第66話 枯れ井戸の幽霊
僕たちは領都ジャスパーからおよそ2週間かけて王都に到着した。
約2か月ぶりの王都だろうか。
変わったことと言えばホーステイルのみんなの冒険者ランクが上がったことと、出発時より人が増えたことだ。
狸獣人のリイサと狐獣人のフィオナだ。
リイサとフィオナは宿屋に泊まるということでここにはいない。
結局、僕も狐の里に同行することになったので、休息や準備も含めて三日後に出発ということになった。
僕とホーステイルのメンバーは報告のため、いつもの場所にいるアーシェの元に向かった。
「白い玉見せて」
「第一声がそれなの?いいけど。ちょっとまって、降ろすから」
その間にホーステイルのメンバーがアーシェにうれしい報告をした。
「アーシェ。私たち第4級になれましたぁ」
「おめでとう。ようやく一人前ね。路上ギルドクラン設立に向けてもっと頑張ってちょうだい。期待しているわ」
「はい。もちろんですぅ」
「いずれ後輩もできるだろうし。新人育成もお願いね」
「はいですぅ」「まかせるっす」「ああ」「・・・へい・・・」
僕は上から降りてきた白い玉を手に取った。
「はい。どうぞ」
アーシェに白い玉を渡した。
「ふーん。これが白蛇の
アーシェは白い玉をなめるように見ていた。
「糞じゃないよ。卵を産む時に一緒に出てきたって言ってた」
「ふーん。結局何なのこれ?」
「わからない」
「そ」
アーシェが白い玉を返してくれたので、僕はとりあえずリュックに
「これで依頼完了という事でいいのかな?」
「そうね。ホーステイルが第4級になったからね」
「提案なんだけど、僕が抜けることになるから、ホーステイルのメンバーをもう一人くらい増やしてみたらどうかな」
「そうね。バランス変わるわね。まあ、考えておくわ」
「ありがとう。はい、寄付金です」
「感謝します」
次の日、僕は王都でのんびり過ごしていた。
もう僕はパーティーメンバーではなくなっている。
一人に逆戻りだ。
ホーステイルは、4人でおなじみの森に薬草採取に行っている。
彼女らはもう十分冒険者としてやっていけるだろう
無理さえしなければ。
彼女たちならそんなことはしないはずだ。
僕が指導したのだから。一緒にいただけだけど。
自画自賛したい時もある。
そんなことを想いながら、僕はいつものようにアーシェの所に向かった。
「貴族や豪商からの誘いを断っているらしいわね」
「いきなりだね。いろいろやることがあってね。それに僕はこの国にいつまでいられるのか分からないんだ」
「ああ、狐の子か」
「相変わらず耳がはやいね」
「貴族が怖くないの?」
「貴族がどういうものか知らないんだよ。面倒くさいということしか知らない」
「大体あってるわ」
「あってるんだ」
「でも見返りは大きいと思うわよ」
「そんなものはいらないよ。心穏やかに生きたい」
「なるほど。それもいいわね」
「でしょ」
「でも。それって人付き合いをさぼってるだけじゃないの?」
「・・・そうなるのかな?うーん。そうかもしれないけど・・・。そうだなあ、うーん。でもなあ」
「ふふ。まだ若いんだからこれから勉強していけばいいのよ」
「君のほうがはるかに若いとおもうけど」
「人付き合いがうまくないと生きていけなかったから」
「・・・重いな。わかったよ。最低限の会話ぐらいできるように努力するよ」
「そう。貴族になったら連絡頂戴ね」
「僕が貴族になるわけないと思うんだけど」
「貴族とかかわるんだから下級貴族になるかもしれないでしょ」
「貴族とはかかわりませんよ」
「そうなの?頑固ね。でも旅では大活躍だったみたいじゃない」
「そうでもないと思うけど。それに僕だけじゃないよ。彼女たちも頑張ってたさ」
