第135話 メデューサの宮殿
僕とローズマリーさんは冒険者ギルドから外に出た。
「それにしてもあの受付、話が長かったですね」
ローズマリーさんが特に気にしてなさそうな口ぶりで僕に話しかけてきた。
「僕のために丁寧に説明してくれたんですよ」
「そうですか。それでセイジ様。すぐに島に向かいますか?」
「それもいいですが、
「いいですね」
僕たちは料理屋に向かった。
そこで食べたのは、肉などを野菜の葉で
美味しくいただいた後、僕たちは港に向かった。
僕が空を飛べるので船に乗る必要はないため、僕たちは
空を飛び海上を進んでいくと、無人島であろう小さな島がいくつも浮かんでいた。
しばらく進み、距離にして100kmほど離れたところに巨大で細長いラバ島があった。
僕たちはラバ島の西端に上陸し、島の中央に向かった。
細長いラバ島は全体が森に覆われていて、グリフォンが棲息しているという山も遠くに見えた。
森を抜けると、唐突に広大な廃墟の宮殿が現れた。
「うおっ。いきなり現れましたね。そういえば城壁がありませんね」
「そうですね。島ですから魔獣の脅威も少なかったのでしょう」
「なるほど。まさかシーホースの幻獣に襲われるとは思ってもみなかったんですね」
宮殿を構成する建物の多くは赤い石で造られていた。
僕たちは宮殿の上空を飛びこえ、中央にあるという広場に向かった。
その宮殿は広場を囲むように多数の建物が建てられていて、複雑な道が形成されていた。
広場の北には大階段のある巨大な5階建ての建物の王宮があり、西には神殿が建てられているが両者とも破壊がすごく見る影もない。
王宮の1階には女王の間があって浴室や化粧室跡などが発見されたそうだ。
地図によると、儀式場や倉庫などの建物が残っているようだ。
僕たちは中央広場に降り立った。
そこにはいくつかのテントが立てられていて、冒険者の姿もあった。
僕たちは広場の東にあるメデューサの宮殿に向かった。
メデューサの宮殿の入り口には太い柱が建てられていて扉はなかった。
発火を発動させ暗い建物の中に入り、宮殿の地図を見ながら進んでいくと、壁があちらこちらで壊れていて、壺や文字が刻まれた粘土版なども地面に散らばっていた。
地下への階段を見つけ慎重に下っていく。
そこは広い部屋になっていて道が正面と右左に延びていた。
僕は階段を降りたところで足を止め、改めて地図を見た。
地下は部屋数も多く迷路のような複雑な構造になっているため、地図が完成されていない。
メデューサの
メデューサの楯の封印を解かれると危険なので、
「道が分かりませんねえ。とりあえず下にいけばいいんでしょうか」
僕が地図を確認しているとローズマリーさんがのぞき込んできた。
「ここに侵入したスカーレット帝国の間者も正確な位置は知らないのでしょうね」
「ですね。今だに何も起きていないという事は、まだ見つけていないんでしょうね。地下迷宮で迷子になっているかもしれませんね」
「第1級の彼らも迷子なのでは?」
「第1級冒険者のブラッドレッドの皆さんなら機密情報も教えてもらっているかもしれませんから、先に封印の部屋についているかもしれませんよ」
「セイジ様は第2級ですけど、教えてもらえないんですか?」
「どうですかね。教えてもらえなかったんで無理だったんでしょうね」
発火の
僕たちは足を止め近づいてくる者を待っていると、発火の光が巨大な姿を照らし出した。
「っ!?巨人?」
その巨人は通路をぎりぎり通れるぐらいのずんぐりむっくりとした体格で、青緑色をした石のような肌をしていた。
その巨人には、胸の真ん中に赤く光る巨大な丸い石のようなものが埋まっていた。
「巨人ではなくゴーレムですね」
後ろにいるローズマリーさんが教えてくれた。
「そうなんですか。このゴーレムの事を知っていたんですか?」
「いえ。その赤い部分からだけ魔力を感じましたので」
「そうなんですか。魔石ですかね」
すると、ゆっくりと僕に近づいてきたゴーレムが殴りかかってきた。
僕はテレポートでゴーレムの背後に移動した。
炎でゴーレムの背中が照らされると背中にも赤い結晶が見えた。
どうやら円柱状の結晶みたいだ。
「セイジ様。赤い結晶を破壊してください」
「はい。わかりました」
僕は水の魔剣を手に取りゴーレムの背中に向けて射出した。
ガッ
魔剣が赤い結晶に突き刺さりひびが入った。
魔剣を回収すると血のような液体がどぼどぼ流れ出てきた。
「うわっ。何か出てきましたよ」
ゴーレムはローズマリーさんに襲い掛かっていたが、液が出なくなると動きを止めた。
「液体がゴーレムの燃料だったんですか」
