第44話 ピーコックの街

森の中で僕とヒナは盗賊たちの後を追っている。


11人の盗賊と戦うのはちょっと無謀すぎるけど、先手を打ってできるだけ相手の動揺を誘いたい。


それでもきついかもしれないけど。


僕は盗賊の獣人を相手にしようと思う。多分一番手ごわいだろう。


僕も千里眼でその獣人の姿を見てみたが、頭にフードをかぶっていたのでケモミミが見えない。


(何獣人かわからないな。見えていてもわからないかもしれないけど)


盗賊たちが道脇の草むらに潜み臨戦態勢に入った。


盗賊たちが待ち構えている場所へゆっくり進んでいた荷馬車が、20mほど手前で止まった。


どうやらウェンディーたちは盗賊たちを迎え撃つようだ。


盗賊たちは荷馬車が止まったのを確認して、草むらから道へ一斉に飛び出していった。


「ちっ。気付きやがったか。お前ら行くぞっ。皆殺しだっ」


フードを被った盗賊の獣人が叫んだ。


僕たちも行動を起こさなければ。


「ヒナ。攻撃開始だ。自由に動いていいよ。自分なりに考えて行動して」


「・・・へい・・・」


盗賊の集団が怒声を上げながら荷馬車に襲い掛かる。


荷馬車の方はというと、ウェンディーたちが荷馬車の前に出て防御態勢に入っていた。


エイミーとイレーナがウェンディーの前で盾を構えている。


商人さんは打ち合わせ通り荷台に隠れた。


「人間と獣人の女だぞーっ。殺さず生け捕りだーっ。男は殺せーっ」

「おおーっ」」」」」」」」」」


指示を出しているのは盗賊の獣人だった。頭だったようだ。


すると。


「おおおぁああぁ」


エイミーの雄たけびが森に響き渡った。


(あれ?エイミー?)


見るとエイミーが一人で盗賊の集団に向かって飛び出していた。


「エイミー!止まって!」


ウェンディーの悲鳴のような指示が飛ぶが、エイミーは止まらない。


(ちょっと、エイミー。何やってるの。一人で飛び出しちゃダメ)


どうやらエイミーは戦闘の雰囲気に呑まれ暴走している様だ。


(まずい。急がないと)


僕はテレポートで走っている盗賊たちの真後ろに移動し、すかさず先頭を行く盗賊の獣人の背中に向けて念動波を放つ。


ドッ 「ぐはっ」


盗賊の獣人は、走りこんできたエミリーの前まで吹っ飛んだ。


「はああああっ」


エミリーが剣を振り下ろす。


ガッ


地面に倒れた盗賊の獣人の頭に直撃し、いろいろなものが飛び散った。


(おおぅ・・・)


