第128話 馬ヘビ
翌朝、僕たちはリレッドの街を出発し、昼頃に馬ヘビと言う魔獣が出没しているという湖に到着した。
僕は湖から少し離れた草むらに荷物を置いた。
僕はみんなの方を振り返って言った。
「ここを拠点に馬ヘビを探しましょう」
僕たちは大人数でぞろぞろ歩いて捜索を始めた。
「アーシェさん。二手に分かれたほうがいいんじゃないですかね」
「そうね。でも馬ヘビの強さが分からないし、魔法を使う女性冒険者の声を奪われた時、戦えるかどうか分からないから一緒でいいんじゃないかしら」
「そうですね。でもこんなに人がいっぱいいたら、さすがに姿を現さないんじゃないですかね」
「女性が好きなんだから喜び
「そうあってほしいです」
「あら。お兄さん随分余裕ね」
「こんなにたくさんいるんですから怖がっていられませんよ」
「そう。頼もしいわ。お兄さんに任せていいみたいね」
「え。みんなで戦いましょうよ」
「馬ヘビさん次第ね」
しばらく湖岸を捜索していると、突然、湖の方から突風が吹き荒れた。
湖を見てみると湖面から馬の顔だけが出ていて、近くに半透明で下半身があやふやな小さな人間が飛んでいた。
「セイジさん。あれですかね」
セオさんが隣にやってきた。
「ですね。精霊みたいですね。それにしても湖の中にいたら戦いにくいですね」
すると、トントンと肩を叩かれたので振り返るとアーシェさんが口をパクパクさせていた。
「?どうしました?」
アーシェさんだけでなく他の女性冒険者も口を抑えたり、口をパクパクさせて慌てていた。
ローズマリーさんはいつも通りだった。
「もしかして声が出なくなりました?」
ローズマリーさんを除く女性全員が頷いた。
僕はポーションをアーシェさんに飲ませてみた。
しかし声は戻らなかった。
「いつの間に声を盗まれたんですかね」
「セイジ様。おひとりでとっとと馬ヘビを倒されてはいかがですか。このまま静かなままでもいいですが」
ローズマリーさんのお声は奪われなかったようだ。
「ローズマリーさんには効かないんですね」
「当然です。やわな声帯はしていませんから」
「そうですか。流石ですね」
(そういう問題なのかな。魔法抵抗力の差だと思うけど)
僕はテレポートで湖面に移動した。
僕は湖面から馬の顔だけを出している馬ヘビの背後にテレポートして、発火をお見舞いした。
ビュウッ
しかし、突風が吹き荒れ発火の軌道が変わり、馬ヘビから逸れ水面に衝突して消えた。
僕は僕の攻撃を邪魔をしたであろう小さな精霊を見た。
長い髪の毛のせいで顔が見えない。
(風の精霊なのかな。シルフィードではないようだけど)
すると馬ヘビが体をくねらせ泳ぎ出した。
(逃げるのかな?)
しかし、少し離れたところで馬ヘビは振り返り甲高い声をあげた。
「ビャアアアアアアアアッ」
ドバアアッ
水面から水柱が上がり僕に迫ってきた。
「!?」
大量の水がものすごい勢いで僕の結界に当たり、僕は上空に吹っ飛ばされた。
(テレポートっ)
テレポートで体勢を立て直し、再び馬ヘビの背後に移動した。
(陸にあげてみようかな)
僕は魔銀の義手を透明化し、灼熱にして腕から抜いた。
キョロキョロしていた馬ヘビが僕を発見し、再び奇声を発した。
水柱が上がるが僕はテレポートで回避した。
そのとき、陸地にいたセオさんの悲鳴が聞こえてきた。
見ると、砂嵐が巻き起こっていた。
アーシェさんや女性冒険者たちも目を抑え地面に伏せていた。
ローズマリーさんは他の場所にいて無傷だった。
その砂嵐が僕の方に向かってきた。
(馬ヘビさんたちは、僕一人が敵だとは思ってくれないか)
砂嵐が僕に迫ってきているが、僕は結界を張りその場を動かずに透明化している魔銀の義手を操作した。
ガッ
灼熱に熱せられた魔銀の義手で馬ヘビの頭を掴んだ。
「ビャアアアアアアッ」
馬ヘビの絶叫が湖に響き渡った。
僕は魔銀の義手を操作し陸地に引っ張っていった。
陸地に打ちあがった馬ヘビは10mを超えるヘビの体を持っていた。
セオさんと仲間の女性冒険者たちが一斉に馬ヘビに襲い掛かった。
ドスッドスッドスッ
馬ヘビは体を切り刻まれ絶命した。
謎の精霊は姿を消していた。
僕も陸地に降り立った。
「お疲れ様。お兄さん」
「はい。何とかなりました。声は戻ったのですね。よかったです」
「ええ。お兄さんのおかげね」
セオさんたちが馬ヘビを解体し、蛇の皮と魔石を回収した。
「お兄さん。報酬の分配だけど討伐報酬のお金と魔石どっちがいい?蛇の皮はあまり状態が良くなくて。ごめんなさいね」
