第72話 鉱山街アイビーグリーン
僕とルカさんが今向かっているのはウイロウ領南部の都市、鉱山街アイビーグリーンだ。
僕たちはルカさんの提案で、何故か魔女伝説がある『鉄の森』ダンジョンに立ち寄ることになった。
僕たちは鉱山街アイビーグリーンに向かって空を飛んで移動していた。
「ルカさん、アイビーグリーンってどんな街か知ってますか?」
「もちろんですよ。これでも休暇中の冒険者ギルド職員ですよ?」
「そうでした。まあ行けば分かりますね。え。休暇中?辞めてなかったんですか?」
「そうですよ。また髪の毛に魔力が
「そうなんですか。冒険者ギルドの仕事が性に合ってたんですね」
「はい。それにあそこなら安心ですから」
進んでいるうちにだんだん山岳地帯に入ってきて、町や村をまったく見かけなくなった。
ふと下を見ると、森の少し開けた場所に一本だけ木の生えた大きな岩があった。
奇妙な違和感を覚えたので、注意深く見てみると木の
(山深い森の中で何をしているのだろうか)
物体操作での移動を止め、ルカさんに聞いてみた。
「ルカさん。あの大岩見てください。女性がいませんか?」
ルカさんが僕が指差した方をじっと見て大岩を探している。
「ありました。確かに大岩の上に女性がいますね。気になりますね。セイジさん行ってみましょう」
僕はルカさんを透明化してから、ふたりで大岩のところまで降りて行った。
大岩の周りに道はなく草木が
僕たちは大岩の
大岩は僕の身長(175cm)と同じくらいの高さで幅は3mくらいの大きさだった。
ごつごつしたその大岩は、上の部分が平らになっており草が生い茂っていて側面には
何より目立つのは木が一本生えていたことだ。
その木は大岩の端で成長していて根っこがむき出しになっていた。
自然の力強さを感じる光景だ。
その木の横で女性が目を閉じて大岩の上に立っていた。
その女性は若く、薄い生地の長袖の青い服と白のスカートを履いていた。
その綺麗な女性は、
「立ったまま寝てるのかな?」
「そうじゃ」
「!?」」
突然どこからともなく小柄な白髪の女性が現れた。
「うわ。びっくりした。ここで何やってるんですか?」
「何って娘を探しに来たのじゃよ」
「娘?」
僕は大岩に立っている女性を見た。
「どう見てもあなたの方が若く見えますが」
「ほっほっほ。世辞が上手じゃの。まごうことなくその子は私の娘じゃ。私の家族は長寿での。見た目が少し若いだけじゃよ」
「少しどころではないですけど。それで娘さんは一体どうなってるんですか?探していると言ってましたが」
「いろいろ事情があっての。「格好いい岩があったから、ついつい登っちゃった」って言っておったのう。そうしたら罠に引っかかって、大岩に閉じ込められたのじゃよ」
僕は大岩を見たが特になにもない。
「あれで閉じ込められてるんですか?岩から簡単に跳び降りられそうですけど」
「無理じゃ。娘も試したのじゃ。君も登ってはいかんぞ」
「はあ。どういうことですか?」
「岩の上の乗った生命体を領域内に拘束するんじゃよ。そういう能力を持ってしまった大岩ということじゃ」
「はあ、能力ですか。そういえばやけに詳しいですけど娘さんに聞いたんですか?」
「そうじゃ。起きておるときにな。今は眠っておる。暇じゃからの。眠るのが癖になっておるし」
「そうなんですか。助けないんですか?」
「時期が来たら自分で抜け出すじゃろ」
「時期?」
「娘が大岩に
「治療と成長?全く意味が分かりませんが」
「その大岩には領域が出来ておっての、娘に
「良くないものですか」
(領域?小さいダンジョンなの?)
