第122話 黒鉄羊と封印の山
ヴァーミリオンの街を出発し街道を歩いていると、前方に巨大な火山がそびえ立ち、大空を隠していた。
「ふたつコブがある山なんですね。山の名前は何て言うんですか?」
「
「そうなんですね」
「このまま歩いて行くと昼頃には山の
「わかりました」
しばらく海岸線の街道を歩いていると、ローズマリーさんが海の方を見て話し出した。
「火山の向こう側の海には海底都市があるんですよ」
「へえ。誰か住んでいるんですか?」
「セイレーンがいます。半人半魚の魔獣ですね」
「そうなんですか。建物を建てるんですね」
「セイレーンが建てたわけじゃありません。昔の人間が造った街ですよ」
「そうなんですか。火山活動か何かで沈んだんですかね」
「その通りです。セイレーンにとって住みやすかったんでしょうね」
「人間と仲はいいんですか?」
「お互いの生活圏に入らなければ争うことはないですね。冒険者もわざわざ海の中にはいきませんし」
「そうですね。強いんですか?」
「魔法抵抗力の低い者は、セイレーンの呪歌によって簡単に眠らされてしまいますから、強いと言えば強いですかね」
「呪歌ですか。それは
僕たちは予定通り、昼頃に
山頂に近づくとゴツゴツとした赤茶色の岩ばかりの景色が広がっていた。
後ろを振り返ると遠くにヴァーミリオンの街が見えた。
「山から見下ろす景色はすごいですね」
「ヴァーミリオンに着くときも見たじゃないですか」
「そうでしたね」
「外輪山を避けてカルデラに向かいますね。二度も山登りをするのは大変ですから」
「はい」
外輪山に沿って移動していると山の切れ目にたどり着き、そこからカルデラの中央にある山に向かった。
カルデラの平坦な部分を歩いていると、遠くに大きく赤い集団が現れた。
しかも、その数だけ炎が
「あれは何の集団ですかね」
「魔獣ですね」
「はあ」
千里眼で見てみると赤い象の集団だった。尻尾の先で炎が燃えていて、時折り口や鼻から炎を
すると、その集団がこちらに気付いたようで、こちらに向かって突進してきた。
大地が震動で揺れだした。
「ローズマリーさん、象が燃えてますよ。象ですよね?細いような気がするけど」
「あれが火象ですね。非常に好戦的です。セイジ様、お願いします。ぶっ倒してやってください。素材が高値で売れますよ」
「え。僕が戦うのですか?逃げたほうがいいんじゃ」
「赤竜様の配下に逃げると言う二文字はありません」
「はあ」
(発火は使えないか。弱点は水属性だよね。僕の手持ちでは、ポーションか魔剣か。皮膚が硬そうだから魔剣で切るは無しか)
ドスドス音を立てて火象たちが近くまで来ている。
「やっぱり戦わなくてもいいんじゃ。目的が違いますよね」
「まあいいでしょう。セイジ様。運んでください」
「はい」
僕はローズマリーさんの手を取りテレポートで移動した。
僕たちはそのままカルデラの中央にある山を登っていき、火口付近に到着した。
大きくえぐれた噴火口を眺めていると、ところどころ白い煙が吹き出していた。
「活火山ですね。あれ?封印場所はどこなんですか?」
辺りを見回したが何もなかった。
「この先に洞窟があります。その中です」
「わかりました」
噴火口の周りを大きな石を避けながら歩いていると魔獣の集団が現れた。
「黒い魔獣がいますね」
「あれは
クロガネの毛は剛毛で
「鉄!?角が熱そうですけど高温なんですか?」
「ここは火山ですからね。火属性魔力を吸収し灼熱に熱しているのでしょう」
「はあ。火象と言い黒鉄羊と言い環境に適応してるんですね」
「冒険者にとっては格好の獲物ですね。角と鉄の毛は高く売れますから」
「ですよね」
「でも集団で生活していますからね。倒すのは骨が折れます。セイジ様。感心している場合じゃないですよ。動き出しました」
丘の上にいた黒鉄羊の集団の中から一匹だけが駆けだしてきた。
「あれ?一匹だけ集団から離れましたよ?」
そのクロガネはやっぱり僕に向かってきた。
「なんでーっ」
僕はテレポートでクロガネをかわし空中に移動した。
「セイジ様。あれは駆除対象ですので倒してくださいね」
クロガネは逃げることなく方向転換をして僕を
「ローズマリーさーん。どうやって倒したらいいんですか?」
「ご自分で考えてください」
「はい」
(はあ。やるしかないか。アマンダさんは優しかったなあ)
「私はアマンダほど優しくはありません」
(心を読まれた)
僕とローズマリーさんが会話している間も、クロガネは僕を見ながら後ろ足で地面をひっかき
(やる気満々ですね。それにしてもどうやったらいいのかな。ポーションで冷やしたら弱るのだろうか)
僕は地面にゆっくり降り立った。
するとクロガネが僕に目掛けて全力で突っ込んできた。
灼熱の角か金たわしの毛で体当たりするつもりなのだろう。
クロガネがぶつかる寸前に、僕はテレポートで回避した。
クロガネが急停止した瞬間、僕は再びテレポートしクロガネの真横に移動した。
僕は魔銀の義手に魔力を込め身体強化を発動し、クロガネの頭を思いっきり殴った。
クロガネの頭部だけが吹っ飛んで行った。
(柔らかい!?)
