第81話 蒼霧の古城

補給を済ませた遠征隊は、早朝にディープブルーを出発し、東に進路を取りダンジョンに向けて出発した。


ダンジョンの名は『蒼霧あおぎりの古城』。


湖のほとりに建つ古城のダンジョンだ。


霧の名が入っているがダンジョンとは関係なく、土地の影響で青い霧が発生するそうだ。


条件が整えば早朝に青い霧が付近一帯に発生するという。


『蒼霧の古城』ダンジョンはワーブラー領の中央の湿原地帯にあり、遠征隊は街や村を経由して5日をかけ、昼過ぎに古城の近くまでたどり着いた。


現地の天気は悪く薄暗かったが、雨が降り出すほどではなさそうだ。


遠征隊の目の前には広大な湿原が広がっていた。


湿地帯には細い枯れ木が至る所に立ち並んでおり、独特な雰囲気を漂わせていた。


遠征隊は慎重にぬかるんだ地面を歩きながら、『蒼霧の古城』ダンジョンを目指していた。


しばらく歩くと青く澄んだ湖が現れた。


湖のほとりには歴史を感じさせる石造りの古城が建っていた。


遠征隊は湖に沿って古城に向かう。


この古城はアルケド王国建国以前の時代の建物の遺跡だ。


遠征隊はロイスさんのパーティー『ブラックアイロン』を先頭に進んでいて、僕はその後ろをついて行っていた。


「敵襲ーっ」


先頭を歩くブラックアイロンのケネスさんが警告を発した。


すると、薄暗い空からいくつもの青い炎が遠征隊目掛けて降ってきた。


冒険者たちは避けたり盾で受け止めたりしてかわしている。


青い炎が盾や地面に激突した瞬間、姿を変え鳥に変化し再び上空へ舞い戻った。


青鷺火あおさぎのひだっ。炎だけに注意しろ」


(あの鳥は青鷺あおさぎの魔獣なのか)


薄暗い景色の中、青鷺の白い体毛が青白く光っていた。


空を舞う二十数匹もの青鷺火の大群が、再び青い炎に変化し冒険者たちに次々襲い掛かって来た。


僕の所にも青い炎が突撃してきたので念動波で迎撃しようとしたら、勝手に左腕が動き出し青鷺火に照準を合わせた。


(ちょっとレオナさん?腕は必要ありませんよ)


(私に必要なんです~)


何が必要なのかわからないので、とりあえず突撃してきた青い炎をテレポートでかわし念動波を発射すると、今までとは違う念動波が発射された。


バフッ


念動波が青い炎に直撃し青鷺の姿に戻ったところで、魔剣『白妙しろたえ』を射出し止めを刺した。


念動波が少し黒く見えたのですが。


(はい~。私の魔力を混ぜてみました~)


(そんなことが出来るの?)


(魔道具のグローブに装着した魔石の魔力を利用出来ているのですから、私の魔力も使えますよ~)


(そういうものなのか)


そこへブラックアイロンの魔法使いコステロさんが走ってきた。


「ちょっとちょっと。セイジ君」


「はい?なんでしょう」


「今、死霊属性と風属性を混ぜて使ったよね?ね?」


「え。はあ。まあそうですね」


コステロさんが僕の左腕を見る。


「やはりやはり。セイジ君の左腕から死霊属性の魔力を感じていたのは間違いではなかったか。その魔道具の魔石のどれかに死霊属性が付与されているのかね?」


「はい。そうですね」

(幽霊そのものですけど)


「なるほどなるほど。斬新な組み合わせだね。火属性の魔獣に効果があるかどうかは疑問だけど、試してみる価値はあるよね」


「そうですね」


「いやいや。面白いものを見せてもらったよ。楽しい旅になりそうだね。期待しているよ」


「はい。頑張ります」


「うむうむ」


コステロさんは満足そうに仲間の元に帰っていった。


僕は気になることがあったのでレオナさんに質問した。


(ねえ、レオナさん。魔力を提供してくれるのは有難いんだけどレオナさんに影響はないの?)


(今までいっぱい食べましたから大丈夫ですよ~)


(そうなんですか)


(それに使わないで魔力を溜めていくと進化しちゃいますから~)


(進化?魔獣から聖獣みたいにですか?)


(そうです~。魔力が溜まってくるとウズウズしちゃうんですよ~。だから魔力を提供して消費しているんだよ~)


(そうなんですね)


(幽霊の次ってなんですかね~。セイジ君は私が進化した方がいい~?)


