第121話 港湾都市ヴァーミリオン

僕がしばらく紫陽花あじさいみたいな花を観賞していると、レオナさんが魔術書から外に出てきた。


「あ~。この花は私の国にも咲いてました~」


「え。もしかして魔女さんが行った国がレオナさんの生まれ故郷ですか?」


「どうですかね~。あ~。ローズマリーさんが来ましたよ~」


レオナさんが魔術書に戻った。


ローズマリーさんが僕たちの所にやって来た。


「そろそろ行きましょうか」


「はい。次の街はどんな街ですか?」


「南部最大の都市ヴァーミリオンです。中部との境目さかいめでもあります」


「そうなんですね。では行きましょう」


僕たちはヴァーミリオンを目指し山岳要塞都市を出発した。


僕たちは尾根に出来た危険な道を通ることはなく、僕の空中浮遊を使って街中から谷を越え、半島の西の海に面した街を目指した。


しばらく道をさがしながら空中を移動していると、山道を見つけたので地面に降り立った。


この先は海まで山を下っていくことになる。


僕とローズマリーさんは山道を歩きだした。


「目的地の街まで歩いて行くんですか?転移か浮遊で行けますよ?」


「それもいいですが、セイジ様は冒険者活動をするのでは?」


「はい。掲示板に出ていた魔獣を狩ろうかと。空からでも見つけられたらなと思ったんですが」


「空にいては森の中にいる魔獣は見つけられません。魔獣は街道にはあらわれませんから」


「そうですか。では歩きましょうか」


山道とは行っても下り坂ばかりではなく、上り坂や高原こうげんが現れることもあった。


かなり歩いたが整備された街道には合流できていなかった。


すると茂みの中からようやく魔獣が現れた。


それは赤毛の狼の集団だった。


尻尾を見ると太いヘビが生えていた。


「セイジ様。私は離れていますので存分に戦ってください」


「はい。ありがとうございます」


(火狼か。そういえば初めて戦った魔獣はオオカミだったな。頭数も同じ5頭か。魔狼はいないようだけど)


火狼たちが「ガルルッ」とうなりながらじりじり近づいてきた。


尻尾のヘビも頭をもたげ僕を見ている。


僕は結界を展開し相手の出方でかたを見た。


すると、ガンッっと結界に何かがぶつかった。


チラリと横を見ると鎌鼬かまいたちが地面に倒れていた。


(鎌鼬も来ちゃったよ)


僕はすぐさま結界を解除し、鎌鼬が起き上がる前に発火を打ち込んだ。


すると火狼たちが襲って来たので、僕はテレポートでかわした。


火狼の一匹が鎌鼬をくわえて森の中に帰っていった。


残った火狼が空中にいる僕に向かってえている。


(数が減ったのはいいけど、どうしたものか。発火は避けられるだろうし。そもそも発火は火属性の魔獣に効果あるのかな)


すると火狼たちが僕に向かって、口から火の玉を発射してきた。


僕はテレポートでかわし透明化した。


透明化したものの僕の存在は何となくバレている様だ。


(匂いかな。あれで行こうかな)


僕は腰に巻き付いているランにお願いして、白い玉に戻ってもらった。


僕は透明な白い玉を操作し、火狼たちにぶつけていった。


火狼たちが次々地面に倒れていった。


僕は発火を倒れている一匹の火狼に射出してみた。


火狼に直撃した発火は火狼の毛皮を燃やしていた。


(火に対する完全耐性は持ってないようで安心しました)


僕は地面に倒れている残りの火狼に発火を次々射出し、とどめを刺していった。


透明化を解除するとローズマリーさんが近寄ってきた。


「お疲れ様です。しかし燃やしてしまっていいのですか?毛皮は素材なのでは?」


「そうなんですけど、困ったことに僕には魔獣にとどめを刺せる攻撃が他になくてですね」


「魔剣があるじゃないですか」


「これは依り代なので、万が一にも壊すわけにはいかないんですよ」


「なるほど。それは困りましたね。そういえばセイジ様は邪属性の魔力の塊を持っていましたよね」


「はい。いくつか持ってますけど。魔人国でさらに増えてしまいました。使い道がなくて持てあましています」


「赤竜様もおっしゃっていましたが、邪属性魔法を使ってはいかがですか?例えば魔道具を購入してはどうでしょう。状態異常系の魔法ですね」


「なるほど」


「でも毒とか麻痺まひとか石化とか相手の動きを拘束する系が多いですか。必殺技ではないですね。すみません」


「いえいえ。街に着いたら魔道具屋に行ってみますよ」


僕が火狼から魔石を回収しようとしたところ、火狼の尻尾であるヘビが襲い掛かってきた。


「!?」


「ガブッ」


僕がとっさに右腕を出すと、ヘビは魔銀の義手にみついた。


(発火)


