第67話 罠

ホーステイルの目の前でセイジが消えた。


ホーステイルのメンバーは状況を飲み込めず呆然としていると、狐と狸の獣人たちが大慌てでやってきた。


狸獣人リイサはセイジが消えたあたりの地面を調べ出し、狐獣人フィオナは何かを探すように周囲を見渡している。


ようやくウェンディーが動き出し、彼女たちにおずおずと質問をした。


「セイジさんはどこに行ったんですかぁ?」


リイサはホーステイルの方を見ることなく質問に答えた。


「ああ。あんたたちいたのね。おそらく設置型転移魔法陣だと思うわ。痕跡が残っていたわ。旦那様を狙って発動させたようね」


リイサはホーステイルに砕け散った魔石を見せてくれた。


「え!?転移。ということはぁ・・・」


「そう。旦那様はどこかに飛ばされたわ」


リイサはふところから何かの魔道具を取り出し行動を起こそうとしている。


「あのぉ、私たちホーステイルも探しますぅ」


「勝手にしなさい」


「勝手にするっす」


ホーステイルは二人と別れ急いでアーシェの元に向かった


「セイジさんが消えたっす」

「さらわれたかもしれないですぅ」


「なによいきなり。落ち着きなさい。イレーナ、ウェンディー」


「落ち着いてなんかいられないっす」「・・・っす・・・」


「アーシェ。何か知らないですかぁ?」


「それだけじゃ何もわからないわ。何か情報はないの?」


「転移魔法陣っす。狸がそういったっす」

「セイジさんの足元に転移魔法陣が展開されて、どこかに飛ばされましたぁ」


「そう。他には?」


「・・・」」」」


「何が目的なのかしらね。お兄さん自身?魔剣?白い玉?ほかに何かあるかしら」


ホーステイルのメンバーも考えるが他には思いつかない。


「なんでしょうかぁ」「魔剣だろ」

「わからないっす」「・・・っす・・・」


「目的が分からないと誘拐犯を絞りようがないわね」


「アーシェはセイジさんが心配じゃないっすか。なんでそんなに冷静なんすか」


イレーナがアーシェに詰め寄るが、仲間が押しとどめた。


「心配している。そんな質問して問題の解決になるのかしら」


「わかってるっす」


「はあ。私も何か出来ないか手段を考えるし、情報収集もするからあなたたちもできることをしなさい」


「言われなくてもやるっすよ」「・・・っす・・・」


ホーステイルはアーシェの元から立ち去り、ひとまずセイジが消えた場所に戻った。


一人残されたアーシェはため息をつきながら独り言をつぶやいた。


「やれやれ。それにしても人一人誘拐するのにわざわざ転移魔法を使う組織か。かなり強大な力と財力を持ってそうね。だとしたら彼女たちにはかなり荷が重そうね。危険な目に合わないように関係ない場所で遊んでてもらいましょう」




姫の屋敷


姫はセイジが転移した瞬間に異変に気付いた。


「ぬ?あやつに付与した結界が消滅した?どういうことじゃ」


メイドが姫のいる部屋に入ってきた。


「姫様。リイサからの報告です。旦那様が何者かが設置した転移魔法陣でどこかに転移したそうです」


「なるほどの。狙いは?」


「依り代の魔剣かと。他に目立つものは持っておりません」


「ふむ。あやつの居場所はつかめたのかの?」


「それがなぜか自動追尾魔法が途切れてしまい、遠見の魔法で補足できない状況でございます」


「ふむ。設置型転移魔法陣ではそれほど遠くに転移できないのじゃが、王都内は広いか」


「はい。どういたしましょうか」


「ふむふむ」


姫は思考をめぐらす。


「ふむ。おそらくあやつはどこかの部屋に転移しておるの。それも魔力が存在できない部屋に」


「!?そんな部屋が!?」


「わしが付与した結界もメイドがあやつに付けた自動追尾も消滅したのじゃ。それしか考えられんのじゃ。絶縁か吸着か。あるいは空間がズレてる可能性もあるかのう」


「では、捜索は厳しいかと」


「そうじゃのう。あやつは今やただの異世界人に逆戻りじゃしのう。あやつはなにもできん。・・・。依り代の魔剣か。白蛇を連れてまいれ。バニラだったか」


「はい」


しばらくすると姫の部屋に白蛇のバニラがやってきた。


「お待たせしました」


姫の前に身長が2mはあろうかという長身の女性が現れた。


姫は思わずその女性を見上げた。


「なんじゃ!?でっかいのう。もう少し小さくできんのかのう」


「申し訳ございません。人化の魔法を思えたばかりでして、まだ調整が出来ておりません」


「そうか。まあよい。王都に行ってセイジを見つけてまいれ。時間はかかってもよい。おぬしに馴染みの依り代の魔剣とともに消えたそうじゃぞ。セイジをさらったやつらは食ってよいぞ」


