第80話 遠征

翌朝、目が覚めると枕元に幽霊さんが立っていた。


「お、おはよう。レオナさん。どうしたの?」


(左腕いい感じですね~。お引っ越しです~)


「え?引っ越し?」


レオナさんは足から左腕に吸い込まれていったが、顔だけ出してこちらを見ていた。


(魔剣には先客がいましたので気を使っていたのですよ~)


「え?何がいるの?}


(見えない人に説明はできませ~ん)


「そうなんだ。まあいいか」


動かない左腕に巻いた布を首に掛けようとしたら、自分の意思とは関係なく左腕が動き出した。


「ちょっと、レオナさん。勝手に左腕を動かさないでくれますか?」


(私も働きたいです~。邪魔にならないようにしますから~)


「わかりました」


ポーションで顔を洗い服を着替えた僕は、左腕をレオナさんに託して一階に降りて行った。


一階にはホーステイルのメンバーが揃っていた。


「みんな、おはよう」


「おはようございますぅ」「おはようっす」「おう」

「・・・おはよ・・・」「お、おはようございます」


僕はみんなが座っていたテーブルに座り、ポーションを一口飲んだ。


「今日はみんな休みなの?」


「そうですぅ」


「そうなんだ。ところでウェンディー、防具の魔道具が売っているお店知らないかな。左腕に装着したいんだけど」


「知ってますよぉ。ちなみにどんな防具ですか?」


「ロンググローブを買いに行きたいんだ。魔石を装着できる物があればいいんだけど」


「なるほどぉ。お任せくださいぃ。品揃え豊富な魔道防具店を知っていますぅ。では早速行きましょうかぁ」


「え。今から?連れて行ってくれるんだ。ありがとう。じゃあ行こうか」


僕はウェンディーに連れられて魔道防具店に向かった。


ウェンディーに案内されたお店は魔術師ギルドの裏手にあり、魔法使い用のお店だった。


「ここですぅ」


年季の入った木造2階建ての建物が目の前に建っていた。


「へえ。古そうな建物でいい感じだね」


早速入ってみる。


店内に入ると色とりどりのローブやとんがり帽子が所狭ところせましと置かれていた。


「グローブはこちらですよぉ」


ウェンディーに案内された先には、いろいろな素材で出来たグローブや、指先のないグローブや編み上げてあるグローブ、ベルトがいっぱいあるグローブなど多種多様なグローブが揃っていた。


共通していたのはグローブのどこかに魔法陣が描かれていたことだ。


「いっぱいあるんだね」


「はいぃ。品揃しなぞろえはこのお店が一番ですぅ。どんなロンググローブを買うんですぅ?」


「出来るだけ魔石を付けたいね」


「なるほどぉ。ではこれなんかどうですぅ?魔鹿の革みたいですよぉ」


ウェンディーがすすめてくれたのは本革のロンググローブで、手の甲、指、腕に魔石を装着できるようになっていた。


僕は左腕にロンググローブを試着してみた。


そのグローブの色は黒で長さは二の腕の真ん中まであったが、柔軟性、伸縮性がいいのか腕になじんだ。


「いいね。これにしようかな。後はポーション容器や鬼人の角を収納できるベストがあればいいんだけど」


「はいぃ。こちらの棚ですぅ。タクティカルべストですぅ」


「おお。かっこいいね」

(サバイバルゲームで着るベストみたいだな)


