第47話 下山

いよいよ日が暮れてあたりが暗くなった。


元蜘蛛の巣ダンジョン中心部のへりで、僕たちは野営の準備に入った。


みんなで枯れ木を集め、僕が発火で火をつけ焚火を起こした。


「セイジさんに頼り切りは良くないですぅ。私が火属性魔法を覚えるか、火を起こす魔道具を購入した方がいいですねぇ」


「そうだね。野営に必要なことだからあったほうがいいね。どんな魔道具があるの?」


「火属性の魔石か魔鉱石を使った魔道具ですぅ」


「なるほど。そんなものがあるんだね」


「はいぃ。どちらも王国の南部でよく取れるらしいですぅ」


「へえ。この辺では手に入りにくいんだ」


焚火を囲みながら晩ご飯を食べているときの話題は、やはり魔狼との戦いだった。


「そういえば、あの魔狼は討伐依頼が出てるやつだと思う」


「え。そうなんすか」


「うん。王都に来る途中に襲われたやつと一緒だと思うよ」


「セイジさんを追いかっけてきたですぅ?」


「それはわからないね」


「そうですよねぇ」


「セイジさん。戦闘の時どんなこと考えてたっすか?いろいろ教えてほしいっす」

「・・・っす・・・」


「え?そう?じゃあ、状況判断について話そうかな。そもそも戦闘が始まる前に現状を確認しておくべきだね。自分たちの体調とか他にも足場や地形とかもね。それから相手と直面してから、どうしようかと考えて攻撃に行くか行かないかを決めるのはやめた方がいいね。その状況になる前に決めておかないと。じゃないとすぐに体が反応しないよ。戦闘状況は常に変化していく。相手とこちら、どちらが有利なのか不利なのか。その都度確認だ。攻めたほうがいいのか、守ったほうがいいのか。次にとる行動が得なのか損なのか。とかね。考えるきっかけにしてみてね。あくまで参考程度にね」


「・・・へい・・・考えることがいっぱい・・・さすがししょー・・・」


「やっぱりよくわかんないっす。しかも話が長いっすね」


「そう?ごめんね」


(思わず話過ぎちゃったか。そもそもこの状況は姫様から貰った力のおかげだ。浮かれないようにしないと。僕の力じゃないときもめいじないとね)


