第65話 狸の里

僕とホーステイルのメンバーは屋台で食事を済ませ、再びジャスパー冒険者ギルドに向かっていた。


すると冒険者ギルドの前に獣人の子供たちが集まっていた。


僕たちが子供たちの横を通って冒険者ギルドに入ろうとしたとき、その子供たちに話しかけられた。


「お姉ちゃんたち冒険者なの?」


獣人の子供たちは悲壮感を漂わせていた。


「そうですよぉ。どうしたんですかぁ?」


ウェンディーが優しく対応した。


「狐のお姉ちゃんが戻って来ないんだ」


その子供たちは狸獣人で、領都近くにある狸の里から親たちと一緒に来ているそうだ。


僕たちは冒険者ギルドの料理屋で、子供たちから詳しく話を聞くことになった。


僕たちはそれぞれ飲み物を注文し、子供達にはお菓子を買ってあげた。


「それでどうしたの?狐のお姉ちゃんは何で戻ってこないの?」


狸獣人の子供たちは、お菓子をバクバク食べながらこれまでの経緯を話してくれた。


狸獣人の子供たちの話によると、狸の里の祭器が盗賊団に盗まれたので、狸の里が冒険者ギルドに祭器奪還の依頼を出したそうだ。


その依頼を受けた冒険者の中に狐獣人の冒険者のお姉さんがいたという。


狐のお姉ちゃんが情報収集のため狸の里を訪れた時、狸獣人の子供たちと仲良くなったそうだ。


その狐のお姉さんが「盗賊団のアジトを見つけたので今から行ってくる」と言ったっきり、ずっと戻ってきていないらしい。


「冒険者の狐のお姉ちゃんを探してください」

「ずっと帰ってこないの」

「きっと悪い奴らにつかまったんだ」


僕は席を立ち掲示板に向かいその依頼書を確認した。


確かに狸の里から依頼が出ていた。


ホーステイルは狐のお姉ちゃんを探す気満々のようだ。


結局僕とホーステイルがその依頼を受けて、狐のお姉ちゃんも探すと子供たちに伝えた。


「ありがとう。ホーステイルのお姉ちゃん」」」



僕とホーステイルは、領都ジャスパーから少し離れた山のふもとにある狸の里に向かった。


狸獣人の子供たちは領都ジャスパーに来ていた親たちのもとに帰っていった。


後日、親とともに狸の里に戻るそうだ。


狸の里は、領都ジャスパーから北西に二日行ったところにある。


僕たちは村々を通過しながら狸の里の近くの森まで来ていた。


森の中を進んでいると犬獣人のイレーナが何かに気付いた。


「血の匂いがするっす」


「え。イレーナ、慎重にそこまで案内して」


「はいっす。こっちっす」


イレーナは道をれ森の中に足を踏み入れた。


イレーナを先頭に僕とホーステイルのメンバーが森の中を草をかき分け進んでいく。


「近いっす。あ、あそこに白狐が倒れているっす」


見ると、綺麗な池のそばに白い狐が血だらけで倒れていた。


「行こう」


僕たちは白狐の元に駆け寄った。


僕はすぐさま白狐にポーションをぶっかけた。


ホーステイルのみんなは周囲の警戒に入っていた。


白狐の傷はふさがったと思うが全く反応がない。


息はかすかにあるようだ。


「何だこれ」


白狐の首に禍々まがまがしい首輪がつけられていた。


(魔道具かな?でもなんだか息苦しそうだから外しておこう。外すだけなら怒られないよね)


