第124話 緑の魔女の依頼

緑の魔女マイラさんは妖精化した結果、長寿になったようだ。


「そうなんですか。そういえば緑の魔女さんは古代魔法文明のゴーレムは持ってないんですか?」


「ああ。アレかい。マーニャがそれだよ」


小さい魔女さんが親指で後ろを差した。


「え。そうだったんですか。やっぱり僕には人と区別ができませんね」


「そりゃそうさ。古代魔法文明製だからね」


「魔女さんの集まりがあるそうですが、魔女さんは何人存在しているんですか?」


「そうさねえ。今の所確認できているだけで魔女は19人いるね。ゴーレムを起動していないもしくは所持していない魔女とは連絡が取れないから、もっといるとは思うがね。ちなみに初めて空をとんだのが私の母。初代緑の魔女さ」


「そうなんですね。そもそも『魔女』って何者なのか聞いてもいいですか?」


「ああ。母によると魔女と言うのは、生きてる白砂を体内に取り込んだ人間らしいのさ。それを魔女化と呼んでいる。魔力を取り込んだ魔獣のようにね。それが真実かどうかは知らないがね」


「魔女化?白砂によって肉体が変化したんですか」


「ああ。そのおかげで例のゴーレムと繋がることが出来た。恐らくね」


「おそらく?」


「ああ。魔女たちが古代魔法文明を調べているのは、自分たちの正体を知りたいからさ。中には気付いている魔女もいるかもしれないがね」


「なるほど」


「私はそんなことには興味ないんだけどね。古代魔法文明の知識を知りたいだけさ」


「あ。僕、古代魔法文明の遺跡にあった白い砂を食べたんですけど、大丈夫ですかね」


「砂を食べたのかい。面白い子だね」


「吸血の魔女さんにお土産みやげだと渡されたんですよ」


「ひゃひゃひゃ。あの娘か。まあ、生きてる砂じゃないだろうから特に何も起こらないさ。起きたところで何も変わらないよ」


「そうですか。安心しました。だとすると魔女さんの母親が魔女ということは、かなり昔から魔女がいたんですね」


「そうだね。母が父と出会った東の国が、おそらく古代魔法文明の国だと私はにらんでいるんだけどね」


「え。それって重要な情報じゃないですか。他の魔女さんは古代魔法文明の国を探しているんですよね」


「ああ。位置を教えることは出来る。でも見つからないんだよ。嘘つき呼ばわりはごめんだよ」


「そうでした」


「母が東の国にいた頃は海は青かったんだ。私が生まれたのでこの国に戻ってきたんだけど再び行ってみたら、東の国は見つからないし海が白くなり始めた。母は何度も探しに行ったんだが見るたびに白砂の量が増えていって最終的には白い砂漠のようになったそうだよ。見た目だけだがね」


「そうだったんですか。その砂が魔女化の白砂ですか。魔女さんの母はその国に行ったから魔女化したんですか?」


「そうかもしれないね。母と今の魔女の間にどの程度の違いがあるかは知らないけどね」


「そういえば、魔女さんはどうやって妖精になったんですか?」


「母が私を生んだのはまだ白竜や古代竜との戦いの影響が残っている時代でね。魔力の影響が自然界に徐々に表れ出し始めて、環境が激変していくころだった」


「かなり昔ですね」


「昔は森に住んでいてね。母と薬草を探しに森の奥に入った時、私が母の目を盗んで魔力の影響を受けた木の実を食べてしまってね。それが妖精化の実だったんだよ。何かしらの魔法的な力が宿っていたんだろうね。もしくは精霊も一緒に食べたのかもしれないね。魔力が満ちた世界で初めて生まれた魔力生命体は精霊であると考えられておる。魔獣はその後だね」


「なるほど」


すると香水を持ったマーニャさんが戻ってきた。


「セイジ様どうぞ」


「ありがとうございます」


僕は香水を受け取った。


「マイラ様、随分楽しそうにお話しされていましたね」


「マーニャ。余計なことは言わなくて良いぞ」


「失礼しました。お嬢様。改めましてセイジ様。私がマイラ様とマイラ様の母上様に仕えていたマーニャと申します」


「せいじです。マイラさんの母親の初代緑の魔女さんは大昔の人ですよね」


「はい」


「マーニャさんは何百年も動いているんですか?失礼ですが壊れたり劣化したりしないんですか?」


「大丈夫ですよ。砂の入れ替えを自動でしていますから」


「はあ。もしかしてそれが生きている砂ですか?」


「そう呼ばれていますね」


「という事は、遺跡に探しに行ったりしているんですか?」


「いえ。どこにでもありますよ。見えないだけで。魔力のようなものです」


「そうなんですね」


妖精の姿の魔女マイラさんは背中にある透明な羽をばたかせ、再びマーニャさんの肩に乗った。


「あんた冒険者なんだろ」


「はい」


「だったら依頼を受けちゃくれないかね。最近ブリックの街の東にある朱華はねずの森の様子がおかしいようでね。いつも薬草を届けてくれる冒険者が植物系の魔獣の襲われてケガをしたってんだよ。かわりに薬草を採取してきておくれ。採取した薬草は冒険者ギルド経由で私に届くようにしてくれればいい」


