第70話 魔獣化
僕たちは狸獣人のリイサさんに連れられて鬼熊の所に向かっていると、遠くから何かが破壊される音が聞こえてきた。
慎重に近づいてみると鬼熊が森の木をぶっ叩いて破壊していた。
それにしても鬼熊は大きい。乗用車並みだ。近づくとその大きさがより際立つ。
鬼熊は僕たちが近寄ってもまるで気づかない。
「どういうことなんだ?」
「あたしが鬼熊に幻術をかけて幻覚を見せております」
「おお、リイサさん幻術を使えるんだ。すごいね」
「それほどでもありません」
リイサさんにとっては当たり前のことのようだ。
「なるほど。木を敵だと思ってるってことなのか。ん?」
よくみるとリイサさんに狸の耳と大きなモフモフ尻尾が生えていた。
「おお。リイサさんの耳と尻尾を初めて見たけど、かわいいね」
「・・・。お
え。
幻覚を解除された鬼熊は立ち所に僕たちに気付き、猛然と襲い掛かってきた。
僕は鬼熊に突っ込むふりをしてテレポートで鬼熊の横に跳んだ。
鬼熊はすぐに僕に対応し体勢を変えた。
「リイサさん。ルカさんをお願いします」
「はい。旦那様」
「化け狸。何てことしてくれるのよ。何で倒してないのですか」
「わたしは旦那様を監視するために姫様に使わされたのです。余計なことは少ししか致しません」
「全く
「やれやれ」
(あれ。やっぱり僕一人で戦うのか。そうだ)
「フィオナさーん。鬼の
僕は拾っていた青い角をフィオナさんに
「鬼の角には魔力が
(なるほど。どうやって使ったらいいのかな)
僕の目の前に来た鬼熊が僕に向かって太い腕を振り回した
ブウンッ
僕はテレポートでかわす。
「角を握って魔法を行使するか魔道具にくっ付けて使うと角の魔力が消費されるのですよ」
「なるほど」
僕は鬼熊の攻撃をかわしながら、魔剣の刀身に鬼の角をくっ付けてみた。
(詠唱はアレでいいのかな?)
「能力開放!」
すると魔剣が一瞬輝いた次の瞬間。
ブフォオオオオオオッ
辺り一面に濃霧が広がった。
(うおっ。これが濃霧の範囲魔法か。すごいな。何も見えない。お侍さんの話を聞いててよかったよ)
「!?」
僕は鬼熊の接近を感知した。
ブンッ
再び剛腕が振り回されるがテレポートで上空にかわす。
(何で僕の位置がわかるんだ?匂いか。いい香りだもんね)
僕は
ズサッ
「ぐおおおおおおおっ」
鬼熊の悲鳴が聞こえてきた。
(当たった?魔獣は魔力に敏感なのになぜ。もしかしてこの濃霧は霧の森と同じく魔力を含んでいるのかな。だったら)
白い玉!!
ンッドズッ
鬼熊に直撃し鈍い音がした。
ドスン
鬼熊は地面に倒れ伏した。
(やったか!?)
だんだんと濃霧が晴れていく。
ザンッ ドスッ
(ん?何か音がした)
霧の中からリイサが現れた。
「さすが旦那様です。これを。解体しておきました」
リイサから鬼熊の頭と魔石を渡された。
「あ、ありがと」
倒れている鬼熊を見ると、首から血がドバドバ出ていた。
魔石の位置には穴が開いていた。
もしかして
まあいいか。
フィオナさんとルカさんが近寄って来た。
「セイジ様。鬼熊の毛皮の
「うん。お願いできるかな」
「セイジさん。強いですね!」
「ありがとう。うまくいったよ」
僕の物体操作では鬼熊を持ち上げられなかったので、リイサさんに運んでもらった。
リイサさん、怪力だな。
その後、白狐の里で鬼人と鬼熊退治の感謝の
こういう席では何をしたらいいか分からないので、僕は料理を食べてすぐに退席した。
用意された部屋でくつろいでいると、遠くから歓声が聞こえてきた。
盛り上がってるなあ。
僕は楽しい気持ちで眠りに入ることが出来た。
翌朝。僕たち4人は狐の里近くの街グラスの冒険者ギルドに、一連の
冒険者ギルドに着き、受付で鬼人と鬼熊を退治したことを伝え、証拠として鬼人の角と鬼熊の頭と魔石と毛皮を提出した。
「皆様、ご苦労様でした。鬼人を倒して頂きありがとうございました。しばらくはこの地域も平穏になりそうです。素材はどういたしましょうか。ギルドで買取いたしましょうか?」
「はい。鬼熊の頭と毛皮と魔石を買い取って下さい」
「わかりました。査定をいたしますのでしばらくお待ちください」
「はい」
僕たちが受付を離れ隣の軽食屋に行こうとしたところ、冒険者が息を切らせて冒険者ギルドに走りこんできた。
「大変だー。冒険者が正気を失って暴れてるっ!!」
その言葉に冒険者ギルドが騒然となった瞬間、外から住民たちの悲鳴が聞こえてきた。
「ぎゃー。助けてくれー」」」
「きゃー。来ないでーっつ」」」
住民たちがこちら側に逃げてきている様だ。
僕たちはすぐさま冒険者ギルドの外に跳びだした。
街の通りは大混乱だった。
その中心にその冒険者がいた。
(なんだ?あれは人か?)
