第79話 竜の巣
翌朝、僕とホーステイルは、竜の巣ダンジョンに出発するため依頼人と王都の城門で待ち合わせた。
そこの現れた依頼人は竜神教会の教会員だった。
「ホーステイルの皆さん。おはようございます。そして初めましてセイジさん。アルシアと申します。旅の護衛よろしくお願いしますね」
「おはようございます。アルシアさん」」」」」
「初めまして、よろしくおねがいします」
アルシアさんは栗毛の20代中盤くらいの女性で、ゆったりとした白い教会服を着ていた。
手には荷物を入れるカバンとメイスを持っていた。
そのメイスはシンプルなつくりではあるが、打撃部には魔石が埋め込まれていた。
アルシアさんも戦えるのですか。
僕たちとアルシアさんは城門を出て竜の巣のある北西に歩いて向かった。
途中2か所の村で宿泊し、いよいよ山間にある竜の巣ダンジョンに挑むことになった。
村から竜の巣のダンジョンまで道が通っており、森を歩いて山のふもとまで行くと山肌に大きな穴が開いていた。
洞窟の中にはヒカリゴケが繁殖しており真っ暗ではないが、冒険者がヒカリゴケを採取するやめ手の届かない天井にしか明かりがない。
僕たちは熊獣人のエイミーを先頭に洞窟に入っていった。
依頼人のアルシアさんを中央に配置して、竜の巣ダンジョンの依り代があった場所まで行く予定だ。
今回の依頼は基本的にホーステイルの仕事なので、僕もアルシアさんの隣でのんびり歩いている。
洞窟内は肌寒く、遠くから水の流れる音が聞こえてきている。
季節が春という事もあり、進むにつれ凍えてしまいそうな温度になってきた。
竜の巣ダンジョンの洞窟は一本道ではなくいたるところで分岐しているが、今回は依頼のため真っすぐダンジョン中心部に向かう。
「アルシアさん寒くないですか?」
「大丈夫でございます。気を使って頂きありがとうございます」
「いえ、ところで竜の巣で何をするか聞いてもいいですか?」
「はい。実は夢を見まして」
「夢ですか」
「はい。夢で私が洞窟にある青い湖で身を清め竜神様にお祈りをささげていたのです」
「なるほど」
「私は洞窟の青い湖といえば竜の巣しか存じ上げないものですから、顔なじみのあるホーステイルにお願いしたのです」
「そうだったんですね。ところでアルシアさんは普段教会でどんなことをしているのですか?」
「普段は慈善活動のほかにビールやジャムなどを作っております」
「そうなんですね」
「セイジさん。もうそろそろ第一地底湖っす。魔獣も現れるようになるんでデレデレ終了っす」
最後尾にいた犬獣人のイレーナから
「うん。もちろん警戒しているよ」
洞窟内は天井からつららのように伸びる
僕たちは第一地底湖に到着した。
水深が深いが透明度が高く、天井からのヒカリゴケの光もありキラキラ輝いてて美しかった。
地底湖は奥に行くほど深くなっていくそうだ。
「あんまり湖に近づかないでくださいねぇ。岩場に隠れている魔獣が現れますんでぇ」
「うん。どんな魔獣かわかる?」
「そこまではわかりませんねぇ。竜の巣には3つの大きな地底湖がありますが、ヌシがたびたび入れ替わりますからぁ」
「そうなんだ。魔獣たちも縄張り争いをしてるんだね」
さらに進むと天井が高く開けた場所に僕たちはたどり着いた。
洞窟内探検の拠点になっている場所だそうだ。
他の冒険者たちの姿もあった。
「ここで少し休憩しましょうかぁ」
「わかった」「はい」」」」」
軽く食事をして休むことにした。
「そういえばダンジョンに行ったって言ってたけど、どこに行ったの?」
僕が誰ともなく質問するとウェンディーが答えてくれた。
「
「なるほど、王都から近い3つのダンジョンのひとつだね。地上にできた巨大な蟻塚だっけ」
「はいですぅ。その頃はケリーがいなかったんですけど巨大蟻がたくさん出てきて大変でしたぁ」
「蟻かあ。それは大変そうだね」
「はいぃ。そこも洞窟見たいな所でしたけど建物みたいでしたぁ」
「上から下から魔獣が現れて大変だったっす。すぐ引き返したっす」
「そうなんだ。それは災難だったね」
休憩も終了し奥に進む。
ここからは洞窟内の通路が蛇行するようになってきた。
魔獣も姿を現すようになりコウモリやスライムが襲ってきたが、ホーステイルのメンバーが難なく対処していった。
「みんな成長してるねえ。安心してみていられるよ」
「ありがとうございますぅ。セイジさんも遠慮せず戦ってくださいねぇ」
「う、うん」
僕たちは第二地底湖に到着した。
ビシャッ。湖に水しぶきが上がった。
僕たちを歓迎してくれたのか、いきなり湖の中から大蛇が現れた。