「戦いの状況は、後ろにいる私が確認したほうがいいかもですぅ」


「みんながしたほうがいいんだろうけど、実際はそうなるかな」


熊獣人のエイミーも話に参加してきた。


「そうだね。ウェンディーだけに頼るのはやめたほうがいいね」


「わかってるっす」


「それと、ウェンディーは魔法の使いどころも重要になってくるね」


「はいですぅ」


「今後いろいろな魔法を覚えるだろうから、どの魔法が一番効果的なのか、その判断も必要になってくるね」


「はいですぅ」


「みんな、お互いの状況も確認するんだよ」


「はいですぅ」「ああ」「はいっす」「・・・へい・・・」


「そういえばセイジさん。白い玉はいつの間に上空に移動させたんですぅ?」


「そうっす。持ってなかったっすよね」


「ああ。あれは僕が王都に来る前から上空に浮かせてたんだ。久しぶりに手にしたよ」


「えっ!?」」」」


「今どこにあるっすか。リュックすっか?」


「もう空に浮かせてるよ」


みんなが夜空を見上げる。


「何も見えないっす」「・・・っす・・・」


「さすがに夜だからね」


僕も夜空を見上げた。久しぶりに見た夜空には、たくさんの星がまたたいていた。


「何で浮かせてるんですぅ?」


「訓練かな。それに貴重品かもしれないから。あそこなら安全でしょ」


「うーん。鳥の魔獣に持っていかれるかもしれないっすよ」


「ああ、その可能性もあるね。でもたぶん大丈夫でしょ。そんなことよりみんな汗かいたでしょ。僕、ポーション風呂入ろうと思うんだけど、みんなも入る?」


「・・・」」」

「私、入る必要あるか?」


エイミーがにらんできた。


「あ。そうだったね。すでに入ってたか。じゃあ一人で入るね」


「私たちから見えない場所で入れよ」


「わかった。じゃあ、せっかくだから穴の中で浴びるかな」


僕は依り代の神樹があった巨大な穴に入り、ポーション風呂を満喫まんきつした。


夜番は僕とイレーナ。そしてウェンディーとヒナとエイミーで組むことになった。


最初はウェンディー組だ。


僕とイレーナは焚火のそばで仮眠に入った。


真夜中に見張りを交代し、翌朝まで何事もなく時が過ぎた。


朝食を済ませ、依り代跡地周辺で薬草採取をすることにした。


ウェンディーは、杖にするための魔力の豊富な原木を探すことに集中してもらった。


薬草の採取の方は順調にいったが、原木の方は目ぼしいものは見つからなったようだ。


「では、そろそろ街に戻りましょう」


ウェンディーが提案した。


「いいの?納得のいく原木見つかってないようだけど」


「いいのですぅ。そこそこの原木を見つけたのでぇ」


ウェンディーは、切り落した長い原木の枝を胸の前で抱きかかえている。


「そう。じゃあ戻ろうか」


帰り道はほかの冒険者たちと遭遇してもいいということで、地図に載っている最短ルートを通って帰ることにした。


不思議と冒険者には出会わなかったのだが、街に戻ると冒険者ギルドが騒がしくなっていた。


採取した薬草を買い取って貰うためみんなで受付に向かうと、


「あら。あなたたちよく無事でしたね」


と、蜘蛛の巣ダンジョン出発前にいろいろ教えてくれた受付さんが、何やら心配してくれていた。


「何があったんですぅ?」


「討伐対象になっている魔狼レッドゴールドが、どこからか現れて蜘蛛の巣で暴れてるんですって。何人か冒険者が逃げ帰ってきたわ」


「ああ。それでしたら私たちが退治しましたですぅ」


「え!?」


エイミーが持っていた袋から魔狼の頭部を出して見せた。


「!?うそっ」


びっくりしている受付さんにウェンディーが話を続けた。


「そのとき魔狼が冒険者さんを咥えてまして、すでに亡くなっていたので依り代のあった場所の近くに埋葬しておきましたぁ。剣を立ててありますのですぐわかるかと思いますぅ。これがその方の冒険者ギルドカードですぅ」


ウェンディーが受付さんに手渡した。


「はい。ごくろうさまでした。すぐにギルド職員と地元の冒険者を現場に向かわせますね」


「魔狼の部位の買取できますぅ?ほかの部位は埋めてきましたぁ」


「はい。薬草の方はここで買い取りますね。魔狼の部位は、冒険者ギルドの隣にある解体所で、討伐対象かどうかの確認と部位の査定をしてもらってください」


薬草依頼の報酬を受け取り解体所に向かった。


解体所の人に魔狼の部位を見せる。


「赤金の眼。確かに魔狼レッドゴールドだな。それにしてもよく倒せたな」


「うちには第3級の冒険者がいるっすから」「・・・っす・・・」


イレーナとヒナは胸を張って答えていた。


(ちょっとイレーナとヒナ、自重して。最大の立役者はエイミーだし、最後はみんなで倒したでしょ)


「そうかい。そりゃすげえな。んで魔狼の部位だが頭部と爪は高く買い取り出来る。毛皮と原石も買い取るがどうする?装備に加工したりせんのか?」


「魔石は杖に使いたいと思っていますぅ」


「そうだな。最初にもつ杖としては立派すぎるが。魔石の属性鑑定はやっておくのだぞ」


「はいですぅ。それで毛皮の方はどの程度のものでしょうか」


「そうだな。若い魔狼のようだから基本的な強化魔法が付与されているな。魔力を流すことで毛の硬さが上昇する。その程度だが君らの厚手の布より遥かに頑丈だぞ」


「そうですかぁ。この街に毛皮の防具を作ってくれるお店はありますかぁ?なければ王都でさがしますぅ」


「そうだなあ。王都でいいんじゃないか。この街で数日過ごしてもいいが」


「そうですねぇ。王都で探してみますぅ。では頭部と爪を買い取ってください」


「おうよ」


買取を終えた僕とホーステイルのメンバーは、再び冒険者ギルドに向かい王都に向かう護衛依頼を探すことにした。


そこで荷馬車3台を3組のパーティーで護衛するという依頼を見つけ、早速受付で依頼を受けることを告げ依頼主と交渉となった。


出発は明日の早朝で、依頼主が3名いる合同の依頼だそうで、各パーティーが荷馬車を1台ずつ受け持つことになっている。


盗賊に襲われた場合は、それぞれの荷馬車を優先して護衛し、パーティーごとに戦っていいそうだ。


他の依頼主たちは、すでにパーティーを見つけているという。


護衛の条件確認が終わり、僕たちは護衛依頼を受けることになった。


冒険者ギルドを出て夕食を食べに料理屋に向かった。


蜘蛛の巣に行ったおかげで多少懐ふところが温かくなったので、お安いお店に入った。


ホーステイルのメンバーと料理屋に入るのは初めてだな。


黒パンとひき肉料理とチーズと、彼女たちの飲み物にエールを注文した。


みんな、年齢とかお構いなしにお酒飲むんだね。そんな法律ないみたいだからいいんだけども。


僕は持ち込みのポーションを飲みます。


食事をしながら雑談をしているとウェンディーから提案があった。


「魔狼の毛皮で作る防具はセイジさんが使ってくれませんか」


「何で?」


「ほとんどセイジさんの力で倒したものじゃないですかぁ」


「そんなことはないと思うよ。それにそもそも受け取れないよ」


「なんでっすか?」


「僕、魔力ないから。もったいないでしょ」


「あー。そうっすね。毛皮に魔力流して使うんすもんね」


「そうそう。君らで使いなよ」


「はい。そういうことなら、ありがたく使わさせていただきますぅ」


その後、宿屋に戻り就寝となった。


翌朝、僕たちは護衛依頼の集合場所である街に入り口に向かった。


一番早くに来たようで誰もいなかった。


集合時間は、日の出ごろ。なのでのんびり待つしかない。


それほど待つこともなく、3人の依頼主や一応護衛を共にする他のパーティーが続々集まってきた。


ウェンディーたちと依頼主やほかの冒険者パーティーにあいさつに行く。


他のパーティーは全員第4級だそうだ。


ランクは名乗るものなのかな。


他のパーティーの中に魔法使いらしき人はいなかった。


キングフィッシャーにもいなかったようだし、魔法使いは貴重なのかもしれない。


キングフィッシャーはたぶん人間種だけだったが、今回一緒に護衛をするパーティーには獣人も何人か混じっていた。


まあ、見た目でわからない獣人もいるから他にもいるかもしれないけど。


王都までの行程は、行きと同じで二つの村に立ち寄って王都までたどり着いた。


護衛の人数が多かったからか運が良かったのか、盗賊にも狼にも襲われることはなかった。


他のパーティーの中に女性が数名いたので、ウェンディーたちが仲良くなっていた。


先輩女性冒険者との交流でいろいろ教えてもらえたそうだ。


僕も交流したかった。



僕たちは一週間ぶりに王都に戻ってきた。


護衛一行は、王都冒険者ギルドで護衛依頼完了手続きを済ませ解散となった。


王都の門を通過したとき、アーシェにあとで来るようにと言われていたので、僕は来た道を引き返しアーシェに会いに戻った。


ホーステイルのメンバーはというと、毛皮職人ギルドを訪ね、魔狼の毛皮を加工できる職人を紹介してもらい、その職人の店に向かうことになっている。


その後、ウェンディーは杖の製作の相談をするため魔術師ギルドを訪れる予定だ。

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