第68話 狐の里へ

久しぶりに訪れたグリーンウイロウはあまり変わってなかった。


当たり前か。3か月も経ってないんだし。


門番はあの人じゃなかった。残念。


僕はゆっくりとグリーンウイロウの街並みを見ながら、冒険者ギルドに向かった。


一品しか料理がないあの女将の料理屋にも後で行ってみようかな。


僕は久しぶりのグリーンウイロウ冒険者ギルドに到着した。


懐かしい外観だな。3回しか来てないけど。


僕が冒険者ギルドに入った瞬間、ルカさんと目が合った。


すると笑顔を見せてくれた後、全力で走ってきて唐突に依頼をしてきた。


「一緒に実家に行ってください」


え。実家?


「ちょっとルカ。いきなり過ぎてセイジ君がびっくりしてるじゃない。最初から説明しなさいよ。お久しぶりね。セイジ君」


「はい。お久しぶりです。ミイさん」


「お久しぶりだね。セイジさん」


「お久しぶりです。ルカさん。それで実家って?」


「私の故郷ですよ。それに、ほら髪の毛の色が少し落ちたでしょ?」


見ると確かにルカさんのピンクの髪の毛に白い部分が少し増えていた。


「そうですね。ちょっと抜けましたか」


「セイジさんに会えましたし、時期が来たということにして実家に帰ろうと思います」


「あれ?でも前は半年って言ってませんでした?」


「大体でいいんですよ」


ルカさんは満面の笑みで答えてくれた。


「そうですか。依頼を受けるのはいいんですが、一度王都に向かいたいんですけどいいですか?ちょっと面倒なことになってまして」


「いいですよ。時期がちょっとずれても問題ないんです。みんなもばらばらに帰ってくるでしょうし」


「みんな?」


「いいのいいの。そこは気にしないで」


「はあ。ちなみの実家はどこなんですか?」


「詳しくは言えませんが南です」


「わかりました。では王都に向かいましょう。いつ出発しますか?」


「今からですよっ」


「え。ギルドのお仕事は?」


「たった今辞めました」


「えええ。いいんですかミイさん」


「いいんですよ。最初からそういう契約でしたから」


ミイさんは苦笑いで答えてくれた。


「そうでしたか。では行きましょうか」


「はいっ。荷物取ってきます。少々お待ちをっ」


ルカさんが荷物を取りにギルドの奥に行った。


するとミイさんが真剣な表情になって小声で話しかけてきた。


「ちょっとセイジ君いいかしら」


「はい。なんでしょう」


「ルカたちの獣人は希少な獣人を狙う誘拐組織に狙われています。特徴的な髪の毛の色はかなり落ちましたが十分に注意してください」


「え!?危険じゃないですか」


「はい。危険です。セイジさんを信頼しているからルカを預けるのです。頼みましたよ」


「・・・はい。全力で守ります」


お気楽に依頼を引き受けたら、とんでもないことがひそんでましたよ。


ルカさんが相変わらずのニコニコ笑顔で荷物を抱えて戻ってきた。


「さあ。いきましょーっ」



最初の予定とはすこし違ったけど僕は王都に向かうことにした。


みんな、僕が突然いなくなって心配してるだろうな。たぶん。




僕とルカさんはグリーンウイロウの街の外に出た。


女将さんの店に行けなかったか。また今度来ることにしよう。


「ルカさん。移動はどうしましょうか。乗合馬車にします?歩きます?」


「そうですねえ。セイジさんはどっちがいいんですか?」


「え。僕ですか。そうですね。歩きの方が早く着くんでルカさんに負担がかからないと思いますよ。泊りも安全のために野宿じゃなくて村でしたいと思いますし」


「ではそうしましょう」


そういうとルカさんは王都のある北へ向かって元気に歩き出した。


僕はのんびり彼女の後を追いかけた。


彼女の護衛か。僕一人で大丈夫なのだろうか。



僕たちは2時間歩いたところで最初の休憩に入った。


そこでルカさんに謝られた。


「実は私、モモイロインコの獣人じゃないんです。嘘をついてごめんなさい」


「え。そうなんだ。まあ仕方ないよね。誘拐組織に狙われてるんだから」


「はい。ありがとうございます。本当の事は里について教えますね」


「うん。とりあえず水分補給でもしようか」


「はい」


リュックを開いて水の皮袋の魔道具を取り出そうとしたら入ってなかった。


