第63話 用心棒
古代遺跡のダンジョンから領都マーキュリアスに帰っている途中、森の中の道で僕たちは突然襲われた。
「!?」」」」」」
狙われたのは一番後ろを歩いていた僕だった。
ガッ バキッ
重量を感じさせるその大剣は結界で一瞬だけ止まったが、あっけなく破壊されそのまま僕を目掛けて振り下ろされた。
ドッ
その剛剣は
僕は何とかテレポートでかわし、ホーステイルの近くに移動した。
森の中から現れたのは屈強な男だった。
「よくぞかわした。どうやって俺の剣を一瞬止めたかわからんが、その身のこなし、さすがだと言っておこう」
(盗賊か?一人だけど他は隠れているのか?)
「探したぞ」
その屈強な男は薄汚れた鎧を装備していた。
「セイジさん。全く存在を感じられなかったっす」「・・・っす・・・」
イレーナとヒナが
魔道具か何かで匂いや音を消しているのかな。それとも実力か。
「セイジさん。あの装備はおそらく元衛兵ですぅ。チェインメイル(
ウェンディーが教えてくれた。
男はチェインメイルの上にラメラーアーマー(小札鎧)を重ね着していた。
なるほど。手強そうだ。とりあえず質問してみよう。
「どなたですか?」
男は
「よくも盗賊団をつぶしてくれたな」
「盗賊団?どれですかね。いっぱい潰して来たんで分かりません」
僕は後ろを振り返らずホーステイルに伝えた。
「君たち距離をとって」
ホーステイルのメンバーが僕の後ろで一斉に下がりつつ、いつもの陣形を組んだ。
「峠にいた盗賊団だよ。忘れたとは言わせねえ」
「なるほど」
襲ってきた大男が大剣を構えた。
(グリーンウルフのドイルさんと同じような大剣だな)
僕は円盾を構える。
「ほう。盾だけか。変わってるな。腰の剣は使わないのか?」
「あなた次第ですね」
「そうか。だったらその剣、抜かせて見せよう」
男がじりじりと近づいてきた。だがすぐに襲いかかってきそうな雰囲気ではなかった。
会話してもいいのかな。最初は問答無用だったのに。
「もしかしてあなたが盗賊の頭だったんですか?」
「違う。お前らが倒した男が頭で正しい」
「あの男より格段に強そうですが」
「俺はただの用心棒だ。人には向き不向きがある。俺は頭に向いていない。俺は強者と戦いたいのだ」
「なるほど。僕は強くないですよ」
「そうは思わないな。妙な術を使うんだろ」
「よくご存じで。それで1対1をご所望ですか?」
男は僕の後ろで構えているホーステイルを
「貴様の仲間たちはよく鍛えられているな」
「それはどうも」
「参加してもらって結構。楽しめそうだ」
「とりあえず僕だけでやらせてもらいますね」
「かまわん。お前を倒した後、女たちをやるだけだっ」
用心棒が突如襲い掛かってきた。
男が動いた瞬間、僕は自分を操作して男の側面に無理やり移動し発火を打ち込んだ。
「ふんっ」
男は大剣で発火を
「なるほど。変わった動きをする」
(この人、どこで僕たちの情報を手にしたのだろうか。まあ盗賊の頭をホーステイルが倒したことは調べたらすぐわかるか)
「峠の休憩所にはいなかったようですが、いままでどこにいってたんですか?」
「女神が現れたと聞いて探したんだがな。一足遅かったようだ」
「ああ。女神ですか。勝てないと思いますよ?」
「貴様はあったことあるのか」
「はい。魔獣討伐依頼で。白の大地の魔獣を倒しに行った際に共に戦いました」
「ほう。貴様を標的に選んだことは間違いではなかったようだ」
男がにやりと
「第1級は他に何人もいますよ」
「大人数で群れている奴は後回しだ」
「そうなんですか」
「第3級だが楽しませてもらえそうだ」
「詳しいですね。いったいどうやって調べたんですか」
「
「なるほど。参考になります」
「では始めようか」
そういった男の顔つきが豹変し、男の
やばいですね。時間を掛けずに倒さないと確実に殺されそうだ。
男は動かない。
先手を譲ってくれるらしい。だったら。
僕は円盾を操作し男の顔の前に高速で移動させた。
ズバッ
円盾は一瞬で真っ二つにされた。
円盾で視界をふさいでいるうちに、テレポートで男の視界から消えるはずだったけどできなかった。
安物じゃダメだったか。
男は再び剣を構え動かない。
「剣を構えろ。魔剣なんだろ」
怒気を含んだ低い声が響く。
バレてる。見る人が見ればわかるんですね。あの時不在でよかった。
そういえば気になることがあるので聞いてみよう。
「あなたは、盗賊の頭が所属していた傭兵団がいた村の衛兵だったのですか?」