義手ごとヘビを燃やす。


(危なかった。まだ生きていたよ)


他の火狼の尻尾を見ると一匹だけまだ動いていた。


そのヘビが口を開けた。


ブシューッ


ヘビが紫色の毒霧を噴射した。


僕はテレポートでヘビの背後に移動し、右手でヘビの頭をつかんだ。


するとヘビから何かの映像が流れこんできた。


(何だ?取り合えず発火)


僕の手の中で発火が起こりヘビを焼いた。


「ふう。油断してました。情けないところを見せてしまいましたね」


「そうですね。がっかりです」


「え」


「それはいいとしてセイジ様。魔銀の義手に新たな紋様もんようが浮かんでいますよ」


「え?新たな紋様?」


ローズマリーさんが近寄ってきて、指で義手のひじのあたりを指示さししめしてくれた。


その部分を見てみると、表面に一筆書きで書かれた適当な文字のようなものが描かれていた。


「何ですかねこれ。ヘビみたいですね。色が元の色より少し濃くなってますね」


ローズマリーさんが、その紋様をじっと見た。


「これはおそらく魔力の流れを現してますね。原始的な魔法陣と言っていいかもしれません」


「魔法陣ですか」


「セイジ様。邪属性魔力の塊をそこに当ててみてください」


「わかりました」


リュックから邪属性魔力の塊を取り出し、義手の紋様にかさねた。


すると邪属性魔力の塊が小さくなっていき消えてなくなった。


「あ。吸い込まれましたね」


義手の紋様が邪属性魔力の塊と同じ紫色に変化し輝きだした。


「やはり毒霧魔法の魔力の流れと考えてよさそうですね。だとするとヘビが使った毒霧の魔法が使えるようになったかもしれませんね」


「そうなんですか。なぜこんなことが起きたんですかね。これ鍛冶師の人がった紋様じゃなかったんですね」


詳しく魔銀の義手を見てみると、義手には同じような紋様が手の甲から肘に掛けて10個あった。


「こんなに紋様が増えていたとは気づきませんでしたよ。ローズマリーさんはよく気づきましたね」


「セイジ様に初めて会った時に魔銀の義手をはじめ、全身をくまなく観察しましたので」


「え。そうなんですか。でもこれって何なんですかね」


「おそらくセイジ様が体感した魔力の流れがその義手に紋様としてきざまれているのでしょう。つまり義手の所有者が発動した魔法の魔力の流れを記憶し、なおかつ発動することが出来る魔道具だと思われます。とんでもない魔道具ですね」


「そうですね。持ち主の人に『お前なら使いこなせるだろう』と言われた意味がようやく分かりました」


「その持ち主の人の魔法も記憶されていると思いますが、どんな魔法を使っていたのですか?」


「魔法は身体強化ですね。体外に魔力を放出できない人でしたので」


「そうですか。ではセイジ様も右腕の義手の強化が出来るでしょうね」


「右腕だけですか。強度が上がったり握力が強くなったりですかね」

(身体強化は僕も出来るけど、巨人さんの魔法とは違うのかな)


僕は魔銀の義手を動かしてみた。


「おそらく紋様が薄くなったら魔力が不足しているという合図あいずでしょうね」


「そうですね」


今の所すべての紋様は濃い色をしていた。


(10個の内訳は、身体強化、テレポート、浮遊、発火、透明化、物体操作で6個か。それにヘビの記憶を読んだ毒霧で7つの紋様か。あと三つは何だろう。超能力のひとつと思うんだけど・・・。ヘビの記憶を読んだ行為、サイコメトリーか。あとは、あ、赤竜さんが使った火属性魔法か。あと一つは・・・もしかして義手の大きさを変える魔法かも。あとで確かめてみるか)


