第43話 初級魔法『水弾』

次の日、みんなで一緒に護衛の旅用に携帯食などを買いに行き、家に戻ってきた。


「セイジさん。新しく中古の剣を買ったっすね」


「うん。少しは剣の練習をしようかと思って」


「二刀流っすか。格好いいっすね。その剣なら問題ないっすか?模擬戦しましょ」


(二刀どころか一本もまともに振れないんだ。持ち歩いて筋力つけよ)


「いいよ。みんなもどう?」


ということで、庭でみんなと模擬戦をすることになった。


「旅に出る前にちょっと確認したいことがあったんだ。ウェンディー」


「はい?」


「早速だけど、覚えた魔法を僕に向かって使ってみてくれないか?」


「え!?危険だと思いますけどぉ」


「大丈夫だから。多分。試したいこともあるし」


「そうですかぁ。では・・・」


ウェンディーは不承不承ながらも魔法を使うことを引き受け、僕から離れて距離を取った。


僕は一応盾を構え、気持ち強めに結界を張った。


「どうぞ。いつでもいいよ」


「はい。初級水属性魔法『水弾』を発動しますねぇ」


「うん」


ウェンディーが右手を僕に向かって突き出した。


「いきますっ。石走いしばしる・・・」


ウェンディーの右手の指にまっている魔術師ギルドリングが光りだす。


すると、ウェンディーの右手の平から魔力の霧がにじみ出てきた。


「水っ弾っ!」


ウェンディーがそう発声した直後。


その魔力の霧が瞬時に奇妙な紋様を構成し、そこから水の塊が高速で打ち出された。


ウェンディーの右手から僕に向かって真っすぐ打ち出された水の塊は、


ドウッ ビシャッ


結界に衝突しはじけて消えた。


(ふう。結界は無事だったか。結界にヒビは入らなかったけど直撃したら痛そうだな)


「なかなかの威力だね。呪文が『石走る水弾』か。石走るってどういう意味なの?」


「意味はないですぅ。リングを起動するための言葉ですね」


「なるほどね。準備が必要なんだね」


「そうですぅ。安全装置みたいなものですぅ。『石走る』でリングが起動し初級水属性魔法の準備が始まりますぅ。魔法名の『水弾』を唱えることで水弾の魔法陣が展開し、そこに魔力が流れ魔法が発動しますぅ」