「知ってる。そういえば感謝を伝えてなかったね。ありがとう。あの子たちにいろいろ教えてくれて」
「どういたしまして」
するとホーステイルが薬草採取から帰ってきた。
「あー。セイジさんがまたア-シェの所にいるっす。口説いてるっすか」
「口説くわけないでしょ」
「ふふ。振られちゃった」
「いやいや。初めて会ったときに僕が振られてるから」
「そういえばそうだったね」
アーシェと別れ、僕はホーステイルのメンバーと家に向かっている。
ホーステイルが第4級になったのでもう一緒に住む必要はないのだが、それ以前に一緒に住む必要はないのだが、彼女たちはまだ僕の家に住んでいる。
ずっと住むつもりなのだろうか。
それはそうと、夕方の王都をこうやってホーステイルと歩くこともなくなるんだろうな。
すると、家に着く前に犬獣人のイレーナが何やら言ってきた。
「セイジさん。ちょっと来てほしい所があるっす」
「うん。どこ?」
「王都の外れの廃墟っす」
ホーステイルに連れられて王都の西の端まで歩いて行く。
王都を囲む城壁が見えてきた。
「ここっす」
案内された場所は、廃墟の屋敷だった。
その屋敷は壁や屋根がボロボロに朽ち果てていた。
広い庭はがれきが散乱し草が生え放題で荒れ果てていた。
屋敷を囲う塀もあちこち崩れていて今にも崩壊しそうだった。
僕たちは壊れた塀の隙間から敷地内に入っていく。
「ここ誰も住んでないんだよね」
屋敷は不気味な雰囲気を
(幽霊が出そうだな)
「ここは以前私たちが住んでたっす」
「私たちが小さいころに見つけたんですが、すでに廃墟でしたぁ」
「そうなんだ。ああ、後輩に
「そうっす。その後輩たちから相談されたっす」
「へえ。何を?」
「ゴースト退治っす」
「ゴースト!?」
「はいっす。夜な夜な井戸から現れるみたいっす」
「井戸から?」(どこぞの幽霊みたいだな)
ホーステイルのメンバーは屋敷の裏手に向かった。僕も後からついて行く。
「あれっす」
イレーナの指さす先に、ボロッボロの井戸があった。
「あれか。使われてないようだけど枯れてるのかな」
「私たちが住み始めた時はすでに枯れてたっす。昔はつるべ
「ふーん。そうなんだ。その頃はゴーストいなかったの?」
「わかんないっす。夜は寝てたっす」
「なるほど」
僕は小石を拾って井戸の中に投げ入れてみた。
ヒューーーー・・・・
音がしない。底に着いた音もしない。相当深いのかな。
空を見てみると暗闇がすぐそこまで迫っていた。
「もうちょっとで日が暮れるし待ってみようか」
「はい」」」」
「そういえばここに住んでる子たちは?」
「ゴーストが怖いから一時的に別の場所に行ってるっす」
「なるほどね。じゃあ早めに解決しないとね」
「お願いするっす」
僕たちは井戸から少し離れ、地面に座って日が暮れるのを待つことにした。
木に寄りかかりながら目をつぶり、女神のルナに言われたことを思い出す。
(東かあ。遠すぎるよなあ。目的地は地図の中央なんだけど、ここは西の端だからとんでもない距離なんだよ。迷うことなくいけるんだけど何日かかることやら)
などと、今後のことについて考えているとアナウサギ獣人のヒナがやってきた。
「どうしたの?」
「・・・へい・・・気配を完全に消してたと思ったのに・・・気付かれた・・・さすがししょー・・・まだまだです・・・」
「気配のことはよくわかんないけど、真横に来たらさすがに気付くよ」
(精神反応があったから気付いたけど、びっくりするから気配を消さないでほしい)
すると、ウェンディーもやってきてヒナに寄り添って座った。