「そのようです。セイジ様。次も同じゴーレムが現れたら液体の回収をお願いします」
「え。あ、はい。わかりました」
そのゴーレムとはすぐに出会うことが出来た。
先ほどと同じように、僕がテレポートでゴーレムの後ろに回って赤い容器に魔剣を突き刺そうとしたところ、突如ゴーレムの全身が高熱に変化した。
「何だっ!?」
僕は慌てて後ずさった。
「こんな攻撃方法もあるのか。赤く見えたのは火属性魔力だったんですね」
「セイジ様。感心している場合ではありません。早く魔剣を刺してください」
灼熱のゴーレムに襲われながらローズマリーさんが冷静に言ってきた。
「はい」
僕は魔剣をゴーレムの赤い容器に突き刺した。
燃料がある程度流れ出るとゴーレムの発熱が治まった。
僕はその隙にゴーレムの背後に接近し、空のポーション容器にゴーレムの燃料を入れた。
ゴーレムは動きが止まった。
「どうぞ」
僕はローズマリーさんに容器を渡した。
「ありがとうございます」
「何に使うのですか?」
「主に研究用ですね。それに、もしかしたら赤竜様がお気に召すかもしれません」
「ああ。食べるんですか。そういえば僕の持ってた火属性魔力原液も食べられちゃいましたね」
「素晴らしいお
「そうですか」(お土産ではなかったんですけど)
僕たちは迷宮の探索を再開し、地下2層への階段を見つけた。
この階も通路は狭く大小の部屋がたくさんあった。
(討伐依頼じゃなかったら色々捜索できたのにな)
部屋に入ることなく下への通路を探していると新たな魔獣が現れた。
「大きい猫?」
この猫の魔獣の毛も青緑色をしていた。
猫の魔獣は僕たちを見て
「まさか猫のゴーレム?」
「いえ。獅子の魔獣です。まあ、猫でもいいです」
「そうですか」
「青銅並みに硬い毛をしていて、鋼鉄の牙と爪を持っています」
「なるほど。強敵ですね」
「
「そうですけど」
「
ローズマリーさんが一歩下がった。
「はい。別の方法で倒してみます」
獅子の魔獣は僕を見ながらじりじり近寄って来ていて、今にも跳び掛かってきそうだった。
(そうだ。レオナさん。僕の右手に移動して生命力を吸収する能力を使ってもらえませんか?)
(は~い)
僕は獅子の魔獣の背後にテレポートしてそっと
「ギュッ」
獅子の魔獣の体が震え力が抜けたようだが、何とか飛び
魔銀の義手を見ると表面に新たな紋様が浮かび上がっていた。
(ありがとうございます。うまくいきました)
(は~い。でもセイジ君、死霊属性の魔石持ってないよね~)
(そうでした。魔力の補給が問題ですね。スケルトンの魔石は全部売っちゃいましたからね)
獅子の魔獣はフラフラになりながらも僕に襲い掛かってきた。
ドスドスドスッ
僕は傍に浮かせていた3本の魔剣を射出した。
獅子の魔獣が地面に倒れ伏した。
「お見事です。セイジ様。それにしても色々な魔法を使えるのですね」
「そうですね。でも僕自身は貧弱なので魔道具や他人の魔法に頼りっぱなしです」
僕は獅子の魔獣から魔石を回収した。
僕たちは魔獣を倒しながら下へ下へと進んでいった。
「そういえば、ローズマリーさんも魔力の流れを感じることは出来るんですか?」
「当然です」
「という事は依り代までの道のりが分かっているんですね」
「はい」
「案内をお願いできませんでしょうか」
「仕方ないですね。薄汚い迷宮にいつまでもいたくありませんから案内しましょう」
「ありがとうございます」
ローズマリーさんの先導で僕たちは、最下層の地下5階まであっさりとたどり着くことが出来た。
地下5階に足を踏み入れるとそこには犬がいた。
「犬?」
しかし、普通の犬ではなく頭が二つあった。
「ケルベロスかと思ったら頭が二つだった」
「オルトロスですね」
「へえ。オルトロスというのですか。尻尾がヘビになってますね」
「犬もヘビも毒持ちです」
「なるほど」
すると遠くから獣の咆哮が聞こえてきた。
「ヴォオオオオオオオオオオッ」
僕もオルトロスもビクリと体を震わせた。
「どうやら戦っているようですね。セイジ様。犬っころをさっさと倒して向かいましょう」
「はい」
僕は発火を10発作成し、オルトロスを囲むようにテレポートさせ一気に射出した。
すべてオルトロスに直撃し、オルトロスは炎に包まれた。
「お見事ですセイジ様。さあ。行きましょう」
「はい」
僕はオルトロスを解体し、急いで魔石を回収した。
ローズマリーさんに案内され着いた場所は、大きな重い扉のある部屋だった。
扉を押して中に入る。
その部屋は特別に広かった。
そこではブラッドレッドの皆さんと全身タトゥーの男たちとミノタウロスの三つ巴の戦いが行われていた。
