第77話 南方五湖
アルケド王国の南西に南方五湖と言われている場所がある。
山々が連なる広大な森林地帯に大小五つの湖があり、そこは小型竜の
その南方五湖で小型竜が暴れていると、周辺住民や冒険者から冒険者ギルドに報告が上がってきた。
小型竜が暴れることはたまにあるのだが今回はいつもと様子が違うようなので、南方五湖の周辺地域の街や村の首長から状況を調査するように冒険者ギルドに要請があった。
そこで冒険者ギルドは、冒険者に対して南方五湖の状況調査依頼を開始した。
約30年ほど前のことである。
アルケド王国の東にあるエクリュベージ王国から南方五湖に修行に来た男がいた。
その男は南方五湖で一番大きな湖に向かった。
その湖は周辺住民に
その男はエクリュベージ王国最高の冒険者であったが、とある事件をきっかけに魔獣を圧倒できる力を望んでいた。
その男が
その竜人は頭に2本の角が生え、手足が鱗に包まれてはいたが見た目は人であった。
服装は胸と腰に薄い布を巻いているだけだった。
「しばらくあなたを見ていましたが、あなたはなぜこんなところで魔獣と戦っているのですか?」
竜人の女が興味深そうに男に話しかけた。
「強くなるためだ。私には時間がない。早く強くならねばならぬ」
「そうですか。ならば私と結ばれなさい。そうすれば長寿を手に入れられますよ」
冒険者の男は竜人の女の言葉を受け入れ竜人となり、
セイジが南方五湖に来る1週間前。
南方五湖の森はうっそうと生い茂る巨木のせいで薄暗かった。
南方五湖にある
その冒険者は5人組の冒険者パーティー『ビリジアン』だ。
ビリジアン一行は初めて南方五湖を訪れていた。
リーダーのジョニー、スタン、チャド、ハーリー、そして唯一の女性のナタリーで構成されている。
「しっかし南方五湖の森に入ってしばらく
先頭を歩くスタンが草を剣で払いながら愚痴をこぼした。
「小型竜が簡単に見つかってたまるか」
その後ろを歩いていたリーダーのジョニーがそう答えた。
「そりゃそうか。んで竜人ってのはどんなやつらだっけ」
「おいおい。ここに来る前に調べたじゃねえか。忘れたのか?」
「そうだっけ。すまん。歩いているうちに忘れた」
「簡単に言えば小型竜に変身できる獣人だ。ちなみに小型竜も竜人化できる」
「そうだったっけ。でもよ、そうしたら小型竜を見かけてもどちらかわからねえよな」
「まあそうだな。でかいやつは小型竜と思っていい。6m以上は本物だ」
「竜人の変身した竜は小さいのか?」
「大体3m級らしい。もちろん年を重ねたらもうちょっと大きくなるが」
「へえ、十分でかいな。本物の小型竜には会いたくないな」
「おう。瞬殺されるぞ。がはは」
他のメンバーは後ろを黙々とついて来ている。さらに二人の会話が続いていく。
「竜人は強いのか?リーダー」
「まあな。噂では」
「ふーん。逆に小型竜の竜人化と竜人の区別はつくのかい?」
「尊大な竜人が小型竜で俗っぽいのが普通の竜人だそうだぞ」
真ん中を歩いていたパーティー唯一の女性、ナタリーが会話に入ってきた。
「なにそれ。見ただけじゃ区別がつかないってこと?」
「まあな。個体差もあるから会話で探るしかない。高位の小型竜の人化は、ほぼ人と区別がつかないそうだ。そいつは間違いなくヌシだそうだ。みんな、湖のヌシには敬意を払えよ。怒らせたらただでは済まないぞ」
「もちろんよ」「わかった」」」
「湖には近づかない予定だけど慎重に行動するように。ああ。そうそう。最後に立ち寄った村で聞いた噂だけど湖に
「あはは。なんだそれ。本当かよ」
「言い伝えだそうだ」