バニラはセイジの名と事情を聴いて、感情を動かしそうになったがぐっとこらえた。


「はっ。おおせのままに」


白蛇のバニラは部屋を出て行った。


「さて、ゴーレムセイジの回収はどうなっておる」


「すでに向かわせております」


「ふむ。ゴーレムセイジは遠方かの」


「はい。エクリュベージ王国で活動中でございました」


「そうか。セイジとゴーレムセイジのつながりも切れとるじゃろうしのう。付与したばっかりじゃったのに。迷惑な奴らじゃ」


姫は椅子から立ち上がり、窓辺に歩いて行って外の景色を見ながら言った。


「あやつを見つけたらこの屋敷まで連れてくるように」


「承知いたしました」




セイジは王都内のとある建物内に転移してきた。


シュッ 


バギイイイイッ


「!?ぐあっ」


転移魔法陣によって魔力絶縁処置が施された部屋に転移したセイジだったが、その瞬間、姫様が付与した結界の消滅の衝撃に耐え切れずに気絶した。


その部屋の壁には、6角形の白く薄いタイルが綺麗に張り付けられていた。


すぐに、その部屋の扉が開かれ武装をした男たちが現れた。


「何でこいつ気絶してんだ?まあいい。魔剣と荷物をすべて回収しろ」

「はっ」


その男たちによって所持品を奪われたセイジは、地下の牢屋に移された。



しばらくして*****は目を覚ました。


僕は石の壁と鉄格子に囲まれた狭い牢屋にいた。


「ううっ。何が起こったんだ。ここはいったいどこだ。それにしても気持ちが悪い」


周囲を見渡すが何もなかった。


リュックも魔剣もなくなっていた。


白い玉もなくなっているよ。バニラに貰ったのに。


そういえば、アーシェに見せた時に空中に戻さずにリュックに入れたんだった。


それはひとまず置いといて、なんだか体がおかしい。


なんだこれは。


牢屋と思われる場所は汚物や悪臭でひどい状態だったが、そんなことが気にならないぐらい僕にまとわりつく空気が不快だった。


空気というより世界が不快と言ってもいいくらいだった。


(空気が気持ち悪い。ダンジョンに入った時の何十倍も強烈な感じがするよ)


カッカッカッカッ


こちらに向かって歩いてくる複数の足音が聞こえてきた。


薄暗い場所に複数の男たちがやって来た。


「ahuyaiay8ybpa8r7mlm」


男の一人が僕に向かって話しかけてきたが、何を言っているのかまったく分からなかった。


言葉がわからなくなっている?どういうことだ。姫様の結界でも翻訳できない言葉があるのだろうか。


「え?なんですって?」


僕が返事をすると男たちは少し驚いた顔をし、小声で何か話し合いを始めた。


いろいろと説明して欲しいんですけど。


僕、もしかして誘拐されちゃったのかな。


これはまずい状況なのかもしれない。


テレポートで逃げるか。


でも見えないとこには迂闊うかつに飛べないし、牢屋の外には人がいっぱいいる。


「kayr8urak@duah@dua」


さっきの男がまた何か言ってきた。


まだいたのですか。でも言葉がわからないので答えようがないのです。


どうしよう。男たちがいなくなったらテレポートするか。


すると男たちがどこかに行った。


(よしよし。早速牢屋の外にテレポートだ)