棚にあるいくつものベストの中からたくさん道具を収納できるものを選んだ。


「ポーチがいっぱい付いているベストを買おうかな。ロンググローブと色を合わせて黒にしよう。これでばっちりだね」


「はいぃ。良い物があってよかったですぅ。ついでに魔石を買いにいきましょう」


「うん。ウェンディーありがとう。おかげでいい買い物が出来たよ」


僕はロンググローブを買った後、魔道具屋に行き魔石9個と魔石付きの指輪を5個買い家に戻った。


「おかえりなさいっす。買って来たっすよね。今すぐ見せてくださいっす」


部屋にはイレーナだけがいた。他の人たちは外出中だそうだ。


「うん。ちょっと待って、いろいろ準備するから」


まずベストを着て火属性魔法の溶液の入ったポーション容器を挿し、鬼人の角をポケットに入れた。


次にロンググローブを装着した後、左腕の表裏に8個の魔石と手の甲に大きめの魔石を1個付け、すべての指に指輪をはめていった。


「こんなものかな。魔石は全部無属性だよ」


僕の左腕だは透明な魔石がキラキラと輝いていた。


左腕に装着されたロンググローブをみたイレーナの感想は、「ド派手っすね。また誘拐されそうっす」だった。




僕は一週間後の遠征に向けて準備を開始した。


準備と言っても保存食や魔石の予備を買ったり、遠征で通る街や地形の下調べをするくらいだ。


隣の国のダンジョンについても調べたが、滅んだ国なのであまり詳しい情報はなかった。


ロイスさんたち遠征メンバーはどのくらい情報を持っているのだろうか。


魔道具のロンググローブも実戦使用してみた。


ホ-ステイルの薬草採取に同行させてもらい猪相手に試したしたところ、左腕の魔力からではなく、グローブに付いている魔石の魔力から消費されていった。


魔石代が馬鹿にならないだろうけど、左腕は徐々に回復していくことになるだろう。


これで安心して思いっきり超能力が使える。




クラン『ユニオン』所属のパーティーたちによる遠征出発の日、僕はユニオン所有の建物の前に来ていた。


そこには5組のパーティーと大型の荷馬車が2台揃っていた。


「よう。セイジきたか」


『ブラックアイロン』のリーダー、ロイスさんが僕を見つけ近寄ってきた。


「ロイスさん。おはようございます」


「ああ。おはよう。それにしてもド派手な格好だな」


ロイスさんは魔石が光る僕の左腕と華美な装飾が施された魔剣を見て楽しそうにしていた。


「はあ。仕方なくこうなってしまいました。今日は暖かいのでローブを着ていませんが旅の時は着ますね」


「いやいや。気にせずセイジのしたいようにしてくれ。ところで、セイジの能力を教えられるものだけ教えてくれないか」


「はい。火属性魔法と風属性魔法と空中浮遊と転移魔法と結界魔法と姿隠しの魔法ですかね。ほかにもありますけど主に使うのはこれくらいです」


「すげえな。転移魔法を使えるのか。セイジは魔法使いなのか?魔剣持ってるのに」


ロイスさんは少し呆れていた。


「そうですね。近接は無理なのでそれで構いません」


「そうか。それはそうとセイジの魔剣に名前はついているのか?」


「魔剣の名前ですか?決めてないですね」


「そうか。まあ無くてもいいんだがあったほうが格好いいだろ」


「そうですね」


(名前か。白にまつわる言葉にしようかな)


「では『白妙しろたえ』にします」


「ほお。どんな意味なんだ?」


「白い布と言う意味ですね」


「ふーん。鞘はド派手だし刀身が白いのか?」


「いえ。刀身は青く透明です」


「そうなのか。だったらどこから白が来たんだ?」


「この魔剣の元々の持ち主の知り合いの格好からですかね」

(依り代の守護者であった白蛇の鱗から連想しました)


「なるほどな。本題の遠征についてだが荷馬車には食糧やテントを積んでいる。冒険者は歩きだ」


「はい」


「セイジは旅の移動のときは、基本的に俺たちのパーティーと行動を共にしてくれ。ダンジョンなどの戦闘時はソロで自由に戦ってくれていい」


「わかりました」


「遠征の行程だが、最初は女王の街ディープブルーに向かう。その後はワーブラー領を横断して隣のエクリュベージ王国に入って、海沿いの領地の街を通過しながら『銀糸城』に向かう。遠征の前半はこんな感じだ」


「はい。エクリュベージ王国の街は大丈夫なんですか?」


「ああ。北西部の街は被害にあっていない。でも国内の他の場所からの避難民が大量になだれ込んでいて、人口増加がすごいことになっているがな。城壁も二重にしていて頑丈だぞ。エクリュベージ王国再興に向けて頑張っているそうだ」


「そうなんですね。そのためにも魔獣を減らさないといけませんね」


「そうだな。今回の遠征の目的のひとつだからな。それから俺のパーティーは予定しているダンジョンをすでに経験している。他の連中は初めてだ。あいつらに経験を積ませるための遠征でもある。お前も初めてだろうが気にせずに思う存分暴れてくれ」


「はい」


「遠征のメンバーは第2級と第3級冒険者だ。第1級の連中は『竜王の庭園』を攻略中でな。それじゃあ、俺の所属するパーティーメンバーを紹介する。おーい。ブラックアイロン集合だ」