「信じられねえな。リーダーは信じるのかい?」
「どうかな。そもそも小型竜のいる湖に行こうとは思わないけどな。呪われる前に殺されそうだ。がはは。とにかく、お前ら絶対食べるなよ」
「わかったよ」「あいよ」「ああ」「はーい」
しばらく森を進んだところでビリジアンは野営地を決め、安全確保のため周囲の探索に当たることになった。
3人組と2人組に分かれて行動を開始した。
3人組はリーダーのジョニー、チャド、ハーリーで、2人組はスタンとナタリーだ。
スタンとナタリーは野営地周辺を簡単に調べるつもりだったが、何かに導かれるようにさらに奥に向かっていた。
すると二人の前に巨大な湖が姿を現した。
「おっと。
「そうね。それにしても静かね。波の音しか聞こえてこないわ」
スタンは湖の周辺を見渡す。
「小型竜も竜人の姿も見えねえな。夜行性なのか?」
「わからないわ。それより早く離れましょう。何だか不気味だわ」
「そうだな。ついでに水を汲んでいくか」
そういうとスタンは湖に向かわず、その場で地面を掘りだした。
「ちょっと、それじゃ時間がかかるじゃない」
「そうだけど、出来るだけ綺麗な方がいいじゃないか。しみ出した水が綺麗になるまで湖周辺を探索でもするか」
「わかったわ。何か出てきたらすぐ逃げるからね」
「それでいい。しんがりは俺に任せな」
穴を掘り終えたスタンが湖の方に向かった。
掘られた穴からは水がにじみ出ていた。
ふたりが湖畔にいくと湖面に魚の姿が見えた。
「お。魚がいるじゃねえか。捕まえて食おうぜ」
「食べるの?リーダーが湖の生き物は食べるなって言ってたじゃない」
「なんだよ 噂を信じているのか?ただの迷信だよ。それにこの大きさの魚に魔石が入ってるわけないだろ。これより大きい豚や獣を食べても魔獣化しないんだぞ?食べても平気だよ」
「まあ、そうだけど。でも一応魔石があるかどうか調べるからね」
「それでいいよ」
ふたりは早速魚を大量に捕獲し料理にとりかかった。
湖の水を入れた鍋に
「さ、食べるぞ。もぐもぐ。うめーっ。お前も食べてみろよ」
スタンは丸々一匹を食べ終えた。
ナタリーは恐る恐る一口食べた。
「うん。ほんとだ。美味しい」
「だろ。それに食べても何も起こらないじゃないか」
「そうね」
二人は捕まえた大量の魚を夢中で食べ続けた。
気付いた時には二人ともお腹が限界まで膨れ上がっていた。
身動きが取れない状態になり、そのまま二人は気絶するように眠りについた。
数時間後、ふたりは激しい痛みによって目覚めた。
ふと体を見ると不自然なほど筋肉が盛り上がり、着ていた服は破れていた。
そして、全身のいたるところに水色の鱗がびっしりと生えていた。
「!?なんだこれは!」「なによこれっ!?」
あまりの出来事に二人は
ふたりは再び湖で大量に魚を捕獲し、調理することなくそのまま魚を食べ始めた。
数時間後、ようやく空腹から解放されたとき、二人の姿は完全に竜人になっていた。
二人は全身が鱗に包まれ尻尾、翼そして鋭い爪が生えていた。
竜の頭からは2本の短い角が生えていた。
数時間経っても戻ってこない二人を探していた仲間の冒険者たちが、
そこで見たのは二人の荷物が散乱している現場と何かを
リーダーのジョニー、チャド、ハーリーたちは、すぐに木の陰に姿を隠し様子をうかがった。
「あれが竜人か。あいつ等やられちまったのか?」
「どうする。
「あの竜人たちにやられたという証拠はないが・・・まて、湖の様子が!?」
見ると湖の中から新たな竜人が現れ、こちらに近づいてきていた。
その竜人は
ヌシの
「愚かな冒険者ども。ここはわが
竜人となった二人は怒り狂っていた。