「エイミー、イレーナ前へ。サリーはアルシアさんの護衛に。ヒナは二人の援護と周囲の警戒を。セイジさんはご自由に」
ウェンディーの素早い指示が飛んだ。
エイミーとイレーナが大蛇をけん制しながら攻撃を加えて行った。
時折り大蛇が口から水鉄砲を発射していたが、エイミーが大きめの盾で何とか防いでいた。
(エイミー、盾替えたんだな。防具は魔狼の毛皮のままのようだけど。サリーさんの剣はイレーナのおさがりか)
ウェンディーの火属性魔法『狐火』が発動し、火の玉が大蛇に向かって連射された。
ドドドドドッ
エイミーとイレーナに注意が向いていた大蛇は、狐火をかわすことが出きず大ダメージを追ったようだ。
そこに3人の猛攻が加わり大蛇を倒すことが出来た。
「お見事だね。魔獣が一匹だと余裕みたいだね」
ホーステイルのみんなはすぐに解体に取り掛かっていた。
「そうですねぇ。エイミーが力負けしない時は練習通り戦えますねぇ。あと問題は素早い魔獣の時ですかねぇ」
「エイミーとイレーナが魔獣を抑えきれない時?」
「そうですぅ。私を狙われたら主導権を取れなくなっちゃいますぅ」
「なるほどねぇ。そこはみんなが離れないようにするしかないか」
「ですぅ」
すると。「敵っす」
イレーナの警告が発せられ、新たな魔獣が現れた。
湖の中から現れたのは、ボロボロの服を着たつるつる頭のおじさんだった。
「ぎゅるるるるぅ」
その姿は全身がヌルヌルしている緑っぽい黒の肌で、大きい口の周りに太いひげが4本伸びていた。
目は真っ黒で魚の目のようだった。
その魔獣は解体され散乱していた大蛇の肉片を一飲みしたあと、僕たちに向かって襲い掛かってきた。
ホーステイルは大蛇との戦闘が終わったことで陣形が崩れていた。
「立て直します。集合してくださいぃ」
ウェンディーが叫んだが少し遅かったようで、イレーナが攻撃を受け足止めを食らっていた。
僕は魔獣の後ろにテレポートし発火を発動した。
するとズズッっと左腕で音がしたような気がした。
いつもと違う感覚で発射された火の玉が魔獣を包み込んだ。
「びゃあああああっ」
魔獣の叫び声が洞窟内を反響する。
ザンッ
落ち着きを取り戻したイレーナが剣で魔獣を叩きつけると、魔獣は地面に倒れ伏し動かなくなった。
「やったっす。セイジさんありがとっす」
「うん。少し遅れちゃったね」
すると倒れていた魔獣が姿を変え、火に焼かれた巨大なナマズが現れた。
「ナマズ?変化の能力を持ってたのかな」
「そうみたいですぅ。確かこれはナマズ坊主と言う魔獣ですぅ」
「へえ。確かに坊主頭だったね」
「第二地底湖のヌシかもしれませんねぇ」
ホーステイルは手慣れた様子で解体していた。
「それにしてもセイジさんの火の玉を久しぶりに見ましたけど、威力上がってませんかぁ?」
それは僕も気づいていた。別の異変にも。
「そうだね。僕も成長しているみたい」
右手で左腕を触ると一部が消失してへこんでいた。
(もしかして発火のエネルギーとして使われたのかな)
僕はひょうたんを取り出しポーションを飲む。
(能力を使うたびに消費されていくとしたらずっと怪我が治らないのかな。左腕が完治したら能力の威力がまた元通りになるのか)
「セイジさん何してるっすか。おいて行くっすよー」
みるとホーステイルたちが先に進んでいた。
どうやら考え込んでいたみたいだ。
「うん。今行くよ」
(左腕は徐々に回復しているはずだから魔力総量も徐々に減っていくけど、冒険者を続ける限り能力は使うわけだから完治は遅れていくのか)
先を行くホーステイルに追いつきアルシアさんのとなりに並んだ。
(期間限定の能力ってことなのかな)
魔獣を倒しながら奥に進んでいくとようやく目的地の第三地底湖に着いた。
その地底湖は巨大で青色に輝いていた。
その場所は広大な空間になっていて壁が青く照らされ、神秘的な光景が広がっていた。
かつてこの湖の中に依り代であった魔鉱石『ドラゴンブルー』があったそうだ。
僕たちは幻想的な景色をしばらく
「アリシアさん。準備をお願いしますぅ」
「はい」
アリシアさんはカバンとメイスを置き湖に向かって歩いて行った。
アリシアさんを囲うようにホーステイルのメンバーもついて行く。
「セイジさんは後ろを向いて警戒しててくださいぃ」
「うん。わかった」
僕は大人しく後ろを向き洞窟の壁を見ることになった。
残念。美女のお清め姿を見たかったな。
バシャ、バシャ。
アリシアさんの体を清める水の音が洞内に響く。
「ふぅ。ありがとうございました。無事体も心も清めることが出来ました」
「良かったですぅ。早く着替えましょう。体が冷えてしまいますぅ」
「はい」
