第69話 鬼人襲来

僕、ルカさん、狸獣人のリイサさんと白狐獣人のフィオナさんは、竜王山がある山々を左手に見ながら狐の里を目指して西に進んでいた。


道案内をしてくれているのは依頼人でもあるフィオナさんだ。


「もうそろそろ王国最大最深のダンジョン『竜王の庭園』の近くですよ」


「おお。そうなんだ」


遠くに見える山脈のふもとには森が広がっていた。


(そういえば竜神教のハクアさんの村もこのあたりなのだろうか)


「セイジ様も行ってみたいですか?今はレッドビークの皆さんが攻略中みたいですよ」


「いつか行ってみたいなあ。でも今の僕じゃ無理だろうね」


「そうですか?行く時は誘ってください。私も手伝いますよ」


「そう?それは心強いね」


「あんたじゃ役に立たないわ。旦那様、あたしがお供致しますのでご安心を」


「うん。リイサさんもありがとう」


「ちょっと化け狸。ちょっと強いからってひどいのですよ。私もついて行きますよ。いいですよね、セイジ様」


「うん」


「そういえば化け狐。あんた冒険者ランクは何級になったの?」


フィオナさんは目が泳いでいる。


「え・・・。第4級ですよ」


「あはは。なにそれ、情けないわね」


「そういう化け狸は何級なんですかっ」


「第4級よ」


「一緒じゃないですかっ!」


「あたしは姫様にメイドとしてお仕えしてたからなの。あんたはずっと冒険者やってるんでしょ」


「うっ。そうですよ・・・」


「リイサさんはメイドさんだったんだね」


「そうなんです旦那様。姫様の命で旦那様の冒険者ギルドカードを作ったり、旦那様の冒険者ギルドランクをあげたり頑張りました」


「リイサさんのおかげだったんだ。お金もいっぱいあったよ。ありがとう。おかげでいろいろ助かったよ」


「とんでもございません。もったいないお言葉でございます。旦那様のお役に立てて光栄です。これできっと出世できますわ」


「出世?それはよかった。お礼が言えてよかった」



僕たちは途中で進路を北に変え、街道を海に向かって進んでいると巨大な城壁が見えてきた。


北西部最大の都市ベルディグリだ。


都市のそばに川が流れており、農地も広がっていた。


城門を通過し街の中に入ると、そこは茶色の世界だった。


建物も地面もすべてレンガで出来ていた。


街の中央には広場があり、そこのは巨大なレンガ造りの建物立っていて、その建物の上には左右に二つの塔が伸びていた。


その建物はベルディグリ冒険者ギルドだった。


無駄に大きい冒険者ギルドには立ち寄らず、僕たちは早速名物であるシーフードを食べることにした。


「みんなはシーフード平気?」


「はいっ。大好物ですっ」「もちろんです」「何でも食べますよ」


ということでお店に入って注文してみた。


店員さんにおすすめ料理を聞いてみたところ、ぶつ切りにしたウナギと乾燥果物や野菜などを長時間コトコト煮込んだスープだそうだ。


(ウナギか。異世界でウナギを食べることになるとは思ってもみなかったな)