「あれ。入ってないや。どこいったんだろ」


「どうしたんですか?」


「いえ。水の皮袋の魔道具を持ってたはずなんですけど、入ってなかったです」


「あら、大変ですね。私、持ってますから一緒に使いましょう」


「それがですね。実はもう一つ持ってまして」


「え?」


僕はリュックからひょうたんを取り出した。


「かわいい。そんなおしゃれな水筒を持ってたんですね。それも魔道具ですか?」


「うん。これポーションが無限に出て来るんですよ。だから飲み水はあるんです」


「はえ?ポーション?ポーション飲んじゃうの?それも無限!?」


「はい。変ですよね。他の人たちにも言われました」


「あはははは。セイジさんおもしろーい。私にも飲ませてください」


「いいですよ。どうぞ」


僕はルカが差し出したコップに注ぐと、ルカはすぐさま飲み干した。


「あはは。おいしくなーい。でも体の疲れが取れました。すごーい」


「よかったです」


休憩も終わり周囲を警戒しながら先を急いでいると、ようやく森が見えてきた。


「森が見えてきましたね。森の中に入ったら道をれましょう」


「え?どうしてですか?後ろからは誰も来てませんよ。警戒しすぎでは?」


歩いてきた道を振り返ると平原が広がっており隠れる場所はない。


「警戒のためではありませんよ。安全のためではありますが」


「うーん。よくわかんないけどわかりました。森に入ればいいんですね」


しばらく歩き森の中に入った。空気が涼しい。


ルカさんは僕の言った通り道をれ、ずんずん入っていった。


「そのあたりでいいですよ」


「はーい。それでどうするんですか」


「こうするんです。手をだしてください」


「手?はい」


ルカさんは素直に手を出してくれた。


僕はその手を掴んだ。


「あ」


僕はテレポートを発動して森の上に出現した。


「あっ!?」


ルカさんの驚く声が聞こえてきた。


手をつないだまま物体操作に切り替えて空中に留まる。


そのまま空中を移動して最初の村を目指す。


目的地の村は最初の護衛依頼で立ち寄った村だ。


今回の旅の行程はその時と全く同じにした。到着時間はかなり圧縮されると思う。


「すごーい。私、空飛んでるー。あはははは」


ルカさんは始めは怖がっていたが、だんだん空中浮遊を楽しんでいた。


慣れてきたようなので手を離してルカさん一人で飛んでもらった。


そういえば女性と手をつないだのは小学生以来だな。


「セイジさん、これ魔法ですよね。すごーい」


「はい。転移魔法と空中浮遊魔法ですね。街や村周辺は歩きますがそれ以外の所はこれで移動しましょう」


「はい。たのしーーーい」


予定通り村を二つ通過したころには二日が過ぎていた。前回は一週間だったのに。


もうすぐ王都だ。


王都までの道は人通りが多いので、さらなる警戒が必要になる。


そういえばルカさんは獣人なので何か能力がないか聞いてみた。


「ルカさんは獣人としての特殊能力を持ってますか?例えば耳がいいとか」


「うーん。私たちはそういうのは持ってないですね。魔力量が多いくらいです」


「そうでしたか。では安全のためにルカさんには城門まで消えてもらいましょう」


「え?どういうことですか」


「ルカさん手を出してください」


「はい」


またすぐに手を出してくれた。


躊躇ちゅうちょが全くないんですね。逆に不安になってきます。


「ありがとうございます」


僕がルカさんの手を握るとルカさん透明になった。


「はい。これで安全です。大声を出したり激しく動いたりしないでくださいね」


「え?どういうことですか?何も変わってないですけど」


「ルカさんは今、透明になってますよ」


「えー。姿隠しの魔法だー。すごーい。あははは」


ルカさんの楽し気な声だけ聞こえてきた。


「僕も見えませんから遠くに行ったりしないでくださいね」


「はーい」


しばらくすると王都を囲む巨大な城壁が見えてきた。


王都到着だ。


ルカさんの透明化を解除し、城門を通過するといつもの場所にアーシェがいた。


「お帰りお兄さん。聞いていた通り無事だったのね」


「心配かけてごめんね。誰に聞いたの?」


「狸のお姉さんよ」


「ああ、リイサさんか」


リイサさんが助けてくれたのかな?