ホーステイルとアリシアさんが湖を離れ帰り支度をしていると、湖の中からまた魔獣が現れた。
それは真っ黒な毛をした熊だった。
水辺で騒いでたら寄ってきますよね。
「河熊ですぅ。強敵ですぅ。水属性魔法を使いますぅ。注意を」
いつものようにエイミーとイレーナが前に出るが河熊の強烈な攻撃に防戦一方になっている。
「イレーナ。お前は盾で受けるな。
「はいっす」
エイミーの助言にイレーナはすぐさま距離を取り、後ろに回り込んだ。
河熊は前後をはさまれたが、お構いなくエイミーに攻撃を仕掛ける。
ドゴッ ドゴッ
河熊の重い攻撃をエイミーの盾が受け止め低い音が響く。
「はっ」
ザッ
イレーナが背後から河熊に一撃を加えるがヌルヌルの硬い毛に防がれてダメージが通らないようだ。
「荒玉の猛火っ」
ウェンディーから放たれた巨大な火の玉が河熊を襲う。
すると。
「ガアアアアッ」
河熊の叫び声と共に水の刃が発現し、ウェンディーの火の玉打ち消した。
「そんなっ」
ウェンディーの信じられないといった悲鳴ような声が聞こえてきた。
アルシアをヒナとサリーが守っているが、サリーはあまりの恐怖に震えている。
僕は魔剣を鞘から抜き河熊に飛ばして上空にテレポートした。
ガッ
河熊は難なく僕の魔剣を弾いたが、その隙をついてエイミーの魔剣がうなりをあげた。
「うおおおおおっ」
ザンッ
河熊に直撃するが浅いようだ。
「エイミー、離れてっ」
発火!
ズルリ。左腕から重さが少し消える。
ドウッ
河熊が炎に包まれる。
「グギョオオッ」
すると河熊は怒声をあげながら無茶苦茶に暴れ出した。
「ぐあっ」
偶然に河熊の手がエイミーに当たり吹き飛ばされる。
念動波!!
ドンッ
上空からの衝撃で河熊が地面に押しつぶされた。
「イレーナっ」
僕は魔剣を操作しイレーナに渡した。
「はいっす。やあああっ」
ザンッ
イレーナは河熊を切りつけた。しかし効果が少ないと分かって思いっきり突き刺した。
ズズズブッ
ズブズブと魔剣が河熊に入っていく。
「ギュアアアアッ」
河熊はまだ立ち上がろうとしている。
発火!
ドウッ
再び全身を炎に包まれてようやく河熊は動きを止めた。
「やったっすか。しんどいっすね。熊さんは」
「すまんな」
「あはは。エイミーも確かに頑丈っすからね」
河熊が動かないことを確認したエイミーとイレーナは解体を始めた。
「セイジさん大丈夫ですかぁ?お顔が真っ青ですけどぉ」
「ん?うん。ちょっと魔法使いすぎちゃたね」
「そうですかぁ。後は私たちがやるんでアルシアさんと休んでてください」
「うん。ありがと」
僕はアルシアの横に行って座り込んだ。
「セイジさん強いんですね。さすがでございます」
「ありがとう」
みんなと力を合わせて河熊に何とか勝てたが、
戦闘中、能力を使うたびにゾッとする感覚に襲われていた。
左の手の平を触ると手に装着していない手袋のようにペラペラだった。
僕は人知れずまた冷や汗をかいた。
急いでポーションをガブガブ飲んだ。
(ふう。この感覚に慣れていかないといけないのか)
河熊の解体が終わったようでホーステイルのメンバーがこちらにやってきた。
その手には魔石と爪と湖の水が入った容器があった。
「セイジさん。申し訳ないっすが天井のヒカリゴケを採取して来てもらえないっすか?」
「うん。いいよ。その水が依頼の品?」
「そうっす。変な依頼っすね。さすが魔術師ギルドっす」
「ふーん」
僕は天井まで浮いてヒカリゴケを採取して戻ってきた。
ウェンディーが荷物の忘れ物がないかどうか確認して宣言した。
「全部終わりましたので帰りましょうぅ」
帰り道は強敵に襲われることもなく無事に外に出ることが出来た。
3日後、無事に王都までたどり着き依頼が完了した。
「みなさん、ありがとうございました。無事に湖で竜神様に祈りをささげることが出来ました。心が晴れやかな気持ちになれました。また新たな気持ちで活動していきたいと思います」
「はいぃ。いろいろありましたがアルシアさんの依頼が達成できてよかったですぅ」
「それでは私はこれで失礼しますね。いつでも教会まで遊びに来てくださいね」
「はい」」」」」 「はい」
僕たちは冒険者ギルドに素材の納品と換金をして、お家に帰った。
僕はベッドに横たわり一息着いた。
そろそろ遠征の準備に取り掛からないとな。後一週間だ。
それに左腕を何とかしないと。能力を使うたびにへこんでたら気持ちが持たないよ。
魔道具の手袋とかないのかな。魔石を持ってたらそっちの方が先に消費したりしないのだろうか。
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