食べてみると甘酸っぱい味がした。ウナギは長時間煮込んだだけあって柔らかかった。


ベルディグリの宿屋で一泊し、次の日の早朝、狐の里に向けて出発した。


僕たち四人は森と森の間の平原をのんびりと歩いていた。


道中魔獣に全く襲われなかったことを不思議に思っていると、どうやらリイサさんの魔力にビビッて魔獣が逃げていたそうだ。


「化け狸はやばいのですよ」


フィオナさんが教えてくれた。


盗賊はたびたび襲ってきたがすべて返り討ちにした。ほとんどリイサがぶっ飛ばしていたけど。


「旦那様の手をわずらわせるわけにはいきませんので」




数日後。僕たちは狐の里の森の近くまで来ていた。


「狐の里には5つ里があるらしいけど、それぞれは近いの?」


「近いですけど、生活環境が違うのですよ。水辺、森林、洞窟、高地、砂地などですよ。私たち白狐は森林地帯ですね」


「なるほどね」


「種族ごとの固有能力も違うのですよ。白狐は透明化が出来るのですよ」


フィオナが自慢気に胸を張った。


「旦那様もできますよ」


「え!?さすがセイジ様ですよ」


フィオナはがっくり肩を落とした。


「僕は姫様に付与してもらったからできるんだ。フィオナの方がすごいよ」


「え。あの姫様に。さすがセイジ様。尊敬するのですよ」


ガクガクぶるぶる。フィオナが顔を青くして震えている。


「どうしたの?」


「姫様に合わせたらあの化け狐、ちびったんです」


リイサの告げ口がフィオナに追い打ちをかける。


「ちびってないですよ!化け狸!」


フィオナが今度は顔を真っ赤にして否定していた。


(僕もメイドさんを見て気絶したなあ)


「昔は白狐の里で透明化の魔道具を作ってたんですけどね。魔法技術が発展したおかげですたれちゃいましたよ。その魔道具は作るのに時間がかかるのですよ。何よりかさばるのですよ」


「へえ、どんな魔道具なの?」


みのかさの姿隠しの魔道具ですよ。姿を隠すのにいちいち着ないといけないのですよ。いまは姿隠しの魔法や小さい魔道具があるのですよ」


「そうなんだね」


「まあ、灰になっても効果があるんですけど」


「へえ。それはすごいね」


「体が汚れるのですよ」


「なるほど」



もうそろそろで狐の里に着くというところで、フィオナさんが鬼人の生態について話してくれた。


「鬼人は強い個体をさらいに来るんですよ。鬼人の子を産ませるために」


「ひどいね。でも鬼人の女性もいるわけでしょ?なんでわざわざアルケド王国まで来るの?」


「鬼人の女性は数が少ないんですよ。だから鬼人の男の強者が独占しているらしいですよ」


「つまりモテない鬼人の男が暴れてると」


「まあ、そうなんですが、現れるのは男だけじゃないんですよ」


「え。鬼人の女性も暴れるの!?」


「はい。これには鬼人の生態が深く関係しているんですよ。聞きたいですか?」


「そうだね。教えてくれるかな」


「鬼人同士で結ばれると9割男が生まれるそうですよ」


「すごいかたよってるね。男が余るわけだね」


「鬼人の男と他種族の女性が結ばれても同様ですよ」


(鬼人族の男の遺伝子強すぎ)


「鬼人の女性が森から出てくる理由でもあるのですが、鬼人の女性と他種族の男が結ばれると必ず女の子が生まれるのですよ」


(鬼人の遺伝子強すぎ)


「鬼人の女性だけも村もあるそうですよ。乱暴な鬼人の男が嫌になったそうですよ。その女性の村から鬼人の女性が他種族の男をさらいに王国に降りて来るそうですよ」


「へえ」(へえ)


「子供が出来たら他種族の男は捨てられるそうですよ。あくまで噂ですよ?」


「へえ。女性だけで育てるんだ」


「鬼人の大秘境周辺に住むモテない男どもは、鬼人の女性を歓迎しているそうですよ」


「そうなんだ」


「セイジ様は鬼人の女が現れてもついて行きませんよね?」


「・・・。う、うん」


「ですよね。捨てられると分かっててついて行く男の気が知れません」


「そ、そうですね」





夕方、森の中にある白狐の里に到着したが、里の中心地から火の手が上がっていた。


「何が起こってるの?まさか!?」


それを見て慌ててフィオナが里に向かって走り出した。


僕たちもフィオナを追いかける。


そこには複数の白狐獣人たちを相手に暴れている角の生えた男がいた。


「セイジ様。あれが鬼人ですよっ」


(男かよ!いやそうじゃない。あれが鬼人か)