「なるほどなぁ。それじゃあ。その魔法を連続で何発打てるか確かめてみよう。そのまま僕に向かって打ち続けて」


「はいですぅ」


ウェンディーは連続で水弾を発動させた。


10発打ち終わったところでウェンディーが膝をついた。


「はぁはぁ。今のところ10発が限界ですぅ」


「お疲れ様。魔獣との戦闘では魔法をいつ使うのかを考えないとだね」


「はいですぅ」


「じゃあ。少し休んで4対1で模擬戦をやろう。ウェンディーが一発撃てるようになったら始めようか。庭が狭いんで僕は動かないから」


「え。4対1っすか。なめられたもんっすね」

「そうだな。ぶっとばす」

「大丈夫ですぅ?セイジさん」

「・・・」


「人から聞いた話だけどパーティーは連携が重要だそうだよ。遠慮せずにかかってきて。今の君たちの力じゃ僕に触れることもできないからね」


「くっ。本気で行かせてもらうっす」

「本気でやるぞっ。みんな」

「おおっ」」」」


狭い庭で向かい合う僕と『ホーステイル』のメンバー。


僕はポーション球を9個作り時を待つ。


ウェンディーが回復したので、僕が合図を出した。


「始めっ」


エイミーとイレーナが盾を突き出して僕に向かって突っ込んできた。


ヒナは僕の後ろに回り込むように動き、ウェンディーはその場で魔法の発動準備に入る。


僕は準備していたポーション球を発射させた。


「きゃぁ」


ウェンディーに直撃。


「えっ!?」」


イレーナとエイミーの足が止まる。


魔術師ウェンディーを誰が守るの?3人で突っ込んできたら彼女はひとりだよ。ウェンディーももう少し防御を考えたほうがいいね」


「はいですぅ」


エイミーとイレーナが再び動き出し僕の目の前にたどり着く。


「もらったっす」「くらえっ」


僕の背後からもう一人。


「・・・」


ガッ。ドガッ。キンッ。


「なっ!?」「えっ!?」「・・・!?・・・」


透明な壁に渾身の一撃が阻まれ、驚愕で体が固まる3人。


「残念。まだ戦闘中だよ。気を抜いたら駄目」


僕は物理結界を解除し、ポーション球を3人にぶっ放す。


「きゃっ」「ぶはっ」「・・・っ・・・」


ホーステイルのメンバー全員がポーションでびしょ濡れになっていた。


「訓練はこれでおしまい。明日に備えてそれぞれ過ごすように」




翌日の早朝。『蜘蛛の巣』に向けて出発する日だ。


いつものように、正門で護衛依頼の依頼主と待ち合わせ、目的地へ向けて出発した。


「さすがに朝が早すぎてアーシェいなかったね」


「そりゃそうっすよ。誰もいないのに座ってても仕方ないっす」


「そうだね。ところでアーシェはどこに住んでるんだい?」


「なんすか。アーシェに惚れたっすか」


「そうじゃないよ。ただ気になっただけだよ」


「アーシェの家は誰も知らないっす」


「そうなんだ。アーシェとはずっと一緒に過ごしてきたんでしょ?」


「そうっすけど、いつの間にか孤児院にいたんすよね」


「王都生まれじゃないの?」


「わからないっす。路上ギルドに加入しない人たちもいるっすから」


「そうなんだ。本人に聞いてみるよ。答えてくれるかわからないけど」


「そうして欲しいっす」


目的地である『蜘蛛の巣』近くの街はピーコックと言う。


ピーコックまで荷馬車で三日の予定だ。


王都の近くなだけあって護衛の旅は順調に進んでいた。


しかも、今回は途中で村を2か所通過するので、野宿することなく旅ができる。


「セイジさん。聞きたいことがあるっすけど、いいっすか」


護衛をしながら平原をのんびり歩いているとイレーナが話しかけてきた。


「なに?」


「昨日の訓練の時、私たちの攻撃を防いだのは何なんっすか?」


他のメンバーも興味津々のようだ。


「今?昨日は何で聞かなかったの?」


「みんな悔しくて聞けなったっす。それにセイジさんの魔法が何か考えてたっす」


「そう。相手の能力について考えるのはいいことだと思うよ。僕の能力だけど結界だよ」


「結界!?」」」」


「うん。そういう魔法あるんでしょ?」


みんなの視線がウェンディーに集まる。


「ええっと。すいません。勉強不足で知らないですぅ」


「そうなんだ。簡単に言えば透明な壁だよ」


「めちゃくちゃ硬かったっすよ。無敵じゃないっすか」


「そうでもないよ。王都に護衛依頼で来る途中で魔狼に遭遇してね。そいつの攻撃一発で簡単に結界にひびが入ったよ」


「そうなんすか。魔狼怖いっす」


