第134話 キマイラ
「あのう。どこにいくんですか?」
僕は
ローズマリーさんと吸血鬼の冒険者さんたちも後ろからついて来ている。
「宿屋だよ。出発は明日さ。今から行きたいのかい?」
「いえ。わかりました」
妖の魔女さんはようやく僕の腕を開放してくれた。
「キマイラの場所は分かっているんですか?」
「私を誰だと思ってんだい。キマイラの居場所くらいすでに見つけているさ」
「すみません」
「キマイラは湖の
「そうなんですか」
「あんたたちの後を付けてたから、何があったかは
「そうだったんですか」
「私たちに気付いていたのはあんたの連れだけだったけどね。アデライトも王国最強もたいしたことないね」
「はあ」
(ローズマリーさんすごいな)
ローズマリーさんはすました顔をしていた。
「あんた、風呂好きかい?」
「はい。好きですけど」
「この街には大小二つの石造りの浴場があるけど行ってくるかい?それとも
「露天風呂ですか。いいですね。でも止めときます」
「そうかい。高級ポーションを浴びる方が好きなんだね」
「えっ。何で知ってるんですか?」
「私は薬学が専門の妖の魔女だよ?あんたから香ってくる薬草の種類くらいすぐわかるさ」
「そうなんですね。さすがです」
「はっ。ほめたってなにもでてきゃしないよ。マライヤがあんたに指輪を渡してなかったら、あんたを動物に変えてあんたの持ってる魔道具や情報をすべて奪ってやったんだけどねえ」
「え」
(恐ろしい魔女さんだな。マライヤさんありがとう)
「ほんとあの子は余計なことばかりする弟子だよ。近々マライアに会うから一言文句を言ってやろうかね」
僕たちは妖の魔女さんたちと共に宿屋に泊まることになった。
翌朝、僕たちはその宿屋で朝食をとることにした。
ローズマリーさんが店の人と料理のメニューついて話していた。
「セイジ様。お米料理がありますよ」
「お。それ食べます」
深いお皿で出てきた料理はお肉と野菜が入ったお米料理だった。
(ピラフみたいな料理だな。チャーハンかもしれないけど)
「セイジ様。ヨーグルトを掛けますか?」
「え。いえ。結構です」
(おコメにもヨーグルトを掛けるのか。うーん。次の機会にしよう)
食事が終わるころに魔女さんたちが2階から降りてきた。
「行くよ」
「え。食事は食べないんですか?」
「私は自分で作った丸薬がある。吸血鬼の連中はいらないとさ」
「そうですか。でしたら行きましょう」
「食べるかい?」
妖の魔女さんが黒い丸薬を差し出してきた。
「え。いえ。動物にはなりたくないんで」
「けけけっ。臆病だねえ。あんたを動物にしたりはしないさ」
「そう願います」
「湖に向かうよ」
「はい」
僕たちと魔女さんたちは街を出発し、キマイラを討伐するため湖に向かった。
キマイラ討伐隊のメンバーは、僕とローズマリーさん。
そして妖の魔女さんと吸血鬼のメイベルさん、ケナガイタチ獣人の吸血鬼エイダさん、巨人族の吸血鬼モニカさんだ。
街を出てすぐ湖に到着した。
湖はとてつもなく広かった。
千里眼を使っても対岸が全く見えなかった。
海と言ってもいいくらい大きかった。
湖に沿って南下していると湖のすぐそばに石壁が建っているのが見た。
「あそこが露天風呂だよ」
「おお」
湖を目の前に望む露天風呂がそこにはあった。
僕は石壁に近づき上から中を覗き込んだ。
そこにはプールのように広い温泉があった。
(ふむ。源泉かけ流しか)
「入るかい?」
「いえ。行きましょう」
僕たちは湖の
「そういえば妖の魔女さん。白い犬は連れていないんですか?」
「マリリンちゃんはキマイラを追っている」
「そうなんですね。犬型の古代魔法文明のゴーレムを始めてみましたよ」
「アレに容姿は意味をなさない。ただ犬の形をしているだけさ。人型のゴーレムと同じことが出来る」
「そうなんですか。あれ?ゴーレムは主人を守るんですよね。そばにいなくても平気なんですか?」
「何だい。あんた私を殺すつもりなのかい?」
「え。そんなことしませんよ」
「私は魔女だよ。アレに頼らなくても自分の命くらい守れるさ。それに心配しなくてもアレは今も私を守ってくれている」
「そうなんですね」
妖の魔女さんの片耳で大きな白い玉のイヤリングが揺れていた。
「あっちだよ」
僕たちは道を外れ、森の中に足を踏み入れた。
しばらく進んでいると妖の魔女さんが作戦を告げた。
「セイジは上から。キマイラが空に逃げないようにしておくれ。吸血鬼たちが
「はい」
すると前方から白い犬が軽快に走ってきた。
その勢いのまま白い犬は妖の魔女さんの胸に飛び込んだ。