「いえ。じゃあ、魔石でお願いします」
「わかった。はい」
僕はアーシェさんから青い魔石を受け取った。
魔石を掴むと魔力の流れが見え、魔銀の義手に魔法陣が浮かび上がった。
(水柱の魔法か)
僕たちは拠点に戻って休憩した後、街に戻った。
僕たちは冒険者ギルドに依頼達成の報告をした後、食事をすることにした。
宿屋の食堂で魚介のパスタを食べているとアーシェさんが話しかけてきた。
「お兄さん。北部の中心都市カーネリアンに向かうのは明日でいいかしら?」
「はい。僕はいつでもいいですよ」
翌朝、僕たちはカーネリアンに向けて街を出発した。
旅をしながらアーシェさんにカーネリアンと言う街について教えてもらった。
「マゼンタ王国第二の都市ね。首都になったこともあるわ。はじめは毛織物の産地だったけど今は武器の生産で発展しているわ。隣国のドワーフ王国とも交流があるから」
「へえ。武器ですか」
「お兄さんには必要ないようだけどね。魔剣を4本も持ってるから」
僕の腰に一本の魔剣が差さっていて、僕の周りに3本の魔剣が浮いていた。
「そうですね」
「利益を得て力を持った商人ギルドが自治権を獲得して街を運営しているわ」
「そうなんですか」
「だから職人ギルドと対立しててね。たまに争いが起きているの。傭兵や冒険者が護衛とか武力行使のためにどちらかに雇われたりしてるのよ」
「へえ。物騒ですね」
数日後、僕たちは北部の大都市カーネリアンに到着した。
街は二重の城壁に囲まれているという。
僕たちは城門から街の中に入った。
街の中心には竜神教会が建てられており、教会を中心に放射線状に道が伸びていて、環状の道路も整備されていた。
街の中心の広場に着くと白大理石で造られた巨大な竜神教会があった。
教会は複雑な彫刻が外壁に
「すごい数の塔ですね」
「ええ。135基の尖塔があるそうよ」
「はあーっ。何であんなに塔を作ってるんですかね」
「なぜかしらね。理由は知らないけど、それを考えるのが人生じゃないかしら。お兄さん」
「そうですね」(そうなんですか?)
僕たちは広場を離れ冒険者ギルドを目指していると、竜神教会に
壁に囲まれ広い敷地内にあるその建物は、十字に建てられた建物で交点に丸い塔が建っていた。
「あの建物にこの街で一番の商人が住んでいるわ」
「へえ。凄い大きい建物ですね。お城みたいですね」
「そうね。有力商人は貴族みたいなものだしね」
「そうなんですか」
僕たちは街の中心地から少し離れた場所にある冒険者ギルドに到着した。
冒険者ギルドの中に入り、併設された料理屋に行きテーブルに座った。
「お兄さんともここでお別れね」
「そうですね。また出会えるとは思ってもみませんでしたけど」
「そう?私はアマンダ王国に行くと決まった時にお兄さんに会えると思っていたわ」
「そうなんですか?」
「魔人国から帰ってきたお兄さんたちが向かう先はここしかないからね」
「そうですね」
その時、受付に行っていたローズマリーさんが僕のところにやって来た。
「セイジ様。アマンダ王国北東部に大型魔獣が現れたそうです」
「大型魔獣?」
「はい。緊急討伐依頼が出ています。セイジ様の出番ですね」
「え」
「相変わらずお兄さんは
「はあ」
「私たちはゴールドブルー帝国に戻ってからアルケド王国に帰るわ」
「そうですか。ホーステイルのみんなによろしく伝えてください」
「ええ。いい
「楽しんでもらえたら嬉しいですね」
「では、セイジ様行きましょうか」
「え。もう行くんですか?」
「もちろんです。国家の一大事ですよ」
「ローズマリーさんはそんなこと気にしないんじゃないですか?」
「もちろんです。この国が
「わかりました」
「あはは。お兄さん。楽しそうね」
「そうですかね。ではアーシェさんとセオさん。お元気で。短い旅でしたが楽しかったです」
「私もよ、お兄さん。お元気で」
「セイジさん。一緒に冒険が出来てうれしかったです。セイジさんなら大型魔獣なんか楽勝で倒せますよ」
「それはわからないけど死なない程度に頑張るよ。じゃあね」
僕は冒険者ギルドを出て慌ただしくカーネリアンの街を後にした。
(一泊も出来なかったな。あ、お米食べられなかったよ)
僕たちは街を出て東に向かった。
「ローズマリーさん。どこに向かえばいいんですか?」
「吸血鬼の国との国境ですね」
「吸血鬼の国ですか。遠いんですか?」
「ええ。かなり遠いです。東に向かいながら街に寄って情報収集しましょう。近づくほど情報も正確になっていくでしょうから」
「そうですね」
「ついでに依頼もこなしましょう」
「はい。え?急いだほうがいいのでは?」
「大型魔獣が現れたのは確かですが、まだ冒険者ギルドは大型魔獣の情報を集め始めたばかりで、居場所や被害状況や危険度を調べている状況です。慌てる必要はありません」
「そうですか」
「それに赤竜様の配下もすでに動いているでしょうから、そのうち私のところに正確な情報が届くはずです」
「なるほど」
東への移動は徒歩ではなく空を飛んで行くことにした。
カーネリアンから近い大きな街まで、馬車で五日かかるそうだが、僕たちはその日のうちに着くことが出来た。
その街は川沿いにあり、赤レンガの城壁で囲まれていた。
街の名はダークレッド。
城門から中に入ると、赤や黄色い壁の石造り建物が建ち並んでいた。
「この街の主な産業は大理石なんですよ。しかも桃色なんです」
「へえ。そうなんですね」
石畳を歩く街の人や僕たちの足音がコツコツ響いていた。
中央広場では野菜の市場が開かれていた。
「農業も
「へえ」
するとローズマリーさんが僕の顔をのぞき込んできた。
「セイジさんお米が好きでしたよね」
「はい」
「お米。この街で食べられますよ。この地域で試験的に栽培されています」
「えっ。はい。食べたいです」
「では行きましょうか」
ローズマリーさんに連れられて行った場所は高級そうなお店だった。
早速ローズマリーさんが注文してくれた。
出てきた料理は見た目が赤いリゾットだった。
「確かにお米ですね」
大粒で幅が広いお米だった。
(日本のお米とは違う種類なんだな。当たり前だけど)
「はい。豚肉とワインが入っています」
「ワインですか」
思ってたのと違ったけど食べてみた。
(なるほど)
「お味はいかがですか?」
「美味しいですね」
(酔いそうですけど)
「それは良かったです。もう一つは
「モグモグ。これも美味しいです」
ゆっくりと食事を
受付さんに大型魔獣の事を聞いてみると、小さな村が襲われ農作物にも被害が出ているそうだ。
すべての冒険者に向けて討伐依頼を出しているが、冒険者ギルドはマゼンタ王国の第1級冒険者のパーティーに指名依頼を出したそうだ。
大型魔獣の種類や容姿などについては情報が
僕たちは冒険者ギルドを後にした。
「セイジ様。ライバルが現れましたね」
「え。ライバルではないと思いますけど。第1級冒険者ですか。僕が着く前に倒されているかもしれないですね」
「そうかもしれませんね。それならそれでいいですが、彼らが倒せるとは限りません。そうなるとセイジ様の出番ですから」
「はあ。そうなってほしくないですね」
僕たちは宿屋に泊まり、翌朝、街を出発した。
空を飛んで東に進んでいると、ローズマリーさんが休憩をしようと言ってきた。
僕は見通しのいいところに降り立った。
「ここから先がマゼンタ王国の東部の半島です。半島と言っても広大ですけど」
「そうなんですか」
「ところで、セイジ様は蜘蛛の魔獣に知り合いはいますか?」
「え。蜘蛛の魔獣ですか。一人だけ覚えがありますけど。どうしてですか?」
「いえ。ずっと遠くからこちらを伺っていましたので」
「えっ。見られていたんですか?僕の知っている蜘蛛の魔獣だったら、ずっと追いかけていたってことですかね」
僕はキョロキョロ周りを見たが何も発見できなかった。
「
「え。う~ん。何もしてこないならこのままで。あの蜘蛛の魔獣さんは僕たちを
「そうですか」
「ちなみにいつからですか?」
「私たちが北部に来てからですね。気のせいかと思いましたが、東に移動してもずっとついて来てましたので。昨晩、
「え。昨日ですか。さすがですね」
「
「え。戦ったんですか」
「ええ。
「いえ。いらないです」
「そうだ。セイジ様。
「火の聖地ですか」
「はい。この辺りの人間がそう呼んでるだけですけどね。真の聖地は赤竜様のおわす場所ですから」
「一般には知られていませんからね」
「赤竜様は見世物ではありませんので」
「火の聖地とはどんなところなんですか」
「山の頂上の岩場の地面からガスが噴き出していて、火がずっと燃えている場所です」
「へえ。凄い場所ですね。火の精霊がいそうですね」
「もちろんいますよ。では北東に向かってください」
「わかりました」
休憩後、僕たちは火の聖地を目指し出発した。
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