テレポートを発動しようとしたが、体の何かが削れた感覚がしただけで僕は気絶した。


ドサッ。


*****は牢屋の汚い地面に倒れこんだ。




セイジをさらったのは魔道具専門の盗賊団だった。


セイジは盗賊団の所有する建物の地下に監禁されていた。


しばらくして、盗賊団の一員が建物の外に出てきた。


その男はセイジのリュックを持っていた。


セイジから奪った白い玉などを鑑定に出すため、王都魔術師ギルドに向かっていた。


その男はリュックの中から白い玉を無造作に掴み、取り出した。


「けけけ。なんだろうなこれ。魔力があるらしいから結構なお宝かもな」


人が滅多に通らない薄暗い道をその男が進んでいると、目の前に白い壁が突如現れた。


「なんだあ?いつの間に壁が出来たんだ」


男が壁に触ろうとしたら上から恐ろしい声が響いてきた。


「それに汚い手で触るな」


男が上を見るとそれは巨大な女だった。


「ひっ。なんだてめえ。俺様になんのようだっ」


男は大声を出して威嚇したが、正直恐怖を覚えていた。


女の見た目が不気味すぎたのである。


その姿は長い白髪、白い鱗のような肌、真っ赤な眼、そして巨大。


鎧のようなものを身に着けているがそれも鱗のように見える。


こいつは何だ。人間なのか。獣人なのか。もしかして魔獣なのか。


「返しなさい。それはワタシがセイジ様にお渡ししたもの」


女の真っすぐな怒りが男に伝わった。


「ひっ。な、なにいってんだてめぇ。ぶっ殺してやる」


女が無手だったので男は勇気を振り絞って剣を振り回そうとした。


しかし、男の体は動かなかった。


「あれっ。体が動かねえ。何だ?お前なにをしたっ」


男が唯一動く頭を動かし目を下にやると、無数の白蛇が男の体を締め上げていた。


「んあんだこりゃー!?魔法か?拘束の魔法か。くそっ」


男が無数の白蛇を振りほどこうとするが体はまったく動かない。


「その白い玉をどこで手に入れましたか」


女の鋭い眼光が男の目を射抜く。


「ひっ。しらねえよ。ひろっ、拾ったんだよ。さっきあそこで」


女の視線が冷酷なものに変わった。


「そうですか。やりなさい」


「へ?ぎゃーーーっ」


男を拘束していた無数の城蛇が一斉に噛みついた。


「もう一度聞きます。白い玉をどこで手に入れたのです」


「ぎゃー。いてぇぇぇ。わかった。話す。話すからもうやめてくれぇ」


「話すのが先です」


男は号泣しながら建物の場所を吐いた。


次の瞬間、バニラは巨大な白蛇に一瞬で変化し男を飲み込んだ。


バニラは再び人化し、男に言われた建物の場所に向かう。


(セイジ様はこの建物に?とにかく全員食べてから考えましょう)


白蛇のバニラは建物にいた盗賊団全員を丸呑みにし、地下に向かったところで囚われている*****を発見した。


「ああ、セイジ様。なんとおいたわしいお姿に。安心してください。バニラが参りました」


バニラはセイジだった*****を大事に抱きかかえて建物を出ると、そこの狸と狐の獣人がいた。


「ご苦労様。そして久しぶり。会うのは霧の森のダンジョン以来ね。そうそう名乗ってなかったわね。リイサよ」


「はい。お久しぶりです。リイサ様。バニラと申します」


「旦那様を連れて姫様の屋敷まで帰るのよね。同行するわ。依り代の魔剣はあたしが持ちましょう」


リイサはバニラが回収していた魔剣を取り上げた。


「はい。ありがとうございます。ところでお隣の方はどなたですか?」


バニラが白狐獣人を見る。


「ひっ」


興奮状態の白蛇のバニラに上から直視され、狐獣人のフィオナが悲鳴を漏らした。


「この化け狐を姫様に紹介しようかと思って」


「そうですか」


バニラは興味なさそうに返事をして姫の屋敷に向かって走り出した。




目を覚ますと森の中だった。


あれ?体がだるい。でもこのだるさ、なんか懐かしい気がするな。


起き上がって目の前に視線を向けると全開の門が目に入った。


見たことがある木の門と生け垣があった。


「ここって姫様の屋敷跡地じゃないか」


周囲を見渡す。山奥にある広大な敷地。


「間違いない。スタート地点に戻っちゃったよ」


リュックの中を見るとおなじみの魔道具が揃っていた。


魔剣と白い玉もあった。


「それにしても一体僕の身に何が起こったんだか」


空気の不快さがなくなっている。空気がおいしい。


「ふう」


とりあえずグリーンウイロウに向かおう。


久しぶりだな。


僕が禁忌の森、いや聖なる森に一歩踏み出すと前回とは様相がまるで違った。


魔獣に襲われまくった。


初めてこの森を歩いた時は全くいなかったのに、どういうことなんですか。


僕はテレポートで全力で逃げた。


そのおかげであっという間にグリーンウイロウにたどり着くことが出来た。




その頃、姫の屋敷では、狸獣人のリイサに連れられた白狐獣人のフィオナが姫様と対面していた。


フィオナは足をがくがく振るわせながら恐怖に耐えていた。


「はわわわわわ」


「なんじゃ、おぬしは」

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