「セイジさん、何だか浮かない顔ですねぇ。ゴースト以外に気になることがあるんですぅ?」
「ばれちゃったか。顔に出やすいのかな。今後のことを考えててね」
「どこかに行くですかぁ?」
「うーん。悩んでる。女神のルナさんに雑な助言をもらってね」
「そうですかぁ。できれば王都に残って欲しいですぅ。まだ色々と教えてほしいですぅ」
ヒナも僕の顔をじっと見ている。
「すぐにどっかに行ったりしないよ」
「安心しましたぁ」「・・・へい・・・」
その後、ホーステイルのメンバーのとりとめのない話を聞きながら時間が過ぎるのを待った。
日暮れが近づく。
すると周囲の温度が一瞬で低下したような感覚の襲われた。
「!?」」」」」
全員が一斉に立ち上がった。
「来たっす」「不浄な魔力が現れましたぁ」「・・・!?・・・」「ひっ」
「うん。何かいるね」
熊獣人エイミーの可愛らしい悲鳴が聞こえた気がしたけど、それどころじゃない。
井戸の中から女性の幽霊が現れた。
「うらめしや~」
「え」
(うらめしや~って言った?翻訳の関係でそう聞こえるのかもしれないけど)
「ゴーストっす!何か叫んでるっす」
「ひっ。魔法かもっ」
「危険ですぅ。普通の武器では対処できません。みんなさがって。私とセイジさんの魔法で対処しますぅ」
ホーステイルのメンバーがあたふたしている。
「みんな落ち着いて」
「はいぃ。すいません。セイジさん、今ゴーストが何かしゃべりましたかぁ!?」
まだ落ち着いてないようだけど、ようやくホーステイルは警戒態勢に入った。
するとなぜか幽霊の方も慌てているようだった。
「ここはどこですか~!?知らない井戸です~」
あれがゴーストなのか。邪悪な感じはしないな。意思疎通できそうだし。
「君も落ち着いて。ここはアルケド国の王都アティスだよ」
「あるけど王国~?王都あてぃす~?知りません~」
「かなり昔にお亡くなりになったのかな。君は誰ですか?説明してくれると助かるんだけど」
「さすがセイジさん。ゴーストにも全く動じていないですぅ」
異世界で「うらめしや~」って言われたら逆に落ち着くよ。
君たちには言えないことだけど。
「あ~、ここにいては目的が果たせませ~ん」
「目的?恨みを晴らすとか?」
すると幽霊さんが僕の腰にあるものに目を付けた。
「おや。貴方のその剣なかなかの
一方的にしゃべっていた幽霊は、井戸から、す~っと移動し魔剣に取り憑いた。
「よろしくお願いします~」
魔剣から声が聞こえてきた。
「あっ!?なんでそうなるの。出て行ってくれるかな」
「セイジさん。落ち着いてくださいぃ」
「落ち着いていられないよ」
僕は魔剣をぶんぶん振り回したが出てこなかった。
「もう完全に取り憑いちゃったのか」
「はいぃ。おそらくぅ。ハクア様に除霊して貰いますぅ?」
「やめてください~。私はあなた方に危害を加えたりしませんから~。今までも誰も襲ってませんよ~」
幽霊さんが魔剣から顔だけ出して懇願してきた。
「そうですねぇ。どうしますかぁ。セイジさん」
「取り合えず話でも聞こうか」
僕はいろいろあきらめて井戸のそばで幽霊さんの話を聞くことにした。
暗くなったので発火で明かりを灯す。
「私はレオナと申します~。村娘でした~」
「僕は冒険者をしているせいじです。彼女たちも同じです」
「ぼうけんしゃ~?」
幽霊のレオナさんに冒険者について簡単に説明した。
「そうですか~。せいじ様は冒険者という職についておられるのですね~」
「うん」
「では冒険者であるせいじ様に依頼をしたいと思います~」
「依頼?」
「私を私の知る井戸まで連れて行ってください~。報酬は見つけてくださったときにお支払いいたします~」
