こう側に湾に注ぐ川があります。その先がスカーレット帝国ですね」
「そうですか」
城門を通り街の中に入ると、城壁の中に赤茶色の屋根に石造りの白い建物がみっちり建っていた。
街の中心に行くと広場があり、そこに冒険者ギルドと竜神教会が並んで建っていた。
「さてセイジ様。これからどうされますか?帝国に向かわれますか?宿屋で休みますか?食事にしますか?もちろん冒険者活動はしませんよね」
「はあ。依頼はさすがに受けないですね。とりあえず、お昼ご飯にしますか」
「そうですね。では案内します」
「はい」
僕はローズマリーさんに連れられて料理屋に向かった。
料理屋に入るとローズマリーさんは、まっすぐに人がいるテーブルに向かった。
ローズマリーさんは優雅に飲み物を飲んでいた女性に話しかけると僕を呼んだ。
「こちらがセイジ様です」
すると、その女性が立ち上がった。
「初めましてセイジ様。私はスカーレット帝国担当主任、ヴァン獣人のユーフェミアと申します。以後お見知りおきを」
ユーフェミアと名乗った女性は優雅にスカートの端を持ち上げ
「え。あ、初めまして。せいじです。よろしくお願いします」
ユーフェミアさんは真っ白な長い髪の女性で猫耳が生えていて、黒い長そでの上着に灰色のハイウエストのロングスカートを履いていた。
「セイジ様、座って下さい。食事にしましょう」
「はい」
「ユーフェミアは猫の獣人です」
「そうなのでございますよ」
「そうですか。という事はスカーレット帝国ではユーフェミアさんと一緒に行動するという事ですか?」
「そうですよ」
「そうでございます」
「そうですか」(一人旅がどうのこうの言ってたのは何だったのか)
「美人でよかったですね」
「はあ。まあそうですね。赤竜さんの配下は美人ばかりですね」
「まあ。セイジ様は口上手なのですね」
「いえ。正直なだけです」
「セイジ様は私に言ってくれませんでしたね」
「え。そうでしたか。きっかけがなかっただけですよ」
「まあいいでしょう。では注文いたしますね」
「はい。お願いします」
ローズマリーさんが注文した料理は野菜とお肉が入ったグラタンのような料理と
野菜とチーズと卵を一緒に炒めた料理が出てきた。
「ユーフェミア。セイジ様は料理の注文が出来ませんのであなたがやるように」
「まあ。そうでございますか」
「え。出来ますけど料理を全く知らないだけです」
「まあ。料理に興味がないのですか」
「いえ。そういうわけではないんですけど、無知なだけです」
「セイジ様。ユーフェミアは高貴な家柄ですけど、私と同じように雑に扱って構いませんので」
「え。ローズマリーさんを雑に扱ったことはありませんけど」
「セイジ様。遠慮せずに命令してくださいましね」
「いえ。出来るだけ迷惑をかけないようにします」
ユーフェミアさんと目が合って気づいたのだが、ユーフェミアさんは青と
「ヴァン獣人はみなオッドアイなのです」
ローズマリーさんが教えてくれた。
「そうでございますよ。気になりますか?」
「いえ。とても素敵です」
「まあ。ありがとうございます」
「セイジ様。ユーフェミアの事が気に入ったんですか?」
「え。いや。そういうことではないです」
「まあまあ。ローズマリーったら焼きもち
「セイジ様をからかっているだけですよ」
「まあ。そうでしたか」
女性たちの会話が続く楽しい食事に時間が終わり、僕たちは料理屋を出た。
「では、セイジ様は一人で宿屋に泊まってください。出発は明日早朝でいいですね」
「はい」
「お迎えに参りますね」
「はい。ありがとうございます」
僕は二人と別れ宿屋に向かった。
翌朝、宿屋を出るとすでにローズマリーさんとユーフェミアさんがいた。
「おはようございます。お待たせしましたか」
「ええ。すこしですが」
「すみません」
「まあ。今来たばかりじゃありませんか。気にしなくてよろしくてよ。セイジ様」
「そうですか」
「では。私は戻りますね。あとはよろしくね。ユーフェミア」
「ええ。任せてください」
「ローズマリーさん。ここまで色々お世話になりました」
「こちらこそ。短かったですが楽しい旅でした。それでは」
ローズマリーさんは歩いて立ち去っていった。
「さあ。セイジ様。これからいかがいたしますか?次の街に行きますか?」
「そうですねえ。とりあえず、この街の冒険者ギルドに行きたいです」
「わかりました。こちらでございますよ」
ユーフェミアさんに案内され、僕はこの街の冒険者ギルドに向かった。
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