「そうじゃ。あの子は特殊な子でのう。長く生きておるといろいろなモノが溜まるのじゃ」
「長くですか?娘さんも若そうですが」(20代前半かな)
「ほっほっほ。女性に年齢を聞くもんじゃないよ」
「すいません。もうひとつ、成長と言うのは?」
「娘を
「大岩ですか?よくわかりませんが成長させてどうするんですか?成長すると脱出できるとか?」
「成長させて食うためじゃよ。娘の中にいるモノがの」
「何がいるんですか?」
「ほっほっほ。見ようとしない君には見えないものじゃよ」
「はあ」
分かりやすく教えてほしいな。
「それで、お母さまはずっとここにいるつもりですか?」
「この大岩がここにいる限り、娘の世話をするためにここに通うじゃろうな」
「え!?この大岩は移動したりするんですか?」
「そうなんじゃ。あちこちに気まぐれに転移するもんで探すのが大変じゃ。君も怪しい大岩に登るんじゃないよ。ここでやることがあるのじゃろ」
「はい。それにしても転移するんですか。登らなくて良かったです。最後にどうやって抜け出すか聞いていいですか」
「よいぞ。娘が持っている妖刀の力を借りて大岩に
「なるほど。妖刀でしたか」
「あの妖刀はこの世ならざるものを切ることが出来るのじゃ」
「おお。だったらいつでも脱出できますね。切ってから食べるんですか?」
「そうじゃ。
「そうなんですね」
(依り代を壊したらダンジョンが崩壊して魔力が拡散するけど、それと同じようなことなのかな)
「でも、あの妖刀を抜くと強制的に寝らされるのじゃよ。その結果、年単位で寝てしまうのじゃ。森の中で無防備な状態で寝るわけにはいかんじゃろ?」
「え。さすが妖刀ですね。だからお母さまが大岩を追っかけて娘さんのお世話をしているのですね」
「うむ。父親の方も私とは別で探しとるのじゃ」
「そうでしたか。父親の方も長寿なのですか?」
「そうじゃ。遥か昔、この世界がこんな状態になる前にとある果物を食べてしまってのう」
「!?」
(この世界がこんなになる前って、古代魔法文明時代ってこと?どんだけ長生きなんですか)
白髪の女性は、僕の
「あとから知ったのじゃが領域内に育っていた果物だったのじゃ。その影響で長寿になったようじゃ」
(ダンジョン産の食べ物ってこと?)
「なるほど。魔力のせいかもですね」
「魔力?という言い方をしておるのか。私たちは霊力といっておる」
「そうなんですか」
(この人の言っていることを
妖刀と言う言葉で僕はある人物を思い出していた。
「妖刀といえば、妖刀を探している赤髪のお侍さんを見かけませんでした?もしかしてお父さんですか?」
「うちの旦那はそんなハイカラじゃないよ。侍でもないし」
「そうでしたか。すみません。何でも妖刀の匂いを嗅ぎつけるそうで、ここに来るかもしれませんよ」
「変な侍じゃのう」
「そうですね。それでは行きますね。お邪魔しました」
僕はルカさんを連れて空中に移動した。
「そうかい。達者での。おふたりさん」
「さようなら」
しばらく移動してルカさんの透明化を解除した。
「ルカさんの事、バレてましたね」
「そうですね。不思議な方でした」
「不思議すぎですよ。彼女の言ってたことをどこまで信じたらいいんですかね」
「どうですかねえ。面白そうなお話でしたけど」
僕たちは目的の街に向けて再び移動を開始した。
しばらく進むと僕たちの前方に山のふもとにある大きな街が見えてきた。
「あれが鉱山街アイビーグリーンです」
僕たちは街に続く森の中の道に降りて、歩いてアイビーグリーンに向かうことにした。
街に近づくと丁寧に積まれた巨大な石垣が見えてきた。
石門から街の中に入ると木組みの家が立ち並んでおり、地面は石畳だった。
「鉱山街アイビーグリーンにある鉱山では上質な銀が採掘されてまして、銀の製錬所もあります。アルケド王国の銀貨は大部分がここで作られています」
「へえ。そうなんだ」
「街の住民は鉱夫やドワーフがほとんどですね」
「おお。ドワーフ」
「セイジさんはドワーフに興味があるんですか?」
「興味というかまだ出会ったことがなくて」
「ドワーフは、エルフと同じ妖精種で背が低くて筋骨隆々で陽気で酒飲みな種族ですね。鉱脈などを掘ったり鍛冶をすることが得意です。アルケド王国の南にある大山脈の地下にドワーフの国があって多くはそこに住んでるそうです」
「おお。意外と近くにドワーフの国があったんですね」
「地理的には近いですけど険しい山々を乗り越えないとたどり着けませんよ。それに地図がありませんから見つけるのは困難です。それにドワーフ王国の入り口はあまり知られていませんし」
「そうなんだ。それじゃあ訪問するのは無理そうだね」
街の中心部に向かって歩いていると、しばしば酒場を見かける。
「目当ての『鉄の山』ダンジョンですが、この街の南の山にあります」
