第131話 ハーピーの群れ

街を目指ししばらく飛んでいると、平地が終わり山の多い地域に入った。


すると一緒に飛んでいるローズマリーさんが話しかけてきた。


「隣の領地に入りました。このまま東に行くと領都に着きます」


「わかりました」


山間の街道を進んでいくと、山に囲まれた盆地にある領都ピジョンブラッドに到着した。


領都ピジョンブラッドは川と川との合流地点にあり、その街は赤レンガの城壁に囲まれた街だった。


城門を通ると、石造りの建物と木造平屋建ての建物が混在している街並みが広がっていた。


街の近くには丘があり、その上に領主が住む城壁で囲まれた城が建っていた。


中央広場に向かうと丸い屋根をした竜神教会があり、その隣にレンガ造りの武骨な冒険者ギルドの建物が建っていた。


僕たちは冒険者ギルドに入り、受付でキマイラについて聞いた。


「現在、吸血鬼の国と接している街の近くの森にいるという情報が入っています」


「まだ倒せていないんですか」


「はい。第1級冒険者パーティーが一度交戦したようですが逃げられたようですね」


「そうですか」


「大量のハーピーが邪魔をして苦戦しているようです」


「なるほど」


「そのキマイラですが、どうやら隣のスカーレット帝国が王国にはなったと言う情報が入っております」


「マゼンタ王国と戦争状態と言う帝国ですか」


「ええ。最近は小康状態でしたが動き出したようですね。陽動ようどうかもしれませんが」


「なるほど」


「それと吸血鬼の国であるロイロー王国からもキマイラ討伐のための冒険者パーティーが送り込まれたようです。キマイラがロイロー王国に向かうかもしれませんからね」


「そうなんですか」


「セイジさんもキマイラ討伐に参加されるのでしたら、ここから北東にあるワイルドストロベリーと言う名の街に向かってください」


「はい」


僕たちは冒険者ギルドを出て宿屋に向かった。


僕たちは宿屋の一階にある料理屋で、ひき肉を棒状に固めてグリルした料理と餃子みたいな具が入った煮込み料理を食べ、就寝した。


翌朝、僕たちはキマイラがひそんでいるという森に向かうため、その近くにあるワイルドストロベリーという街を目指し出発した。



僕たちは北東に進み森の中にあるワイルドストロベリーの街に夕方ごろ到着した。


その街は大きな滝の上の丘にある街だった。


僕たちは冒険者ギルドを目指し街の大通りを進んでいった。


この街は平織ひらおりの敷物が特産のようで、お店ごとに特徴が異なったデザインの敷物を売っていた。


街の中央にある小さな広場にはいくつもの料理屋がのきつらねていた。


さらに奥に進むと街で一番高い塔がある冒険者ギルドがあった。


冒険者ギルドに入ると、建物の中が冒険者たちの熱気に包まれていた。


まるでマゼンタ王国中の冒険者たちが、この街に集まってきている様な混雑ぶりだった。


僕は受付に向かいキマイラについての最新情報を聞いた。


「現在キマイラは街の北にある臙脂えんじの森に潜んでいると思われます。第1級冒険者パーティーであるブラッドレッドの皆さんが追跡中とのことです」


「吸血鬼の国の冒険者パーティーはどうですか?」


「はい。彼女らは独自で動いておりますので、マゼンタ王国の冒険者ギルドに情報はあまり入っていませんね。討伐したら教えてくれるとは思いますが」


「そうですか。僕も討伐に参加してもいいのですか?」


「はい。もちろんです。無理はなさらないでくださいね」


「わかりました」


僕たちは食事をするため冒険者ギルドを出て料理屋に向かった。



料理屋に入り、ローズマリーさんに注文して貰った料理は、トマト味のシチューと

たまねぎのひき肉詰めだった。


ひき肉と一緒にお米も入っていて驚いた。


こってりとした味を楽しんでいると、料理屋に見るからに冒険者の格好をした女性たちと高級そうなマントを羽織った貴族のような人が入ってきた。


その人たちは店内を見渡し、僕を見つけると真っすぐに向かってきた。


(え。僕ですか)


貴族のような男性が僕に近づいて来て言った。


「失礼ですが、あなたがセイジと言う名の冒険者ですか?」


「はい。そうですが」


「初めまして。私はロイロー王国のヴィルヘルム侯爵だ。席にすわっても?」


「あ、はい。どうぞ。初めまして、せいじです」


ヴィルヘルムさんが席に座ると女性冒険者たちも別のテーブルの席に座った。


一人の女性だけはヴィルヘルムさんの背後に立って微笑ほほえんでいた。


「なぜ僕のことを知っているんですか?」


「娘が世話になったと彼女に聞いてね」


「はあ。娘さんですか」


ヴィルヘルムさんが片手を軽く上げて、後ろの女性をうながした。


「初めまして。私は吸血の魔女の師匠、あやかしの魔女よ。私の名前知りたい?」


「初めまして。名前は結構です」

(マライヤさんの父親なのか。そういえば同じ赤毛と灰色の肌だな)


「そう。あなた、彼女から指輪を貰ったでしょ」


「はい」


僕はポケットから、台座の部分が平らな金属だけの簡素な指輪を取りだした。


「彼女からあなたの事を教えてもらったの。あなたが近くに来たから会いに来てみたのよ」


「そうでしたか」


「セイジ君は冒険者で、この街にいるという事はキマイラ退治に参加するのかね?」


ヴィルヘルムさんが話しかけてきた。


「はい。そのつもりです」


「そうかい。それは頼もしいね。実は我々も同じ理由でここにいるのだよ。私の領地はマゼンタ王国の領地と接していてね」


「そうなんですか。ヴィルヘルムさんも戦うんですか?」


「ん?私も戦えるが私が出る幕はないと思うよ。ロイロー王国で最高の冒険者パーティーと魔女を連れてきたからね」


「そうなんですか。皆さん吸血鬼なんですか?」


「そうだね。妖の魔女は違うがそれ以外は吸血鬼さ」


「そうですか。ロイロー王国は吸血鬼しかいないんですか?」


「よく勘違いされるのだが吸血鬼だけの国ではありませんよ。国民の多くは人間や獣人です。たまたま王族が吸血鬼なだけです。貴族にも吸血鬼が多いですが」


「そうなんですね」


赤ワインが運ばれてきてヴィルヘルムさんの前に置かれた。


ヴィルヘルムさんは一口だけ口にふくんだ。


「マライヤは楽しくやっていたかな?」


「ええ。とても」


「それはよかった。全然連絡をよこさない娘でしてね。家を飛び出して以来、音信不通なのですよ」


「そうなんですね」


僕は魔人国で出会った時の様子をヴィルヘルムさんに話した。


「そんなことが。ようやく古代魔法文明の遺跡を見つけたのですね。ますます家に戻ってこなそうですな」


「そのようですね。遺跡を調査すると言ってましたから」


「そうですか。娘の様子が知れてうれしかったですよ。では、私はこれにて失礼する。お時間を取らせてしまってすまなかった。セイジ君の彼女もすまなかったね」


「いえ。お気になさらず」


ローズマリーさんが答えた。


(彼女じゃないと否定してください)


ヴィルヘルムさんが席を立つと女性冒険者たちも立ち上がった。


「彼女たちの紹介は今でなくてもいいかな。キマイラ討伐の場で出会うだろうからね」


「はい」


ヴィルヘルムさんは、金貨をテーブルに置いて女性冒険者たちと一緒に出て行った。



翌朝、僕たちは豊かな自然に囲まれたワイルドストロベリーの街を出発した。


遠くから高所から水が流れ落ちる滝の轟音ごうおんが響いて来ていた。


(討伐依頼じゃなかったらゆっくり景色を見たかったな)


僕たちはキマイラが潜んでいるという臙脂えんじの森に向かった。


「セイジ様。森に来たのはいいですが、どうやってキマイラを探すおつもりで?まさか何も考えていないはずはないですよね」


「え。も、もちろんですよ。キマイラは大量のハーピーと一緒にいるらしいですから空から探します。僕は遠見の魔法が使えますので」


「そうですか。かなり運頼みですが、考えなしの行動ではなくてよかったです」


「という事で僕は木の上まで飛んで探しますね。ローズマリーさんはゆっくりついて来てください」


「わかりました」


僕は木の上まで上昇した。


空中をフヨフヨ移動しながら千里眼で周囲を観察していると、ようやくハーピーらしき魔獣の群れを見つけた。


「ローズマリーさん。ハーピーを見つけました。向かいます」


「わかりました。一人で向かってください。追いかけます」


「はい」


僕はテレポートで空飛ぶ魔獣の元に向かった。


近くまで来たところで僕は透明化して地上に降り立ち、慎重に近づいて行った。


すると地上にもハーピーの群れがいて何かをしていた。


ハーピーは半人半鳥の魔獣で、腕がたかの翼になっており、下半身も鳥の様になっていて足の爪が鋭かった。


顔は人の女性ようだが鳥の割合が高かった。


ハーピーたちが集まっている地面をよく見てみると、冒険者らしき人たちが倒れていた。


(キマイラ討伐の冒険者たちかな。やられちゃたのか)