「あら可愛いねえ。いい子だねえ。よしよし。ふんふん。そうかいそうかい」
妖の魔女さんはひとしきり白い犬と
「マリリンちゃんによるとキマイラが近くにいるようだね。この先は確か『岩石の森』だったね」
「岩石の森って何ですか?」
「ただ石があるだけの古い遺跡さ」
「そうですか」
「セイジは上空に」
「わかりました」
僕は空中に移動した。
上空から下を見ると森の中にぽっかりと空間が開いていて、白い岩が無数に立っている場所が見えた。
(あれが遺跡か。本当に石の柱だけが建ってるんだな。あ、キマイラがいた)
その開けた場所に大きな泉があり、そこでキマイラが水を飲んでいた。
するとキマイラが何かに気付いて顔をあげた。
巨人族のモニカさんを先頭に、ケナガイタチ獣人のエイダさんとメイベルさんがキマイラに向かって突っ込んでいた。
妖の魔女さんとローズマリーさんの姿が見えないので後方で控えているのだろう。
すると、キマイラがハーピーを大量に召喚した。
巨人族のモニカさんがハーピーたちを拳でぶん殴りながらキマイラに肉薄した。
キマイラがライオンの口から炎を噴射したが、巨人族のモニカさんは炎を身に浴びても足を止めることなく、キマイラの
キマイラの山羊の頭が千切れそうなくらい横に吹っ飛んだ。
メイベルさんは少し離れたところで足を止め、魔法を発動した。
するとドーム状の真っ暗な空間が出現した。
暗闇に包まれたハーピーたちの困惑した声が聞こえてきた。
次の瞬間、暗闇の中からハーピーたちの絶叫が森に響いた。
暗闇が晴れた時、そこには鎌を持ったケナガイタチ獣人のエイダさんが血まみれで立っており、その周囲には切り刻まれたハーピーたちが散乱していた。
山羊の頭を破壊され、ハーピーも全滅し、危機を感じたキマイラが空中に飛び立った。
すかさず僕は上空から念動波をキマイラにぶち込んだ。
念動波が直撃しキマイラは空中で止まった格好になった。
すかさず巨人族のモニカさんがキマイラに抱き着き、地面に押し付け動きを封じた。
キマイラは暴れてモニカさんから
ガブッ
キマイラの尻尾の大蛇がモニカさんに噛みついた。
「あっ。毒が。ポーション用意します」
僕がリュックからポーションを出そうとしたところ、地上から妖の魔女さんの声が聞こえてきた。
「必要ないよ」
「魔女さんが解毒をしてくれるんですか」
「あの子には毒が効かないのさ」
「そうなんですか。吸血鬼だからですか?それとも巨人族だから?」
「吸血鬼にも巨人族にも毒は効く。あの子は毒消しの作用を持つ石に住む土の精霊の一族だからさ」
「なるほど」
ザクザクッ
「ギュオオオオッ」
何かを切る音とキマイラの悲鳴が聞こえてきたので見てみると、ケナガイタチ獣人のエイダさんがキマイラのコウモリの羽を切り落としていた。
巨人族のモニカさんがライオンの首を筋肉質な太い腕で
さらにケナガイタチ獣人のエイダさんが、キマイラの背後に回り尻尾の大蛇を切り落とした。
程なくして全身から力が抜けたキマイラが地面に横たわった。
(強い。これが吸血鬼国最強冒険者パーティーか)
戦闘が終わったことを確認して、僕は地上に降り立った。
「やりましたか」
「ああ。あとは素材を回収するだけさ。何か欲しい部位はあるかい?」
妖の魔女さんがそう聞いてきた。
「いえ。特にないのでいりません」
「そうかい。だったらあんたにはこれをやろう」
妖の魔女さんから白い液体が入った容器を貰った。
「なんですかこれ?」
「石化を解除するポーションさ。メデューサの迷宮に行くんだろ?」
「はい。ありがとうございます。7本もですか」
「君らと最強君たちだよ。必要ないだろうけど用心のためさ」
「なるほど。助かります」
「マゼンタ王国内の事件に吸血鬼国の者が深入りしないほうがいいだろうから、これ以上あんたたちの手伝いはしないよ」
「わかりました」
「ではな」
妖の魔女さんたちはキマイラの解体を終えると、吸血鬼の国、ロイロー王国に帰っていった。
「ローズマリーさん。メデューサの宮殿がある場所まで案内してもらえますか?」
「わかりました。まずはマゼンタ王国南東部最大の街ブラッシュに向かいましょう」
僕たちはテレポートを使ってブラッシュの街に向かうことにした。
マゼンタ王国南東部最大の街ブラッシュは逆三角形の半島の頂点にある。
「ローズマリーさん。転移魔法で行っちゃうと第1級冒険者パーティー『ブラッドレッド』の皆さんを追い抜いちゃうのでゆっくり行きましょうか」
「はあ。気を使わなくてもいいと思いますが。もしかして戦いたくないわけではないですよね」