(進化の先が何かわからないけど、レオナさんの好きにしてください)


(はいよ~)


青鷺火は火の玉に変化して突っ込んでくるだけだったので、冒険者たちは徐々に対処出来るようになっていった。


襲って来る青鷺火がいなくなったところで魔石を回収し、遠征隊は先に進んだ。


遠征隊は古城の正面入り口に到着した。


湖畔に建つ巨大な古城の正面入り口の上には三つの塔がそびえ立っており、中央の主塔は丸屋根だった。


全体を見ると6階建ての城から無数の塔が突き出していた。


この古城は上から見ると五角形の形で建物が造られており、中央は空洞で中庭があるそうだ。


5組のパーティーすべてが無事に古城の前に集合したところで、ロイスさんが話し出した。


「この古城を一日だけ捜索する。まず王座の間にいって守護獣がいれば倒す。その後、安全な部屋を確保してからパーティーごとに探索開始だ。夜は城内にアンデッドが新たに発生することもある。それからこの近くに廃墟の街があってそこからアンデッドがたまにやってくるから城内だけではなく外も注意するように。部屋数は600以上あって迷路のようになっているから、決してバラバラにならずにパーティー単位で行動するように。では城内に突入する。順番はここに来るまで最後尾だったウォーターフォールが先陣だ」


「わかった。いくぞ」


ウォーターフォールのリーダー、ディエゴの掛け声に、パーティーメンバーが動き出し正面入り口から入っていった。


間隔を置いて次々パーティーが入っていき、最後に遠征隊のリーダーが所属するブラックアイロンと僕が城内に入ることになった。


古城の正面入り口に近づくとダンジョンの領域内に入った感覚がした。


遠くから見る古城は立派に見えたが、近くから見るとさすがに年月を感じさせる状態になっていた。


壁はいたるところが崩れ去り、穴が開いている箇所もあった。


また周囲に様々な石像が立っていたようだが、見るも無残むざんに破壊されていた。


城内に入るとさらにボロボロに破壊されている壁が目に入った。


所々破壊されずに残された壁や天井には、豪華な造りを思わせる彫刻や飾りが施されていた。


遠征隊は入り口から右回りに奥に向かい、らせん階段を5階まで上り玉座の間に向かうことになっている。


僕たちは最後尾なので前を行く冒険者たちが魔獣やスケルトンを倒してしまい、ただ歩くだけになっていた。


足元には破壊されたスケルトンの骨が散らばり、中には元冒険者とみられるゾンビが倒れていた。


「ロイスさん。質問があるんですが」


「なんだセイジ」


「守護獣ですが、今まで倒していなかったんですか?」


「いや、何度も倒しているはずだぞ。守護獣は依り代が存在する限り何度も選ばれる。強さは依り代が注ぎ込む魔力量しだいだが、期間が短いと同種の魔獣とあまり変わらない強さだな。守護獣を放置しておくと強くなっていくから、ここに来た冒険者は出来るだけ倒すようにしてるんだ」


「そうだったんですね。ここは攻略したら駄目なダンジョンなんですか?」


「ああ。一応な。攻略しても構わんが冒険者の稼ぎ場所が一か所減るだけだ」


「なるほど。依り代は何なんですか?」


「玉座だ」


「玉座ですか。持って帰ったら魔道具になるんですよね」


「そうだな。どんな魔力が付与されてるか分からねえが、冒険者には役に立ちそうにないな。持ち運ぶのも面倒だし」


「そうですね」


「城内の部屋に残された物が、魔道具に変質してから手に入れた方が稼げるだろうしな。剣とか宝石とか」


「そうですね。玉座は貴族とかに売れそうですけどね」


「まあな。骨董品だしな。どれだけ価値があるか知らねえが」


すると上の階から戦闘音が聞こえてきた。


「戦ってるな。守護者か魔獣かわからんが急ぐぞ」


「はい」」」」」


ブラックアイロンと僕は急いでらせん階段を駆け上がった。


玉座の間の手前の控えの間には二組のパーティーがいて、玉座の間の様子を見ていた。


僕が玉座の間を覗くと二組のパーティーがアンデッドたちと戦っていた。


驚いたことに玉座の間だけは時間が巻き戻ったように華麗な内装をしていた。


吹き抜けの天井にはシャンデリアが吊るされており、更には太陽が描かれていた。


床には植物が描かれ壁には豪華な絵画が飾られていた。


壁際には繊細な装飾が施された石柱がいくつも建てられていた。


玉座の後ろには今にも動き出しそうな見事な騎士の石像が立っている。


(これは依り代の影響で王座の間が再現されているのかな。幻覚かもしれないけど)


