第42話 3つのダンジョン

僕とホーステイルのメンバーは、どこのダンジョンに行くのか話し合うためテーブルについていた。


話が長くなりそうなので、テーブルの上にはチーズの乗ったタルトとポーションが入ったコップが用意されている。


(そろそろ水瓶みずがめでも買おうかな。そういう魔道具があればいいけど)


僕は冒険者ギルドで買ったダンジョン情報を見ながら話しだした。


「えーと。王都周辺にある3つのダンジョンはすべて攻略済みで、一つ目は通称『蟻の巣』。草原にある大地が盛り上がった蟻塚のようなダンジョンです。二つ目が通称『竜の巣』。山間に出来た細長い洞窟のダンジョンです。最後が通称『蜘蛛の巣』。山に出来た複雑なダンジョンです。現在はすべて自然に戻り野生動物の住処となっています。これらは王都の安全のため積極的に攻略が行われ、その時にダンジョンから少し離れた場所に冒険者の街が作られた。だそうです」


ホーステイルのメンバーは真剣な表情でタルトを食べている。


「では、それぞれの特徴を読んでいくね。

『蟻の巣』ダンジョン。

王都北東の広大な草原の中心に蟻塚のような巨大な構造物があり、そこの最奥にダンジョンを発生させた依り代が存在した。ダンジョン内は立体迷路になっている。依り代は巨大な琥珀であり、攻略パーティーが国王に献上した。守護獣は女王蟻だった。今もダンジョン内に巨大蟻が棲息している。


『蜘蛛の巣』ダンジョン。

王都南にある山の中心にあった巨樹がダンジョンの依り代に変化した。その依り代の木は、山周辺の村々の住人の信仰を集めていた御神木であった。しかし、ダンジョン化してしまい攻略のため切り倒されてしまった。魔力を帯びた依り代の木は貴重な素材として回収され、魔術師ギルドの建築のために使われた。残りの木材から12本の杖が作られ王に献上された。現在、宮廷魔術師と王国魔術師団の上位者にその杖が貸し出されている。ダンジョン化の影響でその山は今だ周囲の森とは全く異なる環境に変貌したままである。主な棲息魔獣は狼、猪、鹿、熊など。守護獣は巨大蜘蛛だった。当時は蜘蛛の魔獣が多数いたが、守護獣の蜘蛛が倒されて以降見かけることはなくなった。


『竜の巣』ダンジョン。

王都北西にある山間に空いた洞窟型ダンジョン。洞窟は地下に向かって広範囲に伸び、さらにはいくつもの階層ができていた。最奥には地底湖があり、湖の底に沈んでいた『ドラゴンブルー』と呼ばれる魔鉱物がダンジョンの依り代となっていた。この時発見されたドラゴンブルーは、こぶし大の大きさで攻略パーティーにより王へ献上された。洞窟にはヒカリゴケが生息しているため洞窟内は明るく、初心者でも探索が容易になっている。ヒカリゴケの採取依頼もある。とある竜の住処だったという逸話がある。主な棲息魔獣はコウモリ、スライム、大蛇などで、守護者は巨大ミミズだった。


以上ですね。どれに行くか希望はあるかな?何か意見でもいいよ? あ。ダンジョンの場所はここね」


僕は何も無くなったテーブルの上にダンジョン地図を広げた。


みんなが興味ありげにのぞき込む。


「ちょっといいっすか。依り代ってなんすか?」


「ダンジョンを造る物らしいぞ」


「そっすか。守護獣は?」


「依り代を守る者だ」


「なるほどっす。でもどれに行きたいかって言われても困るっすね」


「まあ。そうだね。僕はどこでもいいよ。何か希望がある人いる?」


ホーステイルのメンバーが話し合い、そして考え込む。


するとウェンディーから提案があった。


「そうですね。出来れば木がある場所がいいですぅ」


「いいよ。でも何で?」


「杖にするための木を採取したいのですぅ。あと杖につける魔石もできたら欲しいですぅ」


「杖を職人さんに作ってもらうの?」


「はいですぅ。ダンジョン跡地の木ですから魔力をたくさん含んでそうですぅ」


「なるほどね。じゃあ『蜘蛛の巣』か。他に意見はある?」


他のメンバーから意見はなかった。


「よし。決まりだね。地図によると王都の南にある『蜘蛛の巣』の近くの街までだいたい三日くらいかな。今から冒険者ギルドに行って目的の街までの護衛依頼を探してみよう。あったらいいけど、無かったらしばらく待つかそのまま行くしかないね」