「え。いや、そういうわけではないですよ。同じくらいに着くようにしましょう」
「そうですか」
数日掛けたどり着いたブラッシュの街は、海と城壁で囲まれた街で中心に丘があった。
街に入ると石造りの建物が建ち並んでいたが、建物も石畳の道も白かった。
(街が真っ白だな。それにしてもこの街は木造じゃないのか。王国内でも北と南で文化が違うんだな。でもやっぱり道が狭くて迷路のようだ)
街の中心部には森に囲まれた岩山があり、岩山の上は平に整地され竜神教会が建っていた。
(何であんなところに建てたんだろ)
僕たちは岩山の下にある冒険者ギルドに向かった。
道すがらふと建物を見てみると、壁や
「美少女の顔が彫られていますね」
「あれはメデューサですね」
よく見ると髪の毛は蛇で目の部分だけ青く塗られていた。
「へえ。人気なんですか?」
「魔除けですね」
「ああ。そういう目的ですか」
「そうそう。帝国のダンジョンで見つかった依り代の血ですが、メデューサの血の可能性が出てきたそうです」
「え。危険じゃないですか」
「ですね。慎重に調査を進めているようですよ」
冒険者ギルドに到着し、僕たちは受付に向かった。
「こんにちは。メデューサの宮殿にスカーレット帝国の間者が侵入したと聞いたんですけど、今どうなっていますか?第1級冒険者パーティー『ブラッドレッド』が依頼を受けたと思うんですけど」
「はい。その件でしたらすでに数組の冒険者が現地で間者を捜索しております。まだ討伐の報告は受けていません。ブラッドレッドは今頃宮殿に到着していると思います。間者の目的は『メデューサの
「そうですか。僕も参加したいんですけど、メデューサの宮殿はどこにあるんですか?」
「宮殿は街の南の海に浮かんでいる島の中央部にあります。島の名はラバと言いまして、東西に延びる細長い島です。船が出ていますので港に向かってください」
「ラバ島ですか。どういった島ですか?」
「島は丸ごとダンジョン化しています。迷宮の建物は劣化が激しく崩壊が進んでいますので建物内の探索には注意を払ってください」
「わかりました」
「それから宮殿はとてつもなく広く、建物や部屋がいくつもあり迷路のようになっています。地上の建物のダンジョン地図がありますけど購入されますか?」
「はい」
僕は冒険者ギルドカードで地図を購入した。
「広大な宮殿の中央に広場がありますので、まずはそこに向かってください。そこを拠点に探索するといいですよ」
「はい。ありがとうございます。メデューサの
「広場の東にある建物の中に地下に続く道があります。最奥の部屋のどこかにメデューサの楯が隠されたうえで封印されています。石化対策のために魔道具の袋に入っているそうです」
「そうですか。首だけになっても石化の能力が残っているんですね。どんな楯なんですか?」
「魔牛の革で出来た巨大な8の字型の楯にメデューサの首が付いていると伝わっています」
「そうなんですか」
「ダンジョンの守護者はミノタウロスですが、倒さないでくださいね。メデューサの楯を守って貰わないといけませんから。ちなみに依り代は謎の古代文字が刻まれた粘土板です」
「なるほど。わかりました」
「島の山にはグリフォンが巣くっていますので上にも注意してください。金銀財宝が好きなようで身に着けていると襲ってきます。グリフォンはライオンの体で大鷲の頭部と翼を持つ魔獣で、性質は極めて
「はい」
「昔話をしますと、その宮殿はメデューサの頭を封印するため、当時、島を支配していた王が建築家の鳥の獣人に建設を命じて造らせたそうです」
「へえ」
「しかし、メデューサの父親であるシーホースの幻獣が激怒し、ミノタウロスやグリフォンを召喚して王国に襲い掛かってきたのです。その結果、その王国は滅び強力な魔獣が
「そうなんですね」
「ちなみにそのシーホースの幻獣と蛇の姿をした精霊の間に生まれたのがメデューサと言われています」
「そうなんですか」
(アレクセイさんの説明とちょっと違うけど、まあ大体あってるか)
「封印の建物の場所に印をつけますので地図を貸してください」
「はい」
受付さんに地図を渡しメデューサの宮殿の場所に印をつけてもらった。
「ありがとうございます」
「メデューサの宮殿は地上3階地下5階で部屋数が各階100近くある複雑な構造になっています。それに魔獣も凶悪で一番難易度が高いので気を付けてください」
「はい」
僕は受付さんに礼を言い、冒険者ギルドを後にした。
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