長身の鬼人の男は上半身裸で筋骨隆々だった。下半身はゆったりとした長ズボンを履いている。


青髪の青い肌で角が一本だけ頭のてっぺんから生えていた。


口から見える牙と指先の爪がごつい。


見まごうことなく鬼だね。金棒かなぼうは持ってなかったけど。


鬼人が叫ぶ。


「女はどこだーっ」


次々と白狐獣人たちが欲望丸出しの鬼人にぶっ飛ばされていく。


あの鬼人、拳が武器なのか。


すると、白狐の里の別の場所が騒がしくなった。


「鬼熊だー。鬼熊が現れたぞーっ」

「ひーーっ。なんでこんな時に出てくるんだーっ」

「おしまいだーっ」


すると鬼熊と呼ばれた巨大な熊が森から飛び出してきて、白狐獣人を襲いだした。


角の生えた鬼熊は口からよだれをだらだららしていた。


(なんなんだこの状況は)


白狐の里は鬼人と鬼熊のせいで恐慌状態におちいった。


「ちっ。しつこい熊だぜ」


どうやら鬼熊は、鬼人を追って鬼人の大秘境からこの里まできたようだ。


(本当に迷惑な鬼人さんですね。厄介ごとを増やさないでいただきたい)


どっちに行こうか迷っていると、狸獣人のリイサさんが判断してくれた。


「旦那様。よろしいでしょうか」


「はい。何でしょう?」


「わたしが鬼熊を相手しますので、旦那様が鬼人を倒してしまってください」


「わかった。よろしくね」


リイサはすぐさま鬼熊のもとに向かった。


僕は鬼人のところへ向かう。


(思わず元気よく返事をしちゃったけど、どうしよう)


「セイジ様。ルカさんは私がお守りしますよ」


「フィオナさん、助かります。無理しないで」


「はいですよ。あ、言い忘れてましたけど鬼人は5種族いますよ。赤青黄緑黒の5種ですよ」


(いまですか!?)


「そうなんだ。あれは青か。特徴は?」


「水属性ですよ。水を使った魔法攻撃をしますよ」


「見たまんまでわかりやすいね」


「セイジさん。頑張ってくださいね」


ルカさんから応援をもらった。


リイサさんが来るまで少しはいいところを見せないとね。


「うん。フィオナさんから離れないで。何かあったら大声を出して知らせてね」


「はいっ」



ドバッ


鬼人の指先から水弾が発射され、まともに食らった白狐獣人が吹っ飛んでいった。


(水弾?ウェンディーの魔法と一緒なのかな。でもリングも杖も詠唱もなしか。どうなってるんだ)


「くっ。みんな離れて!私たちが相手しますよ!」


フィオナの叫び声に里の白狐獣人たちが鬼人から離れていく。


鬼人の正面に立つのは僕ひとりだけ。


フィオナは早速透明化を発動させルカと共に姿を消した。


「何だ貴様は。俺様に勝てるとでも思ってるのか。男に用はないんだよ。叫んだ女はどこ行った」


鬼人が鼻をヒクヒクさせている。


ッドォーーーーン!!


初手、白い玉。会話は不要です。


もうもうと砂煙が立ち上がった。


その中から鬼人が僕に向かって突っ込んできた。


テレポートでかわし目立つところに出現する。


(白い玉、かわされてるよっ。いい考えだと思ったんだけど。注意を別に向けてないと駄目か)


再び白い玉を上空へ。


(フィオナさんはどういった攻撃するんだろ。聞いておけばよかったな)


フィオナとルカは少し離れた建物の陰に隠れていた。


「セイジさん頑張って」


鬼人は僕に向かって何度も突っ込んできたり、水属性魔法を飛ばしたりしてきたが僕はすべてをテレポートでかわした。


「ちっ。切りがねえぜ。魔力の無駄使いだ。ちょこまか逃げやがって。お前は爪で十分なんだよっ」


逃げてばかりじゃないですよ。


鬼人の上空にテレポート。からの(発火!)