僕はテレポートで首輪を外し、そばに跳ばした。


バキッ。首輪が粉々に砕け散った。


「あ。壊れちゃった」


「あー。セイジさんが首輪を壊したっす」


イレーナに見られていた。


「う、うん。こわれちゃったね。持ち主に弁償しないと。首輪してたんだからだれかのペットかもね。いや従魔かも」


そのとき、抱きかかえていた白狐のかすかな記憶が僕に流れ込んできた。


「ウェンディー。この子ちょっと預かってて」


「はいですぅ」


僕はウェンディーに白狐を預け、そばにあった綺麗な池に入っていった。


「どうしたっすか。風呂っすか?」


僕は池の中を探しながら返事を返す。


「温かいけど違うよ。お、あったあった」


僕は池の中に沈んでいた狸の銅像を見つけた。


「それって、狸の里の祭器ですかねぇ」

「そうっすよ。セイジさん依頼達成っす」


僕は池からあがり、濡れた体を簡単に拭いた。


「かもしれないね。狸の里に急ごう。狐獣人の女性の情報も集めないとね」


そのとき、二人から警告が発せられた。


「誰か来るっす」「・・・来るっ・・・」


少しして僕たちの前に革の装備を身にまとった狸獣人たちが現れ、すぐさま僕たちを取り囲んだ。


狸獣人は僕が持っている狸の銅像を見て激怒した。


「盗人めっ。おとなしく連行されろっ。さもないとひどい目にあうぞっ」


「いや、僕が盗んだんじゃなくて、そこの池で今見つけたんです」


僕はそばにある綺麗な池を指さした。


「うるさいっ。言い訳はあとで聞く。両手を後ろに回せ」


こちらの話を全く聞かず、取り付く島もない。


ウェンディーが小声で話しかけてきた。


「セイジさん。どうしましょう」

「やるっすか」「やるか」「・・・ヤル・・・」


「いやいや、ちょっとみんな落ち着いて。話せばわかると思うから、ここはおとなしくしておこう」


僕が盗んだと勘違いされ、僕とホーステイルは手首を縛られ、狸の里まで連行された。


その後、取り調べをすることもなく僕とホーステイルは別々の牢屋に入れられた。


そこに白狐の姿はなかった。


狸獣人たちが来る前にウェンディーがうまく隠していたらしい。


高貴な雰囲気を持つ白狐だったな。飼い主の元に無事に帰ってくれてたらいいけど。


僕はそのまま牢屋で朝を迎えた。



姫の屋敷


「姫様。リイサが里帰りの許可を求めております」


「それは構わんが、どうしたのじゃ」


「旦那様が狸の里から盗まれた祭器を取り戻したのですが、なぜか狸獣人どもに冤罪えんざいで掴まっております」


「ふーん。あやつなら一人で何とかするじゃろうが・・・。そういえばリイサはどこにおるのじゃ?」


「姫様の指示通りゴーレムセイジと別れたあとジャスパー領で待機しておりました」


「そうか。偶然近くにおったのか。ではリイサを狸の里に向かわせるのじゃ」


「ハイタヌキとして里におもむき、旦那様を解放させると?」


「いや、いいのじゃ。リイサをあやつに合わせるだけでよい」


「旦那様の付き人に?それとも監視でございますか?」


「狸の里の祭器をあやつが取り戻したのじゃ。狸獣人の頂点であるハイタヌキが礼を言うのは当然じゃろ」


「承知しました。そのようにリイサに申し伝えます」




狸獣人のリイサが狸の里を訪れた。


早速、長老宅に案内されリイサは上座に通された。


「巫女様。里に戻って頂き我々をお導きください」


長老がリイサに懇願こんがんする。


「里の祭器を盗まれるという大失態を犯したと聞きましたが。それに里の問題はあなたたちで解決しなさい」


「そんな。祭器を盗まれたことは謝罪いたします。しかしながら、すでに我らの手で犯人を捕らえ祭器を取り戻してございます」


「愚か者。その御方は犯人ではない」


「そんなはずは」


「フィオナ。入ってきて」


隣の部屋に控えていた白狐獣人のフィオナが入ってきた。


長老は入ってきた女性を見て目を見開いた。


「あなた様は、里の祭器を探すの手伝っていただいていた冒険者のフィオナ様ではありませんか。行方ゆくえ知れずと聞いておりましたがご無事だったのですね」


「はい・・・そうなんです」