「ふざけるなっ。元の姿に戻しやがれっ」
「そうよ。どうしてくれるのよっ」
「それは不可能だ。
「ぶっ殺してやるっ」
竜人となったスタンとナタリーは怒りの感情に飲み込まれ竜に変化した。
その大きさは3mほど。
それを見たヌシの
その大きさは5mほど。
二頭の竜と一頭の竜が湖畔で激突した。
強烈な威力をもつ小型竜の一撃一撃は、衝撃波を発生させ大地を揺らし辺り一帯に伝わっていった。
森に棲む魔獣たちが一斉にざわめき立つ。
木の陰に隠れてその様子を見ていた3人の視線の先で、3体の竜人たち次々と竜に変身し戦いが始まった。
遠巻きに竜たちの激闘を見ていた3人は、小型竜のぶつかり合いによるあまりの衝撃に恐れおののいていた。
「やべえ。なんで仲間同士で争ってるのか分からねえが、あれに巻き込まれたら全滅してしまう。いそいで離れるぞっ」
「スタンとナタリーはどうするんだ。リーダー」
「残って探したいが俺たちだけじゃ無理だ。
「わかった」」
ジョニー、チャド、ハーリーたちは慌ててその場から逃げ出した。
ヌシの
「殺しはせぬ。貴様らは同胞になったのだから。我らの配下にならぬのなら住処は自ら探すがよい」
二人は街に戻るわけにもいかなくなり、住処を求め残りの4つの湖に向かうがそれぞれの湖のヌシにやはり返り討ちにあってしまった。
現在。
ぼろぼろの姿で地に伏している二人の竜人のもとに、冒険者がひとり現れた。
もはや指一つ動かせない竜人たちは冒険者を
すると冒険者が「人の言葉は理解できますか?」と声を掛けてきた。
竜人の女が頷いた。
冒険者が言うには、小型竜同士の戦いの余波が周辺の街まで届いており調査に来たのだという。
すぐに退治されることがないとわかったのか、竜人の女が会話をすることにした。
竜人の男は終始黙っていた。
「そう。それは私たちのせいね。信じてもらえないかもしれないけど私たちは元人間なの。湖の魚を食べて竜人になってしまったの。心の整理がつくまで人前に出たくない。しばらく静かに暮らしたいの。仲間に私たちが生きていると伝えてほしい。約束を破って悪かったと。パーティー名はビリジアン。私の名前はナタリー。彼はスタンよ」
その冒険者は驚いていたようだったが、すぐに冷静さを取り戻していた。
「とりあえず、君たちの怪我を治してあげるから襲ってこないでね」
冒険者がそういうと、竜人たちは頷いた。
その冒険者はリュックからひょうたんを取り出し、中の液体を私たちにぶっかけた。
「なによこれ」
「ポーションだよ」
「ポーション?本当だ。体の怪我が見る見るうちに治っていく」
竜人たちの怪我が回復したことを確認した冒険者は少し考えた後、次の提案をしてきた。
「僕が今から君たちが当分の間、身を隠せそうな場所があるかどうか探してくるよ。ちょっと待ってて」
そういうと冒険者は宙へ飛んで行った。
「浮遊魔法!?」
無詠唱で魔法を行使するという事はかなり高位の魔法使いなのだろう。
もしくは魔術師の域に達しているかも知れない。
彼に戦いを挑まなくてよかった。竜人たちはそう思った。
しばらくして戻って来た冒険者は、「川を見つけたけど、そこはどうですか」と聞いてきた。
そこは人や獣人の生活圏から遠く離れている場所だそうだ。
竜人たちはそこに案内してもらい、その川の周辺でしばらく隠れ住み今後の事を考えることにした。
その後、竜人たちはその川をせき止め湖を作ることにした。
竜人たちはあの魚の味が忘れられなかった。
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