僕が考えごとをしているとローズマリーさんが話しかけてきた。


「セイジ様。道が大変なことに。このままでは馬車が通りれませんね」


道に火狼の死骸が散乱していた。


「わかりました。今すぐ片付けます」


僕はすぐに火狼たちを草陰に移動させて、僕たちは移動を開始した。




しばらくすると森を抜け、岩場が広がっていた。


「山肌の斜面が岩や石で出来てますね。落ちてくる石に気をつけないといけないですね」


「そうですね。セイジ様。あそこに大岩がありますので、岩陰で休憩にしましょう」


「はい」


僕たちが巨大な岩がいくつも横たわっている場所に近づいていると、大岩がわずかに動いたような気がした。


「ん?」


よく見てみると灰色の大岩に目があった。


「!?」


大岩がのっそりと起き上がた。


「岩豚ですね」


ローズマリーさんが教えてくれた。


岩豚は岩とそっくりな灰色の皮膚をしていて、体重は300キロはありそうだった。


「岩豚ですか。硬そうですね。討伐依頼にありました」


「そうですか。あ」


岩豚がものすごい勢いで突進してきた。僕の方に。


僕がテレポートで避けると岩豚はそのまま逃げていった。


「セイジ様。追わなくていいのですか?」


「え。うん。攻撃方法がなさそうだから」


「そうですか。では休憩しましょう」


僕たちは大岩に寄りかかり休憩をした。


ローズマリーさんはドライフルーツを食べだした。


僕は吸血の魔女さんからもらったお土産みやげの残りを食べることにした。


「もきゅっもきゅっ」


山に不思議な咀嚼音そしゃくおんが響き渡った。


「もきゅもきゅと五月蠅うるさいですね。何の音ですか?」


「すみません。意外と響きましたね。これ古代魔法文明の遺跡で手に入れた白い砂を固めたものです」


「は?セイジ様は砂をおしになると。変わった食生活ですね。もしや人ではない可能性がありますね」


「人ですよ。これは頂き物なんです」


「そうなんですか。美味しいのですか?」


「いえ。食感が面白いだけで味は全くしません」


「そうなんですか」


ローズマリーさんは白い団子には全く興味を示さず、ドライフルーツを食べだした。



休憩も終わり山道を下っていくと、ようやく遠くに海が見えてきた。


海岸線沿いに街も見える。


「あそこが港湾都市ヴァーミリオンですか?」


「そうです。街の右側の少し離れた場所にある山に灰竜が封印されています」


ローズマリーさんが指をさした。


「へえ。あれが」


大きな山からは、いくつもの煙が立ち上っていた。


街に視線を移すと、海岸の近くに二つの塔がある城が見えた。


山側の丘の上にも巨大な城が建っていた。


「城が二つあるんですね。どちらに偉い人が住んでいるんですかね」


「海の方は別荘みたいなものですね」


「へえ。そうなんですね」


僕たちは山を一気に下り、巨大な城壁にある城門をくぐり街の中に入った。


街の中に入ると石造りの高層住宅が密集していた。


「この街も通りがせまいんですね」


「そうですね。山と海の間に出来てますからね。土地が狭いんです。それに城壁で街を囲っていますから余計に密集せざるをないのでしょう」


狭い通りに建ち並ぶ建物の隙間から、丘の上に立つ白い石で造られた城が見えた。


円筒型の塔が特徴的だった。


3本の塔が建っていてその間を長方体の建物がつないでいた。


「城から街を見下ろすと眺めがよさそうですね」


「そうですね。海の方に行ってみましょうか」


「はい」


奥に進んでいくとそこには広場があり竜神教会があった。


壁に装飾が施された立派な石造りで三角屋根の建物だった。


教会を通り過ぎ港に行ってみると、海岸沿いに海に突き出すように造られた二つの大きな塔がある巨大な石の城が建っていた。


「あれが貴族の別荘ですか。それにしても大きいですね。窓が少ないし余計な飾りがない。まさに要塞ですね。海の眺めは良さそうですけど」


「見るべきものは見たので食事でもしますか」


「はい」


僕はローズマリーさんに案内され料理屋に向かった。


そこで、トマトソースとチーズと野菜を乗せて焼いたパンとイワシの揚げ物料理を食べた。


その後、宿屋に部屋を借り眠りについた。



翌朝、朝食を食べているときにローズマリーさんから提案があった。


「あさりのスパゲッティ、美味しいですね。ムール貝をした料理も美味しいですよ」


「セイジ様。お暇でしょうから私の仕事を手伝ってもらえますか。どうせ冒険者ギルドにはいかないんですよね」


「え。あ、はい」


「灰竜が封印してある火山に行きましょう」


「火山ですか。何をするんですか?」


「封印の確認です。それとその付近の魔獣退治ですね。間違って封印の洞窟に入りこみ、封印をかれてはたまりません」


「なるほど。どんな灰竜が封印されているんですか?」


「街を襲い灰のブレスで街をおおくし、街の住民を灰で生き埋めにした竜です。火山に巣を造っていました」


「そうなんですか。狂暴ですね」


僕たちは宿屋を出て灰竜が封印されているという火山に向かった。

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