第130話 義賊

街を出て次の領地に向かっていると、山のふもとに平原が広がっていて穀倉地帯になっていた。


青々と作物が育つ穀倉地帯を抜けると湿地帯が始まり、湖が所々見られるようになった。


風景を見ながら空を飛んでいるとローズマリーさんが話しかけてきた。


「そういえばセイジ様。魔女に依頼をされていたのでは?」


「依頼?」


「アルミラージの角です」


「ああ。そういえばそうでした」


「この辺りにも棲息せいそくしてますよ」


「そうなんですか。じゃあ寄ってみようかな」


僕たちは湿地帯にある森に降り立った。


その森は湖の近くにあり、近くに村などはなかった。


「では、私は湖のほとりでくつろいでいますので、セイジ様はアルミラージを狩ってきてください」


「はい。行ってきます」


森の中に入っていくとアルミラージはすぐに見つかった。


「大きいな」


アルミラージの体格は1メートルほどあり、その毛は黄色でひたい螺旋らせん状の真っ黒な角が生えていた。


アルミラージは僕を見つけると真っすぐ走って来て、角を突き立て突撃してきた。


僕でテレポートで真横にかわし、魔銀の義手を強化し手刀しゅとうを叩きこんだ。


ドスッ


アルミラージは地面にたたき受けられ動かなくなった。


「ふう」


僕は魔石と角を採取し、ローズマリーさんが待つ湖に戻った。


「お待たせしました。んんっ?」


草の上に優雅に座っているローズマリーさんの周囲にカエル人間が倒れていた。


「おかえりなさいませ。セイジ様。早かったですね」


「はあ。ローズマリーさんこそ何があったんですか?」


「この湖はカエルの魔獣の住処すみかだったようで、私を侵入者と勘違いして襲い掛かってきたので返り討ちにしました」


「はあ。カエルの魔獣ですか」


「カエルの魔獣は満月の夜に一番強い力を発揮できるそうですよ」


空を見ると雲一つない夕暮れの空に満月が輝いていた。


「殺したのですか?」


「いえ。全員ぶっ叩いて気絶させてあげました。朝には目を覚ますでしょう」


「そうですか」


ビチッビチッ


音がしたので見てみると巨大なナマズが陸上で跳ねていた。


「あのナマズは?」


「ああ。カエルの魔獣の偉そうな人が乗っていましたね。リーダーでしょうかね。ナマズ、食べますか?」


「いえ。遠慮しときます」


「そうですか。では行きましょうか」


「はい」


僕たちは空を飛び湿地帯を抜け、新たな領地に入り領都に向かって進んだ。


「さっきのカエルですが骨格や体形が完全に人でしたね。見た目はカエルでしたけど。獣人ではないんですか?」


「中途半端に人化したカエルの魔獣ですね」


「はあ。言葉はしゃべるんですか?」


「人の言葉は話せないし意思疎通も出来ません。広大な森にある湖群の支配者です」


「そうなんですね」


森を抜けすっかり当たりが暗くなった頃、ようやく街の明かりが見えてきた。


「着きましたね」


僕たちは領都ファイアオパールに到着した。


その街は川沿いにあり、僕たちは石橋を渡って城門から中に入り、すぐさま宿屋に向かった。


宿屋で豆シチューとサラミと自家製ワインを頂いて、その日は就寝となった。



翌朝、僕たちは冒険者ギルドに向かった。


昨日来た時は夜だったのでわからなかったが、領都の街は白い壁とオレンジ色の屋根で統一された建物が立ち並んでいた。


領都は四角形の形をした街で、城門が東西南北の4か所にあった。


冒険者ギルドに入り、受付でマゼンタ王国北東部に現れたという大型魔獣について聞いてみた。


「はい。調査に向かった冒険者たちの情報によると、どうやらその魔獣はキマイラのようですね」


「キマイラですか」


「それと複数のハーピーを引き連れているようです」


「ハーピー。鳥の魔獣ですか」


「はい。キマイラ討伐隊として第1級冒険者パーティー『ブラッドレッド』がすでに捜索に向かっています。ほかの冒険者さんたちの討伐の参加は自由です。目撃情報などの情報提供も受け付けております」


「そうなんですか。キマイラの位置はわかっているんですか?」


「いえ。そのキマイラは空を飛べるようで、たびたび見失っております」


「そうですか。最後に確認された場所はどこですか?」


「隣の領地と吸血鬼の国との国境付近の森ですね」


「そうですか。わかりました。ありがとうございます」


「セイジ様も参加されるのですか?」


「ええ。一応。現地に向かいたいと思います」


「そうですか。ご協力ありがとうございます」


僕は受付を離れ掲示板に向かった。


「依頼を受けられるのですか?冒険者活動に熱心になられたようですね」


「いえ。そういうわけではないですけど。一応見ておこうかと。冒険者の習性みたいなものです」


掲示板に貼られてある依頼に目を通す。


「セイジ様。これはいかがですか?」


「え」

(受けるつもりはなかったんですけど)

「なんでしょうか」


「アンデッドの討伐依頼ですね」


僕はその依頼書を見てみた。


依頼の内容はアンデッド化した義賊の頭領の討伐とアンデッド化の原因究明だった。


「義賊ですか」


依頼書に義賊についての情報が少し書かれていた。


『岩山の壁と一体化して建てられた城を拠点としている盗賊団。洞窟城と呼ばれている。岩山には洞窟があり秘密の抜け道として使われていた。その盗賊団は裕福な貴族や商人から財宝を奪い、貧しい人たちに分け与えていた。しかし、最近、盗賊団の幹部が裏切り、頭領を殺害。その後、なぜか頭領がアンデッド化。殺された部下たちもアンデッド化している』


「なるほど。アンデッド化と言うことはアンデッドに殺されたか、死霊属性魔法を掛けられたか、元々素質があったという可能性がありますか」


「そうですね。あとは魔道具ですかね」


「ああ。そうですね。呪いの魔道具の影響かもしれませんね」


僕は受付に向かい、洞窟城のアンデッド討伐依頼を受けることをげた。


僕たちは早速街を出て、領都の北にある山岳地帯に向かった。


森や丘などがある草原を通り過ぎると岩山が現れ、その中腹にまるで岩山に飲み込まれているかのように城が建っていた。


灰色の岩盤に埋まったその城は4階建ての白い要塞のような建物だった。


「随分堅牢なアジトですね。盗賊団ってもうかるんですかね」


「元々あの城は貴族が建てたものですよ。凋落ちょうらくして誰も住まなくなった後、盗賊が勝手に住み着いたようですね」


「そうなんですね」


城に近づいてみると入り口は崖沿いに造られていた。


「玄関から入るのは遠回りなので窓から入りましょうか」


「はい。セイジ様の思う通りに」


僕たちは宙に浮き、城の窓から中に入ることにした。


城の内部も真っ白だったが、通路は暗く空気がよどんでいた。


僕は発火を発動しあかりをともした。


「頭領ですから一番上にいるんですかね」


「そうでしょうね。地下に秘密の抜け穴があるそうですから、そっちかもしれませんが」


「なるほど。まず上から行きましょう」


僕たちは適当に進みながら上に登る階段を探した。


すると早速盗賊のアンデッドが現れた。


(発火)


よたよた歩いてくる盗賊のゾンビに火の玉が直撃した。


盗賊のゾンビは廊下に倒れこみ動かなくなった。


「本当にアンデッド化しているんですね。それにしても匂いがひどいです」


途中で何体もの盗賊のゾンビが現れたが、ただ突っ込んでくるだけだったので発火で焼いていった。


螺旋状らせんじょうの階段を見付け、上に登っていくと豪華な扉のある部屋にたどり着いた。


どうやら頭領の部屋のようだ。


扉をゆっくりと開けると窓の扉は閉ざされ、部屋の中は真っ暗だった。


しかし、室内で唯一何かがあやしく光を放っていた。


火の玉を室内に入れて照らしてみると、盗賊の頭領が頑丈な机に腰かけ机に肘を付いていた。


光っていたのは頭領がめていた指輪だった。


「お邪魔します」


僕が一歩室内に足を踏み入れると、頭領の目が開いた。


赤く輝く目が僕をうらめしそうに見つめた。


「がああああっ」


頭領がそう叫びながら立ち上がり、僕に襲い掛かってきた。


「セイジ様。その指輪から強烈な魔力を感じます」


後ろからローズマリーさんの落ち着いた声が聞こえてきた。


「わかりました。気を付けます」


僕は灯りの発火を頭領にぶつけ、テレポートして背後に移動した。


頭領は発火を食らっても動じず、僕の方を振り返って指輪の嵌めてある手を突き出した。


(え!?魔法使うのっ!?)


すると頭領の手から漆黒の炎が発現した。


「!?」


僕は再びテレポートでそれを回避した。


黒い炎は壁際に積まれてあった荷物を燃やした。


「あれは死霊属性魔法『からす火』ですね~」


突然背後から声が聞こえた。


「ぎゃあっ」


「私ですよ~。レオナです~」


「ああ。レオナさんでしたか。びっくりしました。からす火って言うんですね。よくご存じで」


「はい~。魔術書に書いてありました~」


「なるほど」


すると再び頭領がからす火を発動した。


僕はテレポートでかわす。


「ん?せいじく~ん。おじさんを見てくださ~い」


頭領を見ると少しやつれたように見える。


「そういえばせたような」


そこで入り口で佇んでいるローズマリーさんの解説が入った。


「どうやら頭領の肉体を使って無理やり魔法を発動しているようですね」


「頭領さんは魔力が少ないんですね」


「そのようです」


「骨になったら活動を止めるんですか?」


「そうなったら次の段階に行くのではないでしょうか」


「うんうん。そうなると思うよ~」


「そうなんですか。魔術書に書いてあるんですか?」


「そうだよ~」


「そうですか。でしたら今のうちに倒した方がいいですね」


「だね~」


僕は魔銀の義手に魔力を込め灼熱にした。


(巨大化して頭領を掴んで包み込めば火葬できるかな)


頭領から放たれるからす火をかわし、いざ攻撃に移ろうとしたところ、突然、板戸と窓が外から破壊された。


ドゴオオオオッ


姿を現したのは翼の生えた大型の猫だった。


その猫の魔獣は僕たちには目も来れず頭領に跳びかかり、大きな前脚で地面に突き倒し抑え込んだ。


すると猫の魔獣は頭領を食べ始めた。


「あれは、アンデッドを食べる猫の魔獣ですね」


ローズマリーさんが教えてくれた。


「ぎゃあ~。私、隠れます~」


レオナさんは魔術書の中に戻っていった。


「ああ。そういえば冒険者ギルドの掲示板に出ていましたね」


僕は入り口にテレポートし部屋の外に出た。


「帰りましょうか。頭領は退治されたようですし」


「セイジ様。指輪を回収しましょう」


「あ。そうでした」


扉を閉め外で待っていると租借音そしゃくおんが消え、猫の魔獣が外に出ていく音がした。


扉を開け室内に入ると酷い匂いが充満していた。


僕はすぐさま指輪を回収し、部屋の扉をすべて明け空気を入れ替えた。


室内には頭領の骨すら残っていなかった。


「あの猫さん骨まで食べるんですね」


ローズマリーさんから反応がなかったので、彼女を見てみると机の上で何か調べ物をしていた。


「何を調べているんですか?」


「その指輪の来歴などです」


「なるほど」


「しばらく時間がかかりますのでセイジ様はお宝でもあさっててください」


「え。あ、はい」


僕は頭領の鴉火の被害にあわなかったお宝を調べることにした。


(持てるだけ持ち帰って竜神教会に寄付するか)


僕が宝石や貴金属を物色していると、ローズマリーさんの調べ物が終わったようで僕に話しかけてきた。


「どうやらその指輪は、昔の頭領がこの地にふらりと訪れた旅の魔法使いから手に入れたようですね」


「へえ。盗んだんですか?」


「いえ。義賊に協力するためにと、いくつか魔道具をゆずりり受けたそうです」


「へえ。貴族や商人が嫌いな魔法使いなんですかね」


「そこまではわかりかねます」


「ですよね。指輪の詳細はわかりますか?」


「それについては何も書いてありませんでした」


「そうですか。それは冒険者ギルドが調べてくれるでしょう」


「そうですね。帰りましょうか」


「はい」


僕たちは領都に戻った。


冒険者ギルドに行きアンデッド退治の報告とアンデッド化の原因かもしれない指輪を提出した。


指輪は冒険者ギルドが責任を持って管理し、魔術師ギルドが調べてくれるそうだ。


ついでにアンデッドを食らう猫の魔獣についても報告した。


その後、竜神教会に行き義賊のお城から拝借はいしゃくしてきた貴金属を寄付した。


僕たちはそのままキマイラがいるという隣の領都に向かうことにした。


領都ファイアオパールを出発し空を飛んで東に向かっていると、平原に加工された巨石が無数に置いてあるのが見えた。


一つだけ置いてあったり、いくつかの石を積み上げてたりと様々な組み合わせがあった。


「あれはもしかして巨石魔法陣ですか?」


「いえ。墓地です」


「え。そうですか」


「寄り道しますか?」


「いえ。墓地ならいいです」


空を飛びながら千里眼で巨石を見てみると、石の表面に動物や星など様々な絵が描かれていた。


「絵が彫ってありますけど、亡くなった方にちなんだ模様なんですかね。それとも家紋的なものですか?」


「そうですね。そんなところです。それとアンデッド化しないように魔法的な意味合いもあります。素人のまじないみたいなものです。専門の魔術師による本格的な魔法陣は見えないところに彫ってあります」


「そうなんですね」


僕は飛行速度を上げて次の街を目指した。

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