すると、僕の体に異変が起きた。
「おえええっ」
僕は突然気分が悪くなり、胃の内容物を吐き出してしまった。
「セイジ様。どうしましたか?クロガネの首を吹っ飛ばすという衝撃映像をご覧になって、ご気分がすぐれませんか?」
「ううっ。いえ。体内を魔力が流れたせいで気分が悪くなりました」
僕の左手のロンググローブに
「急激な魔力の移動による魔力酔いですね。義手の魔道具の扱いになれていないようですね」
「そうですね。初めて魔銀の義手を全力で使ったので」
僕に襲いかかってきたクロガネが倒された後、丘の上にいた黒鉄羊の群れは山を下りて行った。
「降りて行きましたね。何だったんでしょうか」
「セイジ様に戦いを挑んできたのは、どうやらオスの鉄山羊ですね。メスに勇気を見せるために他の魔獣に戦いを挑むという繁殖期の儀式ですね。勝利するとハーレムを築けます」
「え。倒しちゃってよかったんですかね」
「構いません。弱いオスは必要ありませんから」
「・・・。そうですか」
「それにしてもその義手の魔道具はすごいですね」
「そうですね。魔力の消費が半端ないですけど。それにしても黒鉄羊は柔らかかったですね」
「すべてが硬かったら動けませんからね」
「そうですね」
封印の場所を目指してしばらく進んでいると、岩や砂しかない場所に一本の大きい木が生えていた。
「木がありますね。こんな場所でも生えるんですね」
「あの木も封印の一部です。魔力的の保護されていますから枯れることはありません。あの木の近くにあります」
「そうなんですね」
近寄ってみると木の下の山肌の斜面に洞窟があった。
洞窟の中に入っていくと突き当たりに鉄で出来た扉があり、鉄の
さらには、鉄の扉には
ローズマリーさんは鉄の扉を丹念に調べている。
(中を覗いてみようかな。透視)
扉の向こうには暗闇が広がっていた。
(暗視)
洞窟は下り坂になっており、その先に巨大な空間が広がっていた。
そこには大樹が生えていて、根元には太い根っこが大量にうねっていて何かを包み込んでいた。
そして、木の幹には鉄の扉とは違う魔法陣が刻まれていて、緑色に輝いていた。
(木?洞窟の中にもあるのか。それに大樹の
検査が終わったローズマリーさんが僕のところにやってきた。
「大丈夫そうですね。帰りましょうか」
「あ、はい」
僕たちはその場を離れ、山道を下っていった。
「ローズマリーさんは中に入ったことあるんですか?」
「いえ。ありません。魔法で扉に鍵が掛けられていますから」
「そうですか。洞窟の中を
「大樹ですか。それにしても覗いたというのは?」
「透視の魔法です」
「なるほど。封印の間に大樹があったという事は、大樹が封印の
「木がですか。灰竜の
「寝込みを襲ったのかもしれませんね」
「そうですね。わざわざ戦う必要はないですもんね」
「誰が封印を
「相性ですか」
「魔力の相性がいい、とは不自然ではないという事です」
「なるほど。灰竜は土属性で大樹は緑属性ですから自然という事ですか」
「ええ。水属性はは火属性に強いとかそういった単純な力関係はありません。属性はお互いに作用しあうものですから。属性も自然の
「なるほど」
「属性の組み合わせにより状態が変化することもありますね。火、木、風属性で炎の勢いが増すとかね。状況にあった属性の組み合わせが魔法を行使するうえで大切になってきます。属性の相性も魔力量によって意味をなさなくなります。水属性と火属性の場合、火属性の魔力量が多かったら相性など成立しませんから」
「そうですね」
「まあ、実際に封印を見てみないと正確なところはわかりませんけどね」