「お嬢様。品切れの素材も」


「おお。そうだった。ついでにアルミラージの角とマンドレイクをどこかで入手してきておくれ」


「わかりました」


「それと最近、周辺の国でオオカミに似た魔獣が暴れているそうだね」


「はい。その依頼見たことあります」


「それはおそらく同じ森に棲む魔樹の木の実を食べたオオカミだね。魔樹の木の実を食べると魔樹に操られるんだ。しかも木の実の魔力の影響で姿が変化し強化される」


「何で操るんですか?」


「他の場所に種を運んでもらうためだよ」


「なるほど」


「その魔樹が繁殖する環境に適した場所にオオカミの魔獣が行くと、そこで体内の種が発芽しオオカミが死ぬ。そして魔樹の栄養になる」


「そうなんですか」


「頼んだよ。魔樹の木は燃やしても構わないよ」


「はい」


僕たちは緑の魔女さんの店を出て広場に向かった。


広場に着くとそこだけは広大な空間が開いていて、高い空が見ることが出来た。


広場の奥には長い階段があり、その上に巨大な白い建物が建っていた。


「あれが竜神教会です。隣が冒険者ギルドですよ」


「へえ」


教会は長方形の3階建ての建物の真ん中に、円柱の建物が半分はみ出したような形の構造だった。


「教会の正面の道をまっすぐ進むと王城です」


視線を向けると道の先に強大な王城が小さく見えた。


教会に向かっていると、冒険者ギルドの前に人だかりが出来ていて、何やら言い争う声が聞こえてきた。


(何だろ)


何の気なしに見てみると冒険者同士が喧嘩けんかをしているようだった。


(野次馬が多いな。しかも女性ばかりだ)


冒険者の男たちと女性たちが言い争っているように見える。


女性冒険者の集団の中に一人だけ若い男性がいた。


「ん?アーシェさん?」


「どうしましたか?知り合いでも?」


「はあ。そのようです」


「ではセイジ様はその方に会ってきてください。私は元聖女を連れてきますので」


「そうですか。僕も一緒に行きたかったですけど仕方ありませんね。では行ってきます」


僕はローズマリーさんと別れ、集団の所に向かった。


すると聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「幼稚な自己紹介、有難うございます」


「なんだとっ」


(やっぱりアーシェさんだ。相変わらずだな。別れてそんなに時間はってないけど)


若い男と数人の女性の顔には見覚えがあった。


(やはりセオさんか。アーシェさんたちもこの国に来てたのか)