ハーピーたちは冒険者や冒険者の持っていた食糧を食べ散らかしていた。


上空を見ると数匹のハーピーたちが偵察をするかのように旋回せんかいしていた。


僕は木に隠れながら周囲の森を見渡した。


(キマイラがいないな)


しばらくするとローズマリーさんがやってきた。


(透明化してても気配でわかるのか)


ローズマリーさんが僕の顔をじっと見た。


(早くハーピーを倒せってことですか)


僕は透明化を解除しハーピーたちの前に姿を現した。


僕に気付いたハーピーが奇声を上げ、仲間たちに敵の接近を伝えた。


すると付近にいたハーピーたちが集まってきた。


僕が空中に移動し静止すると、僕をめがけてハーピーの大群が一斉に襲い掛かってきた。


僕は魔銀の義手に魔力を込め、テレポートで僕を取り囲むハーピーの攻撃をかわした。


魔銀の義手を残して。


地面に降り立った僕は能力を発動した。


(炎霧)


魔銀の義手を中心に炎霧が発動し、ハ-ピーの大群を炎の霧が包み込んだ。


「ビャアアアアアアアアアアアッ」」」」」」」」」」」」」


森にハーピーたちの絶叫が響き渡った。


次々と焼け焦げたハーピーたちが地面に落ちてきた。


「見事です。セイジ様」


「はい。ありがとうございます」


ハーピーたちの魔石を回収していると、その様子を眺めていたローズマリーさんが立ちあがった。


何事かと思ってローズマリーさんが見ている方向を見ると、見事な装備を着た冒険者パーティーが現れた。


「やあ。君たちがハーピーの群れを倒したのかい?」


先頭を歩く仮面で顔が隠れた背の高い冒険者が話しかけてきた。


金属製の純白の全身鎧を身にまとい、手には真っ白な大剣を持っていた。


「はい」


「そうか。凄い火属性魔法だったね。君かい?それとも彼女?」


「僕ですけど。あなたは?」


「おっと。失礼した。僕は第1級冒険者パーティー『ブラッドレッド』のリーダーをしているアレクセイだ。よろしく。事情があって仮面は取れないので許してくれ」


「はい。僕はせいじです。第2級です。よろしくお願いします」


「2級か。強者は大歓迎だ。それで彼女は?」


「ローズマリー。セイジ様の彼女です」


「えっ」」


僕とアレクセイさんの声がハモった。


「そうかそうか。彼女連れでキマイラ討伐に来るとは大した自信だね。僕の仲間を紹介しよう。弓を持っているのが『最速』のアデライトさんだ」


アデライトさんが片手をあげて挨拶してくれた。


(口数が少ない女性か)


アデライトさんはガタイのいい女性で皮の鎧を装備し、弓を持っていた。


その弓には魔石がめられ、金属で補強された木の長弓だった。


(魔弓っぽいな)


その後、獣人の男性冒険者と人間の男性冒険者二人を紹介してもらった。


「セイジ君。もうすぐ日が暮れるから適当なところで一緒に野営でもしないか?」


「はい」


アレクセイさんたちに先導され森の中を移動し、野営できそうなところを探した。


しばらくして森の中に池を見つけ、その傍で野営をすることになった。


アレクセイさんたちがテキパキと野営の準備を始めた。


僕も何かを手伝おうと焚火を作ることにした。


「ありがとうセイジ君。ところで君は魔法使いなのかい?それにしては魔剣をたくさん持ってるけど」


「そうですね。魔法使いで構いません。ちなみに魔剣は飛び道具なので前衛は出来ません」


「あはは。魔剣が飛び道具か。それは面白い。そうそう。食事は僕たちが提供しよう」


「ありがとうございます」


焚火を囲んで食事をしていると、なぜか僕の隣に座ったアレクセイさんが話しかけてきた。


「知ってるかいセイジ君。ハーピーは元々風をつかさどる精霊だったんだけどね。肉体を求めて鳥の魔獣と融合した結果、ハーピーが生まれたんだよ。今は人を害する妖精だね」


「妖精なんですね。ハーピーは元からこの森にいたんですか?キマイラはスカーレット帝国から来たのではないかと冒険者ギルドで聞いたんですが」


「マゼンタ王国にはいないね。ハーピーもキマイラと一緒に帝国から来たようだね」


「そうなんですね。物知りなんですね」


「そんなことないさ。何だか知識をひけらかしたみたいで照れるな。あっはっは。じゃあ、これは知っているかい?・・・」


その後もアレクセイさんの話声だけがずっと森に響いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る