男はピクリと眉を動かした。
「ほう。よく知ってるな。そうだ。お頭がいた傭兵団は村を乗っ取って支配者になった。お頭は裏であくどいことをやってたから、直後に首になって盗賊になったがな」
「あなたは傭兵たちと戦わなかったのですか?村を守るのが衛兵の仕事でしょ」
「弱い奴としか戦えない衛兵の仕事にはうんざりしてたからな。お頭に誘われて盗賊の用心棒になったんだよ。強い奴を襲えるからな。貴様、お頭から聞きだしたのか?」
(記憶を読みました。と言っても信じてもらえないか)
僕が黙っていると答えないと判断したのか、男は「どうでもいいことだが」といって大剣を正面に構え気合を入れた。
すると、男の持っていた大剣が突如、
同時に男から強烈な殺気が放たれた。
「ひぃっ」」」」
後ろからホーステイルの悲鳴が聞こえてきた。
確かにすごいけど、あのメイドさんたちに比べたら全然だ。そのせいで鈍感になってるのかも。
「魔剣ですか?」
「そうだ。魔剣を持っているのはお前だけではない」
そうですね。
男の魔剣は僕の持っている魔剣とは真逆の魔力を感じた。魔力以外の何かも感じた。
「強者を襲っているとこういう拾い物もするんだよ」
男はどうでもいいがあの魔剣は放っておけない。
なぜかそう思った。
「・・・し、ししょー・・・」
アナウサギ獣人ヒナの声が震えている。
こんな事は魔狼以来か。
「おい。あいつやばいぞ」
「みんなで戦うべきですぅ」
「そうっす。魔剣からもやばい感じがするっす」
ホーステイルのメンバーが恐怖を感じている様だ。
「そんなにやばいの?確かに強そうだけど」
「あんたあいつの殺気感じないの?あいつはやばすぎる。いったい何人殺してきたんだか」
「あの人もはや人間じゃないですぅ」
「そうっす。やばいっす。やばいくらいやばいっす」
イレーナの
すると。
「ぶふぉぉ」
男が息を深く吐いた。
「どうしたかかってこんのか。女どもも一緒でいいぞ」
「1対1でやりますよ。今から行きますからビビらないでくださいね」
「そうか。期待しているぞ」
ホーステイルのみんなが落ち着くまで僕が時間を稼ぐしかないか。
僕は魔剣を鞘から抜いた。
透明な刀身から白い霧がにじみ出している。
「ほう。それが貴様の魔剣か」
僕はホーステイルに優しく話しかける。
「ホーステイル。最善の行動をとれ。状況を見誤るな。撤退も視野に入れろ」
ホーステイルのみんなの体が一瞬震えた。
「もう負けた時のことを考えているのか。がっかりだな」
「何言ってるんですか。僕は彼女らの教育係なんです。今も訓練中なんですよ。あらゆる事態を想定する。常識ですよ」
「なるほど。それは失礼した」
男が動く。
(来る!速いっ!)
男の魔剣が結界を難なく破壊し僕に迫る。
「くっ」
結界のおかげでわずかに剣速が落ち、すんでの所で何とかかわすことができた。
男が僕に正対する。
「ほう。何かに阻まれたとはいえ、かわすか。なかなかの反射速度だな」
正直かわせるとは思わなかった。
様々な超能力を付与してくれた姫様のおかげです。いや。姫様のせいでこうなったんだった。
すぐさま側面に高速移動し、強めに念動波をぶっ放すも男を少し揺らすだけで効果はいまいちのようだ。
「なんだ?お前もしかして魔法使ってんのか?それとも魔剣の能力か?」
僕は答えない。
うーん。念動波をそのままぶつけても無駄ということかな。
一点に集中させないとかしないと駄目か。訓練不足だな。
どうする。
男の大剣が振り回される。
相手の攻撃は結界で一瞬止まることで何とか回避できる。
「お前。動きが不気味だな。どうなってんだ」
「気にしないでください。独学なもんで」
素人なんです。
僕は自力ではなく自分を超能力で操作して、無理やり移動や回避をしていた。
おかげで体に重圧がかかってしんどいです。
真剣に筋トレやらないと体が持たないな。今はそんなこと考えてる場合ではなかった。
テレポートは最後まで温存したい。一番最初に見せちゃったけど。気付いてないよね。
何回も見せたら対策されちゃいそうだ。
魔剣を構える。というか持つ。
盾替わりにしよう。
「ようやく剣を構えたか」
ッガッ パリンッ
男が大剣を振るうたびに結界がいともたやすく破壊されるが、自分を操作しギリギリ回避する。
そして結界を張りなおす。
「相変わらず不思議な回避の仕方だな(予備動作もなくあり得ない移動の仕方をするな)」
超能力のおかげです。
今の僕の結界じゃ男の攻撃は一瞬しか防げないか。