盗賊の獣人は体をビクビクさせていたが、すぐに動かなくなくなった。


「お頭!?・・・」」」」」」」」」」


盗賊たちは目の前の信じられない出来事に一瞬歩みが緩んだ。


エイミーは止まらない。


「うおっぉおぉっぉおおぉぉ」


エイミーが叫びながら無茶苦茶に暴れている。


「何だこいつっ。あいつをやるぞっ」


盗賊たちがエイミーに気が向いているその隙に、僕は念動波を次々盗賊たちの背中に放っていった。


念動波を食らった盗賊たちが次々体勢を崩していく。


「なんだおめぇ。どこに隠れてやがった」


ようやく後ろにいた僕に気付いた盗賊たちだったが、依然エイミーが暴れまくっていてそれどころではなかった。


遅ればせながらイレーナが追撃をかけ、ウェンディーが魔法の発動準備をして戦況を見ていた。


すると、慌てふためく盗賊たちの隙間を縫うように、ヒナがダガーで盗賊たちに攻撃を加えていった。


あっという間に勝負はつき、道には盗賊たちの死体が転がっていた。


僕はホーステイルのメンバーの元に向かった。


「ふう。予定外の事があったけどうまくいったね。みんなよくやった。はじめての実戦なのに動けてたね」


「・・・はい。私は見ているだけでしたが、みんなすごかったですぅ」


「ウェンディーもよく状況を見ていたと思うよ」


エイミーとイレーナは、まだ興奮状態にあるようで息が荒く顔が紅潮していた。


ヒナはいつも通りだった。


みんなで盗賊たちの持ち物を調べ武器などを回収した後、盗賊たちの死体を草むらに片付け旅を再開した。


その後、森を抜けるまで会話はなく、草原で休憩に入ったところでようやくみんなの緊張が解けた。


「いやあ。皆さんお強いですねえ。あんな人数の盗賊たちを一瞬で倒してしまうとはねえ。俺は死を覚悟しましたよお」


商人さんが明るく話しかけてくれた。


「いえ。先手を取れたおかげですぅ。先の襲われていたらどうなっていたかわかりません」


「そうでしたか。でも先に見つける力があなた達にはあるんですから、大したものですなあ」


「ありがとうございますぅ」


休憩も終わりいよいよ目的の街ピーコックに向けて出発した。





予定より少し遅れたけど、夕方ごろにようやくピーコックにたどり着くことができた。


依頼主とピーコック冒険者ギルドに行き、依頼完了手続きを済ませた。


受付で盗賊を討伐したことも伝え、盗賊の持ち物を提出した。


武器を調べて懸賞金がかかっているかどうか調べてくれるそうだ。


盗賊の持ち物はいらなければ買取をしてくれるらしい。


商人さんと別れ冒険者ギルドの中で少しくつろぐことにした。


「ふぅ。護衛依頼終わりましたね。なかなか疲れたですぅ」


「そうだね。でも本番はこれからだよ」


「はい。いよいよ『蜘蛛の巣』ですぅ」


「うん。今日はゆっくり休んで明日早朝から行こうか。宿はみんなで選んで」


「はい」」」」


ピーコック冒険者ギルドの掲示板を見てみたが、特に変わったものはなかった。


魔力が集まって出来た山のダンジョンに近いということもあって、薬草採取の依頼や狩猟の依頼が豊富だった。


ウェンディーが受付に行って『蜘蛛の巣』の依頼がないか尋ねたところ、


「魔力が豊富な素材が持ち込まれることも少なくなったので、特別な依頼は出していませんね。もちろんそんな素材が見つかれば買い取りますよ」


と教えてくれた。


やはり、攻略後ダンジョンの影響力が年々減っているという。


受付さんが、初めてこの街を訪れた僕たちにいろいろな事を教えてくれた。


ピーコックは薬草や魔獣の素材が多いおかげで、錬金術師ギルドによるポーションや魔道具の製作が盛んであるそうだ。


依頼に関しては、今高価な素材は鹿の角で、それを使ったスプーンの需要が急に増していて、とくに魔鹿の角のスプーンは高級品だという。


蜘蛛の巣で鹿を見つけたら積極的に狩ってみるのもいいかもしれない。


僕たちは薬草採取依頼の薬草の種類を確認し、蜘蛛の巣の簡単な地図を購入して冒険者ギルドを出た。


「杖にできそうな原木はないかもしれませんねぇ」


ウェンデイーがしょんぼりしている。


「攻略後ずいぶん時間が経っているから、目に付く木は採りつくされたかもね。でもまだ残ってるかもしれないよ」


「そうですね」




宿屋を決め、しばらく休んだ後夕食を食べに店を探すことにした。


街についてもエイミーとイレーナの様子がおかしいままだ。


「エイミー。イレーナどうしたの?元気ないね」


「・・・」」


「盗賊との戦闘が頭から離れないのかい?」


「・・・そうっすね。喧嘩は小さいころから大人とか相手にしてたっすから、戦闘も平気だと思ってたっすけど・・・。命がかかった戦いは違ったっすね」


イレーナがぽつりぽつり話してくれた。


「そう」


「私は、我を忘れて剣を振り回していた自分が自分じゃないようで恐ろしかったよ」


エイミーは沈んだ声で教えてくれた。


「そうか」


「・・・もっとヤれた・・・」


(ん?ヒナも?もっと出来たってことかな)