「だよね。もしかして『蜘蛛の巣』で似たような魔獣に出会うかもしれないからね。そのときは安全に逃げることも考えないと」


「そうですね。みんなで協力していかないとですぅ」


「そうだね。とりあえず警戒をみんなでやって、出来るだけ出会わないようにしないとね」


「はい」」」」



護衛の旅は順調に進み、一つ目の村に到着。そのまま一泊し早朝に出発した。その後何事もなく二つ目の村までたどり着くことが出来た。


いよいよ明日はピーコックの街に到着だ。


食事を済ませ宿屋で護衛の会議となった。


「この村からピーコックまでの道のりが少し危険だそうですぅ」


「王都からかなり離れたからね。狼とか盗賊とかでるの?」


「そうですぅ。セイジさんの言う通りですぅ。なのでみんな気合を入れるように」


「ああ」「はいっす」「・・・へい・・・」


「それでどういう戦い方をするの?」


「依頼主を私とヒナで守りますぅ。エイミーとイレーナで敵を向かい打ちます。セイジさんも二人に加わっていただければ助かりますぅ」


「そうだね。それで行こうか」


「はい。あとは臨機応変で何とかしますぅ」


「うん。何とかしないとね。ウェンディーとヒナも状況次第で動いて」


「はいですぅ」「・・・へい・・・」


「エイミーとエレーナは無理しないようにね」


「ああ」「はいっす」


「はい。会議はおしまいですぅ。ゆっくり休んで明日に備えましょう」


次の日の早朝。いよいよ目的の街ピーコックに向けて出発した。


これまでの景色と違い、小さな森を見かけることが多くなってきた。


「もうそろそろ森を通るようになるね」


「はい。警戒を強めますぅ。みんな頼みましたよぉ」


「ああ」「はいっす」「・・・へい・・・」


護衛をしながら移動を続け、何度かの休憩の後、森の入り口にたどり着いた。


「さすがに平原で襲って来る盗賊はいませんでしたねぇ」


「そうっすね。いよいよ森に突入っすか」


「はい。この森を抜けたら休憩ですのでもう一息頑張りましょう」


「はいっす」


荷馬車一行は森を貫く道を進む。


平原とは違った匂いと空気が僕たちを包み込む。


王都からピーコックまでの道は、『蜘蛛の巣』ダンジョン攻略のために整備されたと依頼主の商人さんが教えてくれた。


ピーコックの街は、『蜘蛛の巣』で取れる魔力豊かな野草が特産品であり、冒険者が持ち帰る魔獣の素材や魔石のおかげでそこそこ栄えているという。ただ年々『蜘蛛の巣』に棲息する魔獣の数が減ってきているという。


「どうして減ってるっすかね。冒険者が狩りつくしてるからっすか」


「いや。ダンジョンを攻略した結果だと思う。攻略したらダンジョンは徐々に自然の状態に戻るらしい」


「そうなんすか。勉強になったっす」


無事に森を抜け休憩に入った。


昼時なので食事をすることになった。


依頼主が用意して食れた料理はどろどろのスープだった。


料理名を商人さんに聞いてみる。


「なんて料理なんですか?」


「豆のポタージュですよ」


「ああ。ポタージュですか」


(煮込み料理ばかりで違いが判らないな)


「セイジさん知ってたっすか。これ美味しいっすね」


「うん。名前くらいはね」


料理を食べ終わり出発した。


護衛一行の前に次の森が広がっていた。


森に入りしばらく進んでいるとアナウサギ獣人のヒナが何かに気付いた。


ヒナは耳をぴくぴく動かしている。


「・・・ウェンディー。ししょー・・・敵がいる・・・」


「匂うっすね。人の匂いっす。森の中から近づいて来てるっす」


犬獣人のイレーナも感じたようだ。

 

ウェンディーが依頼人に報告し馬車を止める。


「ヒナ。イレーナ。方向と距離はどのくらいですぅ」


「・・・離れて行った・・・」


「そうっすね。こちらを見つけたっすかね」


「セイジさん。どうしましょうか」


「そうだなぁ。・・・。僕とヒナで不審者の跡を追って偵察に行ってくるよ。荷馬車は警戒しながら進んでて。簡単な作戦を言うよ。素人意見だけど聞いて」


「第3級なのに素人っすか。謙虚っすね」


「あはは。そうだね」


「こら。イレーナ。からかわないの」「ごめんっす。ウェンディー」


「えーと。僕とヒナで確認してくるけど、盗賊だった場合戻らずに様子を見る。盗賊の数が少なかったら二人で襲撃するけど、多かったら盗賊たちが荷馬車を襲うまで隠れて盗賊を見張ってる。盗賊が行動を起こしたと同時に、君たちと挟み撃ちをするように僕たちは動く。君たちは最初は防御に徹して、僕たちが攻撃を始めたら君たちも状況を見ながら戦う感じで」