ガチャリ。
背後で扉が閉まった。
いやな予感がして扉を押してみるが開かない。
この大広間にはいくつも扉があったが中からは出られない造りのようだ。
(どうやって出たらいいんだろ。あとで考えるか)
僕は戦いに視線を戻した。
全身タトゥーの男はペガサスに乗っていた男とは別人で、床にも全身タトゥーの人が数名倒れていた。
(スカーレット帝国の間者は全員倒せそうですね。さすが第1級です)
アレクセイさんが一人でミノタウロスを相手にしていて、他のブラッドレッドの皆さんは残り一人になった全身タトゥーの男と戦っていた。
アレクセイさんは、仲間が間者を倒すまでミノタウロスを抑えていたようだ。
守護者であるミノタウロスは筋骨隆々で、お尻に尻尾が生えていて赤銅色の肌をしていた。
手には両刃の斧を持っていて、両手にはブレスレット、両足にはアンクレットを装備していた。
ビュッ
『最速』のアデライトさんが放った弓が全身タトゥーの男の体を貫いた。
間者の討伐が完了したようだ。
部屋の中に入っていた僕にアレクセイさんが気付いた。
「やあ。セイジ君。早かったね」
「はい。ですが来た意味がなかったですね」
アレクセイさんはミノタウロスと戦いながら僕と会話している。
「そんなことないさ。運よく僕たちが先に倒せただけさ」
「ところでこの部屋からどうやって出るんですか?扉が一方通行みたいですけど」
「大丈夫。出口は2か所あるよ。上を見てごらん」
言われた通り上を見てみると壁の上の方に穴が開いていた。
「穴がありますね」
「あの穴から外に出ることが出来る」
「でも高い場所にありますよ?」
「君ならいけるでしょ」
「まあ。そうですね。みなさんは?」
「石壁の隙間に指をひっかければ上まで登れるでしょ」
「はあ」(普通は無理だと思いますけど)
「登れなかったら他の冒険者がやって来るのを待つという手もあるぞ」
「え。いつ来るか分かりませんよね」
「そうだね。その時は気長に待てばいいさ。こいつと戦いながら」
「はあ」
「そろそろ眠ってもらおうかな。ふんっ」
ドスッ
アレクセイさんがミノタウロスのみぞおちに剣の
気絶させたようだ。
「ふう。なかなか体力あるな。流石守護者だね」
アレクセイさんは仲間から水を貰って飲んだ。
他のみなさんが部屋を捜索し始めた。
(テレポートで扉の外に言って開けようかな)
僕が扉の所に行こうとしたところアレクセイさんが話しかけてきた。
「セイジ君はメデューサの事を知ってるかい?」
「いえ。街で似顔絵は見ましたけど」
「俺も見たよ。言い伝えでは美人だったそうだよ」
「そうなんですね」
「では、メデューサを討伐した冒険者が装備してた武器や防具の事は知ってるかな?」
「いえ。知りません」
「両刃の剣グラディウス。空中を歩ける羽の付いたブーツ。鏡のように磨かれた楯。姿隠しの魔法が付与された兜。そして魔道具の袋だ。袋はここにあるが他は行方不明なんだよ」
「そうなんですか。この部屋にあるんですか?」
「さあね。
「そうですね。ところでメデューサの楯はどこにあるんですか?見た感じどこにもないですけど」
部屋を見渡してみたが石で出来た祭壇があるだけの丸い部屋だった。
祭壇は部屋の奥にあり、その上に文字が刻まれた粘土板が飾られていた。
(あれが依り代か)
「床か壁に隠されているんだろうね。持ち出されたら大変だからね」
「そうですね。アレクセイさんも知らないんですね」
「ああ。第1級でも教えてもらえないらしい。まあ。冒険者ギルドの職員も知らないかもしれないけどね」
「そうですか」
ブラッドレッドの皆さんが丹念に壁や床を調べていたが、結局何も見つからなかった。
「見つからないな。簡単に取り出せないようにしてるのかな」
「そうですね」
するとローズマリーさんがやってきた。
「セイジ様。ここでやることはなくなったようですので扉を開けてください」
「はい」
僕はテレポートで部屋の外に出て扉を開けた。
「驚いた。セイジ君は転移魔法も使えるんだね」
「はい。そうなんです」
「セイジ君。仲間にならない?」
「え。遠慮します」
「そうかい。それは残念。では地上に戻ろうか」
「はい」
地上に戻り広場に向かっていると、そこには
広場には何人もの血だらけの冒険者が倒れていた。
そして上空にはペガサスに乗ったタトゥーの男がいた。
「くそっ」
アレクセイさんがいち早く広場に向かって駆けていき、ブラッドレッドのメンバーたちも続いた。
僕も一瞬遅れてアレクセイさんたちを追いかけた。
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