みんなで冒険者ギルドに向かった。


冒険者ギルドに入り、護衛依頼の掲示板で依頼を探す。


「あ、ありましたぁ」


ウェンディーが見つけたようだ。


「お。どんな依頼?」


「はい。蜘蛛の巣ダンジョン近くの街、ピーコックまでの護衛依頼ですね。でも明後日ですぅ。どうしますかぁ?」


「明後日か。とりあえず依頼を受けて依頼人さんと面談だね。受理されたら今日明日で旅の準備をしようか」


「はいですぅ。では受付に行ってきますね」


ウェンディーが受付に向かった。


僕たちは待っている間、他の依頼も見てみることにした。


「ダンジョン限定の依頼ってないんだね。攻略されたからかな。素材と魔石の買取くらいか」


「そうっすね。ダンジョン近くの街の冒険者ギルドも同じっすかね」


「そうかもね。この護衛依頼を受けられたらいいね」


「そうっすね。依頼が残っててよかったっす。無かったらお金が減るだけだったっす」


「あ。そうだ。このポーション買ったんであげるよ」


僕は最近買った薬草ポーションと回復ポーションをイレーナに渡した。


「何で持ってるのにポーション買ったっすか?」


「売ってるポーションを調査したんだ。どんなものかと思ってね」


「はぁ。これ誰が持ってたらいいっすかね。ウェンディーっすか?」


イレーナがヒナとエイミーに聞いた。


「そうだな。回復ポーションはウェンディーでいいだろ。薬草ポーションはイレーナが持っててくれ」


「何でっすか?」


「私の方が怪我するだろうから、近くにいるイレーナが治しに来てくれ」


「わかったっす。まあ。そういうことにしておくっす。ヒナもそれでいいっすか?」


「・・・へい・・・」


ウェンディーが護衛依頼が無事に受理されたと伝えに来た。


その後しばらくして、ホーステイルと依頼人の打ち合わせが始まった。


暇になった僕はアーシェに会いに行くことにした。


依頼人との交渉は彼女たちにお任せだ。彼女たちの成長のためです。


アーシェは正門近くのいつもの場所にいつものように座っていた。


彼女はいつもの微笑みを浮かべている。


(元気がない日とかあるのかな)


彼女の表情からは何も読み取れない。


「あら。お兄さん。こんにちは」


「こんにちは。明後日『蜘蛛の巣』に行くことなったよ」


「そう。順調に行ってるみたいね」


「どうだろうね。それはわからないよ」


「そう。そういえば『女神』って知ってる?」


「女神?この世界に神がいるの?」


「神ではなく冒険者パーティー名よ」


「へえ。知らないけど有名なの?」


(パーティー名が珍しく翻訳されてるな。アップデートしたのかな)


「知らないの?お兄さん以上の新進気鋭の二人組冒険者よ。つい先日、女性のほうが王国23人目の第1級冒険者になったわ」


「へえ。すごいんだね」


「お兄さんの知り合いかと思ってたんだけどどうやら違うようね。わたしの勘が外れるとは。お兄さんやるね」


「何でそう思ったの?王国に僕の知り合いはいないよ」


「女神は二人とも黒髪なんです」


「へえ。でも黒髪って珍しくないでしょ?」


「そうですね。雰囲気とか似てると思ったんだけどな。王都に来た時期は女神のほうがかなり早いですけどね。女神は3年前、王国北部の領主街ジェードに突如現れて数々の依頼をこなしていったの。女性の方だけだけど」