ローズマリーさんが立ち止まって僕に手を差し出した。
「セイジ様。転移魔法で一気に街まで帰りましょう」
「わかりました」
僕たちは数分でヴァーミリオンに戻った。
宿屋に泊まり、翌朝、僕たちはヴァーミリオンを離れ中部に向かって出発した。
海から離れるように伸びる街道を歩いていると、森の中を通ることになった。
「この森を抜けると半島の中部に入ります」
「そうですか。ようやくジュリさんに会えるんですね」
「はい。ですがその境に『燃え
「え。大地が燃えているんですか?」
「そうです。巨大なカルデラがいくつもある平原です。すなわちいつ噴火してもおかしくない火山地帯という事です」
「危ないじゃないですか」
「はい。難所ですね。遠回りするのが普通ですが、セイジ様なら楽勝ですよね。最短距離で行きましょう」
「そうですね。転移や空を飛べば平気ですか」
しばらく歩いていると平地から山道に変わった。
僕は歩きながら森の様子を何となく見ていると、何か違う雰囲気を感じた。
「この辺りの森は今までの場所と違いますね。豊かと言いますか。森が深いと言いますか」
「そうですね。さすがセイジ様です」
「え。何か違うんですか」
「ええ。この森は一種の聖域となっています」
「聖域ですか。聖獣か幻獣がいる森のダンジョンですか?」
「いえ。精霊王です」
「ああ。精霊王ですか。ここがそうなんですね。確か精霊王は精霊の女王を支配しているんですよね」
「さすが物知りですね」
「いえ。たまたま教えてもらったんです。なるほど精霊の国があるのですか」
するといつの間にか僕たちは霧の中を歩いていた。
「あれ?霧が出てきましたね」
「この霧には魔力が含まれていますね」
ローズマリーさんが立ち止まり周囲を警戒しだした。
僕もとりあえず周りを見た。
「魔力の霧ですか」(霧の森のダンジョンみたいだな)
するとローズマリーさんが上を見た。
僕も上を見ると、真っ白な巨人がゆっくりと空から降りて来ていた。
その巨人に目はなく、目の位置から角が2本突き出ていた。
巨人が音もなく地面に降り立った。
「
(見えてるの!?まあいいか)
「え~っと、魔人国に行くことになりまして、そこで巨人族に会って、この魔銀の義手をもらいました」
「魔人国?ああ。戦いに負けた情けないやつらが住む巨人族の島か」
するとローズマリーさんが一歩前に出て巨人に言った。
「あなたは霧の巨人族ですね。私たちを食べに来たのですか?」
「ああ。今は食事時だろ?精霊の方が良かったんだが、たまには肉もいいな」
(え。人だけじゃなく精霊も食べるんだ)
「おとなしく雲の中に帰りなさい。そうしたら見逃してあげますよ」
「ぎゃはは。面白いことを言う。素直に助けてくださいと言えばよかろう」
すると、森が急に
「ちっ。精霊王か。こんなに早くに気付かれるとは。ここは精霊の国の外だぞ」
どこからともなく声が聞こえてきた。
「霧の巨人。よくも我の一族の精霊を食べちらかしてくれたな。死んで
すると霧の濃度が増した。
「貴様らを霧の牢獄に閉じ込めた。二度と外に出ることはないだろう」
「精霊王め。俺様の霧を利用するとは」
(え。僕たちも閉じ込められたの?)
ローズマリーさんも精霊王に言った。
「精霊王。我々は関係ないと思うのだが」
「獣人の分際でほざくな。霧の巨人と共に滅ぶがよい」
森にざわめきが戻ったが霧は晴れなかった。
「この霧は俺の物だ。すぐに脱出してやる。霧の巨人族をなめるなよ。精霊王」
霧の巨人が大声で
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます