第114話 巨人族の街プラム

僕たちは森を抜け、巨人族の街プラムに向かって歩き出した。


「プラムの街は湾の南岸にある。つまり北に行けば海に出る。私たちがこの街に来るときはそこから上陸している」


エルフのエディさんが教えてくれた。


「そうなんですね」


街の近くまで行くと城壁が所々途切れているのが見えた。


「変わった城壁ですね」


「ん?ああ。あれは魔法陣のために城壁をけずったのだ」


「ああ。あれがそうなんですか。確か街の建物も潰したりしてるんですよね。上から見たらどんな形状になってるんですかね。円環えんかん状でしょうか」


「知らないよそんなこと。どうでもいいだろ」


「はあ。そうですね」


「あんたのために街の説明をしてやろう」


「お願いします」


「街の中心部に巨大な建物があり、その中に巨人族の居住区に続く巨大な地下道がある。地下へは巨人族以外立ち入り禁止だ。エルフも入れない。この街にもエルフの居住区が用意してある。地上の街にはエルフしかいない」


「なるほど」


僕たちは門番のいない城壁を通り過ぎ、巨人の街プラムに入った。


街中を見渡すと城壁や建物が規則的に破壊され、街並みが作り変えられていた。


街の外に視線を向けると巨大な岩山があり、その上にそびえ立つ城がみえた。


(あの城がローザさんが言っていた廃墟の王城かな。あの城の宝物室に王家の証があるのか)


「私たちは巨人族と会談してくるから、あんたはエドナとエマと一緒に待っててくれ」


「はい」


エディさんと巨人族のギュンターさんの護衛をしていたエルフさんたちが、会談の場に向かった。


しばらく待っているとエディさんだけ戻ってきた。


「用事は済んだんですか」


「ああ。あとはここの担当に任せた」


「そうですか」


「今日は休むか。明日、あんたの手伝いをする」


「え。手伝ってくれるんですか?」


「ローザに依頼されたからね。依頼を達成しないとあんたをエルフの国に連行できない」


「ああ。そうですか」


「どこに泊まろうかね」


エディさんが辺りをキョロキョロ見回して何かを探していた。


「どうしたんですか?」


「宿を探している」


「宿?エルフの居住区に行かないんですか?」


「あんたを連れてはいけない。あんたが不法侵入者と分かったら、どんな目にあうかわからないからな」


「はあ。それは行きたくなくなりましたね」


エディさんは比較的まともな廃墟の建物を見つけ、僕たちはそこで一晩過ごすことになった。


僕は3人のエルフに監視されながら眠りについた。


翌朝、白い玉のランに起こされた僕が目を覚ますと、エルフさんたちはすでに起きていた。


「食事は用意しておいた。エルフの居住区から持ってきた物だ」


「ありがとうございます」


平らなパンと野菜が入ったシチューとドライフルーツをもらった。


美味しかったです。


「さて、岩山の上にある王城に行くぞ」


「はい」


僕たちは廃墟の建物を出て、エディさんを先頭に岩山の上にある廃墟の王城に向かった。


僕は3人のエルフさんたちに囲まれて歩いているが、ほぼエディさんがずっと喋っていた。


「道中の食事は私たちが用意しているから安心しろ」


「ありがとうございます」


「礼は言い。ローザに請求するから」


「そうでしたか」


「城に入るには岩山をぐるっと回っていかないとたどり着けないから、結構時間がかかる」


「そうなんですか。岩山は高いし険しいそうですね」

(一人なら飛んで行けたのにな)