「そうなの?その女性すごいんだね」 


「女神の女性とお兄さんはかなり強いですけど、女神の男性は全く戦えないんですよねえ・・・。やっぱりわたしの気のせいなのかな。ちなみに、その女神ですが東部に向かったそうだよ」


「へえ。僕たちが東部に行くかどうかはわからないけど、とりあえず覚えておくよ。見かけても話しかけないよ?」


「それでかまわないわ」


「そうなの?女神の情報が欲しいのかと思った」


「お兄さんが得る情報なんて、たかが知れてると思うよ」


「それもそうだね」


「でも女神と出会ったのなら、話は聞きますよ。逆に女神の情報知りたい?」


「そうだね。どんな偉業を達成して第1級になったか興味あるよ」


「そう。有名なものだと、新ダンジョンの発見と同時に単独踏破。古代遺跡群の古代文字の解読。ジェード領にあるダンジョンの未踏領域発見。そして何と言っても国王領にある王国最大のダンジョンで王国最強パーティー『レッドービーク』と共闘して次の階層への道を邪魔していた魔獣を討伐したことかな」


「はえー。3年でいろいろやってるんだね」


「女神の女性の強さは圧倒的らしいわよ」


「へえ。名前は何ていうの?」


「知りたい?わたしが教えていいと思う?」


「え?何それ?どういうこと?」


「お兄さんが女神の女性にあった時の会話のきっかけをわたしが奪っていいのか、ということよ」


「・・・ああ。気を使ってくれてありがとう。じゃあ聞かないでおくよ」


「そう?」


「レッドビークのみなさんはダンジョン攻略に行ってたんだね」


「そうね。興味があったの?」


「名前だけ教えてもらってね。王都にいるもんだと思ってた」


「国家級クランの第1級じゃないと王国最大最深ともいわれている未攻略ダンジョンの探索はできないわ」


「そうなんだね。そのダンジョンってどこにあるの?」


「王国領北部の竜王山よ。ダンジョン名は『竜王の庭園』」


「竜王?竜がいるの?」


「竜はいるけど王ではないわ。地元の人がそう呼んでるだけ。ダンジョンから離れた山頂付近に住んでるわ」


「そうなんだ。そういえばさ、王都の近くにある3つのダンジョンの攻略者って誰か知ってる?」


「冒険者ギルドで買った情報には載ってなかったの?」


「載ってなかったよ。別料金なの?」


「有名だからかもね」


「そうなんだ。教えてくれるかな」


「その3つのダンジョンの攻略パーティーは、王都を拠点にしている王国最大級のクラン『ユニオン』に所属しているわ」


「ん?攻略したのは同じパーティーなの?」


「いいえ。全部違うよ。一番最初に攻略されたのが『蟻の巣』で約30年前。攻略したのは『フォレスト』という名のパーティー。今もあるけどほぼ引退状態ね。そこのリーダーがクランのボスをやってる。『竜の巣』と『蜘蛛の巣』は約15年前に同時期に攻略されたわ。攻略したパーティーは それぞれ『タイラント』と『ジャンク』。この二つは現役よ。そして『ジャンク』のリーダーは第1級よ。ここのクランには元第1級や現第1級がゴロゴロいるわ」


「ランクって下がったりするの?」


「そりゃそうでしょ。冒険者の強さや質は年齢や時代によって変化するものよ。お兄さんはランクの興味あるの?第1級になりたい?」


「いや、僕は特にないなあ。君もなさそうだね」


「そうね。所詮、人が勝手に作ったものだもの。ランクという肩書に意味はないわ。偉いとか偉くないとかそんなものはない。重要なのは自分が何をすべきか考えることよ」


「そうだね。いろいろ勉強になったよ。じゃあ、僕は行くよ。はい相談料」


「感謝します」


アーシェと別れた僕は、以前ホーステイルのメンバーが武器を購入した店に行き、魔剣と同じ種類の中古のハンティングソードを購入し家に帰った。

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