なぜか白狐獣人のフィオナは落ち込んでいる。


「そのフィオナが盗賊団のアジトから里の祭器を取り戻したのだ」


「なんと。ではフィオナ様からあやつらが奪ったのですな」


「違う。祭器を奪われたのが盗賊団にあっさりバレて追いかけられた挙句、大怪我を負わされたのだ」


「面目ないのですよ」


白狐獣人は顔を伏せた。


「大怪我を負って動けなくなったフィオナを助けたのが、今、里の牢屋に入れられている御方だ」


「そうでしたか。それは申し訳ないことをしました」


「直ちに開放せよ」


「ははっ。仰せのままに」




僕とホーステイルは、白狐獣人の冒険者フィオナの証言のおかげで無事疑いが晴れ解放された。


僕とホーステイルは狸の里を後にし領都ジャスパーに向かっている。


そこになぜかリイサがいた。


僕たちが牢屋を出された後、長老宅に案内された時にリイサがいた。


そこでリイサに狸の里の代表として、祭器を取り戻してくれたお礼を言われた。


(リイサさんは狸獣人には見えないけど何者なんだろうか)


リイサは狸耳と尻尾を消している。


「旦那様。改めましてリイサと申します。姫様の命によりしばらく同行いたします」


「旦那様って何!?それも気になるけど、リイサさんは姫様の関係者だったんですね」


「はい。全力で旦那様にお仕えいたします」


これ断れないやつですか?


「はい。よろしくね。旦那様って言わなくていいからね」


返事の代わりにリイサさんは笑顔をくれた。


「セイジさん。姫様って誰っすか?」


「前に話した僕に魔法を教えてくれた人だよ」


「ああ。なるほどっす」



しばらく歩いていると僕たちのまえに、真っ白な髪の毛の白狐獣人が現れた。


「何しに来たの。化け狐」


(リイサさん、言葉遣いが悪いですよ)


「あんたこそ何で戻って来てるのよ。化け狸」


(あなたもですか。リイサさんはやっぱり狸の獣人だったのですね)


狸さんと狐さんは顔見知りのようだ。


「私は姫様から旦那様の付き人に任命されたのです」


白狐獣人の女性が僕の方をじっと見ていた。


何ですか?


「姫様って誰よ。私はその御方に命を救われたのですよ」


え?


僕がきょとんとしているとイレーナが教えてくれた。


「白狐っすよ。獣化できるみたいっす」


「あの白狐は君だったのか。傷はもう大丈夫ですか?」


白狐獣人の女性が僕の手をがっしり握る。


「はい、大丈夫ですよ。あの時は助けていただきありがとうございました。私はフィオナという名前ですよ」


「僕はせいじです。イレーナが君を見つけてくれたんだ。回復してよかった」


「イレーナさん。助かったのですよ」


「私は見つけただけっす。セイジさんのポーションのおかげっす」


フィオナさんはその間ずっと僕の手を掴んでいた。


狸獣人のリイサさんが僕と白狐獣人のフィオナさんの間に強引に割って入った。


「お礼が済んだらとっとと帰りなさい」


「なんでよ。あなたに言われる筋合いはないのですよ」


「まあまあ。とにかく領都まで戻りましょう」




7人組となった僕たちは来た道をそのまま戻っていた。


するとリイサさんから質問があった。


「ところで旦那様は魔石を食べるんですか?」


「魔石?食べないよ」


「ですよね。安心しました」


どんな質問ですか。


「ところで何で旦那さまって呼ぶの?」


「気にしないでください。勝手に呼んでるだけですので」


「名前で呼んでくれていいよ」


「それはできません」


きっぱり否定された。仕方ない。


「そういえば姫様に指示されたっていってたけど、何のためについてくるの?」


「いえ。狸の里が旦那様にご迷惑をかけたんで謝罪に来たのが本来の目的です。付いて行くのは指示されていません」


「そうなんだ。だったら拒否権は「ございません」わかりました」


「安心してください。基本的に何もしませんから。好きに行動してください」


「そうさせてもらうよ。他人に気を遣うのは苦手なんだ。自分のことは自分でするってことで」


「はい。それでですね。食事は用意していただくとありがたいです。お金を持たされていませんので」


ん?


「あと寝床の提供もお願いします。これでも乙女ですので」


「え。あ、うん。わかりました」


「さすが旦那様ですわ」


後ろを振り返ってみると白狐獣人のフィオナが何食わぬ顔でついてきている。


「ところでフィオナさんもついてきてるけど」


「無視してください。我々とは関係ないんで」


「ちょっと化け狸。あんたが決めないでよ。私の意志で付いて行くのですよ。恩を返すのですよ」


「わかりました。フィオナさんも同行するということで」


「はい!よろしくお願いします。私はいろいろお手伝いするのですよ」


「ありがとう。無理しないでね」


「はい!」


「ところでフィオナさん」


「はい!」


「何で大怪我してたの?」


「実は盗賊団のアジトに潜入してたんですけど、罠に引っかかっちゃって。白狐の状態で油揚げをくわえた瞬間、魔道具の首輪がはまっちゃいました。てへへ。まあ、祭器を見事回収し余裕で逃げ切ってやりましたけどね」


「あんた瀕死ひんしだったんでしょ。食い意地張り過ぎなのよ」


「うるさいのですよ。化け狸」


「盗賊団か。危険な場所に潜入してたんだね」


「そうなんですよ。野蛮な奴らですよ」


「あの首輪は何だったの?」


「魔法を使えなくさせるものですよ。そのおかげで人型に戻れませんでした。その後見つかってしまって追いかけまわされましてね。剣でぶったたかれるわ、魔法を打たれるわで大変でしたのですよ」


「大変な目に遭ったんだね」


「そうなんですよ。セイジ様のおかげで一命をとりとめたのですよ」


「それより。化け狐」


「なによ。化け狸」


「あんたを襲った盗賊団はその後どうなったの?」


「知らないのですよ。アジトにいるんじゃない?」


「そう。だったら潰しに行きましょう。いいですか旦那様」


「いいけど、その盗賊団ってどんな集団なの?」


「魔道具を専門に狙ってる盗賊団ですよ。昔、私たちの里にも現れたんですが、その時は偶然居合わせた冒険者と一緒に返り討ちにしたんですよ」


「へえ、魔道具専門ねえ」


「かなり大きい組織らしく、あちこちで荒らしまわってるんですよ。本当は速攻終わらせて里帰りするつもりだったのですよ。もうすぐ鬼人が出没する時期ですので、すぐ帰れと連絡があったのですよ。狐の里は鬼人の国の近くにあるのですよ」


「へえ。鬼人かあ」


「あなたじゃ鬼人を倒せないわ」


「倒せますよ。私の能力があれば」


「だからそれじゃ無理だって」


白狐獣人の冒険者フィオナの案内で盗賊団のアジトに向かったが、すでにそこはもぬけの殻だった。


するとフィオナさんが真剣な表情で僕に頼みごとをしてきた。


「セイジさん。出会ったばかりでなんですが、狐の里に同行してもらえませんか?鬼人討伐依頼をしたいのですよ。必ず現れるわけではありませんが、私には頼れる人がいないのですよ」


「それは構わないけど、狐の里はどこにあるの?」


「一緒に行ってくださるんですか?」


「行くとしても王都に寄ってからでいいかな。連れのホーステイルのメンバーを無事に送り届けないといけないから」


「もちろんですよ。狐の里も同じ方向ですよ。二人でゆっくり狐の里に行くのですよ」


「何言ってんのよ化け狐。私も行くに決まってるでしょ」


ホーステイルのメンバーは僕たち3人の後ろで複雑な表情をしていた。


僕たちは予定を変え、領都ジャスパーに戻ることなく王都に帰還することにした。

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