「実は私たちも巨人族から依頼をいくつか受けていてな。あんたも手伝ってくれるか?」


「はい。もちろんですよ」


「助かる。城の近くにある森は『精霊の国』の一部なんだ。そこに面倒な魔獣が出没しているようでね。それを退治してくれだとさ」


「精霊の国ですか」


「国と言っても私たちエルフや人間のような仕組みの国ではない。精霊の女王とそれ以外しかいない」


「はあ。社会性はあまりないと」


「そうだ」


「巨人族は精霊の国を守っているんですね」


「親戚だからな。私たちエルフも守るぞ。魔人国はそうでもないようだが」


「そうなんですか。大陸にもあるんですか?」


「あるが魔力の少ない人間には精霊が見えないからな。気付かぬうちに精霊の国を破壊してしまうことがある」


「そうなんですね」


「人間が森をおそれているうちは滅多にないだろうけどね」


「そうですか。それでどんな魔獣を倒すんですか?」


「緑色の毛皮におおわれたイノシシ顔で、胴体が大型犬のような姿をしている魔獣だそうだ。毛皮に黒い模様があるらしい。精霊を襲って魔力を吸収しているんだと」


「魔力を食べる魔獣ですか」


「地面に穴を掘って巣穴を作ってるんだとさ」


「へえ。一匹ですか?」


「今の所一匹だな。確かめないといけないが」


「そうですね」


「そいつの能力だが再生能力だな。黒い模様が回復の魔法陣みたいな効果を持っているそうだ」


「すごいですね。回復持ちですか」


「だから魔獣の素材は、出来るだけ綺麗な状態で持って帰ってきて欲しいそうだ」


「そうですか。無茶な注文しますね。燃やしたらだめってことですか」


「そうだな。毛皮が燃えるし肉体の成分が変わるだろうしな」


「わかりました。他の方法で攻撃しようと思います」


「そうしてくれ」


「エルフさんたちも戦うんですよね」


「そうだけど、私は火属性魔法とサラマンダーだから無理だな。エドナとエマの精霊と一緒に倒してくれるか?」


「はい」


「エドナはシルフィード。エマはウンディーネだ」


「わかりました。精霊の国には行けるんですか?」


「何言ってんだ。あんたは駄目だ」


「なぜですか?」


「あんた、もしかして精霊を嫁にするつもりなのか?」


「え。い、いえ。そんなつもりはありませんよ」


「精霊の国は中途半端な気持ちで行っていい場所じゃない。戻ってこれなくなるぞ」


「どういうことですか?」


「精霊の女王につかまると肉体を消滅させられ、精霊にされて支配されてしまう」


「恐ろしいですね」


「だから私たちが行くのは精霊の国の近くまでだ」


「わかりました。他にも依頼を受けているようですけど、それも精霊の国関係ですか?」


「違う。封印の地でお花摘はなつみだよ。これは私たちだけでやる。この辺りには無いからな」


「お花摘みですか。封印の地って黄金の巨人の王が眠っているところですよね。何でそこなんですか?他の場所にはえていないんですかね」


「ああ。なんでも黄金の巨人の魔力の影響を受けた薬草が生えているらしい。これは魔人国の連中には内緒だ。ローザにもな」


「はい。わかりました」


城のある大岩に沿って坂道を進んでいると、だんだん日が高くなってきた。


「休憩にするぞ」


「はい」


僕たちは岩がむき出しの平らな場所に座って、休憩をすることにした。


エディさんはショルダーバックから保存食や水の入った革袋を取り出した。


明らかに荷物がバックの許容量を超えていた。


「あれ?もしかしてそのバック。魔道具ですか?」


「そうだ。そこそこ容量がある。テントやなべや食器も入ってる。あんたのテントはないけどな」


「はあ。それは構いませんが。エルフの国で作っているんですか?」


「巨人族の国や魔人国でも手に入る。あんた買ってないのか?」


「はい。買う暇がなくて」


僕はパンとドライフルーツをもらって食べ始めた。


「この岩山を構成している岩は火属性と土属性魔力が豊富だ。このへんで火山活動でもあったのだろう」


「へえ。そんなことが分かるんですね」


「精霊が教えてくれる。話しかけてくるわけではないぞ」


「そうなんですね」


僕は周囲の地面を見てみたが何も見えなかった。


(まったく見えないな)