アンデッドたちは魔法使いの格好をしたスケルトンが一体と剣を持ったスケルトンが四体の構成だった。


冒険者側は2つのパーティーの10人。


中央の魔法使いのスケルトンが魔法発動の準備に入った。


「させるかよっ」


大盾持ちの冒険者が突撃し、大盾をたたきつけ吹っ飛ばした。


スケルトン4体も二人一組で対応し、難なく全滅させることが出来た。


「さすがですね」


「まあ、あれくらいはな。よし、みんなこれからはパーティーごとに自由に探索してくれ。日が暮れる前に6階の広間に戻ってくるように。散会っ」


「おう」」」」」」」」」


4組のパーティーがそれぞれ散っていった。


王座の間には僕とブラックアイロンのメンバーが残った。


「セイジはどうする?」


「それでは僕もソロで探索に行きたいと思います」


「そうか。簡単に城内の構造を教えておくから参考にしてくれ」


「はい」


「1階は門番の部屋や食堂や物置部屋だな。2階は騎士の部屋や夫人の部屋。3階は使用人の部屋。4階はゲストルーム。今いる5階が王族の居住区だ。王の執務室や寝室、トイレや風呂場などだな。6階は広間で特に何もない。歌とか演劇とか催し物を開いてたんだろう。とにかく部屋数が多いからな。狙いを絞ったほうがいい」


「はい。ありがとうございます。では行ってきます」


(この古城は探索し尽くされているみたいだから、他の人が行かない場所を探さした方がいいか)


僕は玉座の間を出てからすぐにテレポートで城外に出た。


そのまま空を飛んで古城の屋根に立った。


そこから雄大な湿原が一望出来た。


遠くに街が見える。あそこが廃墟の街なのだろうか。


「辺り一面湿地帯かあ。すごい景色だなあ」


のんびり景色を眺めていると突如奇声が聞こえてきた。


「ギャー、ギャー」」」


振り返ってみると屋根に設置されていた石像が動き出していた。


「もしかしてガーゴイル?」


その石像は人型のトカゲにコウモリのような羽が生えた姿をしていた。


胸に魔石が輝いている。


3体のガーゴイルがそろって剣を抜いた。


僕はリュックから白い玉を取り出し空中に浮かせた。


3体同時に襲い掛かってきた。


「ギャーッ」」」


テレポートでかわし白い玉をガーゴイルにぶつけた。


ドッ。


大きな羽に当たり1体の動きが止まった。


羽に亀裂が入っているようなので効果はあるようだ。


次に僕はテレポートでガーゴイルの真横に移動し、ガーゴイルの持っていた剣に触れ、すぐに剣と一緒にテレポートをしてガーゴイルから距離を取った。


手から離れたガーゴイルの剣が僕の足元に落ちた。


(よかった、うまくいった。武器を持っている魔獣は少ないだろうけど)


剣を失ったガーゴイルは口からすごい勢いで水を吐き出してきた。


(水属性魔法を使うのか)


その後はテレポートでガーゴイルの攻撃をかわしながら、白い玉と念動波をぶつけて3体のガーゴイルを破壊した。


ガーゴイルから魔石を回収し古城の中にテレポートで戻った。


そこは6階の広間だった。


広間にはまだ誰もいなかった。


僕はそこで少し休憩をした後、らせん階段を降り5階に向かい王族の居住区を調べることにした。


執務室、書斎、食堂、寝室、風呂場を見て回ったが、部屋は荒らされまくっていた。


(さすがに金目のものは残されていないか)


日が暮れるまで隠し部屋や隠し通路がないか壁や天井を調べてみたが、見つからなかった。


捜索をあきらめて6階の広間に行くと、すでに遠征隊のメンバー全員が揃っていた。


広間の入り口は2か所あったので、夜の見張りをそれぞれに置くことになった。


僕は最初の番になったが人数が多いこともあり、すぐに終わって眠りにつけた。


何事もなく翌朝を迎えた遠征隊は、再び城内を昼まで探索をした。


僕は探索のついでに外を見てみたが、青い霧は発生していなかった。残念。


遠征隊は広間で昼食を取ってから古城を後にし、エクリュベージ王国に向かった。

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