(これは無理難題過ぎませんか・・・とりあえず詳しく聞いてみよう)
「・・・どこにある井戸ですか?」
「私の育った村です~。村の名前は思い出せませ~ん」
「なにか場所の手掛かりは?」
「村から出たことないんでわかりませ~ん」
「・・・どうやって探せばいいんだ」
「せいじ様は冒険者ですからいろんな場所へ行くのでしょう~?私も常に同行するのですから、ちょこっと井戸を探してくれればいいのです~。私の井戸ならすぐわかります~近づいたら雰囲気で分かります~。雰囲気で~」
「・・・見つかるかどうかわかんないよ?」
「かまいませ~ん。誰も来ない井戸にいるより、この剣とともに旅をしたいです~。気長に待ちますよ~。死んでますから~」
「井戸が見つかるより先に僕が死んでそうですけど・・・わかりました」
「ありがとうございます~。なんだか、せいじ様は
「そうなの?それで目的って何か聞いてもいい?」
「はい~。私が幽霊になった原因を取り除くことです~。新たな犠牲者を出さないために~」
「犠牲者・・・やっぱり誰かに殺されたのか。魔獣?それとも人?」
「いえ~。事故死です~」
「え?事故?」
「はい~。井戸の近くにあった石につまづいてそのまま井戸の中に~」
「・・・」
「あの石を取り除かないことには死んでも死に切れませ~ん。おかげで幽霊になれました~」
「・・・そうだね。危ないよねその石」
「はい~。では私の目的を果たすまでよろしくお願いしますね~」
「うん。よろしく・・・」
「そうそう。お礼と言っては何ですが~熊さんの持っている剣の悪いものを吸い取ってあげましょう~」
「熊さん?ああ、エイミーの魔剣か。確かに嫌な感じがするね。エイミーどうする?悪いものを吸い取ってくれるんだって」
エイミーは持っていた大剣を握りしめ、スッと僕に向かって大剣を差し出した。
「頼む。この魔剣は持ってるだけで恐ろしいんだ」
「そう。それで幽霊のレオナさん、どうすればいいの?」
「せいじさんの魔剣を熊さんの魔剣の近くに持っていってください~」
「わかった」
僕はエイミーが差し出している魔剣に僕の魔剣を近づけた。
すると僕の魔剣からニュッっと幽霊のレオナの手だけが出て来てエイミーの魔剣を掴んだ。
「はい~。これで終わりました~」
「そうなんだ。ずいぶんあっさりだね」
「食事みたいなものですよ~。何でも吸っちゃいますよ~」
「なるほどね」(よくわからないけど)
「どうエイミー。何か変わった?」
エイミーは魔剣を振って感触を確かめていた。
「確かに嫌な感じがなくなったような気がする」
「それはよかった」
僕はこれから幽霊と一緒に行動することになるのか。どうなることやら。
「みんな、用事は済んだし日が暮れたし早く帰ろうか」
僕とホーステイルは家に帰ることにした。
家に向かってみんなが歩みを進める中、ヒナだけ足が止まった。
「・・・?・・・」
何か気になることがあったのか、ヒナが井戸に小石を落とした。
ひゅーーーーーーーーーーっぴちゃん。
小石が水面に落ちた音がした。
「おーい。いくよーヒナ」
「・・・へい・・・」
セイジを先頭にセイジの家の近くまでたどり着いた時、地面に異変が起こった。
セイジの足元に魔法陣が展開されたのだ。
「!?」」」」」
「セイジさん!そこから離れ・・・」
ウェンディーの悲鳴のような声が途中まで発せられた瞬間。
ヒュッ
セイジの姿が一瞬でかき消えた。
「セイジさんっ!!」」「おいっ!」「ししょー!?」
ホーステイルのメンバーの悲鳴が王都の夜空にこだました。
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