「そうなんですか。じゃあ、とりあえずここで宿を取りましょうか」
「はい。それでですね。南にも山と山の間に鉱山町があったんですけど、すぐそばの山に『鉄の森』ダンジョンが出来てしまって町と鉱山を放棄したんですよ。ですから廃墟と廃坑になってますね」
「あらら。そうなんだ」
「その山の頂上のどこかに魔女の家があるといわれています。その鉱山跡地は柵で囲まれていますが、立ち入り禁止ではなく山の中腹まで坑道を通っていけます。山肌を登ってもいけますがダンジョン化の影響で鋼鉄の樹皮を
「へえ。鋼鉄の魔樹ですか。それは厄介ですね」
「何でも魔女は空飛ぶ杖に乗っているらしいですよ。おそらく魔道具ですね」
「おお。空飛ぶ杖ですか。便利ですね」
「セイジさんには必要ないですが、手に入れたら大金持ちですよ。やったね」
「あはは。有ったらいいですね」
「はい。魔女は長らく不在みたいですから魔女の家を見つけて
「魔女、不在なんですね」
「はい。ここの住民たちも魔女の姿を見なくなったらしいですよ」
「へえ。どこにいっちゃったんだろ」
街の中を宿屋を探しながら散策していると、酒場からドワーフがたくさん出てきた。
(おお。ドワーフだ。イメージ通りだよ)
酒に酔ったドワーフが陽気に騒ぎながらどこかへ消えて行った。
「そういえば僕、装備を全く変えてないな」
「そういえばそうですね。初めて会った時から全く変わっていません。綺麗なままです」
「そういえば汚れないね。ポーションで洗っているからかな」
「あはは。ポーションで洗ってるんですか。面白いですね」
「そうかな」
「宿屋の前に食事でもしましょう」
「そうですね。ルカさんがお店決めてください」
「はい。ではあそこにしましょう」
ルカさんは酒場らしきお店を指さし
(酒場か。ルカさんは酒飲みなのかな)
酒場に入るとお客の
そこにいる人たちはみんな筋骨隆々だった。
ルカさんに案内され空いていたテーブルに座った。
ルカさんが注文した料理は、豚の足のローストとベーコン入りの酸っぱい漬物と豚肉の油揚げと豚肉を香辛料で煮込んだものだった。あとエール。
肉だらけ!ルカさん見た目によらず肉食なんですね。
美味しかったですけど。
とくに豚の足のローストはカリカリの皮が美味でした。
ルカさんと料理を楽しんでると突然隣の人に話しかけられた。
「なんじゃ。その趣味の悪い
ドワーフだった。
「む?魔剣じゃないか?」
「そうじゃそうじゃ。趣味は悪いが魔剣じゃ」
隣のテーブルにいたドワーフさんたちが一斉に僕の魔剣に食いついた。
「しかし、ただのハンティングソードにしか見えんが」
「そうじゃのう。趣味の悪さは貴族の証じゃ。わしだったら作るの断るぞ」
「わしだって断る」
ドワーフたちが僕の周りに来て魔剣談義を始めた。
「あの、この魔剣見てみますか?」
「いいのか!話が分かる小僧じゃ」
僕が魔剣を渡すと早速鞘から抜いて刀身を
「むう。刀身が透明じゃぞ」
「魔力含有量がすごいのう」
「元が並の剣でこれはすごい」
(並の剣か。幽霊のレオナさんは
(私は村娘ですよ~。剣の良し悪しがわかるわけないじゃないですか~)
(うわっ。びっくりした)
(魔力?があるから住んでるんです~)
(なるほど)
僕とレオナさんが話している間も、ドワーフさんたちは僕そっちのけで盛り上がっている。
「何で並の剣にこんなに魔力が含まれておるんじゃろうな」
「そうじゃのう」」
そうだ。ずっと気になっていたことを聞いてみよう。
「あの、鞘を変えたいと思うんですが作れますかね」
「ん?鞘か」
ドワーフさんがド派手な鞘をしげしげと見つめた。
「無理じゃ」
「なんでですか?」
「魔剣の鞘など簡単に作れるもんじゃない。鞘と魔剣の魔力の相性や剣の能力などいろいろな事情を
「そうじゃ。刀身がへそを曲げるぞい」
「そうじゃそうじゃ。趣味の悪い鞘で我慢せい。最初に注文したやつが悪い」
「そうでしたか。残念です」
「ところでこれをどこで手に入れたんじゃ?」
「ところでこれをどうやって作ったたんじゃ?」
「ところでいくらでこれを売ってくれるんじゃ?」
3人のドワーフが僕に顔を近づけてきた。圧が強い。
コトリ。静かに木のスプーンを置く音がした。
僕もドワーフたちもその音に引き付けられた。
なぜか酒場の喧騒が遠くに聞こえる。
「ドワーフさんたち、そろそろ席に戻ってはくれませんか?わたし達食事中なんです」
「はいっ」」」
ドワーフさんたちは静かに席に戻っていた。
「大変でしたね。セイジさん」
「いえ。ドワーフさんと話が出来てよかったです」
「そうですか。これからは私とお話しましょうね」
「もちろんですよ。ルカさん」
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