「わかったっす」「・・・ああ」

「はいですぅ。ヒナ、頼みましたよ」


「・・・へい・・・」


「商人さんは盗賊が現れたらすぐに荷台に隠れてください」


「ああ。よろしくたのむぞ」


商人さんは盗賊におびえている様子がない。旅慣れているのだろう。


しかし、ホーステイルのメンバーはどうだろうか。盗賊初体験だよね。


見た感じいつもと同じように見える。


人とのいざこざはこれまで経験したことはあるだろうけど、殺し合いはさすがにしたことがないだろう。ないよね?


時間がないからリーダーのウェンディーだけでも、戦いが始まる前に助言をしておこうと思う。戦闘中だと「うるさい」と怒られちゃうからね。


「ウェンディー」


「はいぃ」


「常にパーティー全員の動きを意識してね」


「はいっ」


「戦闘の時はみんなの心理状態に気を配ってあげて。浮ついていれば落ち着かせて、

怖気づいてたら鼓舞してあげて。わからなければ、とりあえず声を掛けてあげて」


「はいぃ」


「もちろん自分自身の心理状態にも注意を払うんだよ。信念をもって慌てず騒がず 冷静に行動することを心がけるように」


「はいぃ」


「勇気を持って指揮をとるんだ」


「はいっ」


「それと何でもかんでも一人でやろうとする必要はないよ。仲間と一緒に冒険をやりとげよう」


「はいですぅ」


「よし。では行ってくるね。ヒナ、案内頼むね」


「・・・へい・・・」


僕とヒナはみんなと別れ、道を外れ森の中に足を踏み入れた。


ヒナが不審者の跡を追う。


「ヒナ。相手にばれない位置まで素早く進んででいいよ」


「・・・へい・・・」


「それから、僕は気配を隠すことできないから遅れてついていくね」


「・・・へい・・・」


ヒナはうさ耳をぴくぴくさせながら、滑らかに木々の間を進んでいく。


「ヒナ。不審者の進行方向を先回りしてみよう。盗賊の斥候だったら仲間がいるはずだ」


「・・・へい・・・」


ヒナは速度を上げ、少し遠回りをして不審者を追い越し先に進む。


僕はヒナの姿を見失わないように、テレポートを使い追いかける。


しばらく行ったところでヒナが止まった。


ヒナのところにテレポートしようとしたら、ヒナが僕のところに戻ってきた


「どうしたの?」


小声で問いかける。


「・・・見つけた・・・おそらく盗賊・・・」


「そう。人数わかる?」


「・・・10人・・・」


「10人か。結構多いな」


「・・・獣人がいる・・・」


「え。そうなんだ」


少し驚いてしまったけど、そうだよね。人だけじゃなくて獣人の盗賊がいてもおかしくないよね。


王都までの護衛で獣人の盗賊がいなかったのは偶然か。


「これ以上近づくとばれそう?」


「・・・大丈夫・・・ししょーの匂いは草の匂い・・・」


「そうなの?ポーション浴びててよかった。それで何獣人?」


「・・・わからない・・・」


「そうか。それは仕方ないね。盗賊が動き出すまでこの辺で見張ってよう」


ヒナの案内で盗族たちが見える場所まで進み、草木の陰に隠れた。


そこでヒナに疑問を呈された。


「・・・ししょーの動き・・・変・・・」


「え?」


「・・・ししょーの気配・・・消えて現れる・・・」


「ああ。この件が片付いたら教えるよ」


「・・・へい・・・あ・・・来た・・・」


草むらに潜んで盗賊たちの様子をうかがっていると、偵察に出ていた盗賊が戻ってきた。


偵察の報告を受けた盗賊たちの動きがあわただしくなった。


「11人か。どうやら護衛の荷馬車を襲うみたいだね。盗賊たちの後をついて行って、場面を見計みはからって攻撃開始だ」


「・・・へい・・・」


ヒナは気合十分なようだ。物怖ものおじしなくて頼もしいな。



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