「・・・そうだね。いきなりうまくはいかないもんさ。自分の命を守れたのが一番重要なんだ。今回誰もケガをしなかった。それだけで大成功だよ」


「・・・そうっすか。ありがとうっす」

「ああ。・・・そうだな」

「・・・へい・・・」


「さあ。明日はダンジョン跡地『蜘蛛の巣』だ。腹いっぱい食べて冒険するぞぉ」


「おおっ」」」」


屋台でミートパイを腹いっぱい食べた僕たちは、街中を散策すること無く宿屋に戻りすぐに寝た。


朝起きて冒険者ギルドに向かい、携帯食を購入していよいよ蜘蛛の巣に向けて出発した。


『蜘蛛の巣』のある山は、ピーコックの街から徒歩1時間のところにある。


僕たちと同様に朝から『蜘蛛の巣』に向かう冒険者たちもいて、お互いを少し気にしていた。


「ウェンディー。蜘蛛の巣はどういう計画で行くんだい?」


「はい。山は街からは近いですが蜘蛛の巣は広大ですので一泊を予定していますぅ」


「うん」


「依り代があった場所まで行って、そこで野営して帰ってくる感じですぅ」


「そう。じゃあそれで行こう」


しばらくして山のふもとに到着した。山の入り口でしばしの休憩に入った。


「冒険者ギルドで購入した『蜘蛛の巣』の情報について説明しますぅ」


ウェンディーが話し出した。


「山に入ってしばらく行くと蜘蛛の巣の領域が始まるそうですぅ。もうダンジョン当時の魔力は感じないそうですぅ。蜘蛛の巣の形は五角形だったそうですぅ。依り代の木があった場所までずっと坂だそうですぅ。山ですからねぇ」


「山道っすか。大変そうっすね」


「そうですぅ。草木で視界も悪いし、川が多いし、魔獣も出てくるし、足場も悪いしですぅ」


「・・・大変っすね」


「依り代までは朝出発して昼頃着くくらいの距離だそうですぅ。何事もなく最短で歩いた場合ですぅ」


「・・・結構かかるっすね」


「ダンジョン地図によると依り代跡地に着くまでのルートはいくつかありますが、どこもほとんど整備されていません。小川の上を木の板の橋が通してあるくらいですぅ。他の冒険者と遭遇しないようにいきますか?みんなどうしますか?」 


「そうだなあ。面倒くさいことにならないようにしようか」


「そうっすね」


「わかりましたぁ。少し遠回りになりますぅ。ヒナ。そういうことですので先行よろしくお願いしますぅ」


「・・・へい・・・」


ヒナの道案内なら安心だな。


「目的は野草や魔獣の素材、魔力の宿った木ってとこかな?運が良ければダンジョン産の魔道具が見つかるかもね」


「目的はそうですぅ。私の求める木は依り代があった場所で探したいと思いますぅ」


「そうだね。そこがおそらく魔力が一番濃い場所だったと思うよ」


「はいぃ。では出発しましょう」


「はいっす」「ああ」「・・・へい・・・」


「うん。行こう」


アナウサギ獣人のヒナを先頭に、いよいよ元ダンジョン『蜘蛛の巣』に挑むことになった。


僕とホーステイルのメンバーは、黙々と湿度の高い森の中を登っていく。


『蜘蛛の巣』のある山の森は本当に小川が多いようで、遠くから水の音が聞こえてくる。


山道を進んでいると、突然小川が作り出した深い溝が現れて僕たちのゆく手を阻む。


山を流れる小川が山肌を削り地形の起伏が激しい。


先人たちが、丸太や木の板で橋を架けてくれたおかげで何とか先へ進める状態だ。


逆に小川を登って行くという手もありそうだ。・・・ないか。


足場も視界も悪い状況で魔獣と戦うのは大変そうだな。


魔獣に遭遇する前にみんなに心構えを持ってもらったほうがいいだろう。


僕、一応経験者だし。


休憩中に僕は話を始めた。


「みんな聞いてくれ。見知らぬ敵にやむを得ず遭遇した場合、最初っから恐れる必要はない。警戒しながら相手の実力を探るんだ。ヤバそうならさっさと逃げる方に思考を切り替えよう。問答無用でヤバイ奴は出会う前に何とかするしかないけどね」