「あんたには弱い精霊は見えないようだな」


「そうみたいです」


僕がリュックの中身を出して整理していると、レオナさんがうっかり魔術書から出てきて、エルフさんとご対面。


「ギャーッ」」」

「アンデッド!?何でアンデッドが突然出現するんだ」

「死霊属性魔力が濃いのは魔道具のせいじゃなかったの?」


レオナさんが僕の後ろに隠れた。


背後霊みたいだな。


「魔術書の中にいるとセイジ君とお話しできなくて寂しいです~」

「そうだね。えっと。この女性はレオナさんです」

「こんにちは~」


「!?」」」


エルフさんたちは各々魔石を握りしめ警戒態勢を取った。


「あんたの背中にいるゴーストは大丈夫なんだろうな。私たちや精霊に危害を加えようとしたら、ただでは済まないぞ」


「そんなことしませんよ」

「しないです~」


「とても信じられんな。あんた死霊使いか?」


「違います」


「何で死霊使いじゃないのにゴーストと一緒にいるんだよ」

「もしかしてりつかれているのか?」

「言葉を使うってことは高位のゴーストよ。気を付けて」


エルフさんたちが後ずさった。


「憑りつかれてないと思いますよ」

「憑りついていませ~ん」

「レオナさんもそう言ってます」


「ゴーストの言葉なんて信じられるわけないだろ。襲ってきたら消滅させてやるからな。そのつもりでいろ」


「はあ。心配性ですね」

「私に勝てるんですかね~」

「レオナさん。挑発しないでください」

「は~い」


レオナさんは魔術書の中に戻っていった。


その後、エルフさんたちは何とか落ち着きを取り戻し、休憩も終わり城に向かった。


「日が暮れる前には着きそうだな」


「はい」


しばらく進むと巨大な廃墟の王城にたどり着いた。


僕は岩山の上から巨人族の街を見下ろした。


巨人族の街は、途切れ途切れの城壁と建物で造られた五重の円と、それらを繋ぐ建物で構成された複雑な形状となっていた。


「おーい。何やってんだ。行くぞ」


「はい」


僕たちは城を囲む城壁に近づいた。


「あんた、城の内部のことローザに聞いているのか?」


「いえ。全く聞いていません」


「ローザのやつ。私たちに投げっぱなしか。仕方ない。案内してやる」


「ありがとうございます」


僕たちは城門を抜け城の敷地内に入った。


「エディさんたちは城に入ったことあるんですか?」


「私たちじゃないけど他のエルフが依頼で調査に入ったことある。エルフ内でいろいろな情報を共有している」


「そうなんですね」


「宝物室に直行するぞ」


「はい。そのとき宝物室には行かなかったんですか?」


「宝物室には入れなかったみたいだ。扉に魔法で鍵が掛けられていて開かないんだと。しかも時間の経過で魔力が変質していて迂闊うかつに手を出せないのさ」


「そうなんですね」


「そういえば、あんたローザに鍵をもらっているのか?」


エディさんが立ち止まって僕を振り返った。


「貰ってませんね」


「は?どうすんだよ」


「おそらく大丈夫なんじゃないかと」


「おそらく?どうやって入るか教えろ。じゃないと時間の無駄になる」


「転移魔法です」


「転移魔法?ああ。そういえば、あんたがエルフの国に侵入してきたときも転移魔法を使ってたな」


(僕じゃないんだけどな)


エディさんは少しだけ考えた。


「転移魔法で入れるかどうかわからないけど行ってみるか」


「はい」


僕たちは城内に入り真っすぐに一番奥にある王族の住居に向かった。


城の敷地は雑草が伸び放題だったが、城や城壁の壁などはそんなに壊れていなかった。


「城の中に魔獣とかいるんですか?」


「魔獣はいない。巨人族が結界を張ってるからな。中で自然発生する魔獣までは防げないけどな」


「なるほど」


「地下の牢獄にはアンデッドが発生しているけど興味あるか?」


「いえ、興味ないです」


「そうなのか。アンデッドの仲間を増やせばいいじゃないか。死霊使いの素質があるかもしれないぞ」


「素質があっても遠慮したいです」


「まあ、あんたはエルフの国に行くから死霊使いの勉強は出来ないんだけどな。お、着いたぞ」


王族の住居は暖炉だんろがあり、天井を見上げるとおしゃれな木彫きぼりがされた木組みの天井になっていた。


室内には高そうな調度品が綺麗に置かれていた。


「荒らされていないんですね」


「エルフも巨人族も物を大切にする。むやみに壊したりしない」


「そうなんですね」


目当ての宝物室は王族の住居の奥にあった。


宝物室の扉には魔石がめてあり、禍々まがまがしい光をはなっていた。


エディさんが近寄って、その魔石を観察しだした。


「だめだこりゃ。元の魔石が何属性だったかわからないくらい変質しちゃってるな」


「そうなんですか」


「これじゃ鍵を持ってたとしても開かなかったかもな」


「魔石の魔力って変質するんですね」


「そりゃそうだ。魔石は魔力をめたり放出したりするから、周囲の魔力に影響を受ける。宝物室の扉に鍵をかけるための魔石なんだから、魔力が無くなったら困るだろ」


「そうですね」


「まあ。普通は変質する前に交換するんだけどな。国がほろんだから仕方ないか」


エディさんが扉の前から離れた。


「さあ、あんたの出番だ」


「はい」


僕は扉の前に進みでた。


(見えないところにテレポートしても物体を避けて出現すると姫様が言ってたから、それを信じるしかないか。そういえば最近、超能力の本を見てなかったな。光ってなかったから更新されてないと思うけど。気が向いたら見てみるか)


「ちょっと待った」


いざ宝物室にテレポートしようとしたら、エディさんから待ったが入った。


「はい?」


「ゴーストを置いて行きな」


「え?なんでですか?」


「宝物室には大抵侵入者対策をほどこしてあるから、死霊属性魔力に反応するかもしれないぞ」


「なるほど」


僕はリュックから魔術書を取り出し空中に浮かせた。


「行きます」


僕は宝物室の中にテレポートした。


「!?」(魔獣!?)


室内に魔獣がいたので、僕はあわててテレポートで元の部屋に戻った。


随分ずいぶん早かったな。何も持ってないようだけど」


「はい。室内に魔獣がいたので戻ってきました」


「は?魔獣?魔獣が密室で生きていけるわけないだろ」


「もしかしてアンデッドですかね」


「だから何で魔獣が宝物室にいるんだよ。アンデッドじゃなくて宝物室を守る精霊かゴーレムじゃないのか?どんな姿をしてた?」


「透明っぽい青い犬でした」


「そうか。だったら精霊かもな。おそらく水属性の魔石か魔道具に束縛そくばくされている精霊だろう」


「倒すんですか?」


「いや。その精霊を開放してやれ。滅んだ国の宝物室を守る必要はない」


「そうですね。でもどうやってですか?」


住処すみかである魔石か魔道具を持ってこい」


「倒さないでですか?」


「当たり前だ」


「どうしたらいいんでしょうか」


「ビビってんじゃないよ。あんたは2体も霊体を所持してるんだ。そんじょそこらの精霊とは格が違う。その精霊の前に出してやればいい。動けなくなるはずだ。食われるだけだからな」


「そういうものですか。わかりました」


僕は霧の森ダンジョンの依り代だった魔剣『白妙しろたえ』を右手に持ち、再び宝物室の中にテレポートした。

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