男たちが激高してアーシェさんに襲い掛かろうとしていた。


僕はテレポートで男とアーシェさんの間に割って入った。


僕は殴りかかってきた男の拳を魔銀の義手で受け止める。


「なんだてめえ。どっから湧いて出てきやがった」


僕はその男を物体操作で固定した。


「ぐっ。動けねえ。おめえ、何をした」


「おい。どうしたっ」

「貴様。仲間に何をしやがった」

「お前、魔法使いかっ」

「魔法を解きやがれ」


男の仲間の冒険者たちに動揺が走る。


「何があったか知りませんが、その男性を連れて帰ってくれませんか。僕から離れると魔法が解除されますので」


「ちっ。覚えてやがれっ」


動けなくなった男を抱えて冒険者たちは離れていった。


事態が収拾したのに誰もその場から離れなかった。


集まっていた女性たちは野次馬ではなく全員関係者だった。


セオさんが女性たちをかき分け近づいてきた。


「お久しぶりです。さっきの魔法は金縛りですか?邪属性の精神操作魔法を覚えたんですね。すごいです」


「まあ。そうかな」


アーシェさんも近くに来た。


「助けてくれてありがとう。賞金首さん。お久しぶりね」


「アーシェさん。こんにちは。もしかして僕の首を取りに?」


「いい考えね。お兄さんなら牢屋から難なく脱出できるでしょうしね」


「勘弁してください。どうしてマゼンタ王国に?」


「帝都からここまで商人の護衛依頼よ」


「そうでしたか」


「女性冒険者の数がめちゃくちゃ増えてますね」


「そうなの。どんどんにぎやかになっていくわ」


アーシェさんは呆れた表情を浮かべていた。


「依頼をこなすためいろいろな街に行くたびに、女性冒険者がついてきちゃうのよ」


「はあ。皆さんで囲んでいても無理なんですね」


「まあね。合同依頼とかがあるとさすがに無理ね。他の冒険者に近寄るなとも言えないし。男とは組まないから」


「そうですね。彼が前衛ですもんね」


セオさん再びは仲間の女性冒険者たちに囲まれていた。


こちらに来たそうにしているが無理なようだ。


「一人?お兄さんて知り合い少なそうだよね」


「う、うん。実際少ないね」


「人間は情報の塊だよ。他人と話さないのはもったいないですよ。自分が気付かなかった新たな考えも示してくれるし」


「それはそうですが」


「好き嫌いとかどうでもいいのよ。ただの情報なんだし。有用かそうでないかだけ。感情を動かすのももったいない」


「そうだけど、そうはいかないんじゃないのかな」


「ふふ。人を情報としてみることは出来ませんか」


「そうですね」


するとローズマリーさんとジュリさんがやってきた。


金魔猫のココさんもいた。


「賞金首の聖女かしら。それとだれ?」


「前に一緒にいた女性の同僚みたいな人です」


「そう。また違う女を連れてるのね」


「え。はあ。そうですね」


ローズマリーさんとジュリさんが僕たちの前に来た。


「こんにちは。ジュリさん」


「こんにちは。セイジ様」


「その恰好は教会の服ですよね」


「はい。すでに働かせていただいております」


「そうでしたか。教会ではうまくいっていますか?」


「はい。赤竜様の関係する教会だそうでよくして頂いております」


「そうですか。よかった」


「セイジ様は今まで何を?」


「僕は半島のさきっちょに飛ばされまして、ここまで歩いてきました」


「そうでしたか。大変でしたね」


「そうだ。立ち話もなんですから食事でもどうですか。みんなで行きましょう」


「はい」


「私たちもお邪魔しても?」


アーシェさんとセオさんが参加を希望してきた。


「ええ。もちろんですよ。でも人数がいっぱいいますね。店に入りますかね。何人いるんですか?」


するとセオさんが女性たちの中から抜け出してきた。


「はぁはぁ。彼女たちがどうするかは彼女たちの意思に任せてあるんで、セイジさんは気にしないでください」


「そうそう。お兄さんがおごるのは私と彼の二人でいいわ。お兄さんのお話聞かせてよ」


「はい」


僕たちは料理屋に向かった。


「そういえば何で冒険者たちと言い争っていたんですか?」


「ただのナンパよ」


「ああ。そうでしたか」


「断ったくらいで激怒するなんてどういう思考回路をしているのかしら。断られるという可能性を全く持ってないのね。大きな声を出せば何とかなると思ってる。なぜかしらね。不思議だわ」


「そうですね。アーシェさんだけは冷静でしたね」


「人によって見えてる景色は違うもの。私と考え方が違うからって怒ったりしないわ。どうしてそんな行動をするのかしらと思うだけよ」


「僕も考えて行動します」


「そうしてください。お兄さんならできますよ」


アーシャさんたちの仲間の冒険者さんたちは、気を使ってくれたようでそれぞれで料理屋を探すことにしたようだ。


料理屋には僕とローズマリーさんとジュリさんとアーシェさんとセオさんで入った。


食事をしながら僕がアーシェさんたちと別れてからの話をした。


「へえ。魔人国にいったんだ。聖女さん大変だったんだね」


「はい。セイジ様のおかげで命拾いしました」


「それでお兄さんはこれからどうするの?」


「依頼で北の街の近くにある森に行きます」


「そう。私たちも同行していいかしら。帰り道だし」


「構いませんよ」


食事も終わり、ジュリさんを教会まで送ることになった。


何故かアーシェさんもついてきた。


教会の中に入ってジュリさんと別れの挨拶をした。


「これお土産の香水です。ジュリさんの体調に合わせた調合をしてもらいました。香りが気に入ってもらえたらいいんですけど」


「まあ。ありがとうございます。嬉しいです。大切に使いますね」


「はい。魔女の店で買ったものですから、無くなってもまた手に入りますよ」


「そうなんですね」


するとジュリさんが顔を伏せた。


「もう会えなくなるのですね」


「そうですね。でもどうでしょう。僕の旅は明確な当てがあるわけではありませんから、東に行って何もなければ戻ってきますよ」


「そうなんですね。ではここで気長に待っていますので、いつか戻ってきてくださいね」


「はい。その時はここに立ち寄らせていただきますよ」


ジュリさんと別れを済ませ教会から出ようとしたら、なぜかアーシェさんが教会を訪れていた人の悩みを聞いていた。


「他人の言動に振り回される必要はありません。他人の言葉は選択肢せんたくしのひとつでしかないのです。まずあなたが幸せになる選択肢を最低3つ考えなさい。最高の選択とまあまあの選択と最低限の選択です」


(他人とすぐ話が出来て凄いな)


アーシェさんの相談ごとが終わり、教会を出たところで解散となった


「アーシェさん。出発は明日の朝でいいですか?」


「ええ。それで構わないわ。迎えに行くから」


「はい。では明日」

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