「それより女連れとはね。そっちの方がびっくりだよ」


「いやいや。依頼人ですから。遊んでたわけじゃないから」


「はじめまして。ルカです。このだびセイジさんと一緒に実家に帰ることになりました」


「あら。結婚おめでとう」


「ありがとうございます」


「ちょっと。二人とも違いますよ。里帰りの護衛ですよ」


ぞわっ。僕の背後に何かがいた。


振り返るとヒナがいた。


「ヒナ。ただいま。心配かけたね」


「・・・へい・・・」


「セイジさん。ご無事でよかったですぅ」


残りのホーステイルのメンバーもやってきた。


「うん。みんなただいま。何があったかわからないんだけど、どうにか無事だったよ。リイサさんに助けられたみたい。なぜか気付いたらまた禁忌の森にいたよ」


「そうでしたかぁ。大変でしたねぇ」

「え。また禁忌の森っすか」

「どこに転移したんだか」


みんなの安心した顔が見られてよかった。


みんなの視線が僕の隣にいるルカさんに向かっている。


「紹介するね。ルカさんです。依頼を受けて彼女を里まで連れて行くことになったんだ」


「ちょっとセイジ様。私の方が先ですよ。里帰り」


白狐獣人のフィオナが狸獣人のリイサと共にやってきた。


「あ。そうだったね。もちろん狐の里にもいくよ。それと今ちょうどリイサの話をしてたんだ。助けてくれてありがとう」


「礼には及びません。それにその言葉はバニラに言ってあげてください」


「え!?バニラさんが助けてくれたの?」


「そうでございます」


「そうだったんだ。それじゃあ、お礼を言いに行かないとだね。リイサさんはバニラさんの居場所をしってますか?」


「はい。仲間になりましたので」


「え。そうなんだ。リイサさん、フィオナさんとルカさんの依頼が終わったらバニラさんのところまで案内をお願いできるかな」


「はい。旦那様」


「ありがとう。ルカさん、君の里帰りちょっと遅れてもいいかな?駄目だったら君を優先するけど」


「ちょっとセイジ様、ひどいです」


「ごめんね。事情があって」


「大丈夫ですよ。白狐のフィオナさんを先に連れて行ってあげてください。何だか面白そうですし」


「そう。ありがとうルカさん」


白狐の里への出発は明日になった。


さすがに僕の家は防犯上よくないので宿屋に泊まることにした。


ところがホーステイルと狸獣人のリイサさんと白狐獣人のフィオナさんもついてきた。


なんで。


広い部屋を一部屋借りてみんなで泊まることになった。


これなら安全だね。




次の日の早朝、僕たちはホーステイルのメンバーとアーシェに見送られ、国王領の西端にある狐の里へと出発した。


旅のメンバーは僕とルカさんと狸獣人のリイサさん。そして依頼人である白狐獣人のフィオナさんだ。


ホーステイルのみんなは残念ながら一緒ではない。


もうパーティーメンバーではないのだ。彼女たちには彼女たちの生活がある。


ホーステイルなら立派に冒険者をやっていくことだろう。


僕は先頭を歩くフィオナさんに行き先を聞いた。


「フィオナさん、どこに向かうんですか?」


「まずはベルディグリを目指すですよ」


という事で僕たちは、王都と狐の里の中間地点にある国王領北西部最大の都市ベルディグリに向かってを進めた。


ベルディグリは竜王山と海の間にあり、王国最大最深のダンジョン『竜王の庭園』にも近い。


ベルディグリは海に近いため海の幸が食べられるという。


狐の里はベルディグリの西にあり、鬼人の大秘境に近い森の中にあるという。


その森に赤狐、青狐、氷狐、陰狐、白狐の5つの里が存在しているとフィオナさんに教えてもらった。


鬼人の大秘境はアルケド王国の西部にあり、北から順に王国領、マラカイト領、モスグレイ領と接する広大な領土を持つ。


鬼人の大秘境は領土すべてが森で覆われており、強大で狂暴な鬼人が住んでいる。


鬼人の大秘境はアルケド王国とゴールドブルー帝国に囲まれいるが、鬼人と森に住む魔獣のせいで両国の冒険者による調査が難航している。


大秘境の中心部に鬼人の国があるらしいのだが、鬼人との交流が難しく存在は確認されていない。


たまに鬼人が森から現れては両国で暴れているという。



僕たちは4人で平原を歩いていた。


今回はルカさんがいるので護衛依頼は受けていない。出来るだけ見知らぬ人との接触は避けておきたい。


「ところでフィオナさん、具体的な依頼内容をうかがっていいですか?白狐の里まで一緒に行くということでいいんですか?」


「いえ、狐の里を守ってほしいのですよ。鬼人退治をお願いしたいのですよ。もちろん5つの里の者たちも戦うのですよ」


「鬼人退治ですか。そもそもなんで襲って来るんですか?」


「鬼人の里は森の奥のさらに奥深くにあるらしいので鬼人は滅多に姿を現しませんけど、そろそろ鬼人の発情期なんですよ。鬼人の大秘境には鬼人を襲う強大な魔獣がいるんですが、毎年数人の変態がその森を命がけで超えてわざわざアルケド王国まで来て大暴れしちゃうんですよ」


「発情期!?」


「はい、鬼人の大秘境の周辺住民が襲われちゃうんですよ。前回出現したときは女神が退治したそうですよ」


(さすがルナさん)


「今頃、鬼人の大秘境周辺領地の街や村には、討伐依頼を受けた冒険者が待機してるはずですよ」


「それはまた迷惑な話だね」


「どこに現れるか分かりませんが、鬼人は強い個体がいるところへ向かうのですよ」


「狐獣人は強いから狙われちゃうっていうこと?」


「そうなんですよ。鬼人の男はとにかく凶暴でやばいんですよ。男の気性の粗さに鬼人の女も逃げ出すほどですよ」


「え。よっぽどなんだね」


僕たちの旅は今の所順調に進んでいる。


王都を出発して数日が過ぎたころ、国王領北西部にある竜王山の姿が見えてきた。

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