彼女たちは、一瞬キョトンという表情になったが話を聞く態勢になってくれた。


「はいっす」「はい」「・・・ああ」「・・・へい・・・」


「実際、僕が魔狼と対面したときは慌てたからね。みんなはまだ経験が浅いから事前準備だけでもしておいてほしくてさ。魔獣が単独の時と複数の時とでどう戦ったらいいか、パーティーで共通認識を持っておいてほしい」


「はいですぅ」「はいっす」「ああ」「・・・へい・・・」


「魔獣が複数来た場合、パーティーが分断されないようにする立ち回りとかね。パーティーのみんながバラバラにならないように気を付けてほしい。魔獣の数が同数以上の場合はどうするのかとかね。戦うのかやり過ごすのか」


「はい」」」」


「こんなものかな。あとは状況によって何が最善かそれぞれ考えて行動しようね。わからなかったら声を出してメンバーに聞くように。少しの躊躇ちゅうちょが命取りになるからね」


「はい」」」」


その後は、とりとめのない会話をみんなでしていた。


「セイジさんは冒険者になる前は何してたっすか?」


「特に何もしてないよ」


「前の場所で知り合いに冒険者はいたっすか?」


「全くいないよ。戦いとは無縁の生活をしてた」


「そうなんすか。じゃあ、セイジさんの魔法はどこで覚えたっすか?」


「え。ええっと。そうだね。あ、そうそう魔道具のひょうたんをくれた人だよ。たまたま出会って教えてもらったんだ」


「へえ。そうだったんすか。お詫びに魔法も教えてもらったんすか。私も教えてもらいたいっす」


「そうですねぇ。うらやましいですぅ」


すると、ずっと話を聞いていた熊獣人のエイミーがいぶかしげな表情で尋ねてきた。


「・・・さっきの私たちへの助言はいったい何を根拠にしたんだ?」


ギクリ。


「一か月森をさまよった経験と一か月ちょいの冒険者の活動と勘と本だ」


「・・・」


「専門書はたくさん読んだよ。(ラノベと漫画と歴史物の小説を)」


「・・・」」」


(やばい。すごい怪しまれてる。彼女たちの反応が正しいんだけれども)


「君たち。一人で森を一か月さまよってみてごらん?強くなれるよ?」


「まあ。それはすごいな」「遠慮しときますぅ」「やらないっす」

「・・・流石ししょー・・・」


(ふう。また調子に乗ってしゃべりすぎたか)


「ところでどこの森っすか?このあたりっすよね」


「グリーンウイロウの東にある森だよ。正式名称は知らないけど、禁忌の森って言われてたね。君ら知ってる?」


「!?」」」」」


「行ってはいけない森ですぅ」

「何でそこに一か月いて無事なんだ・・・」

「すごいっす」

「・・・っす・・・」


みんなが驚愕している。と言うより呆れていた。


「有名なの?」


「はい。昔孤児院にいた時、竜神教の方が禁忌の森の言い伝えのお話しを何回もしてくれましたぁ」


(教会か。王都に戻ったら禁忌の森について聞いてみよう)


「セイジさんってやっぱりすごいっすね」


「わかってくれたか」


「すごすぎて参考にならないっす」


「・・・さすがししょー・・・」


また無駄に尊敬を集めてしまったようだ。


もう第3級っぽく振舞わなくてもいい気がしてきたけど、彼女たちを第4級にするっていう依頼を受けたからなあ。


第3級の肩書があったほうが指導しやすいよね。それまではごまかしながらやっていくしかないか。


超能力があればなんとかなるはず。


とりあえず、みんなを無事に下山まで守り抜くんだ。


とは言うものの攻撃力を何とかしたいなあ。


そういえばドッペルゲンガー元気かな。一度も会ったことないけど。

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