貧弱な肉体を守るために結界能力の向上は必須だな。
「はっ」
離れた瞬間、僕は念動波を打ち込むが、やはり
不意に男の動きが止まった。
「いい殺気だ。だが君らに注意を向けるほどではない」
男の後方にいる彼女達から男に殺気が向けられていたようだ。
一瞬だけホーステイルを見ると、ウェンディーは魔法の準備が出来ており、その前でエイミーが盾を構えていた。イレーナとヒナも気合十分だ。
ありがとね。みんな。
終わらせないとな。生き残るために。
少し距離を詰める。
テレパシー結界を男が入るまで広げ、直観や危機察知を意識し、相手の動きを一瞬も見逃さないようにする。
すると男の記憶の一部が流れ込んできた。
いらないです。
精神感知だけにした。
「見えない攻撃に加え。見えない壁か。どう見ても魔法使いじゃなさそうなんだがな。あの男が倒されるわけだ。だが面白い。もっと俺に色々見せてみろよ」
盗賊の頭を倒したのは僕じゃないんです。
さらったのは僕だけど。そんなことはどうでもいいか。
それより両腕が痛い。
魔剣が重いから浮かせておこう。
「剣が浮いた?何なんだお前は」
すぐばれた。観察眼が鋭い。
「さすがですね。ばれましたか。もうそろそろ体力の限界が近そうなので終わりにできたらと思います」
「そうか。かかってこい。返り討ちにしてやる」
男の真上にテレポート。男の視界から一瞬で消える。
「!?消えた!?」
直後。
男の背後に気配が現れた。
「!?後ろだと!?」
男はすぐさま振り返りざまに大剣を振る。
ガッ
そこにあったのは僕の魔剣だった。僕の魔剣が吹っ飛んでいく。
「魔剣だけだと!?やつはどこへ行った」
そこへふたたび彼女たちの殺気が放たれる。
「
男は彼女たちの気配を探るが立ち位置に変化はない。
「どこにいるっ。剣を捨てるとはっ。お前の負けだっ」
僕は男の頭上から能力を発動した。(発火!!)
「上!?」
男の全身が炎に包まれる。
「ぐあああああああっ」
これで終わらせる。
魔剣を引き寄せながら男の背後にテレポートする。
男の背中に手を当て能力を発動。(念動波!!)
「ぐはっ」
からの。白い玉っ!
上空から白い玉が男に向かって豪速で降って来た。
上から高速で接近してくる魔力を感じ取った男は、体をひねってかわそうとしたが肩にぶつかった。
鈍い音がした。
「ぐうううううううううっ」
男はたまらずひざをついた。しかし。
「まだまだああっ」
男が
(発火。念動波。白い玉の三連発でも無理だったか。すごいなこの人)
僕が魔剣でさらなる攻撃を仕掛けようとしたとき、
グサッ ブシュッ
突然男の首から血が噴き出し、間をおいてヒナの姿が浮かびあがって来た。
男の首にヒナのダガーが突き刺さっていた。
(姿隠しか・・・)
背後から男の首を切ったヒナは、男の背を蹴り距離を取る。が。
「ぐぼっ。びぼぼばぶずべ(見事だ娘)」
男はその体勢のままに大剣を振るった。
「まだ動けるのかっ」
僕はヒナを操作し男の大剣の間合いから引き離しながら、魔剣を飛ばし男の魔剣にぶつけた。
ガキッ ブウンッ
男の体勢が悪かったのかダメージがひどかったのか分からないが剣速が遅かった。
しかも魔剣をぶつけたことで剣の軌道がずれ、ヒナには直撃せず空を切った。
「うあああっっす」
男の伸び切った腕を雄たけびを上げながら走ってきたイレーナがたたき折った。
「ぐううぅ・・・・」
とうとう男は地面に倒れ伏した。
「勝てたのか」
すると、ヒナがとことこと僕に近寄ってきた。
「・・・ヤリました・・・ししょー・・・ししょーの訓練のおかげです・・・」
満面の笑みである。
「お、おう。立派だね。さすが僕の一番弟子だ」
ヒナの頭をなでる。
「・・・へい・・・えへへ・・・ししょーに褒められた・・・」
「イレーナも勇気を出してよく頑張ったね」
「・・・はいっす」
イレーナは息を荒げ地面に座り込んでいた。
ホーステイルのみんなは集まってヒナとイレーナの健闘を
僕はその様子を眺めていた。
もう、ホーステイルのみんなは僕より強いんじゃないかな。いや、最初からか。
僕の仕事は完全に終わったようだ。
早く王都に帰ってアーシェにそう報告しよう。
男の魔剣が道に転がっていた。その魔剣からはもう
ポーションで体の疲れを取った僕たちは、疲れた心を引きずりながら領都マーキュリアスへ戻った。
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