ロイスさんの呼びかけに4人のメンバーが集まってきた。


「それじゃあ紹介するぞ。左からカーネル、キッド、ケネス、コステロだ。コステロが魔法使いだ」


「せいじと言います。皆さんよろしくお願いします」


「よろしくな」」」」


「全員男ですまんな」


「いえ」


「それから遠征を共にするのパーティーのリーダーだけ紹介しとくか。他の奴らは旅の中で仲良くなってくれ」


「はい」


4つのパーティーのリーダーが集まってきて互いに自己紹介をした。


「『スワン レイク』のサムだ。よろしくな」

「『オールドブリッジ』ジョイ。よろしく」

「『ウォール オブ ロック』セルゲイだ。よろしく」

「『ウォーターフォール』ディエゴだ。よろしくな」


「皆さんよろしくお願いします。せいじです」


全員の名前、覚えられるかな。


「2台の荷馬車の御者は元冒険者を雇っている。俺たちがダンジョンに潜っている間は荷馬車を守ってもらう」


御者の二人が御者台からこちらに手を振っていた。


僕は頭を軽く下げ挨拶を返した。


「よし。挨拶はこれくらいでいいだろう。それからセイジの能力の事は俺から他の奴らに教えておく。何の気兼ねなく遠征を楽しんでくれ」


「はい。ありがとうございます」


「それじゃあ、出発するか」


遠征隊は王都の城門を超え東に向かって進みだした。


遠征隊はアルケド王国北東にあるワーブラー領の街ディープブルーに向かった。


王都からワーブラー領の塩の街シトロンリーフに寄ってから女王の街ディープブルーに向かう約10日の道のりだ。


遠征の旅は順調に進み10日後ディープブルーに到着した。


ディープブルーは川と運河に囲まれた中州にある都市だ。


石橋を渡り堅牢な二つの塔からなる城門を抜けると真っ黒な街並みが現れた。


街の建物は黒レンガで造られているそうだ。


遠征隊は宿を取り自由時間になった。


各パーティーのリーダーたちは冒険者ギルドに向かい、ワーブラー領内のダンジョン攻略状況や領内の盗賊や魔獣などの出没情報を調べるそうだ。


そこで遠征隊がワーブラー領で挑むダンジョン探索候補地を決めるそうだ。


ワーブラー領は領地の北部が海に面していて、東側にエクリュベージ王国があり、南側でマーキュリアス領と接している。


ワーブラー領の東部には広大な湿地帯が広がっていて湖沼こしょうが多く存在している。


夕食時、遠征隊のリーダーであるロイスさんから直近の予定が発表された。


「聞いてくれ。ワーブラー領では一つだけダンジョンに挑むことにした。湖のほとりにある古い遺跡のダンジョン『蒼霧あおぎりの古城』だ。資料を配るので魔獣対策や装備の変更などの対策をそれぞれでやってくれ」


蒼霧あおぎりの古城』についての説明が簡単に書かれた資料が全員に配られた。


「出発は明日の早朝だ。今夜はゆっくり楽しんでくれ。以上だ」


その後はみんなで食事をして、それぞれ明日に備えることになった。


僕は部屋に行きベッドに横になって配られた資料に目を通した。


(遠征隊の最初の戦いは『蒼霧あおぎりの古城』ダンジョンか)


この古城はアルケド王国建国のときに敵対した勢力の領主の城で、戦いに敗れそのまま放置された結果ダンジョン化したそうだ。


古城は劣化が激しいがすぐに倒壊することはないそうだ。


古城にいる魔獣はスケルトンやゾンビなどのアンデッドがほとんどだそうで、たまに古城の中に狼などの魔獣が入ってきて住み着くこともあるらしい。


古城に住んでいた使用人や騎士たちの遺体がアンデッド化したそうだ。


古城の近くに廃墟の街もあるらしく、そこからもアンデッドがやってくるという。


古城の城主は住民に慕われていたようだ。


古城は湖畔に建てられており、様々な鳥の魔獣や水生魔獣も襲って来るそうだ。


探索の予定は1日。


(アンデッド対策かあ。でもやることは変えられないしなあ。火は効果あるだろうけど。まずは念動波か白い玉でやってみようかな。そもそも攻撃手段が少ないから全部試してみて判断しよう)

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