その男は見るからに異様だった。
ギラギラした赤く光る眼。ぼさぼさに伸びた髪。ガサガサでまるで爬虫類のような皮膚。そしてボロボロになった装備。
冒険者の格好をしていなければ魔獣と見間違えそうな姿だった。
他の冒険者たちも続々と集まってきた。
暴れていた冒険者がこちらに気付いてゆっくり近づいてきた。
「うがあああっああああっ」
その冒険者は
(話せないのか?あれ。僕一番前にいる)
なぜか僕の後ろに冒険者たちが集まっていた。
すると僕の周りにいる冒険者たちの声が聞こえてきた。
「おい、鬼人じゃないのかあれ?」
「だな、近くで目撃情報があったぞ」
「いや違うな。鬼人は狂暴だが話はできる」
「角もないしな」
「もしかして・・・」
「何だお前なにかしってるのか?」
「あいつは確か、何年か前に鬼人の大秘境に調査に行った第2級冒険者だと思うんだが、戻って来てたのか」
「鬼人の大秘境に!」」」
「そいつが何であんなことになってんだ。人間やめてるぞ」
「もしかしてあいつ魔獣化してんじゃ」
「!?」」」」」」」」
「始めてみたぜ。あれが魔獣化か」
「何でも能力がかなり上がるらしいぞ」
冒険者たちが一斉に第2級冒険者を見た。
その時、僕はその人と戦っていた。
(みなさん、しゃべってないで手伝ってください)
「魔獣化した奴は会話が成立しねえっていうしな」
「やっぱりか。あいつずっと唸ってるしな」
「調査してる間に鬼人の女に連れ去られたんじゃないのか?」
「ああ。鬼人の国を調査するとか言ってたからな」
「まあ。確かに鬼人の女と出会ってないとは思えんな」
「鬼人は魔獣を食べるのか?」
「どうだろうな。それはわからん」
「じゃあ、あいつには子供が出来てんのかな?」
「鬼人の女に会ってたら間違いなくいるだろ。うらやましい」
「鬼人の女って美人なのか?俺見たことないんだが」
「美人かどうかじゃないんだよ。もてない男にとっては」
「そうだな。俺も彼女欲しいぜ。鬼人の女が降りて俺をさらってくれねえかな」
「がはは。鬼人の女にも選ぶ権利はあるぜ。何でも強い男にしか興味持たないそうだぞ」
「はあ。そうなのか。俺強くなるぜ!」
そこにギルド職員の女性が現れた。
「ちょっとあんたたち。くだらないこと言ってないであの人を手伝いなさい」
「なんだあ?でもあの若い男、第2級を圧倒してるぜ」
「あの人は第3級ですよ。最近鬼人の男を退治しました」
「じゃあ。俺たちが助けに入る必要ないだろ」
「そうだそうだ。邪魔になるだけだぜ」
「はあ。まあそうかもしれませんね。それからあの男は、おそらく魔獣化してしまったため鬼人の女性に鬼人の大秘境から追い出されたのでしょう。もう子を授かれなくなったということで」
(なるほど。そういう理由があったのか。ていうか誰も手伝ってくれないんですか)
第2級の冒険者は、ただ力任せに突っ込んでくるだけで強くはなかった。
魔獣化したことで冒険者の技術を忘れてしまったのだろうか。
(殺しちゃまずいのかな。だったら)
白い玉を、いや、当たり所悪かったら死んじゃうか。
僕はテレパシーで魔剣に住むレオナさんに話しかけた。
(レオナさん。手伝ってもらえますか)
(え~また~。あれを?うーん。全然おいしそうじゃないけど。まあいいか)
(ありがとうございます)
僕は第2級冒険者の攻撃をテレポートでかわし、魔剣を背中に張り付けた。
(おねがいします、レオナさん)