炎が鬼人を包みこむ。


「熱いじゃねえかっ!」


炎が消えると無傷の鬼人が現れた。鬼人には全く効いてないようだ。


(それだけですか。やはり魔力が多い相手には効きませんか。動き速いし魔剣を操作しても簡単にかわされそうだな。う~ん。そうだ、レオナさんちょっといいですか)


僕は魔剣に住む幽霊さんにテレパシーを飛ばす。


(なんですか~)

(鬼人退治を手伝ってほしいんですけど)

(鬼人~?あ!鬼だ~)

(鬼人から魔力とか生命力とか奪えませんか?)

(奪えるよ~。でもさわらないと駄目だよ~)

(わかりました。お願いします)

(じゃあ。生命力奪ってあげるね~)


僕は魔剣を鞘から抜く。


鬼人が動きを止めた。


「水属性の魔剣か。しかし大したことなさそうだが。ん?なんか混じってねえか」


鬼人の背後に魔剣をテレポート、幽霊のレオナさんを呼び出す。


「レオナさん!」

「はいな~」


レオナさんが魔剣から出した手をバタバタさせると手が鬼人に触れた。


「ぐううっ。一体何が。貴様何をした。その魔剣は水属性じゃないのかっ」


鬼人から生命力がごっそり消費されたようだ。


僕は魔剣を操作して手元に引き寄せた。


「ありがとう、レオナさん。うまくいったようだよ」


「は~い。おいしかった~」



一方、建物の陰に隠れているフィオナとルカにも動きがあった。


「私も戦いますっ」


「え?なんですか。ルカさん?」


ルカは魔術師ギルドリングを取り出し、指にめ集中し詠唱を唱えた。


あかねさす 烈火・・・」 


「ルカさん魔術師だったんですか?って、透明化が解除されてますよっ」


魔力の高まりに気付いた鬼人がルカに気付いた。


「火属性魔法!?くっ。させるかよっ」


鬼人がルカさんを目指して突っ込んでいった。


僕はテレポートでルカさんの隣に現れ、一緒に別の場所に跳んだ。


魔剣をその場に残して。


「ルカさん。そのまま魔法を維持して」


ルカはこくりと頷いた。


「ちっ。どこいきやがった」


鬼人は辺りを見渡すが、テレポートを繰り返す僕たちの動きをとらえきれない。


僕とルカさんは鬼人の背後に出現した。


ルカの詠唱が終わる。


「・・・丁酉ひのととり 火柱っ」


鬼人が炎の柱に包まれた。


「ぎゃーーっ」


「おまけの白い玉っ!」


んっどーーーん!!


空から再び白い玉が落ちてきた。


バキッ。鬼人の角が折れ宙に舞う。


「えいっ」


姿を現したフィオナさんが僕の魔剣で鬼人をぶった切った。


鬼人は地面に倒れ伏した。


白狐の里に平和がもどってきたのだ。


「ルカさん、火属性魔法使えたんですね。すごかったですよ」


「ええ。私たちの一族は火属性持ちでして」


「ピンクの髪は関係あるんですか?」


「そうですね。髪の毛に魔力をためてますから」


「なるほど。杖を持ってないですけど、さっきの中級魔法ですよね」


「そうですよ。髪の毛が杖の代わりです」


「へえ。そうなんですね」


僕の魔剣を持ったフィオナは興奮状態だった。


「セイジ様。私やりました!鬼人を倒しましたよ!」


「うん。おめでとう。やったね」


「はい!やりましたよ!」



そこへ鬼熊の相手をしていたリイサが戻ってきた。


「おかえり。倒しちゃったの?」


「いえ。安全な場所に誘導して捕らえておりますので、旦那様がとどめをお刺しください」


え?


白狐の里はまだ危険だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る