(はーい。吸収吸収っと~)
レオナさんが魔剣から手だけ出して男の体内に手を突っ込んだ。
「おごおおあああおおっ」
第2級冒険者は生命力を吸われ動きを止め倒れこんだ。
「うおおおおおおおおおっ」」」」」」」」」
集まっていた冒険者と住民たちから歓声があがった。
「どうやったか知らんが倒したな」
「あれどう見ても魔剣だよな。かっけー」
「ああ。透明の刀身だな」
「魔剣の能力で倒したんだな。俺にはわかる」
「そうなのか。おまえすげえな」
周りにいる冒険者が僕の戦闘の話題で盛り上がっていた。
その冒険者たちは、僕にいろいろ聞きたそうにしてたけど遠慮してもらいたい。
答えられないことだし真実を知ったら盛り下がるだろうし。
僕は冒険者ギルドの職員さんに建物の中に連れていかれた。
「彼はどうなるのですか?」
「しばらく牢屋に入れて、魔力を抜いてみてどうなるかですね。時間が経ってもあのままでしたら我々が責任をもって処分します」
「・・・そうですか」
魔獣化した冒険者を無力化したことを感謝され、僕は解放された。
僕たちはこのままこの街に一泊した。
次の日の早朝に冒険者ギルドに立ち寄り、鬼の角と鬼熊の素材の代金を受け取り街を
「昨日は大変だったね。そしてルカさん、いよいよ君の番だよ。お待たせしました」
「いえいえ。全然待ってないですよ。ここからは私が道案内しますね」
「うん。お願いするね」
僕の前には狸獣人のリイサさんと白狐獣人のフィオナさんもいる。
「フィオナさんはこれからどうするんですか?」
「私はここでお別れですよ。セイジさんについて行く理由がなくて残念ですよ」
「そうですか。今日まで一緒に旅ができて楽しかったです」
「はい。私もですよ。もっと強くなって見せますよ」
そう言うとフィオナさんはまた僕の手をギュッと握ってきた。
そこにすぐさま割り込み僕とフィオナさんを引きはがすリイサさん。
「化け狐。ご苦労様でした。しばらく里に引っ込んでなさい」
「何よ化け狸、何であんたの言うことを聞かないといけないのよ」
「姫様からの命令です」
「ひっ。はい。
フィオナさんは最敬礼で受諾した。
フィオナさんはいつの間に姫様の
「旦那様。私もここでお別れです」
「え。そうなんですか」
「はい、姫様に「何をやっているのじゃ。一緒に行動するのではなく監視するのじゃ」と、お
「化け狸が姫様に怒られてますよ。ぷぷぷ」
リイサさんはフィオナさんを無視して話を続けた。
「ご安心ください。私はいつも旦那様のおそばにいますので」
え。やっぱりついてくるの?
「あ、うん。ありがとう。じゃあ、ふたりとはここでお別れだね」
「はい。白狐の里を救って頂きありがとうございました。またいつかどこかで会いたいのですよ」
「うん。またね」
「フィオナさん、お元気で」
「ルカさんもお気を付けて。無事に里に着けますよ。セイジ様ですから」
「はい。ありがとうございます」
「旦那様いってらっしゃいませ。ご武運を」
「リイサさんありがとう。それでは行きます」
「ルカさんもご多幸を。あ、ルカさんには無用な言葉でしたね」
「うふふ。リイサさんの幸運を祈ります」
僕とルカさんは二人と別れ南に向かった。
次の行き先はルカさんの故郷だ。
どこにあるか知らないけど。
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